【接待してよ】

 かったりーなー……  篠山義隆(しのやま よしたか)は事務所でパソコンに向かって報告書を作成していた。  何が嫌いかといって、この手の文書作成程嫌いな物はなかった。とにかく面倒くさいのだ。  だが、これを作らないと月度 …

【来訪者】 3

 両手に厚手のリストバンドを嵌めるのは、痕が付くのを浩二も厭うからだ。  その上から縛られて、雅人の腕はベッドヘッド側の板に括り付けられていた。  お仕置きだからと、課せられたのは拘束。  両手どころか、足までも別々のベ …

【来訪者】 2

「……んで、あのバカはまだ帰っていないんだな」  舌打ち交じりの辛辣な言葉に、雅人は逆らうことなくコクコクと頷いた。  苛立たしげに下ろしていた前髪を掻き上げる悠人のうなじにはくっきりとキスマーク。仄かに匂う香りは、健一 …

【来訪者】 1

 明石雅人が恋人増山浩二と住む部屋は、普段あまり客など来ない。  チャイムが鳴れば、たいていそれぞれの兄たち。やはり恋人同士の二人は、いつも喧嘩ばかりで、何事かあるとこの家にトラブルのネタを運び込んでいた。  しかも、そ …

【執着心に晒されて】

30万HIT記念  明石雅人が用事があって兄の部屋に来たのは、春にしては熱い日だった。  寒い日もあるからとファンヒーターがまだあるというのに、窓越しの日差しはジリジリと肌を焼く。 「暑いっ、エアコン入れよっ」 「窓を開 …

【残された想い】

20,000hitキリリクrabi様のリクエストです。 浩二の雅人への想いを浩二視点で描いてみました。 一人きりの一夜の続編になりますが、これだけ読まれても問題はないと思います。 ——&#8212 …

【真実の心】

 その日、明石雅人は暇をもてあましていた。  勤務日の変更をいきなり言われ、代わりの休みを先行して貰ったのはいいが、恋人の増山浩二は一向に連絡が取れなかった。  医者である浩二は、携帯の電源をOFFにすることはない。電波 …

【独占欲2】

 どこかでベルが鳴っている。  うるさい……どこで鳴ってるんだ……。  手を伸ばす。  数度辺りを叩く。  と、何かが手に触れた。それを掴んで、スイッチを押す。

【独占欲1】

 最近、雅人は浩二と遊ぶことが多かった。  明石雅人は職業がホストのため、昼間寝て夜働く。週5日制だ。  雅人がホストをしている店では、雅人はNo.1だった。今時の端正な顔と面倒見のよい性格、そして身につけた接客手法は追 …

【TELEPHONE注意報】

 葉崎は澄んだ青空をぼんやりと見上げていた。  少し早めに来たこの場所は、ひんやりとした秋の空気をさらに冷やす噴水の細かな飛沫が飛んでくる。照りつける陽の光はまだ鋭く肌を焼くというのに、風が吹けば涼しさを通り越して寒いと …

【めいそう注意報】

「葉崎くん、電話っ!」  同僚の佐野が事務所から叫んでいるのに気付いた葉崎勇一は、動かしていたフォークリフトを止めた。 「はぁっ?」 「電話よっ!」  そろそろ出荷のためにトラックが入ってくる時間。  いつにもまして出荷 …

【どしゃぶり注意報】  9

 躰中から来る痛みとぼそぼそと伝わってくる話し声に葉崎は意識を取り戻した。  不規則な振動が躰に伝わる度に、あちこちが痛む。狭苦しいソファのような所に寝かされている感触に、葉崎は瞼を開いた。  薄暗い狭い室内……。  そ …

【どしゃぶり注意報】  8

 欲望を吐き出した宮城の躰から力が抜け、ふと我に返る。  自分は何をしていた?  その問いに答えるかのように、眼下に力無く横たわっている葉崎。  その葉崎の腰から下肢、そしてシーツへと広がる赤い染み。頬に伝う涙の痕。   …

【どしゃぶり注意報】  7

 なぜこの場所を選んでしまったのか……。  雅の入口で、葉崎はぼうっと佇んでいた。  中を窺うと、まだ宮城は来ていない。  場所を聞かれたとき、葉崎はただこの場所しか思いつかなかった。  あの加古川が、どういうふうに宮城 …

【どしゃぶり注意報】  6

 あの時、どうやって帰ったのか……なんて記憶はとっくの昔に消えていた。  忘れようとした事。  記憶から消し去りたいと願ったこと。  そのどれもが一つも消せないことに、何度愕然としたことか。  あれから1ヶ月が経とうとし …

【どしゃぶり注意報】  5

 部下の宮城の様子が変だと気づいてからもう2週間になる。  加古川は、目前の机に座っている宮城をずっと観察していた。  宮城が加古川の秘書になってから1年が経っていた。前任が急に辞めることになって、急遽若手の中からピック …