【闇夜の灯火】 1
なぜか嫌な予感がした。 課内直通電話が鳴った途端、滝本誠二の全身に総毛立つような不快なざわめきが湧き起こったのだ。 このままそっと事務所を抜け出そうか……などという考えは、狙い定めたようになり始めた電話に呆気なく蹴 …
なぜか嫌な予感がした。 課内直通電話が鳴った途端、滝本誠二の全身に総毛立つような不快なざわめきが湧き起こったのだ。 このままそっと事務所を抜け出そうか……などという考えは、狙い定めたようになり始めた電話に呆気なく蹴 …
「だから離せって」 「いいえ、離しません」 そう言って矢崎真は滝本誠二を羽交い締めにする。 「嫌だっているじゃないか!」 「そういう訳にいかないって、言っているじゃありませんか」
部屋に戻り、お互いのベッドに座った。 浩二がリモコンで備え付けのテレビのスイッチを入れる。 タイトルが判らない洋画が映し出された。 しばらくは無言でそれを眺めていた。 雅人はちらりと浩二に視線を送る。
裕太が出ていった後、しばらく優司はぼおっと湯面を眺めていた。 ゆらゆらと揺れる先に目を伸ばせば、水滴がついた大きな壁面いっぱいの窓。外に通じるドアがあって、どうやらそこは露天風呂になっているらしい。 優司は火照った …
宴会場を後にした誠二と矢崎真(やざき まこと)はにこやかに談笑しながら部屋へと戻った。 酔っぱらった智史、呆然としている恵、喧嘩&混乱の優司達と比べると、完全に旅行を楽しんでいるのがこの二人であった。 「じゃ、温泉で …
ホテルの部屋に入ると義隆は、思いっきり伸びをした。 恵はそれを横目で見ながら、窓際に歩み寄りカーテンを少し開けて外に視線を移した。 外は、ホテルの庭先の明かりが微かにある程度の暗さで、窓に室内の明かりが反射して自分 …
ふらふらと歩く智史に付き添い、裕太はホテルの部屋に戻った。 リゾートホテルらしく、広めの部屋にセミダブルサイズのベッドが2つ並んでいる。 その1つに智史がどさっと倒れ込んだ。 「智史さん、靴くらい脱いでくださ …
「絆」と「接待してよ」を読んでからの方がわかりやすいと思います。 車の中で、なぜかそんな会話になってしまったのか判らない。 滝本家からの帰り道、篠山義隆の車に乗せて貰って笹木秀也は空港に向かっていた。 確か、昨夜 …
古い年代物の木造建築物が、この町の役場だった。 所狭しと並べられた事務机の間をコード類が走る。 つまずかないようにテープ等で止められているが、数ヶ月に一回は誰かがひっかかって派手な音を立ててこける。こけるついでに最悪 …
「ありがとう……それで、すまん!」 滝本恵が取り出したプレゼントを受け取りながら、篠山義隆は申し訳なさそうに謝った。 クリスマスイブ、三連休の最後の休み。 二人で過ごそうと恵が義隆のマンションにやってきてすぐに、恵 …
前日に聞いたのは、『運動の出来る服装』ということだけ。 当日も、運転中はおおまかな場所だけ聞いていて細かい指示は助手席から貰っていた篠山義隆は、到着した場所の看板を憮然と見ていた。 アスレッチック広場。 義隆は十秒 …
一体何をやっているの、あの人達は。 開発部サポートチームの三宅美佳は、苛々とその二人を見つめていた。 篠山チームリーダー篠山義隆と滝本チーム滝本優司はさっきから不毛な舌論を続けていた。 どう聞いていてもさっきから …
開発部 滝本チームの高山は、棚卸しのチェックの手を止め、ふと時計を見た。 すでに7時を回っているのを見て、小さく息を吐くと、かがめていた腰を伸ばした。 同じチームのメンバーは滝本・高山を含め8人。 それを実質的に …
滝本の携帯で遊んでいたら、思わぬ収穫があった。 そう思うと自然顔が綻んでくる。 川崎理化学営業三課課長 穂波幸人(ほなみゆきと)は、窓の外を長めながら一人笑いを浮かべていた。 緑山・・・・・・確か、小さめの細身の …
何をやっているんだろう? 緑山敬吾は、さっきからじっと篠山義隆を観察していた。 篠山は緑山にとって、直属の上司であり、憧れの人でもあった。 しかし、つい先だって完璧に振られてしまったのだが。
川崎理化学営業三課の滝本恵は、携帯のメールを確認して、ほっとしていた。 メールの相手は、篠山義隆。恵の恋人だ。 ここんとこ一週間ほど、毎日のように押し掛けてきた義隆にいささかうんざりしていた恵は、メールの「今日いけない …
開発部工業材料第1チーム 俗称 篠山チームのリーダー 篠山義隆は、第三リーダー達の中でも割といい加減な男だった。根は真面目で実力もあるのため、最終的な所で遅れをとったりすることはないのだが、それも周りの人々に助けられて …
9月20日。 この日に向けて、全社一斉に慌ただしい雰囲気になる。 滝本優司はその実行計画書を見ながら、小さくため息をついた。 気分が暗くなる。 毎年のこととはいえ・・・・・・・。 半期に、一度の、棚卸し?
避けられてるんだろーか。 篠山義隆はパソコンに向かいながら考え込んでいた。 会社の事務所で考える内容ではない、とは思っているのだが、ついつい手が止まってしまう。パーテーションに区切られた机だから、後ろから近づかれな …