【どこまでも広い秋の空】 4 黄昏の安穏の章

【どこまでも広い秋の空】 4 黄昏の安穏の章

 宴会場を後にした誠二と矢崎真(やざき まこと)はにこやかに談笑しながら部屋へと戻った。
 酔っぱらった智史、呆然としている恵、喧嘩&混乱の優司達と比べると、完全に旅行を楽しんでいるのがこの二人であった。
「じゃ、温泉でも入ります?ここの温泉は源泉から直接引いているらしいですよ」
 年上なのに何故か誠二に対して丁寧な言葉遣いをする真に、誠二はあいかわらずといった苦笑を浮かべた。

 いつまでたっても他人行儀な気がするから止めろって言ってんのに・・・・・・。
 だが、真は自分はそんなに器用じゃないから、といって止めようとしなかった。
 二人が住んでいるのはいわゆる農村地帯で、真は地元の役場勤め。
 誠二には普通の家族がいる。真は独身だが、誠二にとっては例え男といえど不倫ということになる。もっとも、誠二の妻の幸にはばれてはいるのだが。
 ほんの少しでも外で噂になることは避けなければならなかった。
 兄の仕事仲間で誠二とも親しい、と言った程度のつき合いに見せている以上、馴れ馴れしく呼んでいるとばれそうだと危惧しているのだ。
 誠二にしても、一般に知られるのは家族のためにもよくないとは思っているので、そんな真の考えを否定することは出来なかった。
 ばれなければ、それだけ長くつき合える。
「誠二さん、どうします?」
 楽しそうな真に誠二も顔を緩ませて言う。
「そうだなあ、でも、結構アルコール入っているし・・・・・・飲んでいるときは長湯は駄目だから、少しだけ入るか」
「ああ、そういえばそうですね。でも、俺はまだ平気ですけど、誠二さんはもう駄目ですか?さっぱりしたら、ラウンジなんて行きたいなあって思っているんですが」
 真の提案に、誠二は目を輝かせて反応した。
「行く行く」
「ここのラウンジ、結構いいムードらしいですよ」
「へー、良く知ってるなあ」
「パンフレットの受け売りなんでどこまでほんとか分かりませんけど」
 にこにこと笑顔を浮かべる誠二を、真は心底嬉しそうに見ていた。



 温泉は、何故か誰もいなくて広々とした静けさが漂っていた。
 湯に入る音が驚くくらい響く。
「そんなに遅い時間じゃないよな」
 誠二の言葉に真も頷く。
「あ、でも、みなさん宴会で酔っぱらっちゃっているんじゃないですか?女湯の方は人が入っていくのを見かけましたから」
「そうかあ。でも良かった」
 そう言ってにやりと笑う誠二に、真は嫌な予感がして狼狽えた。
「二人っきりだもんなあ」
 湯船の中ですりすりとすり寄り、潤んだ瞳で見つめてくる誠二に、真の顔が紅くなる。決してアルコールや湯のせいだけではないその火照りは、真の下半身をむくむくと成長させた。
「せ、誠二さん・・・・・・」
 喘ぐように呼ぶ真に、誠二はくくくと喉の奥を鳴らした。
「若いよなあ、お前のここは」
 手を伸ばし、むずっとばかりに掴む。
「ひっ!」
 それだけで、一回り大きくなったそれの感触を楽しみながら、誠二は真の表情を横目で窺った。真の手が誠二の手首を掴むが、その力は弱い。
「こんな・・・・・はあ・・・・・・あぁ、も・・・・・・やめて・・・・・」
 切なげに眉を寄せ我慢している真を、本当に愛おしいと思う。
 少し入ったアルコールが誠二を大胆にさせていた。それにもともと誠二は人を困らせるのが楽しい、という屈折した所があるから今のおいしい状況を止めるつもりなど毛頭ない。
 ざばっ
 急に立ち上がった真に、誠二は慌てて握った手が抜けないように力を入れた。
「くっ」
 真は力を入れすぎて痛みが走ったのか、湯船の縁に手をついて前屈みになって耐えた。
「もう、いきなり動くからだ」
 文句をいっている誠二を恨めしげに見つめる。
全身がピンクに染まり、肩で大きく息をする真はひどく扇情的で、誠二は内心舌打ちをした。自分のモノが大きくなりそうなのを別の事を考えて必死で堪える。
「く・・・・・・誰の・・・・・せい、です」
 真はがっくりと縁に腰掛けるが、そうすると誠二の目の高さに誠二に握られた真のモノがあった。
 それは誠二のモノより大きくて太い。
 誠二は思わずごくりと息を飲んだ。
あいかわらず、でけー・・・・・・。
いつも思うのだが、どうしてこんなでかいモノが自分の中に入ることができるのか不思議だった。
そりゃあまあ・・・・・・フィストファックって言うくらいの事するような奴がいるんだから・・・・・・まあ、この位入っても当然だようなあ・・・・・・したいとは思わないけど。
思わずその光景を思い浮かべて、苦笑いを浮かべる。
ま、この位が分相応ってことで。
「な、何、にやにや、してる・・・・・・んく」
 誠二の絶え間ない手の動きに耐えている真を見、そして再度それに視線を移した。
 これって、俺のモノなんだよなあ。
 そう思うとなんだか愛おしくて、かぷりと口に含んだ。
「せ、誠二さん!」
 真の悲痛な声が室内にエコーがかかりながら響く。
「大きい声だすな」
 含んだまましゃべった。
「な、・・・・・・くう・・・・・何を、いっ・・・・・」
 声の響きが別の刺激を与える。
 漏れる声を必死で押さえようとする真を見上げ、誠二はうっすらと笑みを浮かべた。
 耐える矢崎って、結構イケてるよなあ。
 そんな姿が面白くて、ついつい激しく扱う。
「くうっ・・・・・・・やめっ・・・・・・」
 堪えきれない嬌声が、浴場内に響き渡る。
 それに気が付いた真が羞恥でさらに全身を染めた。
「く・・・・・・」
 眉をひそめ、必死で声を殺す。
 だけど、それは誠二の嗜虐心を煽るのに充分で。
 だから誠二は一瞬だけ口から解放して真を見上げた。
「いいなあ、その顔。ね、もっと声、聞かせなって」
「い、意地悪っ!」
 思わずついて出たであろうその言葉に、誠二はうっすらと笑みを浮かべた。
「いつも苛められてるから、ちょっと位いいだろ。どうせ今日も俺の事苛めるんだから」
「んあっ」
 先走りだけではなく濡れたモノの先端に吸い付くようなキスを施し、そして再度銜えた。
 敏感な部分のその刺激に、真は身を捩る。
 堪えられなくてその手で誠二の頭をきつく掴んだ。
 髪を引っ張る痛みに顔をしかめながらも、誠二はさらに激しく舌を絡めた。
「い、やぁ・・・・・・くぅ・・・・・・・うう」
 苦しそうな声は、真の限界を伝える。
「あ、も、もう・・・・・・・せ、い・・・・・やぁっ!」
 一際高い声が真の喉から発せられ、同時に誠二の口内に熱いモノがほとばしった。
 青臭いそのモノをごくりと飲みこんで、誠二は舌なめずりをした。
 手を床につき肩で大きく息をしながら、真はその様子を虚ろな目で見ていた。
 誠二は立ち上がると、真の身体を両手で包み込んだ。
「冷えてるよ。浸かって暖まらないと・・・・・・」
 身体を支えるように湯の中に導いて座らせた。
 その頬に軽くキスをする。
「せ、誠二さん・・・・・・・」
 虚ろな瞳の奥に欲望の炎がちらちらと見え隠れしている。
「暖まったら出て、ラウンジ行こうな。矢崎も、もう少し飲むんだろ」
 真の言いたい事は分かっていたが、わざと違う事を言ってみる。
「誠二さん・・・・・・」
 恨めしげな真の視線がおかしくて、声を上げて笑う誠二。
「だってさ、まだ夜は長いよ」
 真はその言葉にくうと喉の奥で唸ると、恨めしげに誠二に囁いた。
「覚えておいてくださいね」
 その言葉に誠二は僅かに顔を赤らめたが、それでもその顔から笑みは消えなかった。



 荷物を置いて、浴衣姿のままラウンジに行くと、そこには先客がいた。
「えっと、浩二さんと雅人さん?」
 誠二が言いよどんだのは訳があった。
 二人の雰囲気が先ほどの宴会の時と違っていたからだ。
 薄暗いカウンタに座ってこちらを見た二人は、とてつもなく格好いい。
 確かに昼間見たときも格好いいとは思った。
 だが、そのレベルが2割は増しているように思えた。
 夜が似合う人たち。
 悔しさを通り越して、見惚れてしまった。
「滝本誠二さんと矢崎真さんでしたね」
 ぼうっとしていた誠二達に浩二が微かな笑みを浮かべて頷いた。
「こっちへどうぞ」
 空いている席を雅人が指さし、誠二と真は雅人の横に並んで座った。
「何を飲みます?」
 聞かれて誠二と真は顔をつきあわせた。
 ここのラウンジは、何だかホテルのにしてはひどく立派で入るときから少し気後れしていたのだ。 
「ここね、いろいろ揃っているんだ。カクテルとか・・・・・・」
 誠二達には何なのか見当もつかないカタカナの名前が雅人の口からすらすらと出てくる。
「あ、あの、俺達あんま詳しくなくて・・・・・・雅人さんが選んでくれると助かるんだけど・・・・・」
 何だか恥ずかしさがあったが、思い切ってそう言うと、雅人は心得たように微笑んでマスターに声をかけた。
 しばらくして誠二達の前に置かれたグラスを手にとり、お互いに軽く乾杯をする。
 グラスに口を付けると、さわやかな味がした。
「俺達、田舎の人間だからこういうの、慣れてなくて・・・・・・」
「誰だって最初はそうだからさ、気にしなくていいって。特にこういうホテルなんかはそういうこと分かってるから、気軽に尋ねられるといいんだ」
 軽く言ってくれるが、そうはいかないのが人間というもので・・・・・・。
「雅人さんってこういう所よく利用するの?何だかとっても慣れているみたいだ」
 誠二がそう言うと、雅人は一瞬目を見開き、そして意味ありげに微笑んだ。
「やっぱ分かる?」
 微かに動いたその唇から紬出された言葉はそう聞こえた。
「あの、雅人さん達のお仕事ってなんでしょうか?」
 真が身を乗り出して、聞いてきた。
「ずっと気になってて、あの失礼じゃなかったら・・・・・・」
「いや、失礼なんてことはないんだけど・・・・・・何に見える?俺達って?」
 言われて誠二と真はじっと雅人と浩二を窺う。
 普通の会社員とは思えなかったが・・・・・・しかし、あの秀也さんだって普通の会社員だ。
「・・・・・・モデル・・・・・・」
 誠二の呟きに、おかしそうに雅人が笑う。
「外れ。あ、それに俺と浩二、仕事違うから・・・・・・」
「あ、そうなんだ・・・・・・」
 なんだか、何の疑問も抱かずに二人一緒だと思っていた。
 誠二は改めて二人を窺う。
 もし、二人に別々に出会っていたら、どういう風に出会ったろう。
 陽気で気さくな雅人さん。浩二さんの言葉に素直に従う様は、妙に笑えるものがあったけれど・・・・・・。
 だけど、こういう場にとても慣れた雰囲気。夜の世界がとても似合って、宴会場にいた人とは別人のように落ち着いて・・・・・・。
 ああ、だから浩二さんととてつもなく似合うんだ。
 だって浩二さんは、いつも静かで落ち着いた雰囲気。狼狽えた姿など想像もつかない。
羨ましい。
俺達より年下なのに、ずっと大人びた雰囲気。
「わからない・・・・・・」
 正直に答えると、雅人さんは楽しそうに笑った。
 この人って、笑い上戸?
 初めて逢ったときから、ほんとによく笑う。
 何気ないことでも本当に楽しそうで。
 こういうとこ、凄く羨ましい。
 誠二は内心ため息をついた。
 俺が無くしたもの。手に入れられなかったもの。
 子供の時からずっと無くしてしまった、感情。
「あ、ごめん。笑っちゃって、気、悪くした?」
 誠二が僅かに固まらせた表情に雅人が目敏く気が付いた。
雅人に困ったように覗き込まれて、誠二は苦笑を浮かべる。
 違うんだけど・・・・・・。
「何でもないから。雅人さんが笑ったこと気にした訳じゃないんで・・・・・・」
 俺が無くしてしまった感情——素直に声を上げて笑うこと。
 羨ましいって思っただけ。
「そう?良かった」
 なんだかこの人といると落ち込むのがばからしくなる。
「それで、雅人さん達の仕事、ほんとのところ何なの?教えてよ」
 だから、ちょっと悪戯っぽく聞き返す。
 俺って恵に似てるって言われるくらい童顔だから、こういう表情はガキ臭くて嫌いなんだけど、でも、何だか自然に出てきてしまった。
 と、雅人が目を見開いた。
「へ、えー。君たち兄弟ってみんな似ているね」
 へ?
「そう?恵とは似ているって言われるけど・・・・・・。優司と智史兄さんは似ているみたいだけど」
 そう、いつも言われていた。
 誠二と恵。
 智史と優司。
 顔も性格も似ている2組ができている滝本兄弟。
「んー。確かに恵くんと一番似ているとは思うけど、なんとなく雰囲気とか、そんな表情とかがみんなどことなく似ている。優司もたまにそういう悪戯っぽい表情するけど、それそっくりだった。さっきの宴会場で見せた智史さんの表情とも・・・・・・たぶん恵くんのも」
「似てる?」
 全員が似ているって言うのは初めてで、ちょっとびっくりした。
 だけどまあ、両親が一緒だから当たり前と言えば当たり前だけど。
 誠二は、苦笑を浮かべた。
「性格はいろいろみたいだから。だから、似ていないように見えるけど、でも同じような表情ってたまにするから、そういうとこ、ほんとに似ている」
 隣で真がうんうんと頷いている。
 なんか、お前に言われると腹が立つが、雅人さんに言われると納得してしまうのは何故だ?
 誠二は真の足に蹴りを入れる。
「って」
 微かな叫びとともに誠二を恨めしそうに見る真を誠二は横目で睨んだ。
 俺はなあ、優司は好きだけど、似ていると言われると腹が立つんだ。
「どうしたの?」
 雅人さんが不審そうに真に視線を送る。
「いえー、何でもないです」
 虚ろな笑いの真を誠二は再度軽くけっ飛ばすと、話題をすり替えるべく雅人に話しかける。
「で、職業の話。教えてよ」
「あ、その話していたんだ。いいよ、俺はねホスト」
「は?」
「え?」
 誠二と真の声がハモる。
「んっと、ホストなんだけど」
 呆気にとられている二人に雅人は苦笑を浮かべた顔を向けた。
「ホスト・・・・・・似合いすぎる」
 真の呟きに誠二は頷いた。
 確かに夜が似合う。こういう暗めの酒の席で、彼が笑えば女性は必ず落ちるだろう。
 その様子を思い浮かべて、誠二は背筋にぞくぞくとした感触を覚えた。
 な、何だ。これっ?
 誠二は自分が感じたモノに狼狽えた。
「でね、浩二は医者なんだ」
「・・・・・・」
 沈黙が支配した。
 似合わない・・・・・・とは思えなかったけど・・・・・・・あまりにも意外で。
「医者ですか?」
 思わず問い直す。
 と、それまで黙っていた浩二が、困ったように微かに口の端を上げた。
「整形外科を専門としています」
「は、あ・・・・・・」
 我ながら間の抜けた返事とは思ったけど、そんな言葉しかでなかった。
「腕、いいんだ。すっごく評判がいいんだよ」
雅人が自分のことのように自慢げに言うのを聞いて、誠二は思わず笑みがこぼれた。
 凄く仲がいいのが伝わってくる。
 でも。
 こういうのってちょっかい出したくなるんだよな。
 誠二は内心にわき上がる衝動を押さえつけようと一苦労していた。
 もう少し親しければからかうのも良いけど、なんだかあの浩二さんって真面目そうで、冗談にとってくれなきゃ困るし・・・・・・。
 でも、この雅人さんってからかうと面白そうだし・・・・・・。
 心の中で留めようとしていた衝動が、口元と手元に出てくる。
 それに目敏く真が気付いた。
「誠二さん」
 囁くように誠二をたしなめる。
「分かってるって」
 小さく答える。
 だが、真は小さくため息をつくと、席を立った。
 そして誠二の腕を掴むと、雅人達に話しかける。
「俺達、この後ちょっと用事があるんで、お先に失礼します」
 ぺこんとお辞儀をすると、雅人達の言葉を待たずに誠二を引っ張って歩き始めた。
 その二人を雅人達が呆気に取られて見送っていた。

 部屋に戻ってようやく真に手を離された誠二は眉間にしわを寄せた顔で真に詰め寄る。
「どうして帰ってくるんだよ。まだ話したかったのに」
 たが、真もやはり顔をしかめていて、何も言わない。
 怒っている?
 そんな雰囲気が漂っている真に、誠二は戸惑った。
 怒ることはあっても怒られた事はなかった。
 たしなめられることはあっても、怒りをぶつけられたことはなかった。
「どうした、矢崎?」
 小首を傾げ、問いかける。
 だが真は無言のままで。
 何か言いたげな、真の視線に戸惑い、苛つく。
「何だよ!言いたいことがあるんなら言えよ」
「だって」
 拗ねような台詞が真の口から漏れ、誠二は睨まれた。
 何なんだ?
 俺、怒らせるようなことしたっけ?
「相変わらず・・・・・・」
 ふっと息を吐き、真はくるりと振り返るとすたすたと窓際に寄った。
「お、おい!何だよ」
 慌てて後ろを追いかける。
 肩を掴み、こちらを振り向かせる。
 その顔を見た途端、誠二は一歩後ずさった。
一体、何なんだ?
 真の表情は、怒っていた。
「矢崎、何で?」
「どうして、あなたはいつも他人にちょっかいだそうとするんです?」
 震える声で責められ、誠二は戸惑った。
「あ、あの位いつものことじゃないか。っていうより、しようとしたら矢崎が止めたんじゃないか。未遂だろ。怒られることしていないって!」
「・・・・・・そうでしたね・・・・・・」
 いきなりトーンが落ちた真に、誠二は狼狽える。
「あの・・・・・・さ」
「俺、何やってんだろ?」
 下を向いて呟く真。
「あの・・・・・・」
 一体何がどうなっているか分からない。
 戸惑って、真の肩に手をかけようとした。
「誠二さんっ!」
 いきなり抱き付かれた。
 小柄な誠二の顔が真の顔に押しつけられる。
「や、やざ、きっ!」
 暖かい体温が伝わってくる。真の匂いに包まれる。
「好きですっ!」
 喘ぐような言葉に、一気に身体が熱をもった。
 しかし、今の状況は、訳分からない。
「な、んなんだ!」
 きつくなる腕に息が苦しい。
「矢崎ってば!」
 身を捩り引き剥がそうとするが、そんなことは全く許してくれそうにない。
 この状態は気持ちいいけれど、状況が分からない。
「ごめんなさい。俺、嫉妬してました」
 呻くように呟く真の言葉に誠二は訝しげに顔を歪める。
 嫉妬?
「だって、雅人さんって格好いいじゃないですか。そんなあの人と仲良く話をしているのを見ていたら、なんだかムカムカしてきて。あの時のことはきっかけだったんです。あなたとあの人を引き離したくて・・・・・・俺って、情けない。こんな情けない所、あなたに気付かれたくなかったのに、だけど、我慢できなかった・・・・・・」
「馬鹿か、お前が情けない奴な訳ないだろ。ぜったい、俺より意地悪な癖に」
 誠二の思わず口をついて出た言葉に真の身体がびくりと震える。
「あのなあ、確かに雅人さんは格好いいよ。だけど、俺なんかがあの人と釣り合うと思っているのか?あの人は浩二さんか秀也さん位じゃねーと釣り合わないよ。俺は、矢崎くらいがちょうどいいんだ」
「せいじさん・・・・・」
「俺って、そんな節操無しに見えるか?」
「い、いいえ。いいえっ!」
「矢崎は俺とずっと一緒にいてくれるんだろ」
「もちろんですっ!」
 固い決心とともに約束したあの葬式の日を思い出す。
「俺は・・・・・・矢崎じゃねーと甘えられないんだ・・・・・・」
 小さくなっていく言葉は、真の耳にきちんと届いていた。
「誠二さん。幾らでも甘えてください。俺、いつだって側にいますから」
 ようやく緩められた腕から誠二が顔を出す。
 真っ赤になった顔に真が軽く口づけた。
「も、俺、こんな性格だから、また他の人にちょっかいだすかも知れないけど・・・・・・そりゃ、矢崎が妬いてくれるのはうれしいけど・・・・・・」
 上目遣いに見つめてくる誠二に真に甘い声で囁く。
「それがあなただから、止めろとはいえませんけと、だけど、あんまりにも手が焼けるようでしたら、俺がきっちりお仕置きしてあげますから」
 揶揄するような言葉に、誠二は羞恥のあまり視線を逸らした。
「ばかやろ。そういうとこが滅茶苦茶 意地悪なんだ・・・・・・」
 呟く言葉に真は苦笑し、そして耳元でそっと囁いた。
「とりあえず、雅人さんにちょっかいだそうとした悪戯好きなあなたへのお仕置きと、ああ、それに温泉での一件もお返しする約束でしたね。それに、久しぶりですし・・・・・・」
「ばか」
 喘ぐように呟いた言葉は小さくて、しかも真の口の中に消えていった。

 真の愛撫は、感じるところを容赦なく責め立てていく。
「くうっ・・・・・・・はあ、ああっ」
 文句の一つも言いたくて口を開ける誠二だが、しかしその口から漏れるのは喘ぎ声だけだった。
 だからっ。
 お前は意地悪いってんだよっ!
 外に出せない言葉を心の中で吐き出す。
「んく・・・・・・やざ、きぃ・・・・・・あうっ」
 体内に挿入された指を増やされるたびに例えようもない圧迫感とそれ以上の甘い刺激が全身を襲う。
「ああっ・・・・・・も」
 誠二のモノから先走りの液がにじみ出し、それを使って真の手がそれを弄ぶ。
 きつくそそり立つモノは限界が近いことを伝えていて、だけど、達きそうになるとすっと矢崎は責めの手を緩める。
 もどかしさに誠二がさらに喘ぐ。
「んん・・・・・やだ、やめな、いで・・・・・・」
 潤んだ瞳で真を見つめる誠二に、真は内心苦笑を浮かべる。
 ベッドの上の誠二はいつも泣く寸前のような目で真を見つめる。普段の何をしようか企んでいるような悪戯っぽい表情が消えて、妙に幼く・・・・・・それは、真の嗜虐心を駆り立てる。
このまま泣かせてみたい。
 今までは、ずっとその欲求に耐えてきた。
 だけど、今日は・・・・・・。
 今日は、あれから——二人が本当に心を交わした時から初めての行為だった。
 お互い忙しくて、逢うのもままならず・・・・・・だから、今日の旅行は楽しみだった。
 だから、今日は・・・・・・。
 真は今にもイキそうな誠二のモノの根本をきつく指で戒めた。
「あっ、やあ!」
 涙を溜めて身を捩る誠二に、真はうっすらと笑みを浮かべて見つめた。
「駄目ですよ。まだ」
 そう言いながら、体内に潜り込んだ指を屈伸させる。
「ひっ!」
 感じる部分に突き当たったのか、誠二が背を仰け反らした。
「気持ち、いいですか?」
 答えられないと分かっている真の質問に、誠二は恨めしげに真を見つめる。
 だが、涙で潤んで欲情の色を染めたその視線は、真をさらに煽るだけだった。
「ね。イキたい?」
 問われて途端、誠二は固く目を瞑った。だが、責め立てる指に身体は敏感に反応する。
「んあぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・あ」
「ねっ、言ってくださいよ」
 耳朶を甘く噛まれ、全身を甘い痺れが走る。
 限界だった。
「やっ。も、ゆる、して・・・・・・」
「何を許すと言うんです?」
 からかう真に、誠二は仕方なく呟いた。
「イキ・・・たい」
 その言葉に真はにっこりと微笑んだ。
「じゃ、名前で呼んでください。矢崎じゃなくて、真って。そしたら許してあげますから」
 その言葉に目を見開いた誠二は、一瞬躊躇した。だが、その間にも繰り返し襲ってくる刺激に、誠二の理性は崩壊した。
「や、ま、まことっ!イカせてっ!」
 その言葉に真は、戒めていた指を離し、同時にもっとも敏感な所を指でついた。
「んくっ!」
 解放された誠二のモノから、白濁した液が噴き出し、誠二の腹に液溜まりをつくる。
「はあ、はあ、はあ・・・・・」
 浅く荒い息で弛緩した四肢を投げ出している誠二の腹のモノを、真は愛おしげに指で掬い取った。
 片足を手で支え、その指を誠二の中に押し込む。
「んんっ」
 既にほぐれているそこは、難なく指を受け入れた。
 真はたっぷりと誠二の液を塗り込めると、指を引き抜いた。
自分のモノを誠二のそこに押し当てる。
荒い息を吐いていた誠二の呼吸が止まる。
「くうっ!」
 十分ほぐされたそこは、少しきつくはあったが、真のモノを受け入れる。
「んっ」
「相変わらず、気持ちいいですよ。この中は・・・・・」
「ばか、やろっ」
 うっとりと言う真に誠二の悪態が重なる。
「ったく、相変わらず口が悪いですよ」
「何だよっ!これがっ、俺だぞ!」
「わかっていますけどね。やっぱ、ねえ」
「くぅっ」
 いきなり動かれ、悪態が喘ぎ声にしかならない。
 ああ、もう、覚えてろ。
 しょうがないので頭の中で悪態をつくが、それも突き上げられる刺激に吹き飛んでいく。
 突き上げられるたびに息が荒く熱くなる。
「んんっ、はあ、ああっ」
 閉じることのできない口から涎が流れ落ち、目尻から涙が流れ落ちる。
「んああっ」
 ひときわ深く貫かれ、見開いた目は何も写していない。
 完全に理性を手放した誠二は押し寄せる快楽に全身でよがっていた。
「ああ、せ、いじ、さん・・・・・・いい、いいよ」
 真も上気し、その声は掠れている。
 誠二の嬌声に耳から煽られ、真自身もう限界に近かった。
「はあっ、いやあっ、ああっ、もう」
 誠二の潤んだ瞳が限界を伝える。
「せいじっ!」
 先に真が誠二の中に放出した。
「ああああっ!」
 そして、誠二も激しい波に翻弄され、果てた。



・・・・・・いじ、・・・・・・せいじ
 どこかで、呼ばれている。
 誠二は白濁した意識の中にいた。
 誰かが呼んでいる。
 答えなきゃ。
 だけど、身体がとてつもなくだるくて動かない。
「せいじさん」
 優しい声に、誠二はかろうじてそちらに手を動かす。
 ゆるゆると動く手を誰かに掴まれた。
その手を自分に引き寄せ、その掴まれたものに口づける。
それがびくりと震えた。
「せいじさんっ」
 震えた声で呼びかけられ、誠二は自分が夢の中にいるのだと気が付いた。
 ゆっくりと瞼を開ける。
「ま、こ、と・・・・・・」
 目の前の男を呼びかける。
「まこと・・・・・・」
 目の前の男が破顔する。
「誠二さん、名前で呼んでくれるんですね」
 言われて、はっと我に返った。
「あ・・・・・・矢崎」
 気が付いて呼んだら、真はがっくりと肩を落とした。
「やっぱり・・・・・・駄目?」
 その落ち込み方に誠二は思わず声をだして笑う。
と、腰から鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「痛い、ですか?」
 心配そうな真の顔。
 昨夜のことを思い出して、その顔を見ていられなくて枕に顔を埋める。
「当たり前だ、ぼけっ!何回やったんだよっ!」
 くぐもった声が響く。
 一体こいつは何回挑んできた?
 一回目だけで、結構堪えたのに・・・・・・抜くまもなく二回目。
 三回目までは覚えている。
「えっとぉ、五回目は覚えているんですけど」
 言われて耳まで真っ赤になるのを感じた。
 身体が熱い。
「ばっか・・・・・・」
 呟く。
 この身体の痛みも例えようもない怠さも、そのせいかよ・・・・・・。
「ええ、馬鹿ですよ。誠二さんを抱けるとなると、もう俺の理性なんて最初から無いですから」
 言われて、ちらりと真の方を見ると、真はにっこりと笑いかけてきた。
 思わず誠二は口ごもり、もう一度枕に突っ伏して。
「矢崎の、ばかやろー・・・・・・」
 言葉が勝手に口からこぼれ落ちた。

続く