【闇夜の灯火】  6

 上からのしかかられては、息苦しいことこの上ない。だが、同時に包み込まれるような熱はひどく心地よくて、もっと包んで欲しいと願っていた。  再び振ってきた唇が合わせられ、導き出された舌が甘噛みされる。 「…ふっ……」  鼻 …

【闇夜の灯火】  5

 水の流れる音がする。  それに気付いた誠二は、ようやく麓に近づいたことを実感した。  沢がそばにある場所からだと、50メートル位で車を止めた所につく。  ちらりと闇に包まれたそちらを眺める。  と、 「蛍……」

【闇夜の灯火】  4

 矢崎の住んでいるコーポは、誠二と同じ地区にあるにもかかわらず車で5分ほどかかる。その地区が東西に長いせいだ。  ちなみ自転車で近道すれば5分ほどなのだからどっちでいっても同じなのだが、今の足では自転車に乗ることのできな …

【闇夜の灯火】  3

 すでに用意されていた救急車の横で本職の消防士により応急手当を受ける。  邪魔なズボンが切り裂かれ、露わになった下肢に服の代わりに毛布が掛けられた。矢崎が誠二のヘルメットと法被を脱がせる。  さすがに手慣れた本職の手によ …

【闇夜の灯火】  2

 最初の内は、いくら水をかけても火勢は衰えることを知らないかに見えた。  それでも乾ききった大地がたっぷりと水を含む頃、さすがにその火勢も弱まってきたようだ。  誠二は、すでに矢崎が全身びしょぬれなのに気がついた。  他 …

【闇夜の灯火】  1

 なぜか嫌な予感がした。  課内直通電話が鳴った途端、滝本誠二の全身に総毛立つような不快なざわめきが湧き起こったのだ。  このままそっと事務所を抜け出そうか……などという考えは、狙い定めたようになり始めた電話に呆気なく蹴 …

 古い年代物の木造建築物が、この町の役場だった。 所狭しと並べられた事務机の間をコード類が走る。  つまずかないようにテープ等で止められているが、数ヶ月に一回は誰かがひっかかって派手な音を立ててこける。こけるついでに最悪 …