【してあげたい】 2 ?櫂?

 金曜日だと言っても、二人の時間が合うことは少ない。  里山櫂は製造で交代勤務が多いし、高山彰は深夜までの残業や出張などがあるからだ。  それでも、今日は櫂は一勤だったし、高山もあまり遅くはならなかったから、待ち合わせて …

【CROSSLY  vol.1】

「竹井さん……」  その声は情欲がたっぷりと詰まっていて、それだけで竹井拓也は恥ずかしくなって視線を逸らした。すでに全身が朱に染まっている。  いつだって元気で、そのせいですっとぼけた失敗をしてくれる安佐の手が、腰からシ …

【CROSS HATCHING】

HATCHING(ハッチング) 断面線を書く作業(CAD コマンド)。 断面図の断面部に描く斜線などの模様で、そこが断面であることを示す。 材質によって、指定された模様がある事もある。

【バレンタイン】 2

 10時よりも30分も早く、来訪を告げるチャイムが鳴った。  こんな時間に来るのは、ただ一人。  悠人は、ドアが見える場所に陣取って玄関が開く様をじっと窺っていた。  壁に背を預け、気怠げに見据えている。 「お迎えはない …

【バレンタイン】 1

 誕生日、クリスマスはまだいい。  いや、良くはないが、まだしようがないかという気になる。  だが……。  土曜の昼に出かけたスーパーで、明石悠人はげんなりと肩を落とした。  2月に入る前から目立ち始めたそのコーナーは、 …

【ご機嫌斜めの悠人】

 不機嫌きわまりない兄の悠人がやって来た時、明石雅人はまだ夢の中だった。  ホストの仕事で明け方にようやく帰ってきて、一番気持ちよく眠っている最中にたたき起こされた。雅人は苦虫を噛み潰したような顔で、リビングにでんと座っ …

【悠人攻略日誌】

 増山健一郎、33歳。  千代田不動産株式会社、営業1課 係長。  三ヶ月前に抜群の営業成績を収めて、本社に栄転になった。  そして、始めてその男に逢った。   移動の手続きの書類を持って庶務課の部屋を覗いた時、こちらを …

【後悔よりも】

 優司の母へのお年玉である歌舞伎観劇旅行。それに、秀也の母親も一緒にいくことになっていて……  疲れた体を引きずって家に帰り着いた途端に鳴った携帯電話。  その画面に表示された名に、無表情だった顔に笑みが浮かんだ。 「秀 …

【漫ろ心】

 年に一度企画されるミーティング。参加のために工場に向かおうとした秀也は、冷気を纏う男と会ってしまう。秀也の受難、陵辱、リバ。  外人が多いな。  工場に向かう飛行機に乗り込んだ時、笹木秀也は違和感に気が付いた。  いつ …

【溺れる魚】

 電話で依頼された資料。  了承するのは簡単だった。──否、拒絶できなかっただけのことだから、簡単も何もないだろう。  本来なら、時間や手間を考えれば絶対に拒否すべき依頼だったのだが、営業が一度了承してしまったものをこち …

【誘蛾灯】

 今日の夜空は、雲一つ無い星空だと、天気予報が知らせていた。  だが、もはや深夜と言って良い時間でも、瞬く星を見ることは叶わない。代わりに原色系のネオンが空を明るく照らす。  それでも、と目を凝らした笹木秀也だったが、視 …

【落花流水】(2)

 お年玉って……。  完全に忘れていたが、そういえば今はお正月なのだ。  甥達にすら渡していないこともついでに思い出して、優司はきつく顔をしかめた。 「お年玉って……新札だよな……っつうか、千円札そんなにないぞ?」  母 …

【落花流水】(1)

落花流水:散る花は流水にのって流れ去りたいと思い、流れる水は落花を乗せて流れたいと思う相思相愛の様  正月は寝正月。  新しい年を迎えても、それだけはいつもとは違わない。  人肌の心地よさに、部屋の中が明るくなっても滝本 …

【熱海】

【熱海】 秀也と雅人の過去話  賑やかで明るくて元気な女性だった。  40歳代だろうか?  女性に年を聞くなど野暮ったいことはしないから、それは推測でしかない。  ただ、開店と同時に若い女性を伴って現れては、閉店まで居座 …