【桜鬼(はなおに)】 夢の章
先ほどまでは微かだった音が、確かに大きくはっきりと聞こえてくる。 音、と表したけれど、それは人の声だと櫂は気が付いていた。けれど、誰の声かと考えることは頭が拒否している。 もっとも、考えなくても判っているのだけど。
【桜鬼(はなおに)】 鬼の章
「……すけ?啓輔?」 何度も呼ばれて、ようやく自分が呼ばれたのだと啓輔は気が付いた。 ぱちぱちと何度か瞬きをし、辺りを見渡す。と、傍らで覗き込むようにしていた家城に気付いた。 だが、よく見えない。 「な……に?もう …
【壊れた時計】
隅埜啓輔の家は、もともと離れであった長屋の部分を何とか住めるようにしたものだ。 狭い一階に玄関直結の台所と洗面所やトイレ、風呂を設置したら、後はもともと倉庫だった部分が残るだけだ。 なんとか客を迎えられるだけのスペ …
鬼が見た夢
ドアを開ける音がして、隅埜啓輔は身を沈めてさせていたソファから跳ね起きた。 手に持っていた雑誌が勢いよく床に落ちる。読んではいたけれど中身が頭に入っていかなかった雑誌がくしゃっと啓輔の足の下でつぶれた。 だがその事 …
夢に誘い、鬼眠り
最近、啓輔は時折自分の家にいるのに、酷く寂しさを感じることに気が付いていた。 それはテレビを楽しんでいた今も、先ほどから啓輔の胸の内に宿ってきている。 テレビの音しかしないその空間が、いたたまれなくて、不安になって …
ONIの混乱 2
ジャパングローバル社品質保証部にとって、出荷する製品の検査データシートのチェックは最重要項目の一つだ。開発途中であっても、客先の要望いかんでは有償品として処理する。そうなればなんら製品と変わること無いルートを通り出荷さ …
ONIの混乱 1
様子が少し変だと、隅埜啓輔はソファに体を沈めてずっと相手の様子を窺っていた。 そんな事にはさすがに気付いていないのだろう。啓輔の探るような視線の先で、家城純哉は手元にあった雑誌に目を通しながら、コーヒーを飲んでいる。 …
鬼薊
「ね……」 低く抑えた声で話しかけながら、隅埜啓輔(すみのけいすけ)は視線で目的の相手を先輩である服部誠(はっとりまこと)に教えた。 「……ほんとだ……」 服部もその姿を目にして、驚きに目を見張りながら小さく頷く。 …
目隠し鬼
「やっぱり、いないのか……」 ぽつりと零れる声が誰もいない空間に伝わっていく。 遅くに帰ってきた部屋は、暗闇のまま部屋の主たる家城純哉を迎えていた。最近は、金曜の夜は灯りがついていることが多いから、暗い部屋はどこか寂 …
鬼の宴会
「ほんとに……さあ……、行かなきゃいけないのかよ」 気分は曇天。 漏れる声音もその表情も、どんよりとした気配が漂う。 仕事も終わった金曜の夜。 隅埜啓輔(すみのけいすけ)は恋人である家城純哉(いえきじゅんや)の部 …
アベック鬼ごっこ おまけ
服部サイドのお話です。 「今日は寝ていろ」 梅木がそう言って出ていった時、服部は梅木のベッドの中だった。 家城の家を出てきてから、速攻で梅木の部屋に帰った。 一体いつからきていなかったのだろう……。 前来たときか …
アベック鬼ごっこ 4
「あなたのそれは随分と自分勝手なものなんですよ」 相変わらず家城が、冷淡とも言える態度で梅木に詰め寄る。 それはわざと梅木を怒らそうとしているように啓輔には見えた。 梅木の両手が躰の横で色が白くなるほど固く握りしめ …
アベック鬼ごっこ 3
生産技術の部屋の外で捕まえた安佐に竹井のことを話す。 泣きそうだったと言った途端、安佐は「ありがとう」と言うと、心当たりがあるのか迷わず階段へと向かっていった。 その「ありがとう」がひどく嬉しそうだったのが印象的で …
アベック鬼ごっこ 2
「家城さん……」 手を伸ばし、その躰に触れようとした指先が、家城の手に絡め取られた。 「ったく……あなたの行動はいつだって私を混乱させる」 ぐいっとその手が引っ張られ、不自然にねじられた躰が悲鳴を上げる。それに顔をし …
アベック鬼ごっこ 1
「そろそろだね」 たった二人のチーム。 先輩である服部誠が、くすくすと笑みを浮かべて声をかけてきた。 隅埜啓輔は、その言葉にちらりとパソコンの右下に表示されている時計を見る。 『15:02』 休憩時間だ。
【ONI GOKKO −つっかまえたっ−】
情報処理科の工業高校を卒業した隅埜啓輔(すみの けいすけ)が入社した会社で、4月の1ヶ月間の開発部研修が終わった。 4月は、プライベートに関わることでいろいろとあった。 過去の過ちのせいで逢いたくても逢えない相手に …
【ONI GOKKO −誰が鬼?−】
「柊と薊の賛歌」及び「優司君のお引っ越し騒動記」を読まれているとより判りやすいとは思います。でも、一応これだけでも判るようにはしています。 —————̵ …