古い年代物の木造建築物が、この町の役場だった。 所狭しと並べられた事務机の間をコード類が走る。  つまずかないようにテープ等で止められているが、数ヶ月に一回は誰かがひっかかって派手な音を立ててこける。こけるついでに最悪 …

【覚悟してよ】

 前日に聞いたのは、『運動の出来る服装』ということだけ。 当日も、運転中はおおまかな場所だけ聞いていて細かい指示は助手席から貰っていた篠山義隆は、到着した場所の看板を憮然と見ていた。  アスレッチック広場。  義隆は十秒 …

【仕事してよ 開発部より滝本チーム高山&篠山チーム橋本編】

 開発部 滝本チームの高山は、棚卸しのチェックの手を止め、ふと時計を見た。  すでに7時を回っているのを見て、小さく息を吐くと、かがめていた腰を伸ばした。  同じチームのメンバーは滝本・高山を含め8人。  それを実質的に …

【仕事してよ 滝本恵編】

 川崎理化学営業三課の滝本恵は、携帯のメールを確認して、ほっとしていた。 メールの相手は、篠山義隆。恵の恋人だ。 ここんとこ一週間ほど、毎日のように押し掛けてきた義隆にいささかうんざりしていた恵は、メールの「今日いけない …

【連絡してよ】

 避けられてるんだろーか。  篠山義隆はパソコンに向かいながら考え込んでいた。  会社の事務所で考える内容ではない、とは思っているのだが、ついつい手が止まってしまう。パーテーションに区切られた机だから、後ろから近づかれな …

【接待してよ】

 かったりーなー……  篠山義隆(しのやま よしたか)は事務所でパソコンに向かって報告書を作成していた。  何が嫌いかといって、この手の文書作成程嫌いな物はなかった。とにかく面倒くさいのだ。  だが、これを作らないと月度 …

【来訪者】 3

 両手に厚手のリストバンドを嵌めるのは、痕が付くのを浩二も厭うからだ。  その上から縛られて、雅人の腕はベッドヘッド側の板に括り付けられていた。  お仕置きだからと、課せられたのは拘束。  両手どころか、足までも別々のベ …

【来訪者】 2

「……んで、あのバカはまだ帰っていないんだな」  舌打ち交じりの辛辣な言葉に、雅人は逆らうことなくコクコクと頷いた。  苛立たしげに下ろしていた前髪を掻き上げる悠人のうなじにはくっきりとキスマーク。仄かに匂う香りは、健一 …

【来訪者】 1

 明石雅人が恋人増山浩二と住む部屋は、普段あまり客など来ない。  チャイムが鳴れば、たいていそれぞれの兄たち。やはり恋人同士の二人は、いつも喧嘩ばかりで、何事かあるとこの家にトラブルのネタを運び込んでいた。  しかも、そ …

【執着心に晒されて】

30万HIT記念  明石雅人が用事があって兄の部屋に来たのは、春にしては熱い日だった。  寒い日もあるからとファンヒーターがまだあるというのに、窓越しの日差しはジリジリと肌を焼く。 「暑いっ、エアコン入れよっ」 「窓を開 …