【御味噌汁 裕真】

啓輔の従兄弟 晃一の話「味噌汁」の裕真サイド  頻繁にやってきていた晃一が、いきなり裕真のところに来なくなった。  最初は、行けないと言う簡単な電話。  元気が無いなとは思ったけれど、その時は裕真も忙しくて、判りましたと …

【御味噌汁】  3

「タケノコ、忘れたっ」  冷凍食品もあるし、もう帰ろうかという話になった時だった。  不意に和巳が叫んだ。 「ごめん、買ってくる」  慌てて買いに走ろうとしたその腕を止めたのは、裕真だった。

【御味噌汁】  2

 せっかく再会できた僥倖を、晃一は無駄にするつもりはなかった。  その結果、休みの日や早く帰ることができる日には連絡を取って、裕真の家に向かうようになっていた。  裕真も、晃一のお伺いに、断ることはなかったから、よけいに …

【鬼の居ぬ間に……】

 怒ってる……。  一見すると無表情のいつもと変わらぬ家城純哉ではあったが、隅埜啓輔の目には、彼が内包する怒りがはっきりと映っていた。  何で?  と、内心引き連りながらも考えるが、いっこうに心当たりが無い。  確か昨日 …

【鬼の子】 2

「ここ、狭いからあっち行こうぜ」 「え、あっ」  鎖を解き強く引き寄せれば、純哉が体を折り曲げて呻く。体の向きが変わったことで、バイブがさらに体内の奥深くを抉ったのだろう。  紅潮した顔が切なげな表情を見せる。  それが …

【鬼の子】 1

 それはほんの僅かなものだった。  啓輔自身、自らも香りをまとうようになってからか、他人の香りにも敏感になっていた。  だから、気が付いたのだろう。  純哉の部屋に漂う微かな香りの違和感に。 「……誰か来ていた?」  休 …

【菜の花】

 金曜日の夜。  隅埜啓輔はいつもより遅い時間に原付バイクを走らせていた。  春とは名ばかりの季節に、バイクを走らせるのは辛い。  できれば早く辿り着きたいんだけど……。  視線がちらちらと前のかごの中を窺う。そこには、 …

【Stand by Me】

 心地よい夢の中を漂っていた。なのに、何かのきっかけで意識がふわりと現実へと舞い戻った。  覚醒とは言えない。  けれど、ぼんやりとした意識はすぐに現実に馴染んだ。  だが視界の方が数度瞬きしても、情景に馴染めなかった。 …

【影踏み】  2

 何故こんなことに?  二階に上がった途端に、二人して絶句した。  どうして布団一枚出すために、押し入れの布団が全て出ているんだ?  敷き布団に掛け布団にタオルケット……はまだ良い。襖の前に山積みになっているのは毛布や替 …

【影踏み】  1

 車を庭に乗り入れた家城純哉は、灯りの消えた暗い窓を見つめてため息を零した。  家主である隅埜啓輔が戻ってきていないことは知っていた。その窓に人影は無いのも当たり前だと判っていた。それでも、思わず、いないのか、と捜してし …

【高鬼(たかおに)】 3

「純哉っ!来てくれたんだっ」  家城が車から降りたとたん、エンジン音に気がついたのか、まだパジャマ姿のままの啓輔が窓から勢いよく身を乗り出してきた。  その勢いの良さに思わず目を見開けば、すぐにその姿が視界から消える。だ …

【高鬼(たかおに)】 2

「今日は遅いんですか?」  約束の木曜日。  まだ事務所にいる啓輔に声をかける。 「今ね、開発部の滝本さんの依頼で特許マップの準備してんだ。これが面倒な作業でさあ」  肩を押さえて、こくこくと首を左右に傾ける。  確かに …

【壊れた時計】  

 隅埜啓輔の家は、もともと離れであった長屋の部分を何とか住めるようにしたものだ。  狭い一階に玄関直結の台所と洗面所やトイレ、風呂を設置したら、後はもともと倉庫だった部分が残るだけだ。  なんとか客を迎えられるだけのスペ …

鬼が見た夢

 ドアを開ける音がして、隅埜啓輔は身を沈めてさせていたソファから跳ね起きた。  手に持っていた雑誌が勢いよく床に落ちる。読んではいたけれど中身が頭に入っていかなかった雑誌がくしゃっと啓輔の足の下でつぶれた。  だがその事 …