月明かりの下で(3)

28 「ザーン……」  のろのろとおぼつかない足取りでヴァルツはベッドへと近づいた。  病的な白さの顔色、力なく閉じられた目蓋。  横たわった姿に、弱っていることは明白だ。 「ザーンっ!」  薄い掛布に浮かぶ腕に縋る。 …

月明かりの下で(2)

?10  ジゼとザンジがどうにかこうにか城の人々に受け入れられて、ほおっと息を吐く頃には、先発隊が出発してからもう一ヶ月が経っていた。  だが、戦局は一進一退を繰り返し、進展がない。  伝書鳩を駆使した連絡は、滞ることは …

月明かりの下で(1)

第一王子(30)の幼なじみの男女三人の話。変わらぬ日々がいつまでも続きそうな、そんな憂鬱な日々が途切れた時。  長い会議の後、ケレイス国の第一王子であるヴァルツは執務室に戻ってぐたりと椅子に座り込んだ。  金にあかせて作 …

外苑の乙女 後編

11  体が酷く怠い。  柔らかな布団の上にいるというのに、触れる何もかもが鬱陶しい。  寝返りをする気にもなれないのに、動きたくて体がうずうずして、落ち着かない。怠いのに、動くしかない状態に、ミシュナは深いため息を吐い …

外苑の乙女 前編

?ケレイス王国騎士ミシュナ(19)と任務中に出会った男の話。玉の輿物語。  17の年に騎士団に入隊してようやく2年。  もうすぐ成人の儀を迎えるミシュナは、見習いの地位から脱却し、剣の腕も上がってきた。  騎士団に入って …

ガムテープ

 幹人(みきと)が風呂に入って出てくると、梱包用のガムテープが、ベッドの上に転がっていた。  そう言えば、昼間にホームセンターに行っていた竜城(たつき)が、寝室に篭もってずっと何かをしているようだった。

クレヨン

 久しぶりに立ち寄ったデパートは、ちょうど子供向けのイベントを最上階でやっているらしく、家族連れでごった返していた。  幹人は、通常ならこんなデパートに用事はない。

コンビニおにぎり

 コンビニの棚にあるいろんな種類のおにぎり。  それを眺めながら、幹人は眉間にシワを寄せて真剣に悩んでいた。 『なんでもいいから買ってこい』  と、竜城から渡された千円札二枚は財布の中にしっかりとある。  金なんていい、 …

従兄弟

 その日、飯島幹人(いいじまみきと)は暇だった。  暇だと言っても一日家にいるわけではない。金曜日だから、ちゃんと仕事をしてきている。ただ退社後のデートがドタキャンされて、何もかもやる気を失ってしまったというだけだ。

携帯電話

『電話して タツ』  そんなメールが幹人の携帯に入ったのは、連日連夜の残業で思考能力が低下している時だった。  労働基準監督署のお達しを遵守しようとしてくれる会社のお陰で、幹人はサービス残業というものは経験したことがない …

スカート

 大学を卒業して一年程立った頃、仲の良かったメンバーが集まって同窓会が開かれた。それに、幹人も友人達と参加していた。  久しぶりの友人達との再会に、酒も料理も話も進む。  しかも、企画した幹事の手腕は見事なもので。 「最 …

桃の花咲く鬼の城 後編

9  夏休みに入り、圭人や蓮たちと出会う機会はかなり減った。  高校の時の友人と会うこともあるが、ほとんどはバイトかバイトが無ければ家でごろごろしているか。  その日も朝寝をしていて、カーテン越しでも弱まらない日差しに炙 …

桃の花咲く鬼の城 前編

1  湊 桃李(みなと とうり)は、子供の頃から桃太郎の話が嫌いだった。 『桃から生まれた桃太郎は、大きくなって鬼退治をしました』  勧善懲悪の有名な鬼退治の昔話。  けれど、桃李が親しんでいた鬼退治の話は、祖父がしてく …

緑姫(3)

21  タクシーに押し込められ連れて来られたのは、都心の高級ホテルだった。  ロビーで呆然と受付で話をしている卓夫の様子を見つめる。スーツ姿の卓夫はまだしも、カジュアルな格好の篤彦はあまりにも場違いだ。  戻ってきた卓夫 …

緑姫(2)

11  久しぶりにくぐった家の玄関は、多分前と何も変わらなかったはずなのに。  触れた扉の感触も、裸足で踏んだ床も、どこかしっくりこない。  まるでここが自分のテリトリーでないような落ち着きの無さがあった。一年前からずっ …

緑姫(1)

 兄弟間の確執、鬼畜攻×健気受、道具責め、売春 【緑姫】  林 篤彦(はやし あつひこ)。  最後にそう呼ばれたのはいつだったろう。  そんなことを考えて、けれど。考えるまでも無く、はっきりと記憶に残るそれに自嘲する。 …

砂姫 後編

Suna-hime2  じゃ、これを頼むよ。  そんな言葉と共に渡された有紀が持つのと同じ携帯を、どうしたものかと見つめていた。  溜まりに溜まった仕事は一日では終わらなくて、二日かかってようやく終わらせることができた。 …

砂姫 前編

Suna-hime1 — Update :2007-05-05 — ?幼なじみの和人の傍にずっといたいと願い、それを果たしている友貴。そんな友貴に、和人が与えたのは……  束の間の自由な時間に、瑞 …