昼間の間に適切な治療を受けた風南の体調は、かなり回復していた。
ラカンの医療はリジンのそれと比べて格段に進んでいて、その医療によって奴隷の身体は生かされているのだ。
そんな風南を御館は、自身が経営する酒場に連れて行き、そこで稼ぐように命令した。
「帰りたいなら、俺の言うとおりにしな」
そう言われて指示された言葉を、風南は震える声で客に伝える。
「私の卵、買ってください」
酒場に入ってきた客は、真正面の壁に拘束された風南を見やって、驚愕に目を見開いた。今の風南は、腕の代わりに翼を生やした伝説の妖鳥を模した姿だ。
肩から先を覆う作り物の翼は、何カ所かで壁に杭で打ち付けられていて、剥がすことはできない。一糸纏わぬ全身には、いつものような拘束具はなくて、視線に身悶えるたびに、熟した巨大な桃のような豊かな乳房が揺れている。その先端に伸びるのは、連日の蹂躙で赤黒い血の色に染まって、歪に腫れ上がった乳首だ。そこから、だらだらと乳白色の乳が溢れ、流れ出て、尻の下で滴になってぽたぽたと落ちていた。その尻が体の中では一番下だ。両足は膝から下が羽毛をはやした鳥の足となっていて、左右に大きく割り拡げられ、ひっくり返った蛙のような姿で、後の壁に固定されていた。
壁に浮かび上がる妖鳥は、伝説ではその生涯に多数の雄と交わり、夜空を快楽に噎びなく声で満たす、と言われる淫靡な生き物だ。雄であれば同種の仲間以外でも、人の男だろうが四つ足の獣だろうが、嬉々として交わり、交尾にふける。
そんな淫らで卑猥で愚かな鳥の彫刻と化した風南は、伝説と同じく陰部からたらたらと幾筋も粘液を零して、性器の壁をが誘うようにひくつかせていた。
客の中には今までさんざん風南を陵辱してきた男達もいたが、拘束を外された風南の肉色の花弁とその奥まった粘膜の蠢きを、まともに見るのは初めてだ。わき上がる好奇心で見てしまい、そうなれば激しく沸き立つ欲情に駆られてしまい、酒を頼むのも忘れてじりじりと近づいき見入ってしまう。
女の陰部と変わらない。
女の快感の急所である陰核だってある。陰茎と陰核と、二つを持ち得る淫らな体は、排泄口であるアナルですら立派な性器だということを、皆とてもよく知っていた。
雄と雌と、そのどちらも並以上に感じる体。
肉厚の真っ赤に売れた肉ビラとその奥が、どんなに太い淫具を銜え込んでいたか、知っている。
使い込まれて縁が盛り上がった尻穴は、たった一付きで絶頂を迎えたことだってある。縛られ歪にデコボコした陰茎は、亀頭の裏側を指で撫でるだけで面白いようにヒンヒン啼いていた。
その全てが、今目の前でひくひくと喘ぎ、客を誘っているのだ。
鈴口から溢れる白濁混じりの粘液は淑女ですら欲情するほどの色香を放ち、女陰から流れる透明な粘液は、男を誘い、受け入れる極上の媚薬だ。
近づいた男達がその色香に惑わされ、じっと凝視する。その強い視線に煽られて、風南が身悶えれば、くちゅ、ぷちゅっと、陰部が締まり、泡立つ粘液が押し出された。
目で見ているだけでなく、匂いや音にも含まれる風南の淫靡さは、その姿通りの妖鳥の性と同じだ。
あの粘液にまみれた二つの穴が、どれだけ男の欲を誘い、悦ばせるか、知らない者はここにはいない。
客のざわめきが外にまで広がるのか、誰かが呼び寄せているのか、酒場はいつもよりかなり早い午前中に開店したというのに、イスも床も、座れるところはもう一杯だ。
凶悪な色が彩る男達が、今にも風南を犯そうとするが、それを急場しのぎに置かれたカウンター代わりの長机で止めているのが、この酒場の主人だった。
「ダメだ、今日売るのはまずは卵。それから乳だ。これは御館様が決めたことだからな」
その言葉に、男達はすぐにおとなしくなった。といっても渋々といった表情まで隠し切れていない。
それでも、彼らは逆らわない。
この地区で生きて商売をしていくために、御館の言葉は絶対だ。まして、ここは御館直轄の酒場で、ここで暴れる奴は、余所者だけだ。
「さあ、卵。たぶん5個から6個しかないだろうという話だが、買うヤツはいないか? 1000エニーだ」
ざわり、とざわめきが広がった。
乳はたった100エニーだった。しかも息が長く続く者は、それだけで腹一杯になるほどに吸えたのだ。
だが、卵は1000エニー。
それは、普通に売っている卵が一個50エニーだということを考えれば、高すぎる。商売によっては、1日の稼ぎがふっ飛んでしまうほどの額だ。
男達が互いに顔を見合わせて、その高値に文句を言い立てる。堂々と意見しないのは、酒場の主人の言葉は、御館の言葉だと判っているからだ。
それでも、誰も帰られないのは、目の前にぶら下げられたその対象の、あまりの魅力のせいだろう。
「卵……って、どんな卵だい?」
「……私、の、卵……私が産む卵……です……」
問いかけに声が震え、か細く答える風南の頬は赤い。
「産むって……どこから?」
それは、当然の疑問であって、他意はなかったようだ。問いかけた男が、風南の上から下までを眺めて──はた、と一点で止まる。
先日まで、太い淫具と拘束具で守られていた場所。
そこがさっきからひくひくとあえいでいる。その濡れた肉色のひだの奥に、白い物がちらりと見えてたらたらと粘液を垂らして──腹がゆるむとまた奥に引っ込んでいって。替わりのように、たらりと粘液が垂れて床に液だまりを作った。
その粘液が溢れる量が先より多くなって、白い塊の見える時間も長くなっている。
時折、風南の体がひくりと震え、何かに絶え入るように息を飲み、不意に腹に力が入り、白い塊が顔を出して。
そんな事を繰り返している。
「あっ、あ……買って、……ひっ、買ってくだ……さ……、やあっ、もう出るぅぅっ、やっ」
びくんと震えた体がわずかな自由を求めて悶え、閉じられない大腿が背後の壁を打ち付けながら躙り寄る。けれど拘束は固く、わずかに閉じた肉の花びらが今度は中から押されるように膨れあがってきた。
「御館様が申されるに、落ちてしまった卵は売り物にならぬ、とのことで。そうなれば100エニー……と」
主人が意地悪く皆に教えながら、風南を見上げた。
落ちてしまえば安くなる。そうなれば、足りないのだろう──と暗に込められた言葉の意味に、風南はひくりと顔を強ばらせ、息みそうになる腹の力を弱める。けれど、客達にとってその言葉は僥倖だ。卵が落ちてしまえば乳と同じ値段。買えない金額では無くなるのだ。そんな、金に如才の無い連中が見逃すはずもなかった。
すでに、風南の肉の狭間から覗く白色が何であるか、みんな気がついている。
「なあなあ、時々雌鳥が卵管に卵を詰まらせておっちんじまう事ってあるよな。こいつもやばいんじゃねぇか?」
ニヤリと笑う赤ら顔の男の言葉に、すぐさま別の男が乗ってきて。
「そういうときは、腹を撫でて卵を出すようにしてやるんだよな。そうすりゃ、雌鳥は助かるぜ」
「そうさ、おい早くしねぇとこの珍しい雌鳥が死んじまうぜ」
それこそ、自分が撫でてやろうとばかりに躙り寄る男の、その前に主人が手を出して。
「卵を蓄えた貴重な雌鳥に触れたい方は、10エニーをいただきます」
ざわり。
一瞬言葉を失った客達の、けれど声のない興奮が徐々に高まっていく。
「10エニーで良いのか? どこを触っても?」
「もちろんで」
にこりと笑う主人の手のひらに、瞬く間に10エニー硬貨が山を作る。
「順番は?」
「それは適宜。けれど、卵を受け取る方は、1000エニーでございますよ」
「さすがにそりゃ無理だ」
誰も出さない高額な紙幣の代わりに、客の数より多い小さな硬貨がカウンターの下に仕舞われる。
「しかしながら、殺到されたら店が壊れてしまいます。ですので、早い者勝ちに5人ずつ、10分ごとに交替で」
その言葉に、店内が一気に喧噪に包まれた。
「邪魔だ、てめぇぇっ!」
「うるせっ、俺が先だっ!!」
殴り合い、蹴飛ばし合い、後方になるほど酷くなるそれを尻目に、もう限界に近いだろう早い呼吸を繰り返す風南に最初の5人が近づいた。
「あっ、やぁぁぁっ、触ったら──ぁぁ」
ぐにっと不自然な膨らみを持つ下腹部に無骨な指が食い込んだ。
「ひぐっ、痛──っやあっ! 引っ張ったらっ、あぁっ」
滑る肉びらの一片にきらりと輝くピアスを、卵に触れないように指が掴んで引っ張って。反対側も同じく引っ張る指の力は強く、閉じかけていた愛液の泉がぱくりと口を開けた。
けれど、そこにあるのは大きな白い蓋だ。
張り型に栓をされていたときですらぼたぼたと溢れ出ていた濃厚な愛液が、そのわずかな隙間からぶちゅぶちゅとかろうじて吹き出すばかり。もう卵の頭は引っ込まず、ずっと顔を覗かせてじりじりと降りてこようとしていた。後数度息めば、卵は産み落とされるだろう。
「おいおい、こりゃあつっかえているぜ。早く出してやらんと死んじまう」
「ああ、腹ん中、ごりごりいってるぜ。こりゃ確かに詰まってる」
腹を撫でていた手が、ぐいっと力を込める。
「ぎぁぁっ! 痛っ、やめっ、出るっ、出るぅぅっ!」
一番高い値で売ってようやくなのだ。ようやく2万エニーを貯めることができるのだ。けれど、買い手もいないのに産み落とせば、それは乳と同じ値段になってしまって、足りなくなる。
「お、おねが……っ、買ってくだ……卵っ、卵ぉ、買ってぇっ!」
もうイヤだ。
悲痛な泣き声が木霊する。
ぼろぼろと涙しながら、息みたくなる衝動に必死に耐え、張り切った腹部を押さえられる痛みに耐えて。
けれど触れられて感じる体は、こんな時でも力が抜けるような快感に襲われて、締め付けて閉ざそうとする陰部を開いてしまう。感じれば感じるほどに溢れる愛液によって滑りは良くなり、卵は先より楽に降りてきて、今にも落ちていきそうだ。
「うっ、お、おねが……ますっ、買って、買ってくれたら……何でもしますぅ……、何でも……何でもしますからぁぁ」
もう限界だ。あと少しで卵は一番太いところを通り抜け、落ちていくだろう。
丈夫な殻は、落下の衝撃に耐えるだろうけれど、けれどもし割れてしまえば、100エニーにすらならない。
「おねが……」
「何でも?」
腹を押さえていた男が反応した。
「てめぇの女陰を使ってもかまわねぇってことか?」
それは、ここにいる男達皆の願望だ。どこでも使える奴隷のたった一つ使えない場所。そここそが、一番使ってみたい場所だというのに。
いろいろな色を持つ瞳が欲望に赤みに染まっていて、解放したい欲情の激しさを教えていた。
「雌鳥の産卵管だぜ。そんでも良いってんならな」
卑猥な笑みを含んだ声が、答えを期待する場に響く。
「ただし、一回だけだ。卵一個に付き、一回のみ」
「……御館様……」
薄ら寒い震えが背筋をぞくりと降りていく。
あまりの興奮が、返ってもたらした悪寒に、男達の声が震えた。
「ほんとに……使えんですかい……。けど、こいつは……」
さすがに一週間近くその姿を晒していた風南の正体は、闇に潜む情報屋を頼らずとも、漏れ聞こえてきていた。
あのリジンの王子にして、王家の性奴隷。そんな高級品の最後の一カ所を味わうことなど、だからこそ知らず諦めていたのだ。
その場所は、何かの意味があってこその今までの封印だったろうに。聡い何人かが、その意味を計りかねて、視線を向ける。
「かまわねぇさ。売り子がそう言ってんだからな」
「んくぅ……誰か……誰か……買って、おねが……」
客達の会話より、もう限界に近い産卵のその瞬間を必死でこらえる風南には、その内容が理解できていない。
ただ、買って欲しい、とそれだけを願って、縋るように男達を見やる。
その凄まじい色気に包まれてしまえば、一日分の稼ぎなどどうして躊躇うことがあるだろう。
「買ったっ!! 全部俺が買うっ」
5個か6個か。
なけなしの蓄えなど全て払ってでも──。
「俺も、俺も買うっ!!」
「俺もだっ!!」
けれど、男の言葉に、次々と別の客の声が被さる。
1000エニーを躊躇っていたことなど誰一人思い出しもしないで、名乗りを上げた。
「おいおい、卵はせいぜいが5個から6個だぜ?」
10人か15人か。
増え続ける客達に、御館も酒場の主人も肩をすくめる。
「……まあ、見えない卵でも買いたいんでしょう。だったら、好きなだけ売りますが?」
「はは、違いねぇ」
触る事のできない卵であっても、売り手があると言い、買い手がそれに満足すれば商売は成立だ。
「おい、てめぇらっ! 産み落とされた卵を、床に落ちる前に拾い上げた奴にそれを売ってやる。ただしっ、卵を壊すな、割るな、店の備品を壊すな。大事に握りしめて、俺の前に差し出してみろっ!」
御館のその言葉に、皆の視線がいっせいに風南の股間に向かった。
そこには、もう今にも落ちそうなほどに顔を出した卵がいて。
「あ、ぁぁぁっ、もう、もう、ダメ、だめぇぇぇっ」
女のように甲高い悲鳴を上げながら、風南の腹がひくりとこわばり、引っ込んで。
ぐぐっと落ちだした卵に向かって、皆が一斉に手を差し出した。