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次の日、召使いの来訪とともに目覚めて、支度が済んだ後に執務室に呼ばれての仕事は、通常の秘書官としての仕事以外は、せいぜいが口腔でカルキスの陰茎を慰めることだけ。
口が覚えてしまった形も、カルキスの好いところも意識しなくても探り当てることができるほどに馴染んだそれに、海音はうっとりと舌を這わせ、すぼめた唇で扱く。
身体が精神が、それが与える悦楽を覚えてしまっていて、それを味わうだけで意識が引きずられていくのだ。
口内に滲む先走りの液の味に唾液が溢れ、よけいに口内の音が鼓膜に響いた。
銜え続けることが難しいほどに膨れ上がったその太さすら、海音を酔わせ、溢れる唾液は止まらずに、何度も飲み込む。
時々口内から出して、舌を茎に這わせないと根元まで愛撫できない大きさのそれに、本当なら手も使いたい。
けれど、カルキスから、その手で書類を触ることはできぬであろうと禁止されいて、できることと言えば口や舌・歯で愛撫するだけだ。
己のモノより太く長い陰茎全てを舐って、また亀頭に戻って吸い付いて。先端から零れる滴を、甘露のように大切に舐め取った。
丹念に、全てを味わい尽くしたいそれを、けれど、カルキスは許してくれない。
忙しいカルキスが割ける時間は決まっていて、海音の欲求を満たすようにたっぷりと舐る時間などなかったのだ。
「急げ」
完全に勃起しているにもかかわらず、常と変わらぬ冷静なカルキスに、海音は焦れたように「くん」と鳴いた。
もっと欲しいのに。
お預けを喰らってはや数日が経っていた。
アナルに淫具どころか指すら挿入することを許されず、勃起を扱いても達けない海音は、あれからずっと欲求不満状態だ。
口内に触れる陰茎の形に、ぞわぞわと背筋に快感が走り、陰茎は服を持ち上げて、敏感な亀頭が衣服を擦り身悶えて堪らない。
じゅるりと溢れる唾液を啜り、ぱくとりまた口に含んで。
今度は激しく頭を往復させて、それを扱く。舌はきつく絡め、口内全てを使って激しく責め立ててようやくカルキスがその兆しを見せて。
一気に吸い上げる。
「っ」
口の中に広がる熱い滴にじわりと歓喜が充ち満ちる。
身体がふわりと熱を持ち、味わい深いこれを一滴残さず喰らわんとちゅうちゅうと吸い付いた。
その鼻に抜ける臭いに陶然となり、堪らずに腰がゆらゆらと揺らぎ、布地に擦る快感を拾う。ぞくりと、這い上がるそれは、絶頂の兆しだ。けれど、そんな僅かな絶頂は、海音にとってはあまりにも弱すぎた。
もっと激しいの……欲しい……。
「時間だ、離せ」
懇願の視線を向ける先で、カルキスが返すのはいつも嘲笑だけだった。
執務机についたままで、衣服を緩めるのも戻すのも海音にさせて。この行為はただ仕事の合間の休憩でしかない。
名残惜しげに最後に吸い付いて、引いた頭からちゅるりと這い出た陰茎の臭いに、くらりと目眩に襲われた。
欲しい。
先より強い欲求に、口が勝手にそれを追いかけようとして。
「聞こえぬか。早く片付けろ」
「は、はいっ」
強い叱責が、冷水のごとく海音を襲う。力の入らぬ手を動かして、熱に浮遊しているような身体を離して、カルキスの衣服を整えて立ちあがっても、まだどこか夢見心地のような気分がぬぐえない。
「次はこれだ」
すっかり仕事に戻ったカルキスから渡された新たな書類を持つ手が震える。
もっと……欲しい。
頭の中が働かない。それよりも、欲しいという欲求ばかりが支配する。そんな動きが鈍い海音に、カルキスはニヤリと口角を上げて探るように見つめてきた。
「欲しいのか?」
何が、と言われなくても海音は理解した。
その言葉に、身体が無意識のうちに頷こうとして。
「だが今は、私室とはいえ執務中だ。そんな時間に色に狂うような秘書官などおらぬ。いるとしたら、それは性奴隷にしかならぬであろう?」
その言葉に、ぎくりと全身が強張る。
それは、ここ最近ずっと、カルキスが海音に言い放っている言葉だった。
海音が熱に浮かされ理性を飛ばしかける度に、それを繰り返す。その言葉の意味はあまりにも明白だ。
「はい、カルキス様」
ごくりと溢れかけた唾液と口内の名残の精液を全て飲み込んで、揺れる身体に力を入れて、カルキスが示唆した言葉を肝に銘ずるように力の入らぬ身体に活を入れる。
それは、全力疾走した後ほどに体力も気力も使うことだった。
何しろ、海音は傍らにいるカルキスの香りだけで欲情してしまう身体なのだ。それをカルキスは徹底的に無視し、海音が悶えることすら許さなかった。
あの式典で、素面でいろと言われた時間よりももっと長く。
あのときですら、その日まで毎日のように逞しいカルキスのペニスにアナルを抉られ、弾け飛ぶような快感の中でたっぷりと性欲を解放し続けてきて、ようやくこなせたことだった。だが今は、昼も夜も、カルキスに放置され、自慰すらまともにできないのだ。
この苦行は、あのときの比では無いほどに激しく、厳しい。
昼間は仕事にかまけてなんとか乗り切っても、一人になった夜はもうダメで、隣室の男が欲しくて欲しくて、堪らずに開かない扉に縋り付き、腰をゆらめかせ、唯一許されたペニスを扱き立てる自慰をしてしまう有様だった。
そのせいで、海音はまともに眠りにつけていない。
僅かでも眠れば、淫らに犯される夢ばかり見て、挙げ句の果てに夢精してしまいそうになって。けれど、そんなことすら許されていない海音は、その寸前に跳ね起きるのが常だった。三年の調教は、睡眠下にまで及んでいたのだ。
結果、日が経てば経つほどに、海音の疲労は蓄積していった。
欲しいとこいねがう間隔は短くなり、許された口淫も理性を飛ばして貪るようになり、カルキスに突き飛ばされてようやく正気に戻るようになり。
その次には、離れたその拍子に零れた床の精液を舌を出して舐め取ろうとして、笑われて気がついた。
睡眠はさらに浅く、一晩中扉の前で喘ぎ、粘液で扉や床を汚しまくるようになった。
二週間が経つ頃には、睡眠は取れず、食欲が沸かず、考えることが性欲、それ一色に染まっていって。
「離せ」
先ほどからカルキスが何度も命令していたが、口いっぱい頬張った海音の身体は一向に螺離れる気配はなかった。
まだ朝も早い時間だ。
一仕事も終わっていない海音が、欲に上気した肌で、その瞳を紫に染めてカルキスに迫ってきたのだ。
「口でのご奉仕を……」
まだ早い、と一度は退けたカルキスに、さして時間が経たぬうちに、海音がまた同じ言葉を口にする。
仕方なく、といった体でカルキスが許すと、海音は飛びつかんばかりの勢いで股間の衣服を緩めてまだ萎えているそれを口に含んだ。
それからは、何を言っても海音は答えない。
ただ、紫の瞳を虚ろに揺らめかせ、陶然とした表情で一心不乱にカルキスの陰茎を味わい、吸い付き、しゃぶりつくしているのだ。
その腰がゆらゆらとゆらめき、空いた手が衣服の間に入り込み、自身の胸をまさぐっているのが見て取れる。
勝手に触るなと一度注意はしたが、離れたのはその時だけだ。
きっと指先で千切れんばかりに引っ張って、強くすりつぶすように苛めているのだろう。
過去、何度も見た光景に、カルキスはその口元を緩めた。
「時は満ちたか?」
独りごちた言葉に、笑みが深くなる。
「海音、これが最後だ」
その大きな手を頭に添え、言い放つ。
「離せ」
強い有無を言わせぬ口調の命令に、さすがに海音がびくりと動きを止めた。
ぼおとした様子で口が弛み、その隙にカルキスが己を引き抜く。
一度達ったはずであったが、そこに汚れは一切無く、海音の口角から溢れた唾液に白さは無い。
「だめ……」
そう呟いた海音の視線は、目の前にある海音の口内の熱で湯気を立てているペニスだけに向いていた。
衣服から出てきた手が前へと伸びてくる。
「欲しい……堪らない、ほしくて、ああ、この匂い、もっと……」
海音が狂喜に満ちた表情でカルキスの腰に縋り付いた。
チュッチュッと何度も陰茎に口づけて、赤く色づいた舌を出して、ねとりと這わせる。
「海音、それ以上するならば、お前の道は閉ざされる」
嬉々とした口調であった。
道を示したその時よりももっと、カルキスの口調は愉しげであった。
「いいのか、海音。道を閉ざすならば、お前の行く道は余の性奴隷のみとなる。余の益となるためだけに、お前の全てを捧げ尽くして貰う。その道は、今までとは違う。今までのあれは、性奴隷としての教育段階であって、性奴隷ではなかったのだからな」
その声音はとても静かで囁くようであった。
言い聞かせているようで、けれど、欲に凝り固まった海音の脳には染みこまない程度に弱い。
そのせいか、海音はカルキスの言葉を無視して、色狂いの娼婦より浅ましく縋り付いて、「欲しい、欲しい」と強請っている。
その様にカルキスは苦笑を零し。
次の瞬間、喰らい尽くす勢いで執務室の机の上で海音の身体を組み伏せたのだ。
「ならば、お前の道は決まった。お前は一生、余の性奴隷としてその全てを余のためだけに捧げるのだ」
その宣告は高らかに成された。
海音の耳にもはっきりと聞こえただろうその言葉に、けれど、海音は与えられた乱暴な行為に、狂喜するだけだ。
二週間の飢えは、完全に海音の精神から理性を吹き飛ばして、その飢えを満たすことだけに捕らわれていた。
「ああ、挿れてぇぇっ! ほしいぃぃぃ!!」
自らカルキスに縋り付き、解される間も無く挿入されたペニスを、自ら腰を揺すって最奥まで受け入れる。
「狭い、二週間の禁欲は辛かったろう。だが、今後は乾く暇も無いほどに使ってやるぞ、この淫らで欲深い穴をなっ」
「ひぃ、あひ、あっ、あぎっ、いぃっ!」
海音の白目を剥いた目は虚ろに欲に染まっていた。
瞳の紫色が濃くなる。
妖艶に微笑む様は、淫魔と言われるそれでしかない。
歓喜の涙を振りまき、腰を重厚な机が揺れ動くほどに自ら腰を振りたくり、快感を貪りまくる海音は、すでに神聖なる神の子として讃えられた頃の神聖さはどこにもなかった。
カルキスのペニスを銜え込んだ衝撃に一度達ったのだろう、腹から濃厚な精液がぽたりと机から流れ落ち、ゆるんだ口元からこぼれ落ちた舌が、だらだらと唾液を零して、書類に染みを作っていた。
だが、もうそんなものは不要なのだとばかりに、海音は自分の仕事道具であったものを自ら床に落とし、壊していく。
「愚かな海音よ。せっかくまともな仕事を与えてやったというのに、役に立たぬ輩は、やはり性奴隷としてしか役に立たぬな」
カルキスがニヤリと笑い、熱く柔らかいくせにきつく締め付ける穴を堪能する。
その声が聞こえただけで再度気をやった海音は、言葉の内容など理解していない。
ただ、艶めかしい嬌声は堪えること無く浅ましい内容を声だかに訴え続け、それはまだ日の高い城中に響き渡っていた。
海音の私室秘書官の立場はその日のうちに剥奪された。
欲から解放されれば、海音の理性は保たれる。
正気に戻った海音はしばらく放心状態であった。けれど、カルキスはそんな海音であっても、今までの放置が嘘のように海音の身体を蹂躙し続けた。
挿入されただけでヒイヒイと喜び泣き喚く姿に笑みを浮かべ、愚かな性奴隷だと辱め続けて、それから三日間ずっとその身体を組み敷き己の欲を解放させ続けた。
その後、カルキスは海音の性奴隷としての仕事に連れ出すようになった。
以前は別の城で限られた人間の目だけにさらしていた行為を、王城でも強いるようになったのだ。
時に会食中で、時に会議中で。
廊下の端で、庭の一角で。
空中ガーデンで、闘技場の中で。
薄衣を纏った海音はカルキスにより連れ回され、いつでもどこでも犯された。
カルキスはもともと性欲がたいそう強い。
彼とてリジンの血がいくらか混じっており、その僅かな血であってもその質を強く引いていた。それ故、カルキスの欲望を解消できる相手は数が少ない。それを一手に海音が引き受けているのだ。
だが、そんな行為であってもカルキスの名を辱めることにはならず、忙しいカルキスがそうしなければならぬ原因は浅ましい性奴隷にある、と皆が信じるように仕向けられていた。
実際、人前で海音を犯すカルキスの表情は静かで、仕方なく相手をしているようにしか見えなかった。そんなことも海音のせいだと皆に思わせる要因だったのだ。
今、海音の相手をするのはカルキスだけ。
カルキスが出かけるときは、海音は自室で淫具責めの状態で枷に繋がれた。
怒りを買えば、躾部屋と称される部屋で、あの城以上の淫具や道具、動物による躾が行われた。
今まで海音を教育した調教師達もしょっちゅう城にやってきては、海音の身体をさらに調教し続ける。それは、性奴隷として当然であり、それを嫌がることなど、絶対に許されないことであった。
そんな海音にカルキスが新たな役目を与えたのは、最初の国賓が訪れた時だ。
海音に身体の線を際立たせるような衣装を身につけさせて宴に連れ出し、客の前で娼婦が踊るような踊りを踊らせて余興としたのだ。
それからずっと、国賓が訪れる際は余興は欠かさず行われ、裸体に装飾品をつけて踊るときさえあった。
隣国の王が来賓で訪れたときに、口での奉仕をさせるようになってから、その後の来賓時には全て、海音が悦ぶという理由で口淫での奉仕が義務づけられた。
そして。
カルキスはある日、海音を性交の痕も露わな淫臭のままに街の一角に視察に出させた。
そこに集められていたのは旧リジンの民達だ。性奴隷経験者もいる彼らの前で、海音はカルキスに与えられた淫具にただただ淫らに悶えていたという。そんな姿を見た彼らは、そんな王子を忌み嫌い、リジンの民であることを恥じいって、ますますラカンに傾倒していった。
彼らにとって過去の王は、自分たちをこんな目に遭わせた忌むべき者でしかない。
今や、美しきリジンの王の直系長子である海音は、直系の中でももっとも濃く淫魔の血を引いているのだと、誰も疑わない。
どんな性奴隷も、海音には敵わないのだという噂は、瞬く間にありとあらゆる国に伝わっていった。
そんな中、各国主要国が集まった会議で、リジンの王家の取り扱いが正式に協議された。
確かに敗戦国である王家を戦勝国が隷属させるのは問題無い。だが、それが悪魔の血筋であることが、ラカンが新たな力を蓄えるのではないかという恐れが浮上したのだ。
だが。
彼らは、色狂いになって理性が無い状態の海音の接待を受けた者達ばかりだった。
あのような淫靡な悪魔を野放しにしては、とりつかれた者達が取り合って戦乱を引き起こすだろう。
だが、あれはひとときの快楽を得るだけで、結局は国を滅ぼす元だ。余は、精を絞り尽くされるかとおもったぞ。
大元である海音ほどの色欲悪魔を野放しにすることは恐ろしい災いをもたらすのでは。
遊びで一夜を共にするならともかく……。
好奇心は身を滅ぼすの典型だ。欲しいと思うことも罪と思われよ。
おお、そうよ。あれではあっという間に精を吸い尽くされ、この命を縮めてしまうことになろう。政敵などに絶対に渡らぬようにして貰わないと。
いっそ、殺すか?
いや、それではカルキス王の怒りを買うぞ。
海音ばかりではないぞ。あの血を受け継ぐ者はやはり収容して監視した方がよいのでは?
それは無理だ。ラカンの民に手を出せば、カルキス王が黙ってはおるまい。それに、あの色は確かにリジンの純血を表す導となるが、似た色を持つ他の国の民と明確な区別はつけづらい。
我が国は、銀髪・碧眼の民が多い。目の色など、薄いものならば空色に見える。
となれば、カルキス王のもとで全て囲って貰う方が我らにとっては良いということか。特に、アレはカルキス王になら絶対服従しておる故に。
口惜しいが、カルキス王だけでしょうな。今アレを管理できるのは。
それに、カルキス王は今は侵略行為をやめておる。あの暴君も、アレの相手をするだけで精一杯なのだろう。
ならばよけいにカルキス王に管理させる方がわれらも安泰ということになるのぉ。
それより淫魔が他の濃い淫魔の血筋に交われば、さらに悪魔の力が強く出た子が産まれるのでは。
アレには誰も番わせてはならぬ。子を産ませてはならぬ。そのことは、とくと要請せねば。
他の王子達は?
いずれもラカンの王族が管理している。性奴隷としてな。あれらも、一生管理して貰わねば。災いのもとよ。
薄めさせるのだ、血を薄めて、悪魔が甦るのを防ぐのだ。
もとより、純血はすでにかなり数を減らしている。それこそ100人にも満たないし、もっとも濃い血を引く貴族達は、この三年でかなり数を減らしておるからな。
後は、あの最後の子だけだ。
アレも、ラカンで責任を持って管理して貰わねば。
血を薄めさせてしまえば、再度純血ができあがるのは難しい。
それがこの世界の平和を維持する糧となるであろう。
全世界の国々が、リジンの純血を絶やすことを国策として正式に認めたのは、それからすぐのことだった。
【ラカン 海音の章 了】