【淫魔 憐(れん) 給餌】(4)

【淫魔 憐(れん) 給餌】(4)

  一度、二度。
 鬼の精液は多量で、そしてその性欲は簡単には尽きない。まして、羽角はその性欲を限界まで溜めているから、一度始まってしまえばその性交は一昼夜を問わず続けられて、貴樹の腹をぼっこりと膨らませるまで注いでも、なお止まらない。
 綱紀が一度離れて、次の日にまた戻ってきてもそれは続いていた。
 その目の前で、憐が張り型に犯され続けているのも変わらない。ただ、違うのは背後からアナルを貫かれて揺すられている貴樹が、憐のペニスを深く頬張って、チュウチュウと赤子のように吸い付いていることだ。
「あひっ、ぃぃぃ、もっ、もう、止め……、出ない、出なぁ、ああぁぁぁっ!」
 泣き濡れた憐の顔が、悲痛の中に歓喜に弛緩する。
 張り型の刺激に射精したくて堪らなかった長い時間、それが貴樹に銜えられながら解放された時は、意識が吹っ飛ぶほどの快感だった。
 それは生まれて初めてと言って良いほどで、今までの射精など子供の手慰み程度だったのだと知るほどだった。だが、それも10回を数えた頃から、射精するのが苦しくなって、今では痛みしか感じない。それが、精を得ていないからだと知らなくても、射精しすぎが原因なのは容易に理解できた。けれど、刺激を与えられるとまた射精をしてしまうのだ。もう何もないと思うのに、精液は尽きずに出てきてしまう。
 そしてまた。
 ごくごくと飲み干した貴樹の口は止まらなくて、また苦しげにうめく。
「いつから飲ませているんですか?」
 綱紀がこの洞を出たときには、またペニスは締め付けたままだった。淫魔は刺激を与えればいくらでも精液を作り続けるが、生き物の精を得ることのない状態では、淫魔自身のエネルギーを消費するしか無く、だんだんと苦痛になってくる。
「ふむ、日が変わる頃には貴樹が疲れ果ててきたのでな。それから飲ませているが、たいそう気に入ったようだ。理性が戻っても、離しやせぬ」
「では、もう6時間。まだ保ちそうですね」
「ああ、まだ勃起は治まっておらん。貴樹、少し離せ」
 羽角が貴樹の体を引き寄せて、貫いたままあぐらを掻いた上にのせた。
「あ、くぅぅ、ふか……」
 疲れ切ってとろりと蕩けた瞳は、それでも狂気の晒されていた昨夜とは違い瞳の奥に理性が伺える。その瞳が綱紀を捕らえて、恥ずかしげに揺れて逸らされた。
 最初の頃は見られるのを嫌がって裸体を隠そうとしたけれど、さすがに数十年も見られ続ければ、最近は隠すことなどしない。ただ、羞恥は消えないようで、初々しい姿を見せる。
 この辺りが、羽角も気に入っているのだろう。
 綱紀ならば、もっと人目に見せて恥ずかしがらせて楽しむが、羽角は貴樹をここから出そうとはせず、全てを管理して手放すことなど絶対にしない。それこそ、何人にも犯させることはあっても、羽角の意に背いた犯し方をした側近が何人も殺されかけたことを思えば、貴樹への執着は容易に想像できる。それに気づかずに貴樹をないがしろにするような輩は、羽角の組織には必要ない。
 何よりも羽角、そして綱紀直属の上司である黄勝と、その二人が綱紀にとってもっとも大事なものだ。
 だから、彼らが望むのであれば、最高の淫魔を、貴樹専用にすることなど惜しくもない。
「貴樹様、そろそろ憐に食事をさせる必要がございます。よろしいでしようか?」
 いつもなら、こんな目に遭っている人を、理性ある貴樹なら放っておかない。理性が戻った時点で、いくらまだ欲しくても解放しようとするだろう。
 けれど、今の貴樹が憐を見る目は、極上のご馳走に向けたそれだ。
 憐の名は、人の情けを知る貴樹すら惑わせる。
「……まだ、欲しいけど……」
 ぼそっと呟く貴樹を、憐が蒼白な顔を悲痛に歪める。
 さすがに限界なのは、淫魔を見慣れた綱紀にはよく判ったが、貴樹には判らない。
 最初のうちは、引きはがすタイミングが難しいかもしれない、と首を傾げる。
 もっとも、生き物の精さえその体で喰らい続ければ、淫魔の精液は無尽蔵。その辺りは、羽角が巧くこなすだろう。
「貴樹様、もうかなり薄いでしょう? 食事を与えますと、もっと美味しくなりますよ」
「濃い方が美味い。それまで俺を味わえ」
「あ、ぁぁぁ」
 入れっぱなしの羽角に揺すられて、甘い声音がほとばしる。
 貴樹に飢え切っていた羽角は、一昼夜犯してもまだまだ元気だ。
「今宵には、満タンにしてお返しいたします。どうか、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」
「あ、んっ、くうっ……もう、くるしっ、いやぁぁあ」
 絡み合う二人の横で、三角錐が降りて鎖が伸びて。
 崩れ落ちた憐は、虫の息のような弱々しい吐息を繰り返し、身動ぎ一つしない。そのペニスに、落ちていた射精防止用のリングをはめてから抱え上げいて、その耳元で囁く。
「とりあえず、今日はこの屋敷にいる者達にたっぷりと精を注いでもらいましょう。明日からは、我々が経営している会社を巡って、元気な輩の精をたっぷりと注いでもらいます。そのための運搬車も改造中ですし、実験牧場も生きの良い生き物を多数飼っていますしね。がんばって良質の糧をたっぷりと蓄えてください。最後は羽角様が仕上げに注いでくだされば、極上品のできあがりです。後は、貴樹様に与える許可が出るまで、溜めていてください」
 それがいつになるかは判らないだろうけれど。
 羽角の大好きな飢えた貴樹を作る期間は、最近では長くなっている。
 それでも、いつ欲するか判らないから、憐には毎日精を与える必要があった。それに、貴重な糧を貴樹に与える以外で放出させるつもりはなく、そのためのリングは、綱紀か羽角でないと外せない。貴樹も外すことはできないから、常に一緒にいても羽角の許可無く貴樹には与えられないのだ。
 飢えた貴樹が欲しがって憐を銜えて離さなくなっても、それでも許さない光景は容易に目に浮かぶ。その刺激に苦しむ憐の姿もまた、思い浮かべるのは容易なことだ。
 それに、最初に羽角を受け入れた憐は、羽角の物でないと満足しないだろう。たとえ数百人に犯されたとしても、同様だ。
「……俺……は……、なんで……こんな……」
 声がして見下ろすと、虚ろに開いた憐の瞳が涙を蓄えながら綱紀を見上げていた。その質問の続きは声に出さずとも綱紀には判っていて。
「お前は淫魔です。人ではないもの。我々鬼の一族が作り上げた、鬼のための道具です」
 その言葉をどこまで理解しただろうか。ただ。
「い……んま……」
 それだけを呟いて、生気を失った瞳が光をも失っていく。
 淫魔として覚醒したばかりの体は、羽角や貴樹の相手をするのは相当辛かったようだ。もっとも、それに耐えうる体に変化するのも淫魔だ。
「おやおや、死にかけていますね。まあ精液を注がれれば、すぐに元気になるでしょう」
 慌てる事無く、綱紀はゆっくりと母屋に足を進めた。
 この時のために、今日は精力抜群の鬼を呼んでいるのだ。そして、憐は痛感する。この屋敷の鬼達に犯されて、そして人にも犯されて、憐にとって羽角こそが支配者、絶対の者、そして解放してもらえる唯一の存在なのだということを。
 淫魔は体験によってのみ成長する。
 その方法を綱紀は熟知していて、これからたっぷりと憐に体験させるつもりだった。



 最初の淫魔である狂(きょう)は、創造主である黄勝の実験体として、新たな道具を創造する種になる。
 次の憂は、綱紀のための道具として、仲間や協力者を増やし、豊富な資金源となる。
 そして計画生産第一号である憐は、貴樹、そしていずれは次代の鬼を産むための苗床の、尽きぬ事のない給餌器となる。
 さらに二号、三号は育成中、貴重な卵子を創る母胎は、大切に飼い続けて途絶えさせることはない。
 彼ら淫魔は、生き物の精を受け入れることで永遠にも近い生を生き続ける。
 全ては鬼のためだけのために。
 鬼が作りし、道具として。

【了】