【淫魔 憐 道具】

【淫魔 憐 道具】

「い、あぁぁぁぁっ、はっ、あああふぁっ」
 悲鳴を上げたいのだろう。けれど、それはどう聞いても艶めかしい喘ぎ声でしかない。
 細身とはいえ確かに男で、最初はこんなんで欲情するかと思ったけれど。今では、並の女よりこいつが良い。
 あの時、憐の体からシャツが引き剥がされた時にも匂った香りが、今も周辺に立ちこめている。
 嗅いだだけで、男どもを淫獣にしてしまう魔性の香りだ。
 あの時も、その場にいた男達全て総毛立つような欲に襲われた。
 ぞわぞわと肌の下を何かが走り回って、服の下でペニスがむくりと立ち上がり、口内に堪り始めた唾液に覚えず舌なめずりをした。憐を見る目が一瞬に変わり、自分のどう猛さが押さえつけられなくなっていく。
『これは、憐(れん)というダッチワイフ。綱紀様から皆様に、いつも杵築(きづき)家にご尽力をいただいているほんのお礼とのことでございます。どうか、今日一日、ご自由にお遊びくださいませ』
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、憐はその場にいた何人もの男達に押し倒された。
 それ以来、憐は定期的にやってくる。
 熱くぬめる柔肉は女陰のそれよりきつく、けれど適度な弾力を持って男のペニスに絡みつき、揉み上げるようにぐにぐにと蠢めいた。固い男の体なのに、その動きは誘っているような淫らな踊りしか踊らない。低い声があられもなく叫ぶ。その声は、鼓膜から脳まで響いて、脳内を朱に染めて色に狂わせる。
 何より、犯せば犯すほど立ち上るこの匂いに、いつもは二度もすれば萎えてくる勃起が、治まらない。
 幾らでもできる。
 それこそ、定年も過ぎた事務番の爺が、皆と回数勝負をしようと言い出すほどに。
「おいおい、なんでぇこの締め付けは。今日も皆に使ってもらったんじゃねぇかよ、ん?」
 残念ながら外に出る用事があったせいで、憐を使うのが最後になってしまった十河(とうご)引越会社の社長は、それでも使い始めと同じ締め付けを持つ肉に感嘆の声をあげる。
 尋常でないほどに熱く腫れ上がったアナルから溢れるほどに注がれた精液が流れ落ちている。
 その先で勃起しきった憐のペニスを指先ではじけば、ヒンヒンと良い声で啼き続けた。
「たっぷり溜め込んでんなあ、重いぜ」
 たぷたぷと揺れる陰嚢は、人より一回りは大きいようだ。それが重そうに垂れ下がっている。
 その根元も、陰茎にも、いくつものリングが食い込むほどに嵌められていて、憐は決して射精しない。
「ひぃぃっ、いぁ──っ! あぁぁぁっっ!!」
 大きく仰け反った体が、そのままでびくびくと小刻みに痙攣した。
 わずかな刺激で空射きをする体は、社長が使い始めてからでも、もう数回は達っている。
 その時の絶妙な締め付けときたら、もう忘れられないほどの極上品だ。
 柔らかい腸壁が、確かに性器でしかないのだと思わせる一瞬。痙攣が、肉壁を通して、ペニスにまで伝わるあの何とも言えない脈動。
「達きてぇか? 達きてぇだろう?」
 射精を伴わない快感は、憐にとっては地獄なのだろう。
 繰り返すたびに、悲鳴を上げだし、息も絶え絶えに止めてくれと懇願する。
 それがまた、男達の嗜虐性を煽り、いかにして連続絶頂を与えるかと皆が考えるというのに。
「ああ? 答えられねぇほど嬉しいんだろ、たっぷり達けてさ、ははっ、ほらほら涎を垂らして悦んでるぜぇ……っおおっといけねえ、こりゃあ……」
 社長の手が持ち上げた憐のペニスの先からたらたらと糸を引く粘液は、白く濁っている。
 あれだけきついリングでも止められないほどに、精液が堪りまくっている証拠だ。
「おい、兄さんよぉ、なんか栓はねぇかい? 大事なザーメンが零れちまってるぜ」
 そろそろ連れ帰る時間だと迎えにきた男に声をかける。
 最初に憐をつけてきた男は、憐が何をされようとも口を出さない。
 だが、こちらの要望は全て叶えてくれる。
「では、こちらをどうぞ」
 差し出されたのは、わずかに波打つ2mmほどの太さのステンレスの棒だ。
 ぴかぴかに輝くその先端は、マドラーのように丸い5mmばかりの玉がついている。
「おお、良い栓だ」
 その用途にピンと来て、受け取りながら憐の体を抱えて起こした。
「な、に……」
 朦朧とした憐の瞳はどこか濁っていて、目の前で振られたその棒もよく見えないようだ。
 胸に背を預けるように抱きかかえられても、ぴくりと動かない。
 それは逃げようとしないのではなくて、もう自ら動くほどの力も無いからだ。
「これで大事な大事なザーメンが零れんように栓をするのさ」
 最初に、絶対に射精させるな、と厳命されていた。その理由など聞かないが、どんなことをしてでも守るだけの拘束力があるのがその命令だ。
 勃起しきったペニスに差し込むのはたやすい。
 丸い玉が鈴口を押し広げるのを待つ間もなく、一気に半ばまで押し込んだ。
「あ、ひ……ぎぃぃぃぃっ」
 液体しか通るはずのない場所に、細くもない棒が入っていく。しかも、リングによって締め付けられたペニスは、当然尿道も締め付けられている。そこを、丸い玉が押し広げ、ねじ切られたような波打つ棒が、切り裂くように進んでいくのだ。
 それは、きっと想像もしたくない痛みだろう、けれど。
「ひっ、ひっ、ひっ……イイだろぅっ、悦いいんだろっ!!」
 口角がきつく上がり、喉の奥が震える。知らずあがる嘲笑は、暗い愉悦をさらに沸き立てた。
「ほらほらほらほらほら」
「ぎやぁぁぁっ、あぁぁっ!! ひぎぃぃぃぃっ!!」
 もっと叫ばせたくて、勢いよくジュポジュポと音がするほどに出し入れをすれば、泣き叫びながら踊り狂った。その動きにペニスが擦られて、一気に高みに上っていく。
「んくぅ──っ! ……はあ……すげぇ、締め付けしやがって」
 はあはあと射精の余韻に浸りながら、それでも踊りを止めさせたくないとばかりに、抜き差しを繰り返す。
 棒に引きずり出されたような粘液は、白から赤色に変化して、ぽたりぽたりと床に新しい液だまりを作っていた。



 水着の形に残った白い尻には、いくつもの指の痕が青黒い痣となって残っている。
 毎日付け加えられるそれは、古い物が消えてもすぐにつくので、消えることは無い。その一つに自分の指を食い込ませ、逃げようとする尻をきつく引き寄せた。先に当たるのは腸壁か、それともさらなる奥の出入り口か。
 どちらにせよ、激しい突き上げは本来ならば痛いはずなのに、憐の体は歓喜に総毛立ち、その肌を朱に染めて悶えているだけだ。
「あっ、も、無理ぃぃぃっ、たすけ……てぇ──」
 荒い吐息の中で、息も絶え絶えの懇願はひどく切羽詰まっていて、聞く者の耳を打つ。けれど、それだけだ。
「無理? どこが?」
 嗤いながら、押しつけた腰をぐりっと動かしてやれば、水揚げされたばかりの魚のようにびくびくと跳ねた。
 実際、無理といいながら、その真っ赤に熟した肉壺は、奥へ奥へと付き人である鬼の神谷(かみや)のペニスを飲み込もうと蠕動を繰り返す。
「無理なら、自分で抜いてみろ?」
 前立腺など探してやる必要もないほどに、どこを突き上げても感じまくる体だ。
 煽るようにペしっと尻タブを強く叩いて、手を離してやれば、もぞもぞと腰を動かそうとするけれど。
「あ、っんくぅ……んぅぅ」
 自分で抜こうとしても感じるのだろう、腰砕けのように力が抜けて左右に腰を振るだけだ。
「おいおい、そんなに腰振って、やっぱ欲しいんじゃねえか」
「ち、がぁぁ……くぅぅん……」
 子犬のように鼻を鳴らして、力の抜けた指で汚れた床を引っ掻いて。
 だらだらとだらしなく流れ落ちている涎と涙がまた顔について、惚けた顔を淫らに彩っていく。
「で、どうして欲しいんだ?」
「ぬ、て……、も、無理……」
 朝から夕方まで、組織の傘下の会社に慰労訪問するのが、憐の仕事の一つだ。その付き人は退屈ではあるけれど、憐で自由に遊べることを思えば、どうということでもない。
 今日行った会社は、若いのから壮年までの社員やバイトが30人ばかり。人数は少ないが、腕っ節の強い屈強な男が揃っていることが自慢の重量物運搬を得意とする引越専門会社だ。引越業者に頼まずに仕上げたい客の、家族でどうしても運べないタンスや大型家電を運ぶことを商売にしている。
 最後に遊んだ男はその会社の社長で、憐をダッチワイフとして使う連中の中でも特に嗜虐性が強い。
 齢50だが、体力も腕力もまだまだ若い者には負けぬ。タンス一さおを一人で抱えるだけの元気さもある。その自慢の腕力で、力の抜けた憐を軽々と持ち上げて、思うさまに憐を使い倒すのだ。
 特に今日は、尿道プレイにすっかりはまってしまって、四六時中それを動かして遊んだ上に、憐のペニスは未だに棒が刺さったままだ。
「憐、その棒の代わりを今度は社長が用意してくれるってさ。あの成金趣味の社長なら、金ピカのぶってえ棒になるか……それとも……」
 ぶちゅっと音を立てて引き抜くと、ヒイヒイと悲鳴を上げてのたうち回る。
 一緒に溢れた粘液は、未だにピンクに染まっていて、鈴口も真っ赤に腫れ上がってめくれている。
 ずるりと最後まで抜き取って、神谷はにたりと鋭い犬歯を覗かせて笑みを浮かべた。
「あの社長もたいがいやってくれるさ」
 それは、最初に神谷が渡した棒とは違っていて、棒の部分がひどく長いプラスのドライバーだったのだ。
 反対側がマイナスになっているから、そんなことだろうと思っていたけれど。
 目測でも直径が8mmはあろうかというその棒のせいで、中がぱっくりと裂けたのだろう。鈴口からたらたらと真っ赤な血が流れ落ちている。
「ま、数日もすれば治るだろ。淫魔だし」
 すでに排泄器としての機能が必要ないそれは、貴樹に糧を与える以外は嬲るためだけの物だ。使えなくても支障がない。まして、淫魔は鬼のような再生能力は無いけれど、それでも精を喰らうためだったら、幾らでもそのために変化する。こうやって遊んでいれば、次にあの社長のところに行く頃には、プレゼントの棒を悦んで受け入れるようになるだろう。
「へへっ、羽角様はまだしばらく戻られねぇらしいからさ、貴樹様のところに行くのはもうちぃっと先だぜ。それまでに、うま?いザーメン、たっぷり溜められるようにしとこうぜ」
 その言葉に、憐は泣き濡れた瞳を動かして神谷を見やった。絶望と諦めと、それでも沸き立つ理不尽な行為への怒りと。けれど、それを覆い隠すように溢れ出してくる淫欲から、憐は決して逃れられない。
「……んくっ……」
 痛みを庇うようにペニスを両手で覆っていたけれど、その手がしこしこと前後に動き出す。
 最初に羽角に犯された憐は、たとえ何人の男に犯されても、何度絶頂を迎えても、決して満足などできない。
 痛みは快楽に、施される仕置きもまるで褒美のように受け入れて。
 綱紀が目の前に現れてから、たった二ヶ月。あの瞬間に憐の生活は一変して、食事も排泄も眠ることも服を着ることも、人間らしい生活全てを奪われていた。
 どんな人も、憐を見て可哀相だと思わない。彼らの目には、憐はただのダッチワイフでしかないのだから。
 それから逃れられるのは、貴樹のところに赴いたときだけだ。
 月に数度。
 たった数時間のその時だけ、憐は貴樹に構われる。
 憐れみを封じ込めた名前は貴樹にも効くという話だったけれど、それでも他よりは効きが甘いのだろう。満足さえしていれば貴樹は優しくて、体を綺麗に洗ってくれさえするのだ。
 それがたとえ給餌器という物へのいたわりであったとしても、それが唯一の救いで、慰めで。
 自分が物であったとしても、それでも憐は嬉しかった。
「貴樹……様……」
 涙を零して呟く憐は、解放されない苦しみを自ら煽るような手を止められない。
 ヒイヒイと痛みにうめきながらも、腫れ上がった鈴口を指先で抉り、ばくりと口を開けた肛門に指を突っ込んで。
「さてと、俺はそろそろ休むか。んじゃ、また明日?」
 神谷の仕事は連れて行って連れて帰るだけ。
 車から降ろされた場所が、憐の眠る場所だ。
 今日は中庭の、あの倉が見える大木の根元。その根元で憐は、果てることのない欲に煽られて自慰を続ける。
 あの倉が住まいだと言ったのは綱紀だったが、実際あそこで眠れるのは、貴樹のところに出向いただけだ。それ以外の時に行くのは、羽角が嫌うという理由で行かされなかった。
 そんな日々がいつまでも、いつまでも。
 永遠に。
 

 ……。
 ………………。
 ……………………。
 …………………………。




 数十年後、羽角の傘下の組織の長として一人の鬼が転生した。
 樹輝(じゅき)と名乗ったその若い鬼は、多量の憐の糧を受け入れた苗床のおかげで強い力を持って生まれて、羽角の組織にとっても重要な地位にまで上り詰めた。
 そんな樹輝が、憐を見かけて気に入ったのは偶然だ。
 多くの上納金の代わりに下げ渡された憐の地位は、それはダッチワイフと給餌器からの卒業ではあったけれど。強い力の鬼に支配される生活は、はからずも存在すら知らない伯父であり、兄である狂と同じで、奴隷でしかない。
 しかもまだ若い樹輝はたいそうな癇癪持ちで、機嫌が良ければ良いが、機嫌が悪い時は鬼の本性を剥き出しにして、その全てを憐にぶつけてくるのだ。
 そしてその夜も。
 それは、何が原因か全く判らなかったけれど。
 怒りに満ちた樹輝は、憐を大木の枝に逆さに吊って、真上からアナルへ拳を捻り入れたのだ。
「ぎぃあ──────っ!!」
 今までいろいろな物を受け入れてきた。
 それこそ腕を入れられたこともあった。
 だが、関節がくっきりと突き出た拳は、それまでのどんな物より固くて大きくて。
 肘まで入れられた腹は、ぼこりと不気味に突き出している。
「銜えろ、憐」
 逆さに吊られて、股間から溢れ出す血の臭いに包まれながら、憐は口を開けた。すぐさま入り込んでくる巨大な陰茎を銜えるのは至難の業だ。
 それでも、際限まで口を開けて迎え入れる。
 とたんに滲み出す粘液を啜ったとたん、痛みだけでない何かが弾けて、ぞわりと全身が総毛立つ。
「美味いか?」
 問われても、頷けない。
 ペニスは硬く、力強くそそり立っていて、少々のことでは動かない。
 樹輝のペニスは、羽角にも負けない。だからこそ、憐を満足させることができる。そのペニスを銜えているだけで、体が歓喜に震え、胎内にある樹輝の腕を締め付けた。
「美味いようだな。イヤらしい、浅ましい……だからお前はっ」
「んぐぉ──ぉぉっ!」
 何が逆鱗に触れるのか判らない。
 怒りにまかせて腕を動かして、串刺しにされた体はただ揺すられるだけだ。
 痛みと出血に気が遠くなる。それなのに、憐のペニスは萎えない。何をされても感じるのが淫魔の性で、それはもうどうしようもなくて。
「憐、今宵はお前の血全てを俺が飲み干すまで嬲ってやる。その代わりに、俺のザーメンを溢れるほどに注いでやろう。その血流に俺のザーメンだけが流れるのだ。すばらしいだろうっ!! お前のザーメンで育った俺のザーメンでお前が作り替えられるのだ。そうすれば、誰もお前を欲しがらない」
 鬼気迫る形相の樹輝の言葉に、憐はようやくその怒りの原因を知った。
 憐を使ったことのある輩に、また欲しがられたのだろう。
 この子供のような独占欲を持つ鬼が、一番嫌がる言葉を言ったのだろう。
 憐が欲しい──と。
 犯させろ──宴に出せ──。
 お気に入りを強請られて、この気性の荒い鬼は黙ってはいない。けれど、幹部としての自覚もあるので、その場で事を荒立てることはしないけれど。
「憐、憐、作り替えてやる」
 黄勝のような力は樹輝には無い。けれど、何度も何度も樹輝は言う。
 犯され続けた憐の過去を知るものを全て消したいと、そのためならどんなことでもしたいのに、けれどできない現実の苛立ちを、その怒りのままに憐にぶつけてくる。
 それほどまでにこの鬼の独占欲は強く、そしてそれを憐にぶつけることしかできない。
それは、幼子が大好きな玩具を取り上げられかけて、癇癪を起こしているのと同じように。大事な玩具を投げてぶつけて、叩きつけて。自ら壊してしまうほどに暴れているのと同じなのだ。
 樹輝にとって憐は、お気に入り。けれど、憐は道具。
道具以外の感情は、誰も持てない。それが憐の名だ。
 それでも、憐は痛みにうめきながらも、樹輝を愛おしげに見つめる。
「じゅ……き……様」
 苦しげにうめき、口からはき出したペニスに愛おしげに頬を擦りつけて、憐は笑った。
「犯して、ほし……あなた様のザーメンをこの体から溢れるほどに、そそいで……ください……」
「おお、犯してやるとも、壊してやるとも、全てを喰らい尽くして、お前の血肉全てを俺のザーメンに浸して染めてやるっ」
 それは、淫魔の体でもぼろぼろになるほどの陵辱の始まりを告げていた。だが、それでも憐の体は壊れない。壊れないままに全てを快感に変えて、樹輝の望みとは真逆の体を作り上げていく。
 それは、淫魔である憐の性だ。
 それでも。
 憐は笑う。
 あの頃に比べればずっと良い──
 と。
 
【了】