【淫魔 憐(れん) 給餌】(3)

【淫魔 憐(れん) 給餌】(3)

 灼熱の奔流が体内で弾けた。
 もう声が出ない憐の体から、ずるりと太い楔が抜けて、それに支えられていた体ががくりと崩れ落ちた。
 頬に触れる畳の感触がやたらに湿っぽい。涙と汗と、そしていろいろな体液が滲んでいるのだと、今なら判る。
 激しい痛みは変わらない。けれど、信じられないことに、数十回も抽挿された頃だろうか、そんな中にも快感が生まれてきたのだ。
 熱い巨大な肉棒がスムーズに動き始めた頃か、それとも、貴樹が耐えきれないように寄ってきて、憐に口づけて舌を絡ませてきた頃か。
 崩れ落ちた体は小刻みに痙攣していて、整わない呼吸が荒く繰り返される。
 涙が流れた頬を熱い舌がペロペロと舐めていて、それがひどくくすぐったい。
「貴樹様、淫魔の体液は媚薬そのもの。もっと欲しくて堪らなくなりますよ」
「ん、欲しい。羽角……今度は、俺、犯して」
 体の上を貴樹が四つん這いで乗り越えていく。うっすらと開けたまぶたの間から、その様子が垣間見えた。肩から腰にかけて、貴樹の腕が撫でるように触れる。その感触にゾクゾクと痙攣のような震えが走った。同時に、背筋に向かって電流のような疼きも走り、脳髄が甘く痺れる。
 そんな憐の目の前に、貴樹のペニスがぶらぶらと揺れて通り過ぎようとしていた。
 今にも弾けそうなほどに勃起しきって、だらだらと粘液を流している。つんと鼻をつくのは、イヤらしい陰部の臭い。普段なら嗅ぎたくないはずの臭いなのに、再度くんと鼻を鳴らして深く吸い込む。
 とたんに、口の中に涎が溢れてきた。
 ごくりと飲み込んでも、さらに激しく溢れる。
 美味そうだ。
 そんな事を考えて、けれど、その違和感にめまいを起こしそうなほど混乱して。
 自分の中に、人としての理性が残っているのを自覚する。けれど、その理性の力はたいそうか細くて、体を動かすまでには至らない。
 ただ、欲のみが憐の体を動かす。だから、手が伸びていた。
「あ、やぁぁっ」
 舌も伸びていた。
「ん、ぁぁぁ」
 垂れ落ちる粘液ごと、口の中に含んでしまう。確かに、羽角のペニスに比べても細い。憐のそれと大差ないサイズは、けれどとても熱くて美味い。
 ちゅうっと口をすぼめて吸えば、溢れてきた粘液に口内一杯に涎が溢れて、口の端から零れ落ちた。
「おやおや、ずいぶんと美味しそうだ」
「貴樹、どうだ? 淫魔の口技は?」
「あ、はぁぁぁっ、やぁっ……達く、だした──ぁぁぁ、ひぃぃぁぁぁっ」
 ペニスを銜えられ動けなくなった貴樹は、憐の上に覆い被さるように縋り付いていた。ぎゅうぎゅうと腰を抱きしめて、ペニスのすぐ横で悲鳴を上げながら髪を振り乱す。その感触はまるで甘い愛撫のように憐の体を滾らせて、痛みよりも強い快感を呼び起こす。
「んっ、は、はずみぃぃぃっ、犯してぇ、達かせてぇぇぇっ」
 憐の上で身悶える貴樹が悲痛な声で、羽角に懇願する。
 憐は知らない。
 貴樹は羽角に犯されない限り、達けないということを。そんな事は知らないけれど、貴樹のペニスは美味い。
「どうやら、淫魔としてはたいそう優れているようだ。すでに自分の食事が何であるか知っている」
「それは、羽角様の精液を最初にいただいたからでもあるでしょう。鬼として最高の地位である羽角様の全ては、どんなひ弱なモノにも強い影響力があります故に」
「ふふっ、貴樹、欲しいならここまで来い。ほら、お前の欲しがっている俺のペニスはここにあるぞ」
 先ほどまで憐を犯していたペニスが貴樹の目前で振られた。一度出したはずなのに、その勃起は萎える事無く、きつく反り返っている。
「あ、はず……みぃ……、いやっ、ああっ、離して、うぅ」
 激しい飢餓状態から逃れる存在であるそれを求めて暴れる貴樹の体を、憐は知らず抱きしめて、溢れる粘液を啜り続ける。本能に根ざしたその口技は絶妙で、貴樹を際限なく追い詰める。それは普通の人であれば呆気なく達っているほどの代物だが、貴樹にはただ快感地獄に落とすだけのモノなのだ。
 だからこそ、逃れようと暴れていることを、憐は知らなくて。
「い、や……」
 もっと欲しいとますます腕に力を入れて、貴樹を苦しめる。
「やぁあ、羽角、はずみぃ、助けて、許してぇぇぇ! こいつ、離してぇぇぇっ」
 それは悲痛とも言える懇願で、けれど、最初から貴樹が訴える懇願とは大差ないものであったけれど。
「貴樹を苦しめるとはな。そんな命令などしていないぞ」
 低くドスの利いた声音が、室内の温度を一気に下げる。
「羽角様、最初が肝心でございます。道具には道具らしくたっぷりとその立場を知らしめてください」
「ふむ、淫魔の罰は何だ?」
「道具で犯し、際限なく射精させることでございます。道具は生き物の精を持ち得ません。糧無くして、淫魔はその力を保てません」
「なるほど、道理」
 貴樹の体が勢いよく引き剥がされる。
「あ、あぁぁっ」
 口の中からペニスが引きずり出されて、その衝撃に貴樹がびくびくと痙攣しながら悲鳴を上げた。
 貴樹のペニスに歯形が残っていて、憐が捕まえようと咄嗟につけたモノだ。
「おや、貴樹様に傷をつけるとは万死に値する行為。羽角様、どうかきつくお仕置きをお願いいたします」
 綱紀の声も先より低くなり、室内の温度はさらに下がった。
 その冷気は判るけれど、なんでそんなに怒っているのか判らない。美味しいモノを奪われた、その怒りだけが頭の中に駆け巡った。
「美味し、かったのに……」
 唸る声音は獣のようで。その姿は、欲に駆られて本能のままに動く淫魔だ。
 それは、鬼の精液と激しい痛みに晒されて、体が一気に変化した代償だった。変化には多量のエネルギーがいる。
「お前が成すべき事は自分の欲を解消することではない。貴樹に糧を与えることだ」
 飢えた体は、理性よりも欲の解消に走る。けれど、それは貴樹に優先されるべき事ではない。
 強い力が憐の体を引きずり起こす。
 手首、足首に絡まる枷は、先ほどまで貴樹が吊されていたものと同じで、滑車の駆動音とともに体が高く吊される。
「綱紀、こいつを悦ばせる張り型を持ってこい」
 いったいどれだけの仕掛けがこの部屋にあるのか判らない。
 真下から迫り上がる三角錐は細長くその先端にはネジが切られていた。それに、綱紀が持ってきた張り型が取り付けられる。
 それは、羽角のペニスよりも一回り細いけれど、先端から根元までいびつな瘤が多量に覆っていた。スイッチを入れるとその瘤が一つ一つがランダムに蠢く。
「降ろせ」
 再び憐の体が降ろされて、けれど、その股間の下には張り型があった。
「あ、ああぁぁぁっ」
 ずぼ、ずぼ、と瘤が肉壁をめくり上げながら入っていく。切れた壁は再び裂けて出血し、張り型からその下の三角錐までを血に染めた。
「最初は射精させるな。最大で動かし続けろ」
「かしこまりました」
 冷たい手がペニスに触れた。
 かちりと複数のリングが陰嚢までまとめてつけられて、ひどく締め付けられる。
 足が降ろされて大きく拡げられたまま固定され、両手は頭の上になり、さながら尻を杭に貫かれたまま立ち尽くしている彫像のようだ。ただ、その中で貫かれる前から勃起したままのペニスが前方につきだしている。
「ぐっ、ひぎぃぃぃぃっ!!」
 いきなり張り型が動き始めたとたんに、目の前が真っ白に弾けた。体が中から激しく揺すられて、それでなくても腫れていたアナルがかき回される。前立腺は出し入れされる無数の瘤が嬲るように叩き、快楽の泉は嵐のように荒れまくる。
 羽住の命令のままに、綱紀が最大出力で張り型を動かしたのだ。
 電池式の弱い代物ではない。三角錐の中には電源ケーブルが走っていて、張り型に多量のエネルギーを送っている。その勢いは、憐の体が激しく揺れるほどだ。けれど、三角錐に突き刺された格好の憐の腰はそれ以上は動けなくて、必然的に張り型が激しく肉壁に叩きつけられる。
 それは、快感と同時に痛みをも与えるほどの代物で、憐は嬌声とも悲鳴ともつかぬ叫び声を上げ続けた。
 その瞳には、周りの状況はただ映っているだけだ。
「おいで、貴樹」
 先ほどの冷たさとは雲泥の差の甘い声で、羽角が貴樹を呼ぶ。
「羽角」
 それに嬉しげに応えて、貴樹が羽角に縋り付いた。
「褒美だ、犯してやろう」
 とたんに、貴樹の顔が満面の笑顔を浮かべて、その瞬間を狙ったように羽角が一気に突き上げる。
「ひ、ああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
 吹き出す血液が羽角と貴樹の大腿を染め上げる。
 見開いた眦から溢れる涙が、激しい苦悶の表情を彩った。
 再生機能の強力な貴樹の体は、いつも処女の締め付けを持っている。まして、今回は一ヶ月も羽角の剛直を受け入れていなかったのだ。蓄えられていたエネルギーで体の修復は完璧まで終えている。その処女と同じ体はいきなりの受け入れにひどく裂けて、何度も受け入れている貴樹にさえ、痛みしかもたらさない。
「やあぁぁぁぁっ、はずっ、羽角っ! やめっ、痛いっ、いたぁぁぁぁっ」
 痛みに悶える貴樹を、羽角は離さない。それどころか、さらに激しく貴樹を犯す。畳の上に転がし、押さえつけ、思うさまに腰を動かす。
 放置されて飢えていた貴樹だったが、同様に羽角も貴樹に飢えていた。
 どんなに女を犯しても、男や淫魔を犯しても、羽角の体はいつだって貴樹を欲していた。
 貴樹だけが羽角を満足させ、その飢えを解消させるのだ。
 それは、快楽にむせぶ声よりも、甘えて強請る声よりも、絶望に近い悲鳴、痛みによる絶叫の方がもっと良い。
 だから、貴樹には簡単に望む物をやらない。際限まで我慢させる。理性を失うほどに飢えた貴樹は、それを解消する唯一の存在である羽角に縋り付く。縋り付いて、普段なら決してしないほどに甘えて、強請る。
 その姿も可愛いといえば可愛い。
 余裕があるときは、いつでも見ていたいと思う程度の欲はある。
 だが。
 淫魔を犯したことにより、その淫魔が放つ媚薬は羽角の性欲にも影響を与えていた。
 貴樹が欲しい。その欲は、いつもよりはるかに強い。さらに、血の臭いは、やはり貴樹が一番香しい。極上の美酒よりも羽角を酔わせ、欲を強くする。
「ひぎぃぃぃっ、は、はずっ、ああぁっ、そこっ、はっ、破れる──っ!」
 貴樹の腹が、長い羽角のペニスに貫かれてボコボコと凹凸を繰り返す。長いペニスは、直腸どころかその先の結腸まで貫くのだ。その痛みは尋常でなく、貴樹はいつも泣き叫ぶ。
 けれど。
「あひぃぃぃ──っ、はずっみぃぃぃぃ!」
 それで達くのも貴樹だ。
 羽角に犯されるしか出せない精液が、勢いよく吹き上がる。それは、目の前にいる憐の体にも降り注いだ。
「あっあっ」
 その一滴が憐の口の中に入った。その甘美な味に、一気に飢えが襲ってくる。
 淫魔の糧は、生き物の精。精液には、それがたっぷりと詰まっていて、淫魔にとってのご馳走だ。
 それが、今自分の体に一杯ついている。大きく口を開けて、顔に飛び散ったそれを舐め取ろうとしたけれど、届かない。濃い精液の臭いは、強く鼻孔を擽るというのに、腹が鳴るほどのご馳走には届かない。
 ただ、張り型に翻弄されて、下腹部に集まる熱に身悶えて。
 目の前で繰り広げられる饗宴を、物欲しげに見つめるしかないのだ。
「羽角ぃぃぃっ、もっとぉぉっ、もっとっ」
 絶叫とともに羽角のペニスを包み込む粘膜が締め付けてくる。
 羽角を作り上げた稲葉に痛みとともに犯され続けた貴樹は、痛みすら快感に変化する。その辺りは淫魔と同様で、しかも、その再生能力は鬼よりも強い。
 あれだけ溢れていた血はもう止まり、その傷はふさがりつつあった。そうなる頃には、痛みも解消されて、今度は快楽に狂わされるようになる。
「欲しいか、ならばもっとやろう」
「ひぎゃっ!! そんなぁぁぁっ、やああぁぁ!」
 痛みに馴染んだ体も、向きが変わればまた新たな痛みを生み出す。快感はそのままに加わる痛みに、貴樹は羽角に縋り付き、泣いて許しを請うて。
 そして、それでも、強請るのだ。
「ひぃぃっ、そこぉぉっっ! 犯してぇぇ、精液欲しいっ、いっぱい、食べさせてぇぇぇっ」
 羽角の大好きな悲鳴とともに、ただ懇願し続けていった。


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