【風南の仕事 産卵編】

【風南の仕事 産卵編】

 下腹が張っていた。
 排便していない訳ではない。けれど、排泄のような、違うような、何とも言えない鈍痛が腹の奥底に居座っている。
 さんざん嬲られて夢も見ないほどに熟睡した次の日。
 ムルナに起こされたカザナは、連れて行かれる間ずっとその違和感に悩まされていた。
 昨日、さんざん犯されたからだろうか?
 思い出したくもない陵辱の名残は、まだ身体のあちこちに残っていた。染み一つなかった肌は、あちらこちらに大きな鬱血を浮かばせており、乱暴にされた尻は足を動かすたびにひりひりと鋭い痛みを上げる。絞り尽くされた乳も、また乳房を固く張り詰めさせていた。
 何もかも、カザナにとっては地獄の責め苦とも言える行為。
 それでなくてもおかしな事になっている身体が、不調を訴えない方がおかしい。
 とろとろと重い足を動かして、ムルナの後に付いていったカザナを迎えたのは、起きたばかりのようなマサラだった。昨夜も遅くまで起きていたのに、すでに一仕事終えたかのような爽快な表情を浮かべて、カザナを部屋に迎え入れる。
「お前は、これから毎朝この時刻までにマサラ様の寝室で、仕事をしてもらいます」
 ムルナの冷たい視線と、それ以上の冷たさを持つ声音の怖さは、たった数日でカザナの身に十分染みついていた。
「は、い……」
 逆らえば、何をされることか。激しい痛みを与えられるだけではない。恥辱に満ちた躾は、昨日だけでもう十分だった。
 だが、いったい何をすれば良いというのか……。
 王子であった頃は、着替えから洗面まで、全てお付きの召使いがやっていたから、それをやれというのだろうか?
 視線が部屋を彷徨う。
 ドアを隔てた奥の間にはベッドが見えるが、カザナが訪れた部屋はそちらの部屋よりは小さい部屋だった。どこか無機質な床と壁に覆われていて、奇怪な形の椅子や狭くて固そうなベッドが備えられている。
「ん、ああ。ここは急遽こしらえた部屋でね。まあ、趣味の部屋といっても良いかな」
 訝しげに眉根を寄せるカザナに、マサラが嗤い返す。
 じろじろと上から下まで見透かすような視線がカザナを這い回り、それがぴたりと止まった。
 ちょうど下腹部の辺り、じくじくとした鈍い痛みがある場所へ。
「お前も愉しめると思うけどね」
「……」
 ぞくりと悪寒がした。
 寒くはないのに、身体が激しく震える。
 その腕を、ムルナとマサラが掴んだ。
「さあ、そろそろ準備をしようか」
「こちらに座りなさい」
「や、いや、だ……」
 怖かった。
 これ以上何をされるというのか。
 暴れて、逃げようとする身体を、難なく捕まえられる。それでなくても昨日さんざん嬲られた身体は、まだ力が入らない。
「逆らうなら、ヤナ達を呼ぶぞ。また、その胸を思いっきり揉んで貰うか?」
「ネリがまだ遊び足らなさそうでしたからね。ずっと貫いて貰いますか?」
「ぃ──っ」
 言葉が、記憶を呼び覚ました。
 がちがちに固くなった乳房を、加減無く揉みしだかれた時の激しい痛みを。
 狭い穴を限界いっぱいに広げながら、激しく抜き差しされた痛みも。奥深くに何度も射精されて、最後には緩んでしまったアナルから流れ出す白濁を指さされながら、淫売と嗤われた。
 好き者。
 淫乱。売女。雌豚。
 嘲笑が、耳の中で何度も木霊する。
 おとなしくなったカザナを、マサラ達がなんなく奇怪な形の椅子に括り付けた。
 尻を乗せる部分が極端に小さくて背もたれが床と水平になるまで倒れたような椅子。その両脇から下ろした腕が、下からのベルトに括られて引っ張られる。
 両足は膝で折り曲げられて、身体より高い位置で大きく広げられた。その足も、しっかりと固定されてしまう。奇怪な形は、足を支えるための枠のせいだったのだ。
 広がった足の間に立たれれば、股間からアナルまで、全てが二人に晒されてしまう。
「な、何を……」
 昨夜の行為を彷彿とさせる姿勢に、カザナの表情が激しく強張った。
 まだ痛いのに、また犯されるのだろうか?
 そんな怯えに満ちた視線の先で、マサラが手を伸ばして下腹部に触れてきた。
「ああ、ちゃんと育っているようだ」
 意味不明な言葉を呟き、下腹部からさらに下へと手を滑らせていく。
「ひっ」
 つぷりと指が体内に入ってくる。
 未だに自分のそこにそんなものがあるとは信じられない場所にだ。
 痛みと激しい快楽によってもたらされた破瓜は、つい先日のこと。あの隣室のベッドの上で、マサラによって行われた。
 何も判らないままに貫かれ、逆らえば縛り付けられて何度も何度も犯された。
 痛みも血も、最初だけだった。マサラのペニスが体内で暴れ回ると、あっという間に流れるほどの愛液が下肢を伝い、数度の抽挿で呆気なく絶頂を迎えた。
 気を失えば気付けをかがされ、また貫かれる。
 快楽に溺れそうになると、内臓を貫かんとばかりに打ち付けられて、激しい痛みが正気に引き戻した。
「い、嫌だ、そこは……嫌だっ」
 ぐちゅぐちゅと音が立つ。
 背を丸めるようにして寝かされているから、マサラが何をしているか良く見えてしまう。
 マサラが、カザナに見せつけるようにしながら中を掻き回していた。
 その指が、少しずつ中に入っていく。
 敏感な膣口を弄びながら、奥へ奥へと押し広げていく、その先には──。
「や、止めろっ、やめっ」
 身体が覚えている。
 その少し奥に入った場所。肉壺の中にある肛門側の壁。
「ん? これかな?」
「ひぎぃぃぃ────っ」
 身体が跳ねた。
 腰が大きく突き上げられ、けれど膣を犯す指が身体を押さえ込む。それがさらに刺激を生む。
「ふふ、ちょうど良い位置だ。それに、非常に敏感でもある」
「あぁぁっ──っ、ああっ──」
 指先に押されるたびに、視界が真っ白に爆発し、何度も絶頂を迎えた。
 マサラの指が、楽しそうにカザナの前立腺を揉んでいるのだ。
「嬉しいようですねぇ」
 ムルナの手が、そそり立つペニスを指先で弾いた。
「さっきからぴゅっぴゅっと噴き出していますよ」
 散った白濁が、カザナの大腿や腹、床までも汚していた。
 前立腺を押された拍子にでたそれは、射精のような解放感などなく、ただひたすら快感をカザナにもたらした。
「昨日あれだけ出したというのに、この陰嚢は際限ないようですね」
「ふん、出した分は生産される。こればかりは男の性だな。まあ、これはこれで噴水のようで面白いが」
「掃除が面倒ですけどね」
「自分でやらせれば良い」
 喘ぎ、叫び、だらだらと射精を続けて身悶えるカザナをよそに軽い口調で会話を交わす。そんなマサラの指が粘液を滴らせながら離れたのは、カザナの身体がぐたりと力無く崩れ落ちてからだった。


 パチパチと頬を叩かれて、強制的に目覚めさせられたカザナは、全身が浮遊しているかのような脱力感を味わっていた。
 腹の奥底に、ひりひりとした痛みのような違和感がある。乾いた精液が肌を汚し、引き連れたような感じが気持ち悪かった。
 自分が強制的に射精させられたのだ、呆然と認識する。
 男でありながら女の場所を刺激されて達ってしまう。
 ペニスへの刺激など、もうずっと与えられていないのに、射精だけは遊びようにさせられていた。
 これが、自分に課せられた運命だというのか。
 原初の民として、もっとも気高い血を引く王族であった自分が。
 こうやって……慰み者として生きていくしかないのか……。
 いっそのこと自害したいのに、額に埋め込まれたチップの動作と暗示によってそれはできないようにさせられていることを知っているから、逃げ道などない。
 諦め切れない矜持を切なく感じているカザナに、マサラが楽しそうに言い放った。
「出せ」
「……?」
 何のことだ、と見やれば、マサラとムルナが股間を指さして、再度言う。
「さっさと息め。かなり下りてきている」
「息むって……?」
 そういえば、さっきから排泄感が襲ってきていた。
 それを自覚すると、下腹も鈍痛が酷くなっているような気がする。
 まさか……。
「まさか……排泄しろと?」
 あれは人前で晒すものではないものだ。
 がくがくと首を横に振るカザナに、マサラが「違う」と首を振った。
「そっちじゃない。そっちは、でないようにさっきしっかりと栓をしてやったからな。どんなに息んでも抜けやしない」
「え……」
 言われてアナルの中に太い棒が入っていることに、気がついた。首を起こせば、かろうじて股間の奥に太い棒の頭が見える。
「空気を入れてしっかりと栓をしたからな」
 ぐりぐりと動かされて、肉壁の痛みに顔をしかめる。
 確かに、とても太いようで、ちょっと動かされるだけで引き連れるような痛みが走った。
「では、何を……」
 息んで出すものと言われても。
 判らないとばかりに見つめれば、マサラの口が「卵」と動いた。
「卵だよ。お前の腹の中にある卵をさっさと産め」
「た、卵?」
「マサラ様、少し押しますか? 初産ですので、産道が狭いのでしょう。あまり陣痛もないようですから」
「そうだな、人のように我を忘れて身悶えるほどの痛みは鳥には無縁だろうから。せっぱ詰まった感がないのだろう。それに産み方が判らないのも道理だ。何しろ初めてなのだから」
「な、何をいって……」
 青ざめて引きつった顔をするカザナを無視して、二人が動く。
「いっ、ひぃっ」
 腹が強い力で押された。
 肉の薄い腹を両手で掴まれて、何かを扱くように股間へと移動させる。
 とたんに、激しい痛みと排泄感に襲われて、カザナは堪えることなく息んでいた。
「ひ──ぃ、くうっ!」
 息を止め、押される痛みから逃れるように息む。
 アナルの栓が邪魔だった。
 出したいのに、出ない。
「い──っ、いうっ……ぬ、抜けぇっ」
「大丈夫だ、こっちじゃない、ほら」
 またぐぐっと押される。
 鈍痛は酷くなり、堪えきれないままに息んで──。
「ひやぁぁぁっ────っ」
 ごりっと体内で音がした。
 視界全てが真っ赤に染まり、漆黒の星が無数に瞬く。
 全身の筋肉が伸びきったまま強張り、静止する。
 ただ、身体の中心でそそり立ったペニスだけが、鈴口を大きく開閉させ、間歇泉のように精液を噴き出した。
「おや……どうやら前立腺でひっかかったらしい」
「もしかして、押さえたまま止まってますか?」
 完全に硬直して、見開いた目が瞬きすらしない様子に、マサラが苦笑を浮かべた。
「ちょっと狭すぎたかな。もう少し産道と直腸の間を開けないと、毎度これでは早々に壊れてしまう」
「……前立腺を間にしたのは良い案ですが、少し悦すぎるようすですね。この淫売にはもったいないことです」
「まあまあ、とりあえずさっさと産ませて、手直しだ。たいした手間はいらないからな」
「了解しました」
 そんな会話の間にも硬直し続けたカザナの腹に手を添える。
 再び、マサラの手が腹を押さえ、それから程なくして、白い鶏卵よりも少し大きな卵がぽとりとマサラの手のひらに落ちてきた。
 ぬらぬらとした愛液に包まれたそれは、ほかほかとほどよく温もっている。
「おめでとう。初めての卵だ。可愛いぞ」
 産道を通り抜けてしまえば、痛みも快感も一気に消え去ってしまう。
 あまりの衝撃に放心していたカザナではあったが、マサラが目の前に持ってきた卵を焦点の合わない目で追った。
「卵……?」
「そうだ。お前の初めての子だ」
「わたし……の子?」
 理解できないとオウム返しに呟くカザナの唇に卵を押し当てる。
 滑った液が、口紅のように塗られていく。
「お前の子宮から繋がる卵巣は、この国でとても美味しい卵を産む鶏の遺伝子を組み込んだものだ。毎日一個から二個の卵を排出し、卵管で育てながら子宮に送る。子宮の中で数日ほど成熟した後産み落とすことになる」
「う……み……? 私が……、卵を?」
 頭が理解し始めたのか、マサラの顔が血の気を失っていった。
 譫言のように何度もつぶやき、信じられないと首を振る。
 けれど、目の前にあるのは確かに卵で。
「初産だったから産みの苦しみを味わったが、すぐに慣れる。そのうち、産めと言われたらすぐにでも出てくるようになるさ」
「ち、ちが……そんな……、そんな……」
「さて、最初の卵だ。さっそく味見を……いや……」
 絶望に彩られた顔に卵を擦りつけていたマサラが、ニヤリと口角を上げた。
「生みの親であるお前に食べさせてやろう。しっかりと味わえ」
「──っ!」
 逃れる間は無かった。
 口を閉じようとする寸前に、ムルナが傍らにあったヘラのような金属の板をカザナの口に噛ませた。それをぎりぎりと揺らして、口を開かせる。
「ムルナ、そこの引き出しに開口具がある」
「はい」
 開けられた引き出しには、医療用の道具が一式入っていた。
 何しろ卵を産む器官を人に埋め込むのも、実際に産卵させるのも、何もかも始めてだ。何が起きるか判らないため、最低限の処置はできるようにしていた。
 それが役に立つ。
 時々マサラの手伝いをするムルナが、慣れた手つきで開口具を口に嵌めた。
 その間に、マサラは乾き始めた愛液の代わりにとばかりに、卵にペニスから出た淫液や精液、膣口に押し込んで愛液などを付けていた。空いている手のひらにも、滴る程にいろいろな体液を集める。
「ふふ、調味料はお前の体液だ。最高の味付けだ」
「あぁぁ──っ、あああぁぁ」
 開口具にカツカツと卵が当てられる。
 数度の衝撃。
 固い殻は簡単には壊れなかったけれど。
 ひときわ激しく打ち付けられた拍子に、ぐしゃっと殻が割れた。その中身をマサラは体液まみれの手のひらに受け取られ、そして手の中に一気に握り込まれる。
「やああぁぁっ」
 どろりとつぶれた卵黄が口の中に入っていく。つづいて白身が。体液によって味付けられた卵全てが開かれたカザナの口の中へ。
 口を閉じられない上に、ムルナの手で強く顔を固定されたカザナには逃げるすべが無い。
 汚れた手の平を顔に擦り付けられ、蒼白な面持ちを黄身で彩ったカザナに、マサラが冷たく宣告する。
「しっかりと味わえ」
 開口具が一気に外され、同時にムルナとマサラの手によって、その口が一気に閉じられる。
 吐き出す暇など無かった。
 鼻を塞がれ、顎をきつく押さえられて。
 酸素を欲する身体が、本能的に口内の全てを飲み込む。
 生々しい味に、吐き気が込み上げる。だが、口を開くことも咳き込むことも許されず、胃がむなしく痙攣するばかりだった。


「美味いか?」
 なんとか吐き気が治まって、ようやく解放されて喘ぐカザナに、マサラが愉しそうに囁いた。
「最高の味だろう? 自分で産んだ卵は」
 ふるふると力無く首を横に振るカザナに、ムルナもまた言い放つ。
「乳とともに、卵も毎日採取します。それがお前の仕事の一つです」
 そのために、毎朝この部屋に。
 いやだ、と大きく口を開けて叫ぼうとした。だが。
「あ、あぁぁぁ──んっん」
 ずんと身体が突き上げられて、違う声が迸った。
 立っても腰を突き入れやすい高さの椅子だ。難なく突き入れたマサラのペニスに、産卵直後で熱く潤んだ肉壁が絡みつく。
 圧迫され続け、腫れた前立腺が放つ快感が、全身を激しく反応させる。
「卵と乳を毎日供給し、この女性器で私を愉しませろ。それ以外の性器で私の大切な客をもてなせ。いや、召使い達にも膣以外は自由に使わせろ。朝から晩までこの淫らな身体を快楽に満たさせ。ああ、ただし今後は特別な時以外は、夕刻以降は栄養のある餌と睡眠はたっぷりと与え、万全の体調で朝を迎えるようにさせよう。私が朝使うからな」
「かしこまりました」
 有能な執事であるムルナが一礼して、手配のために部屋から下がっていった。
 それに、今はまだ朝だから。
 マサラが愉しむのと決めたのであれば、邪魔する謂われはない。
 これからマサラが出勤するまでのひととき、淫猥な声と音に満たされた部屋は、誰にも邪魔されることはなかった。

【了】