【水砂 虜囚】(8)

【水砂 虜囚】(8)

「二日目の処刑を始める」
 静かな処刑場が一気に賑やかさを増した。
 外で響いた声音ととともに、扉が開かれ大勢の男達が入ってくる。
 その中央のすり鉢状の中で転がされていた精液まみれのミズサが、入ってきた係員の男達の手によって台の上に俯せに乗せられた。
 人の膝よりは高く、股よりは低い微妙な位置で、ミズサの尻は台の端から外へと突き出すような姿だ。
 台自体も幅が狭く、ミズサの身体の幅しかない。その台を挟むように両腕がその台の足にきつく縛り付けられる。同時に両足も後ろの足にと括り付けられた。
 ミズサの上半身よりも間隔が狭い台のせいで、両手首と両足首の間は30cmもない。両足首が手首側に引き寄せられているような苦しい姿勢に、ミズサは苦しげに呻いていた。
 けれど、喉の奥まである張り形のせいで、声は外に漏れない。
「今宵の処刑は「四つ足責め」」
 司会の男の朗々たる声が響く、観客達のどよめきがいやが上にも高まった。
「色魔猫にとって天上の美酒とも言える精液を一日浴びた身体は、完全に酔いに堕ち、その力を放つことはできぬ。その身体に罰を与えるのが、この「四つ足責め」」
 ニヤニヤと嗤う男達は、それが何かを知っていた。
 知っているからこそ、台の上に括り付けられたミズサを嘲笑うように見ている。
 そのミズサの口から張り型が取り去られる。途端に、ごほっと溢れた液体は白濁していた。それがタラタラと台の下に零れていく。
 太い張り型を銜え続けていたせいか、ミズサは力無く口を開けたままだ。閉じる力すら麻痺したように、その口の端から涎を垂らし、喘いでいた。
 その髪を引っ張り上げられ、昨日から与えられた赤い強壮薬と、さらに別の薬を口へと注がれた。
 強壮薬の効果は、虚ろだったミズサの瞳に僅かに光りを取り戻させる。
「起きろ、まだ、ねんねには早いぜ」
 囁く男の言葉に、脳が揺さぶられる。
「……おま……え……」
 ミズサをこの処刑に売り出した男が、楽しげにミズサに新たな薬を注いでいた。
「この強壮剤さ、80過ぎたよぼよぼの爺でもチンポ押っ立てることができるほどだ。もっとも、その後遺症もきついから、事が済んだら爺の心臓が止まってしまうこともあるって言うんで、販売禁止になった代物だ。それに、ちょいっと精神を飛ばす薬もたっぷりと混ぜ込んでいる」
 それを、口以外にも、ドボドボとミズサの全身に振りかける。
 臭かった。どこか甘い匂いも味もするけれど、強い臭いが隠し切れていない。
「まあ、今のお前にはこれくらいの効力がねえと、事が終わるまで生き延びれねぇから、ちょうど良いわな」
 その手が、カランと空き瓶を放り投げる。
「あ……」
 その音が、股間に響いた。
 ぞくりと全身が震え、一気に血流が全身を駆け巡る。
「や、あ……あっ……」
 腹が動く。精液が詰められた内臓がグルグルと動き、血管が大量の熱を身体の隅々まで行き渡らせる。
「いぁ、あ──っ、はあっ」
 完全に萎えていたミズサのペニスが、一気に膨張し、先端から透明な粘液をだらだらと溢れさせた。
「効いてきたか? ははっ、淫乱な身体だ、精液容れになっても、まだ欲しがってやがる」
 全身を紅潮させて身悶えるミズサの尻を軽く叩いたルクザンが、嗤いながらアナルの杭へと手をかけた。
「さあっ、今日の処刑の始まりは、まずはご開帳っ」
「ひあぁぁぁぁ──っ!!」
 太くて、長い。
 奥まで犯していた杭が一気に引き抜かれ、同時に吸収されずに残っていた精液とミズサ自身の体液が一気に噴き出した。
「あぁぁ──っ、あああっ──っ」
「ははっ、尻から口からチンポから、全部噴き出してやがるっ!」
「すっげぇ──、あんなにも飲み込んでやがったのか?」
「ばかいえっ、もっとだよ、吸収されてない分だけが出てきてんだっ」
「しっかし汚ねぇな、白いとは言え便だろ、あれ」
「神の稚児様は、精液もらっている間は、便をつくらねぇっていうぜ。なんせ、神様が突っ込みたい時にいつでも突っ込めるようにって身体がなるんだと。それに精液だけ食べてても生きるってあるだろ」
 さすがに眉唾ものの伝説を、けれど、この場にいるもの全てが信じてしまうような雰囲気がそこにあった。
 ぼとぼとと音を立てるほどに落ちる塊はある。
「あっ、うっ……くっ……ひああっ」
 その塊が壁を広げる度に、ミズサが感極まったような嬌声を上げ、その尻がゆるゆると揺れた。
 通常なら便が出るのだろうが、それは白い。汚らしく変色したところはあるけれど、それでも便とは言えない。
 食事をしていなかったミズサの身体の中は、まさに注がれた精液しか入っていなかったのだ。
 それが容器にさっさと集められ、その場から取り払われた。その代わりに。
「ぐるるるる」
 唸り声が何頭も重なって聞こえてき始める。
「四つ足のおなりだ。猫の天敵である四つ足による責め苦により、色魔猫の魔力を削ぐのだっ!!」
「がぶっ、ぐっ、うっ」
 近くなる唸り声にミズサの視線が彷徨って。
 その瞳に大型の獣の姿が映って、それが一気に見開かれた。



 ミズサが載せられた台より大きな四つ足の──犬が、ミズサの背に乗り上げ激しい抽挿を繰り返していた。
「やああっ、はあっ!、ふとっ──ああっ、奥がぁぁぁ、イヤだぁぁぁ、やめぇぇぇ」
 この街のさらに闇に支配された、並の者が足を踏み入れられぬ娼館で飼われている専用の犬だ。それが5頭。
 ここに連れてこられた時からぎらぎらとぎらつく欲望を隠しもせずに唸り、牙を剥き出しにして長い舌をはみ出させ、だらだらと涎を垂らしていた犬たち。
 その中の一頭が今ミズサを犯していた。
 呆けていた脳が快感よりも強い恐怖に晒されて、この場から逃げようと必死になって動かぬ身体に力を入れよとているのが傍目からも判る。
 けれど、四肢を拘束するそれは決して緩まず、いたずらに身体に傷をつけるばかりだ。
 しかも、ミズサの悲鳴にますます興奮を強めた犬は、その足の爪でもってミズサを押さえつけ、さらに激しく腰を振りたくる。
「ぎゃははははっ、イヤだイヤだっいいながら、チンポはびんびんだぜ」
「昨日あんだけだしまくったっていうのに、まだだらだらと零してやがる」
「気持ちいいんだぜぇ、あれ、犬畜生のチンポでもよ」
 観客達の揶揄は間違いなく、嫌がりながらもミズサの身体は紅潮し、そのペニスの勃起は萎えることはなかった。
 クスリのせいだけでない、
 そのために訓練された犬は、人の前立腺を非常にうまく抉り、悲鳴の中に嬌声を上げさせるほどに、快感を与えてくる。
 イヤだった。
 逃げたかった。
 助けて、たすけてぇぇ。
 怖いのに、苦しいのに、なのに、身体が快感を貪る。
 その相反する激しい差に、昨夜とは違う状況に心が追い込まれる。
「ひっぃぃぃ──あ、あっついっ──きゃうっ、ひぃんっ、ひくぅぅ、おなかが、あっついっ、やああっ」
「おいおい、いい声出し始めたぜ」
「なんか、ガキみてぇだな」
「簡単に狂わねえように、精神を飛ばすクスリを使ってるって話だ。そのせいだろ」
「ああ、そりゃいい。確かに二日目でくたばったらなあ……、前ん時がそうだったから、今度こそ最後まで見てぇし。おっと、あいつ尻ふってやがる」
「やだぁっ、やだぁぁ──っ……ああっ、イイっ、やだぁ、こんなのお、やあああんっ」
 そこにいるのは、訓練された戦士のミズサではなく、性奴隷のミズサでもなく、凛とした何もかも見落としながら黙っていた水砂でもなく──何一つ力を持たない幼き王子であった。
 人として相容れない犬に犯されてその精神は崩壊寸前で、けれどそれより前にクスリが強制的に精神を飛ばすことで、精神を守っていた。だが、ミズサにしてみれば、同じ事だ。
「ぎやぁぁぁ──っ!」
 突然ミズサが上げた悲鳴に、処刑場内の音が一瞬止まった。
 犬が動きを止めていた。
 しっかりと犬の股間が、ミズサの尻とびっちりとひっついていた。
「これから射精だ、たっぷり種づけしてもらえっ!!」
 それを叫んだのは誰だったのか。
「もう抜けねえぞ。犬が満足して出し終えるまでな」
「あの犬は、特に精力の強い、精液と前立腺液をたっぷり出す種を交配し続けた犬で、並の犬より相当多いってよ」
「それってどのくらいよ?」
「一匹で女の腹が臨月の妊婦なみに膨らんだって話だ」
「へえええ」
 ならば男の腹はどうなるだろう?
 今は台座に押しつけられ、ぺっちゃんこの腹がどうなるというのか。
「ひぃぃ──、くるしっ、やめてぇ……あああ、お腹いっぱああ……ああんっ」
 ひくひくと震えながら泣き喚く。
「苦しいか? やめて欲しいか?」
 妙な猫撫で声で、斯界の男が問いかける。
「うん、うん、助けて、止めて……あんくっ」
「そうか、止めて欲しいか?」
「んっ、お腹、くるし……助けてぇ、もういっぱいなのおっ、助けてぇ」
 昔のミズサを知る者なら、あれは別人だと言うだろう。子供の時でも滅多に泣いたことの無かったミズサが、ポロポロと涙を零して、男に懇願していた。
「助けてぇ、犬、怖い、嫌いっ、やだぁぁぁ」
「そうか」
 男がミズサに近づく。
 グルグルと威嚇する犬とは反対側の、ミズサの頭側に立って、その足下にかがんだ。
 ちらりと視線を上げれば、台の向こうにぶら下がるミズサのペニスが勃起して、白濁した液体をだらだらと流していた。
 犬に抉られ、零した精液は、床に液たまりを作るほどだ。
「本当に、嫌なのかい?」
 手を伸ばし、それに触れれば、「いやああんっ」と甘い声が頭上でした。
「気持ちいいんだろ? 犬にケツを犯されて、気持ち良くて仕方がないんだろ? どこが嫌なんだい?」
「いやっ、怖いっ、嫌いっ、やだあっ、もうくるしっ、げほっ……うっ」
 圧迫されて胃液が上がったのか、えづくミズサに、男は嗤いかけた。
「ふ?ん、ほんとに嫌だって言うなら、一回だけ逃げる機会をあげよう」
「ひっ……逃げる……ほんと?」
 本当に逃げたいのだろう。逃げるという言葉に、敏感に反応したミズサの目の前で男は、台座に括り付けていた手足を外し始めた。
「逃がしてあげよう。だが、俺にできるのはこれを外すことだけ。自分で逃げてごらん。この建物の中から、ね」
「や、だって……後ろ」
「お前が本気で嫌なら、逃げられるよ。本気で嫌ならね。嫌じゃないから、逃げられないんじゃないか?」
「ほんと? 嫌だったら、逃げられる?」
 いつものミズサなら、簡単に看破できるはずの男の企みは、幼子と課したミズサにはとうてい無理で。
「ああ、そうだよ。合図をしてある。そうしたら、あっちの扉にむかってごらん、力一杯にね。でも、嫌じゃないのに逃げたいなんて嘘をついたんなら、きっと逃げられないからすぐに判るね」
「逃げる、逃げるぅ……もう嫌ぁ、おなか苦しっ」
「じゃあ、1、2、3──逃げろっ!!」
 嬉々とした男の合図とともに、引っ張られて台から引きずり下ろされる。
 けれど。
「いやああぁ──、痛っ──ああっ」
 アナルの中で膨らみきった瘤が抜けない。それどころか裂けたような痛みが脊髄を貫いて、一歩も動けずにその場に蹲ってしまう。
「おやおや、逃げないのかな?」
 言われても、力の入らない四肢を動かそうとしても、動かない。
 犬の前足が背中に乗っていた。
「やっぱり嘘つきだったねぇ」
 司会の男がニタニタと笑いながら、その場から後ずさる。
「嘘つきには、罰を。一匹ずつ順番にと思ったが、そんな配慮は無用って事だ」
 その言葉が本当の合図だった。
「ひっ、ぎゃあぁぁぁ!」
 残りの四頭が一気にミズサに飛びかかった。
「こわいっ、やだあぁぁっ!」
「怖い、どこが?」
 その犬の綱を外した男が嗤った。
「最高の快楽を、休み無く与えてくれるっていうのに?」
「い、ああぅ、ひっい」
 腫れた乳首を、ざらざらとした長い舌で巻き付かせるように舐められて、全身をびくびくと跳ねさせていた。
「噛み殺すなんてことは絶対にしない」
 牙がペニスに食い込んでいた。血は出ていない。だが、敏感なエラの根元に食い込むそれに、背筋を快感が駆け上がる。
「連携行動もきちんと躾けている」
 太い足がミズサの肩を押さえつけていた。甘噛みされた足首が捻り上げられ、高い位置に掲げられている。
 その中心で、未だ繋がったままの犬がいた。
「ひっいいい、おなかがあっ、腹があっ」
 仰向けに転がされて観衆の目に晒された腹は、ぽこりと膨らんでいた。
 涙と汗を振りまき暴れるミズサに、彼を押さえる犬たちの涎が降りかかる。
「逃げたければ逃げればよい」
 縛る枷は何もない。
 だが。
「犬はお前を気に入った。引き剥がされるまで、犬は交尾し続けるだろう。こいつらは、そういう犬だ」
 犯して犯して犯し尽くす。
 獣だからこそ理性など欠けらも無く、獣だからこそその体力は長く、獣だからこそ、本能に忠実で。
 それら全てを並の犬以上に持つ特別な犬だ。
「数年前に処刑した色魔猫は、この二日目を乗り切れなかったんだよなあ」
「そういやそうだ。ずいぶんと綺麗な細腰の兄ちゃんだったからな、その顔だけで親方様のお嬢様をたぶらかそうとしたってヤツ」
「あん時は前の年に優秀な血筋の犬どもが次々とオスの仔を産んで、その筆下ろしも兼ねてたのさ。しかも、親方様がたいそう怒ってたからよお、そいつにメス犬の愛液をたっぷり仕込んで、そのまんまクスリで興奮させた10匹の群れの中に放り込んだからなあ。犬のチンポを突っ込まれ続けてひいひい悦んで、結局そこで狂ってさ」
「ああ、そういやあったな、それ。確か、犬達から離れねえからそのまんま犬に任せていたら、飲まず食わずで交尾しまくって死にしやがったんだ」
「おお、犬も何匹死んだんだぜ」
 それから久しぶりの処刑は、別の意味で素晴らしい処刑になりそうだ。
「おっと、ようやく一匹目が終了か」
「犬に犯させると待ち時間が長くてしかたがねえな」
「しゃあ、ねぇ……おおっと、もう次の奴がつっこみやがった」
 言葉通り、多量の液体を噴き出すアナルに別の犬が腰を打ち付けていた。
「それいけぇ、犯せ、やりまくれっ」
「やああぁぁ!、助けてぇ──っ、苦しっ──、やだぁぁぁ!!」
 苦しがって暴れても、犬の群れから逃れられない。
 苦しみの中でも、犬が全身を舐めるから、敏感な身体に快感が走る。
「あうっ、ひっくっ、あああっ」
 びくんびくんと身体が跳ねて新たな絶頂を迎えながら膨れあがった腹を晒したミズサに、別の犬がのしかかって。
「あぐぅ!」
 開ききった口にも、待ちきれないとばかりに長いペニスが入り込んだのだった。

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