【水砂 虜囚】(7)

【水砂 虜囚】(7)

 媚薬は最初から切れていた。けれど、すでに全身に染み渡った薬の効果は切れるどころか禁断症状となってより激しくミズサを支配していた。そのせいで、僅かな刺激でも歓喜に打ち震えてしまう。
 飢えは激しく、ミズサの潰えた理性が逆らえる筈もない。
 まして、敏感な身体は心より先に反応し、貪欲に淫らに貪るのだ。
 一人目は痛かった。
 二人目は乱暴だった。けれど。
 その二人だけで何度も精液を噴き出すほどに、身体は餓えていた。赤く染まった視界の中で、ぬめる肉棒だけを追いかけてしまうほどに。
 痛みに戻った理性は射精した途端に消え失せて、思考は次なる快感を求めた欲望に埋め尽くされる。
 欲しい、と思い始めたら、欲しくて堪らなくて、それが貰えることが堪らなく嬉しかった。
 一度堕ちてしまうと、迫り来る男達への恐怖はなくて。けれど、貰えなくなることにはひどく恐怖した。
 もう何人目かなど、誰も数えていなかった。
 ミズサは常に数人の男達に犯されていた。
 一人をアナルに、一人は口に、一人は手で、別の一人はその身体で……。
 最終的には全員が一度はアナルを使うけれど、その周りで何度も何度も快楽を貪った。
 終われば、また列の後ろに並ぶ。
 長い列はすり鉢状の底にいるミズサを囲んで螺旋状に上部へと繋がっている。一人、また一人と移動するその間にも、男達は勃起してひくつく己の陰茎を両手で押さえ、我慢できずに扱いていた。
 ハアハアと荒い息が大きなうねりとなって会場を轟かせている。
 もしこの処刑を支配している者がこの街の有力者でなければ今頃は大混乱になっていただろう。
 けれど、快楽以上の死への恐怖は確かにあって、荒くれ者達といえど大人しく順番を待つしかない。
 ただ、犯され、あえかな嬌声を上げ続ける性奴隷を物欲しげに見つめ続けるしかないのだ。
 そんな男達には、精力増強剤が無料に配布されていて、もう数度放って床を汚した輩であっても、その股間はまた激しく熱く勃起していた。
 それほどまでに美しい身体が、淫らに汚されていく姿は、あまりにも淫猥だった。
「あっ、ひっ……はあ、くっ、ああっ!!」
 新たなペニスに敏感な肉壺を抉られて、全身を仰け反らせて絶頂を迎える。びくびくと全身を痙攣させて、虚ろに天空を見つめる身体を支えた腕は何本もあって、腰を打ち付ける音は止まらない。
「あひっ……あ、またぁぁっ、すっごっ……太いっ、熱いよぉぉぉっ!」
 美しきリジンの王子は、その少し伸びた銀色の髪を振り乱し、空色の瞳を欲情に濁らせ、白磁の肌を紅潮させて、男達のペニスを貪っていた。その肌も髪も、周りの男達が浴びせた精液で汚され、ミズサ自身も噴き出したそれが、水たまりを作っていた。
 すり鉢状の底でミズサは犯されているから、列の男達が吐き出した体液は全てミズサの元に集まってくる。それより上にいる観客席の男達の精液は、容器に集められては運ばれて、ミズサに振りかけられた。
 外はもう夜で、砂漠に近い気候特有のこの地では、かなり気温が下がっている。けれど、男達の熱気に包まれたこの場所はひどく熱い。
 汗にまみれた身体は他の男達と密着し、その熱気に蒸発して湯気のように辺りに漂っていた。
「もっと、もっとだ。もっと精液を注げ、溜めろっ」
 司会役の男の言葉に、屈強な労働者達の興奮は冷めるどころか煽られている。
「ひっぎぃぃっ、お、奥までっ、ああぁっ、やあ、あつっいぃぃ──っやあああ!!」
 血管が浮き出た歪なペニスが真っ赤に腫れ上がった肉壁を貫く。開ききった口に新たなペニスが我先にと突っ込まれ、激しい抜き差しを繰り返した。
 グチュグチュとイヤらしい粘液の音は僅かたりとも止まることなど無く、周りを誰かが歩くだけで精液がビチャビチャと音を立てた。
 鎖はすでに台座から外されて、口に銜えさせている男の手にある。
 ぐいぐいと引っ張られる度にミズサが喉を詰まらせて喘ぎ、締め付けられる後ろの男は悦んだ。
「まさしく色魔猫、もう10人、いや20人か? そんなにも犯されてるってえのに、まぁだ悦んでるぜ」
「締め付けもきっついまんま、さすがサイコー級品って言われるだけあるな」
 はあはあと喘ぎ、己の陰茎をシコシコと扱き、けれど、その目はミズサから決して離れない。
 少しずつ、少しずつ近づく列に、否応なく期待は高まり、興奮は増してくる。
「おい、崩れるんじゃねぇっ!」
 たらりと零した射精の余韻からか、ミズサの上体ががくりとつんのめった。鎖を引っ張られているが、ぐえっと唸っても身体は起きない。
 その瞳が白目を剥いているのを確認した係員のような男が、手にしていた小瓶をミズサの口に傾けた。
「ぐっ、げほっ!、ぐっ」
 きつい赤い色をしたその薬に、意識を手放していたミズサが咳き込んで。
 身体に力が入ったせいか、口からもアナルからも白濁した体液が流れ落ちていく。その中で、ミズサが大きく息を吐いた。
 はああぁぁ……、と熱い吐息と同時に、うっすらと開いた空色の瞳は僅かに光りを灯していて、それでも虚ろな視線をきょときょと巡らせた。
 もう何度目かの強壮剤の投与だ。
 男達が貰っているよりもさらに効果の高いそれを、口に、アナルに何度も注がれて、ミズサは無理に回復させられた。
 会場にいる50人近い男達の精液をその身に受けなければ、この一日目は終わらない。観客としている百人以上の男達がこの処刑という名の娯楽に満足して、彼らの精液で池を作るまでは終わることはない。
「よっし、再開だっ」
「あ、う……む、り……や……」
 いくら性欲に溺れていても、強壮薬を注がれても、完全にミズサの体力が戻る訳ではなく、その効果はいずれは途切れる。だが、夜が更けて、さらにうっすらと空が明るくなり始めた時間になっても、その長い列が短くなることはなく、観客席の一人も席を立つことはなかった。



 塩の湖があるこの街は、昼間は皆が休む時間だ。
 太陽が照りつけるこの時間、塩分を含む空気に晒されながら仕事をすれば、その大半が数時間で力尽きてしまうからだ。
 真水が貴重な土地だからこそ、その節約のためにも涼しくなってから仕事は始まる。
 だから今この場所も、あれだけいた観客達は一人もいなくて、処刑に参加していた男達も誰もいない。
 ただ、異臭が漂う空間に、ミズサが一人取り残されていた。
 もう白濁などとは呼べぬ変質した精液溜まりの中に転がされ、半身を浸したその身は全身が汚濁にまみれている。
 一時美しさを取り戻した髪は無残に汚され絡まり、べっとりとした塊となっていた。白いはずの肌は、殴られたような青あざに、噛み痕だと判るくっきりとした歯形、ひっかき傷に、鞭に打たれたような傷で、どこもかしも赤く腫れた傷跡だらけだった。
 ミズサの首輪と繋がった鎖が床の杭にしっかりと結わえられており、たとえ意識があったとしても首を起こすことすらできないだろう。
 ミズサは、隠すべきところも全て露わにされた状態で、その処刑の場にそのまま転がされていた。
 その下腹は、旅の間にやせて凹むほどになっていたけれど、今は丸みを帯びて膨らんでいた。それは、一晩中──否、昼近くまで注がれた精液によるものなのだ。わずかに開いた大腿の奥に見える杭の断面はひどく太い。6、7センチはあろうという杭が塞いでいるせいで、体内の精液は一滴たりとも排出は叶わない。
 さらに口には喉の奥まである張り型が銜えさせられていて、多量に飲まされたそれを吐き出すことすら許されなかった。
 呼吸音はかろうじて聞こえる。薄い胸の上下も微かにある。さらに、時折、ひくひくと震える身体に、喉の奥から微かに響く呻き声もある。
 何より、まつげの奥で微かに見える虚ろな空色の瞳が、僅かに動いていた。
 何度も意識を失ったミズサではあったけれど、これだけの陵辱を受けた身体でさえも、眠り香の後遺症はその効力を発揮していた。
 熟睡ができないのだ。
 指一本動かせず、呼吸すら苦しげな身体で、眠ってしまえば楽なのに、目が覚めてしまう。
 疲労感は最高潮であって、それで意識を失うように寝入っても、悪夢のような得体の知れない何かが迫り、脳神経を過敏にして目覚めさせてしまうのだ。
 もう何度も同じ事を繰り返し、もとより理性など飛ばしているミズサの虚ろに彷徨う視線は何も捕らえていなかった。
 常ならば明晰な頭脳も、何も考えていない。
 異臭漂う精液の中に漬け込まれたまま、時が過ぎていくのを待つばかりの姿は、ただの人形のようにも見えた。

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