【淫魔 憂(ゆう) DVD】 (2)

【淫魔 憂(ゆう) DVD】 (2)

 深くうつむいた憂は、剥き出しの股間を見たくないとばかりに固く目を瞑っていた。うつろに呟く様子は、かなりの衝撃を受けたことを窺わせる。
「なんで、こんな……ひど……」 
 最初は、ただの痴漢だとタカををくくっていたのかも知れない。
 だが、尋常ならざる行為は、これだけではないのだ。それを憂はまだ知らなくて。
 ただの布切れになったそれが、驚愕に動けない憂の手を素早く後ろ手に戒める。
「ちょ──、やめろっ」
 我に返って静止しても遅い。
 まして、剥き出しの股間が気になるのか、それはさっきまでの静止よりさらに小さい。
「あ、がっ」
 憂の体がのけぞった。
 大きく見開いた瞳が、電車の天井を捕えるほどだ。
 カメラがそんな憂の全身を舐めるように動く。羞恥と恐怖と困惑とが混ざった横顔から、しっとりと汗ばんだ喉元に映り。
 足先に向いたカメラが、白い尻を捕えたとき。
「ほお……」
 関根が、思わず、と言った体で感嘆の声を上げた。
「もう、銜えさせたか」
 引き締まった尻の狭間に前をなぶる手とは明らかに違う手が潜り込んでいた。しかも、見える状態からして明らかに2本の指が入っている。
 決して細くは無い男の指だ。
 それらが、ひっきりなしに動いているのが判った。
 経験者か、とふと思ったが、異物にあえぐ表情が映った途端その考えを捨てた。恐怖に怯え、ぺニスまで縮こまっているそれは慣れた様子は窺えなかったし、なにより、DVDのタイトルに「初めて」という言葉が入っていた。
 ああいう店でばらまいているからこそ、紛い物を出すことはない。
 信用を無くせば生きていけない世界だからこそ、初めて、と銘打つ以上、彼は初めてなのだ。それこそ、何もかも。
「ひぐ……も、出してく……れ、苦し……」
 荒い呼吸を繰り返し、必死に異物感に堪える姿は、かけねなしの本物で。
 モジモジと腰を揺らめかせ、ぺニスの刺激に目元を赤らめるさまはひどく艶めかしい。
 そうこうするうちに、画面にまた別の手が入ってくる。
 同時に駅に着くアナウンスが入る。
 幾つ駅が有るのだろうか?
 停止の度に、ガクンと大きく震える電車の振動は、尻に銜えた状態ではたいそうな刺激だろう。
「ひあ、そ、そんなっ、あひぃ」
 押さえ切れなかったであろう悲鳴は、到着を知らせるアナウンスで掻き消えた。
 はあはあと衝撃を逃すかのように荒い呼吸を繰り返す憂は、全身汗まみれだ。
 呆然と視線を落とすその瞳は虚ろで、停止した電車から逃げ出そうともしない。もっとも、周りをがっちり囲まれて、下半身を露出した状態ではどうしようもないのだろうけれど。
 どちらかというと、茫然自失で動けないといった感じだった。
「かわいらしい……」
 関根がくすりと笑いながら呟いた。
 さっきよりドアに近づいた体は、ドアと憂の間の手で支えられていた。
 停止している間に、シャツが首までたくし上げられ、胸を窓の外に晒している状態だ。
 茫然自失の状態の憂は、そんな状態の自分を見ている視線に気づいていない。
 カメラが写した窓の外の風景が動き出す。
 反対側のホームで指さす人々、あっけに取られている人々の姿が流れていく。
 そう遠くないホームからは、きっとしっかりと見えていただろう。
 今関根が画面で見ているように、親指と人差し指でできた輪の間から、乳首と胸の肉がおっぱいのように飛び出している状態を。
 ずいぶんとかわいらしいおっぱいは、無骨な手に揉まれてひどくイヤらしい蠢く。
「だが、乳首が小さすぎるな」
 関根の好みは、もっと大きく摘まみやすいサイズだ。買ったモノのが小さければ、徹底的にいじり倒し、ピアスを施して摘まみ易くして遊ぶようにしている。
 それを考えれば、憂の乳首は小さかった。
 だが。
「あひっ、い、いらう、な──そこぉ」
 ずらした指が、その小さな乳首を摘まんだ。途端に、憂がびくびくと痙攣したのだ。
 どうやら乳首で感じることが明らかなその反応に、周りの男たちも、そして関根自身も目の色が変わった。
 敏感さは、苛める楽しみを倍増させる。
 さらに。
「んっ、ひいっ!」
 明らかに声音が変わったそのタイミングは、尻に三本目が付き刺さったときで。
「ここで、感じるか? 淫乱」
 初めて入ってきた野太い男の声が、ひいひいあえぎだした憂を揶揄しだした。
「尻を指でつかれただけで達きそうなほどおっ勃てて、乳首で感じまくって。──出すか? 電車の中で」
「ち、ちが……、そんな……こと」
 いやいやと首を降る憂の顔がアップになった。
 その顔に苦痛は見られなかった。むしろ、快感に感じてとろけているような表情だ。頬を濡らす涙も、白目の縁を赤く染めた状態では、瑞嬉のものとしか見えない。
 今や、首下から膝まで、何もかも剥き出しにした憂の肌が、羞恥とそれ以上の興奮に紅潮していた。
「う、くううっ──く」
 呻く声も甘く、誘うように響く。
「淫乱な体は、何本でも飲み込むな」
「い、いやだ……もう、も。入れるなぁ」
「何言ってんだ。お前のケツが欲しがって吸い込むんだよ。普通なら裂けるってのによ、こんなに旨そうに銜えて」
 その言葉とともに、指を銜えたアナルがアップになった。
 そこは、親指と小指以外の3本を銜えて、シワ一つ無いほどに伸びきっていた。
 先はくちばしのようにすぼめてはあるけれど、指の付け根部分はどうしようもない。すき間からねっとりとした粘膜に包まれた内壁すら見えた。
 熟した果実のように真っ赤なそこは、まるで指など物足らないと誘うように脈打っていて。
 その情景に、関根のぺニスがひくひくと震える。
 今すぐにでも、あの穴に突っ込みたくて堪らない。
 ドアに押し付け、このパールを埋め込んだ自慢のぺニスを乱暴にねじ込み、ひいひい泣き叫ばしたい。
 妄想だけで目が眩むような快感を感じる。
 はあはあと荒い呼吸を繰り返し、しこしことぺニスを扱く。
 今度、こんな撮影があるのなら、絶対に参加したかった。
 画面を隔てていることが、たまらなく悔しくて悔しくて。内心忸怩たる思いで、画面に見入る。
「おっぱいもしっかり勃ったぜ。へへ、ぷっくりといやらしく震えて」
「てめえのチンポ、触ってねえのにびちょびちょ、そんなにケツが良いかあ?」
 次々と言葉がかけられる。
 言葉責めに切り替えたらしい状況に、関根の興奮度も増したが、憂もそれ以上に反応している。
 同時に、それを肯定する映像も流れて。
「よっぽど見られるのが好きなんだろ、こういう淫乱はそうそういねえ」
「ったくだ。処女にしては、濡らしすぎじゃねえか、おい、おめえ。処女なんか?」
「うあっ」
 ぐりっと埋め込まれた指を回されて、ぴくんと硬直した体に、男の舌が這う。
 それにも、絶え入ったような喘ぎ声を漏らし、びくびくと反応している。
「正直に答えねえと、拳突っ込むぞ。ここに銜えたことあんのかよ?」
 ぎりっと新たな指がねじこまれそうになったのか、憂が慌てて首を振る。
「な、無いっ! 何にもっ」
「おお、新品か」
「チンポも使ったことなさそうだけどなあ、かわいい色してよお、ピンクだ。なあ、じゃあこっちは?」
「な、なぁい……ひぐ、う、そっちも……」
 涙を溢れさせ、嗚咽混じりで、恥ずかしい告白をする憂の声は、か細く震えていた。
「処女で童貞のくせに、淫乱かあ」
「ちゃうちゃう、発情期中のメス犬クラスのド・淫乱だよ。普通さあ、初めてで、電車の中で、しかもケツで感じる奴、なんていねよ」
「あはは、確かに。尻振って、まんまメス犬だね、こりゃ」
 四方からかけられる揶揄に、憂が嗚咽を何度もこぼす。
 否定したくても、確かに快感を感じている事実が、憂を打ちのめす。
 一体何人で憂をなぶっているのか、映像を見ている関根にも判らない。
 だが、憂の体にまとわりつく手は、少なく見積もっても5人以上。
 乳首やぺニス、そしてアナル以外にも、脇腹や太股、首筋などを指がなぶっている。
 ランダムな動きに翻弄され、快感など感じたくないのに感じている憂の、必死で堪えている表情が男の劣情を誘う。
 眉をひそめながらも、その目が熱く潤んでいて、とろりと溶けていきそうだ。
 股間を映すカメラに切り替わり、ぽたり、と、鈴口から粘液が糸を引きながら落ちる。よく見れば、もう何本を糸を引いたらしく、膝で絡まるジーンズの色が何カ所も変わっている。
 頭上に向かってアングルが切り替われば、いつの間にか乳首には、誰のともつかぬ唾液を塗り込められ、いたずらに何度も抓られて真っ赤に熟れている。そこをさらに摘ままれては引っ張られて、甘酸っぱい疼きでも走っているのか、身震いしながら甘い悲鳴が零れていた。
 掠れているとはいえ、もう電車の音より大きいだろう。
 だが、だれもそのことに頓着すること無く、憂をいたぶっている。
 もしかすると……。
 自らの快感を追いながら、関根の頭が冷静な分析をする。
 この車両すべてが罠だったのかも知れない。
 あの店のバックについている組は、それだけの資金源も行動力も持っていて。けれど、なにもかも秘密めいたあの組の詳細を知るものはいない。下手に手を出せば、闇に葬られるのは日の目を見るより明らかだった。
 憂は、そんな組の何かに触れてしまったのかも知れない。
 だからこそ、こんな目に合っているのかも。
 だったら……。
 関根の瞳の奥で欲望の灯火がちろちろと強く瞬く。
 十分いきり立ったはずのペニスが、ぴくんと震える。ぞくぞくと背筋を這い上がる快感に、口の端がニヤリと弧を描いた。
 なんて、素晴らしい。
 この先、彼は人としての尊厳全てを剥ぎ取られるまで、しゃぶり尽くされるのだ。壊されるまで、否、壊されても、その身体がある限り、使われ続けて。
 成長記と言っていた。
 これは、シリーズと銘打たれている。つまりその全てを記録されていくのだ。
 なんて──素晴らしい企画だ。
 ぺろりと舌が唇を舐める。
 暑苦しくて、シャツのボタンが弾け飛ぶのも構わずに外した。
 ここに、己の手しかないのが悔しい。
 どんなのでも良いから、一人調達して置けば良かった、と後悔する。
 この映像を見ながら、奴隷に奉仕させるか、それとも激しく突っ込むか。
 こんな手でする自慰などでは、身の内の興奮は、そう容易にはおさまらない。
 それほどまでに、関根の身のうちに膨れあがった欲望は、激しいモノだった。

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