【淫魔 狂(きょう) 収穫】(4)

【淫魔 狂(きょう) 収穫】(4)

 清潔に整えられていた部屋は、卑猥な臭いで充満していた。
 畳には、いくつもの液溜りができている。染み込まなくなったほどのそれは、京が自慰を繰り返して作ったものだ。ぐっしょりと濡れた畳は、もう使いものにならないだろう。
 鬼の支配下にあるこの場所を接待場所に選んだ彼らは、きっと自分達の意思で選んだ、と思っているだろう。まさか、人をたやすく操る黄勝の力に惑わされて選んだのだとは、思いもしない。
 だが、そのおかげで、思うがままにこの掘り出し物を堪能できる。
「い、や……」
 か細く拒絶の言葉を繰り返しながらも、京の手は止まらない。
 黄勝がつぶさに京の様子を観察している間ずっと、ぺニスを扱いては射精し、アナルを掻き回す動きとともに精液を巻き散らし、淫らな自慰を繰り返していたのだ。
「と、ま……ない……」
 達きすぎた苦しさもあるのだろう。顔をしかめ、力無い嗚咽もこぼれている。
「やはり、尻が一番感じるようだな。量も勢いも一番ある」
「つぁっ! ──っ」
 両手で尻タブを開けば、赤く充血した粘膜が、外に向かってめくれ上がった。
 広がった穴から、ぽこぽこと音を立てて粘液が溢れる。自慰に溺れ、二時間もの間ずっと指を銜えていた場所だ。
 腫れ上がった肉壁がひどく旨そうで、黄勝の喉が鳴る。
「私も完成品を味わってみようか」
 その声音がかすれていた。
 観察を優先するために、自分の性欲を抑えてはいたが、さすがに限界なのだ。
 その体を抱え上げた時に零された吐息は、あまたの淫婦もかくやの艶めかしさで、黄勝を誘う。京自ら開いた足の、その指先までがいやらしく、性交に長けた黄勝をもってして、すぐにでも突っ込みたくさせた。
「すばらしき淫魔の誕生に、贈り物をせねばなるまいよ」
 歓喜に満ちた声音が、高らかに響く。
「お前には、【狂(きょう)】の名を与える。言霊の力により、お前の狂気はその名に封じ込めたから、今後は快楽に狂うことなどないだろう。その分、その身に人の狂気を集め、狂宴の果てに、そのすべてを我らに捧げ続けろ」
 人の精気を糧にし、触れられただけで絶頂を味わうほど敏感な体を持つ淫魔の、それが宿命──生まれた証なのだ。
 種を植えたときには、ここまでの完成品になるとは思わなかったけれど。
「あがっ、お、おっき──い、さ、裂け……ひぎゃあぁ──」
 あぐらの上に落ちた狂の悲鳴を、うっとりと味わう。
 己の成功に酔う黄勝への、最高の賛辞だ。
 筋骨逞しい腕ほどもある自慢のぺニスを喰らう肉は、柔らかい中にコシもあり、締め付けも十分の最高級品だった。
「ひぃぃ──っ、裂けるっ、ぅ──、」
「淫魔の尻が簡単に裂けるか」
 悲鳴を笑い、腰を揺り動かせば、痛みはたやすく快感になったようで、甘い嬌声へと変化した。
 何をされても快楽に没頭できる体だ。しかも、すぐに物足りなくなるだろう。
「あ、イぃ──、ひ、そこぉ──きああぁ──」
 固く張ったエラで、ごりごりと熱く腫れた肉壁をこする。抽挿のたびにぐちゅぐちゅと泡立った粘液があふれ、黄勝と狂の体を汚した。
「淫魔とは、かくも淫乱なものか?」
 笑みとともに囁かれた言葉に、狂が辛そうに眉を顰める。
「精力など果てぬ鬼にまで媚薬を施して、いったいどこまで欲しがるつもりだ?」
 なされるがままの狂が、そんなことなど考えるはずも無いと判っていての言葉に、狂が首を振る。
 淫魔の質だけでなく、黄勝が施す言霊に、狂の体はどんどん変化していく。
 人であっても、セックスを何度も繰り返せば、具合はどんどん良くなる。淫魔であれば、それはもっと顕著の筈だ。
 完成品とは言ったものの……これはまだまだ良くなっていくだろう。
 犯されればあふれる媚薬を、何度と無く掬い上げ、狂のぺニスはおろか、全身に塗っていく。髪から垂れた滴が口の中に入りそのままこくりと動いた喉に、笑みは深くなった。
「そういえば、飲んだときの効果を何にしたか忘れたな。よしもっと飲め」
 掬い上げ口元に運べば、鬼に逆らえない淫魔はこくこくと飲み干した。
「まだまだ調べることは山とあるな」
 そんな狂の耳朶を銜えたまま、ざらついた舌で耳腔を犯せば面白いように暴れ、黄勝が動かなくてもぺニスが激しく擦られる。
 一気に昂ぶった体を我慢させる必要はない。
 誘われるままに、狂の腹にたっぷりと精液を注ぎこんだその直後。
「あ、あぎいいぃっ」
 狂が跳ねた。
「ん?」
 いぶかしむ黄勝の上で、狂の体が激しく上下する。
「ひいいいい──達くうぅっ! くうぅ」
 不意に、今までになく精液が噴き上げる。
 あの男たちのセックスや自慰の時とは比べものにならない。あまりの勢いに、数メートルは飛んで、天井に張り付いている。
「ああ、飲んだ効果か」
 媚薬を飲んだせいで精液がさらに増産され、圧力が高まって、射精時に一気に噴き出したのだ。
 その衝撃が凄かったのか、放心状態のままの狂はまだがくがくと痙攣していて、鈴口からもだらだらと流れている。
「ふむふむ、ということは……出させなかったらどうなるか?」
 蓄えるのにも限界がある陰嚢だ。それで媚薬を注ぎ続けたらどうなるか。
 思い立ったことは即実行の黄勝は、狂のぺニスも陰嚢も根元から戒めて、その上でさっきよりはるかに多い量を飲ませる。
「う、あっ……ひきっ──ぎっ」
 奇声を発し始めた狂の陰嚢が見る間に膨れ始めた。だが、膨れるのも限度があって、シワがないほどにパンパンに張り詰めてしまった。
 痛みがあるのか、狂はぼろぼろと涙を流していたが、けれど腰の動きは止まらない。
 射精をしたいと、自分のペニスをかりかりと引っ掻き、邪魔な戒めを外そうとするが、その結び目は固い。
「あ、やっ、達かせて……、くるし……達きた……」
「ふん、苦しいのも良いくせに。ほら、もっと良くしてやろう」
 そう言った黄勝は相変わらず楽しそうで。
 軽々と狂を持ち上げては己の楔に叩き込む。
「──────っ!!」
 声が出ないほどの絶叫が落ち着く間など無い。
 絡み付く粘液は熱く、黄勝の底抜けの性欲をさらに高める。
「その口の中も一緒に味わいたいものだが、ぺニスが1本しかないのが悔しいな」
 自らの体をすべて、狂の体内におさめたい。
 そんな欲求に襲われて、きっとすばらしい刺激だろうと、全身が期待に打ち震えた。 
 さすがに、それは不可能ではあったが。
 体液を巻き散らして踊る狂にできることは、もっとあるだろう。
 快感を貪りながら、頭の中ではたくさんの実験計画が立っていく。
 長い年月を生きて、多少退屈になってきたところだったけれど。狂は黄勝の知的好奇心を最大にまで復活させてくれた。
 どうやりくりしても、すべての実験をこなすには、ずいぶんと時間がかかるであろうが、長い年月を生きる鬼には関係無いことだった。


 料亭の前に漆黒のリムジンが寄せられたのは、ここで接待が行われてから一週間後のことだった。
 恭しく頭を下げた運転手が開けたドアから一人の青年が押し込められたとき、その姿を見た運転手が明らかな動揺を見せた。
 それは、見知らぬ青年への不審感からではなく。艶やかな黒髪から覗いた瞳を見てしまったからだ。
 さらに、健康的な肌に乗る赤みの強い唇もまた艶があり、漂う芳香に、股間が勃起してしまう。
 そんな運転手に気づいた黄勝が、苦笑を浮かべた。
「狂、帰るまでだれも誘惑するなと言った筈だが?」
 乗り込みながらの言葉に、狂の顔が一気に青ざめた。
「し、てない……です、ほんとに……」
「だが、運転手は勃起までしている」
「だ、だって、ほんとに……」
 がくがくと震える狂から視線を外し、今度は運転手に声をかける。
「お前はなぜ勃起した?」
 それに一礼した彼が、欲を滲ませた声音で答える。
「そちらさまを見て欲情しました。見られただけで引き寄せられそうになり、唇に興奮し、芳しくも淫薇な匂いに勃起までしてしまいました」
 運転手の言葉に、狂は何度も首を振った。
「違う。俺からは誘ったりしません」
 それだけでは足りないかもと、何度も否定もした。
 けれど。
「許可無く誘惑するなという簡単な言い付けすら守らず、嘘までつくとは……。帰ったら、たっぷりと仕置きが必要か」
「ひ、い、いやっ、ち、違いますっ。嘘なんて、そんな」
 たしかに狂は何もしていない。
 一週間部屋に閉じ込められて、ただひたすら黄勝に犯されながら、実験や観察をされていた間の記憶を全て残しているせいで、黄勝に逆らう愚かさなど身に染みていた。
 ようやく黄勝の実験から解放された狂は、人としての理性が完全に戻っていたのだ。
 鬼である黄勝は怖くて逆らえない存在で、淫魔である自分は恥ずべき愚かしい存在で。
 これ以上、男達の相手をさせられたくなくて、黄勝に逆らおうなどと考えもしないというのに。
「罰として、射精を封じよう」
 それだけならば、良い。
 だが、黄勝がそんな甘い罰だけでないことは、もう身に染みてしまっている狂が、ガタガタと震える。
 快感さえ与えられなければ、狂の身体は蓄えた精液を体内に吸収する。だが、快感があれば、吸収しきれないままに、次を生産してしまう。限界を迎えた身体は、理性が焼け付き、快楽だけを貪る獣となるが、意識は決して失わない。しかも、さらに精液は生産され、狂にとっては悪循環でしかないのだ。
「期限は、我が支配する実験場で飼っている男どもを満足させるまでだ」
 まさしく、一番激しい罰だったことに、狂が怯えて黄勝に縋り付く。
「あ、あ、そんな……ゆ、許して」
「鎮めて、すぐに車を出せ。行き先は変更だ」
 狂の懇願を無視して、黄勝は運転手に命令した。
 鬼の傀儡である彼に、黄勝の言葉は絶対だ。言葉が終わると同時に、勃起は鎮まって、車はすぐに走り始めた。


 たどり着いた実験場は、人里遠く離れた山奥の工事現場の飯場だった。
 人数にして二十人ばかり。
 借金のかたに連れてこられた彼らは、食事どころか排泄にいたるまですべてを管理され、多種の薬を投与されていた。
 疲労回復薬だというそれらは、男達の筋力をあげ、疲れ知らずの体に変化させていた。その分、知性が衰え、理性が衰えている。ケンカが多く、堪った欲望を解放するために、お互いの強姦事件も多い。
 そんな事も含めて、薬の実験場であるその場所に、根元を戒め、裸に剥いた狂が放り込まれた。
「い、いやだぁぁっ!!」
 悲鳴は、狂気をはらんだ叫声にかき消され、狂の体も赤茶けた筋肉質の体の中に埋もれた。
 すぐに漂い始めた粘液の臭いに、黄勝の口元が弧を描く。
 だが、すぐにきびすを返した。
 長い時を待つのは平気ではあるが、狂にかまけていたせいで、現実世界の仕事が溜まっていた。
 それに狂のおかげで浮かんだ数々の実験には、たくさんの準備がいる。
 懐から携帯を取り出して、腹心の部下を呼び出して。
「淫魔に弟がいる。それも淫魔として覚醒させろ。その後は、お前が好きなように飼えば良い。時折精液を収穫するが……。ただし狂わぬようにな。狂った淫魔など、面白くもないからな」
 携帯を切りながら、背後の肉色の群れを振り返る。
 この実験で、狂はさらに成長するだろう。
 熟れた精液を体内に吸収させてしまえば、今度は肌からその淫靡な匂いが滲み出るようになるだろう。
 ただ、そこに立っているだけで、男の欲望を誘う存在になっていく。
「ここまで成功だと、実験動物も可愛くて堪らないものだ。たっぷりと構って、いろんな成果を見つけ出し、発現させてやろう」
 淫魔として大切に躾よう。だが、こっちの実験体は一匹で良い。
 当分は、狂だけで十分だったけれど。
──育った違いは、淫魔の質にも違いがでるだろうか。
 ふっとそんなことを考え、それはそれで面白い、と、部下の性癖を思い出しながら、黄勝は笑みを深くした。

【了】