【嶺江の教育 六ヶ月目 次の日】

【嶺江の教育 六ヶ月目 次の日】

 新しい学友を得た次の日、嶺江はいつものように起床後の日課をこなしていた。
 ガジェの指示で使う道具が変わることはあるけれど、やるべき事は基本的には変わらない。体の隅々まで観察してもらい、アナルの中を洗浄液が透明になるまでキレイにする。
 基本はそれだけだ。
 こんな行為を半年近く続ければ、もう惰性のように体は動く。
 行為の最中にかけられたガジェの言葉から、普通の男ならばペニスの刺激で射精することを知ったとしても。
 ペニスよりもアナルの方がずっと感じるのは異常だと判ったとしても。
 体内に苦しいほどに注がれた液体にすら感じ、ゴツゴツとした太い張り型で達きっぱなしになるのは、普通でないと教えられても。
 狭いはずの尿道に太い棒を押し込まれるだけで肌が粟立ち、腰が勝手に揺らいでしまうのは、淫乱なせいだと理解しているけれど。
 恥ずべき事が止められない。
 はしたない姿をガジェに晒しつつ、冷ややかな視線にさらに感じてしまう。
 今も、嶺江の染み一つ無い白磁のような肌は欲情に色づき、小降りのペニスは腹に着くほどに反り返ってしまっていた。
 それを指摘する声にも、昂ぶってしまう。
 深く俯けば、視界の中でペニスがさらに淫らな涎を垂していた。
 止めなさい、冷たく命令されても、止められない。
 ガジェの指が肌に触れる。それだけで、火を噴くほどに熱い吐息が零れる。
 そんな体は恥ずかしいことだとも教えられた嶺江は、必死に堪えようとするけれど、肉体は浅ましいほどに、嶺江の心を裏切ってくれた。
 敏感な体は毎日のように欲情する。
 その上で課せられる射精制限が長く続けば、嶺江の心は簡単に理性を吹き飛ばすようになるのだけれど。
「淫乱」
 ガジェの冷ややかな声音が、そんな嶺江の心に冷水を浴びせ、すぐに理性を取り戻させるのだ。
 笑みに彩られた言葉が、嶺江の心に深く突き刺さり、熱く膿んだ傷をさらに抉る。
「淫らな体には、それ相応の罰が必要です」
 その言葉に、ぞくりと全身が震える。
 期待している自分が口惜しい。
 何をされるのか、こんなにも怖いのに。
 怯えを浮かべる瞳とは裏腹に嶺江の肌は興奮に色濃く染まり、期待に打ち震えるペニスが淫らな匂いを放つ粘液を垂れ流した。
 昨日も罰だと言われて、戒められたペニスはそのままに、尿道にもアナルにも栓をされたのだ。
 楽器を模したアナル栓は嶺江の動きに合わせて細かな振動を絶えず起こし、性器でしかない肉筒に狂おしいほどの快感を与え続け、尿道の栓は性感帯と成り果てた肉穴を抉り、奥深くで湧く淫液を外へと垂れ流し続けた。
 学友達が訪れても外されることはなく、嶺江は無様な声を上げないようひたすら堪えることしかできなかった。
 それはあまりにも激しい責め苦で、朦朧とした意識で彼らが部屋から辞するまでは何とか堪えていたけれど、その後の記憶が嶺江には無かった。
 気が付けば、今朝になっていて。
 解放を許されてないペニスは痛みをおぼえ、陰嚢は重く垂れ下がっていた。

 
 ガジェに言われるままに装着した淫具を、浴室の床の上でひっくり返った蛙のごとく足を広げて見て貰う。
 ペニスに巻かれた革のベルト。
 尿道を奥まで犯す棒に、アナルを埋め尽くす太い張り型。
 埋め込むだけで感じてひいひいと甘く喘ぎ、この先のことを期待して、口の端から唾液が溢れ出す。
 太い張り型を通して注がれるたくさんの湯。
 それは堪らなく苦しいものの筈なのに、嶺江の体は期待にますます欲情する。そんな嶺江の体を洗うのだと、天井に近い位置から落とされる湯水。それが肌で跳ねると、じっとしていられないほどの快感が全身を駆けめぐるのだ。
 最初は何も判らなかった嶺江とて、今ではそれがどんなに異常な事か判っているけれど。
 一気に膨れあがる快感への欲求は、留まるところを知らない。
 ガジェの手が、水栓にかかる。
 それを見つめる嶺江の桜色の唇が弧を描き、開かれた白い歯の間から熱い吐息が忙しなく零れ始めた。
 細められた瞳が甘い期待に潤み、じっとガジェの動きを見つめる。
 天井のノズルから、湯が流れ落ちる。
 その動きから目が離せない。
「あ、ああっ」
 降り注ぐ水滴が、鋭く肌に突き刺さる。淫らな粘液を流すことすら禁じられたペニスにも降り注ぐ。
 その刺激に、嶺江は大きく目を見開き、全身を硬直させた。
 肌の上で跳ね返った湯は、今度は滴となって肌の上から流れ落ちる。
「ひ、ひあぁぁ──」
 さらに水栓が開かれる。
 ゆっくりゆっくりと、ガジェは黙ったまま僅かずつ水栓を開き、流れる湯を多くしていった。
 
 
 ひっきりなしに嬌声が迸る。
 ビチャビチャと滴が跳ねる音以上に、響き続ける。
 見た目にはただ湯を浴びているだけ。
 なのに、ひくひくと身悶えて嬌声を上げる姿は、滑稽なほどだ。
 惚けた瞳が期待に充ち満ちたままに、ガジェの動きを追っている。その視界に、ふわりと影が二つ加わった。
 ガジェより小さな、けれど人の姿をした影。
 僅かなとまどいが、惚けた嶺江の瞳に生まれて。 
 不意に、嬌声がぴたりと止まった。
「あ……なぁ……で」
 開ききった口腔が、嬌声とは違う言葉を紡ぎ出す。
 ガジェの両脇の影は人。二人の人。
 いったいいつからそこにいたのか、快感に犯された脳には判らない。
 パチパチと数度瞬きを繰り返すと、さらに視界がはっきりとした。
 金と黒。
 二つの色が、目を射る。それが何を意味するのか、はっきりと覚醒した頭が理解する。
「ひっ」
 高い位置から嶺江を見下ろしてくる黒髪のラオールと金髪のリオージュの瞳が、嶺江の淫らな姿を映していた。
「おはようございます」
 凍り付いた嶺江の表情とは裏腹に、彼らは愉しそうに笑みを浮かべていた。
「──っ、ひっ、や、見、なぁ……」
 体をひねり、頭の下にあった手を動かして股間を隠そうとしたけれど。氷のような視線が火照った肌を貫いた。静かに響く声音が全身を縛り付ける。
「嶺江様」
 それ以上は何も言ってはこない。
「やっ……あ」
 嫌々と首を振りながら、けれど、次の言葉を待つより早く体が元の姿勢へと戻っていった。
 ただ、羞恥がさらに激しく嶺江を苛み、日に焼けていない白い肌が、ほのかな朱色に染まる。
 その肌に水滴が、淫らに飛び散っていた。
「なんというか……イヤらしい格好……」
 凛々しい風貌のラオールが前髪を掻き上げながらリオージュと顔を見合わせ、また嶺江へと視線を向けてくる。
「ほんとうに。どうしてそんな破廉恥な格好をしているんです?」
 二人とも、入ってきたままの場所から、嶺江に向けた視線を外さない。
「…出て、って……たの、む……から、おねが……」
 一緒に学ぶ二人にこんな格好は見せたくなかった。なのに、二人は嶺江の言葉が届いたはずなのに動こうとしない。それどころか、眉間に深いシワを寄せ、ため息すら吐いている。
「嶺江様、あなたはいずれ王になるのですよ」
 ラオールがきつい口調で言い放つ。
「いずれ王となるものが、頼む、などと軽々しく言うものではありません」
 リオージュの声音は優しいけれど、そこには明らかに叱責が込められていた。
 ガジェとよく似た、冷たい響きのそれに、嶺江はひくりと肩を震わせる。
「それよりも、どうしてそのような姿を?」
「このような破廉恥な格好は何故です」
 その言葉に、嶺江はさらに全身を染め、顔を背けた。
 きちんと衣服を身に纏った三人の前で嶺江は、今、何も身につけていない。
 否──小刻みに震える亀頭の先にある一対の翼を持つ金の飾りとペニスに絡んだ革ベルトだけが、嶺江の体を飾るものだ。その飾りが細い水流を浴び、きらきらと輝いている。
「こ、これは……ぁ──、あ、あの……」
「嶺江様、はっきりとお教えください。次代の王であるならば、いつでも堂々となさらなければ」
 躊躇うことなど許さぬとばかりの口調に気圧されてしまい、反論などできなくなる。
「それにしても、嶺江様の股間のモノはたいそうお元気でいらっしゃる。このような辱めを受けて、ひどく感じられているようではありませんか」
「ラオール、そんなことを言うものではないでしょう? 何か理由があって、こんなにも感じておられるのかもしれませんから」
 リオージュの言葉に、嘘をつけない嶺江は力無く首を振った。嘘を吐けば、ガジェから新たなお仕置きを受けることになるからだ。
 だから、首を振る。
 快楽と羞恥に涙を浮かべながら、真実を話す。
「か、体を、キレイに……するために……こうやっ、て……」
 そのとぎれとぎれの言葉を、それでも正確に理解したのか、二人が大きく目を瞠った。
「キレイに……しているって?」
「ということは、嶺江様ご自身がこの格好を?」
 確認するかのように問われては、頷くしかない。
 体をキレイにしなさい、とガジェに言われたのは事実。言葉と共に渡された飾り付きの棒をどうするか、など、説明されなくてもすぐに判った。
 今その棒は、嶺江の尿道を深く犯している。先端の飾りが鈴口に食い込むほどに深く差し込むまで、ガジェの瞳は許してはくれなかった。
 その一対の翼に水流が辺り、水飛沫を弾く。
 未だに落ちる幾筋もの細い水流は、嶺江のペニスを狙って落ちてくる。高い位置からのせいで、微妙に的を外すそれは、陰茎に当たったり、陰嚢に当たったり。
 時々、ふわりと遊ぶように揺らいだ水流が、鈴口を飾る翼にも当たる。
「んあっ」
 背筋に激しい快感が走り抜けた。
 揺らいだ水流が片翼に当たる度に、翼がくるりくるりと回転する。その回転に合わせて、固く目を瞑る嶺江の口から、ひっきりなしに嬌声が零れた。
「どうしたんです? 湯が当たるだけで、そんなにも感じるものなのですか?」
 ラオールが不思議そうにガジェに問いかける。
「嶺江様はたいそう淫乱ですから」
 涙で歪む視界の中で、ラオールが苦笑を浮かべていた。
 その視線が、嶺江の体を這い、金色の翼へと向けられる。翼の根元に付けられた太い棒は、嶺江のペニスの中に沈み込んでいた。
 尿道を傷つけないように柔らかな表面素材で覆われた棒。
 それは見ため以上に長く、陰茎の根元にまで届いていた。それが、翼に水流が当たる衝撃を、奥まで伝えてしまう。中から前立腺を抉り、捏ねくり回すのだ。
 人が動くと水流が揺れる。
 快感にもがけば狙いが変わって、今度は逆に回転する。
「ひ、ひっぁあぁ」
 嶺江の体が跳ねた。
 閉じることのできなくなった口から、涎が飛び散り、嬌声がバスルーム内に木霊した。
 表面が柔らかいといっても、異物には違いない。さらに、その棒は太くて、精液の噴出口を完全に塞いでいた。
 アナルも太い棒で塞がれていて、嬌声の度にひくひくと震えている。
「リジンではこのような入浴方法が普通なのですかね」
 疑問ではなく確信として言われるが、限界が近い嶺江には反論しようもない。しかも──。
「これでは時間ばかりがかかりますね。少し早めましょう」
 手を伸ばしたガジェが、水栓を一気に全開にしたのだ。


「ひあぁ────ああぁぁぁぁ────っ」
 激しい水流の音に紛れて、嶺江の嬌声が甲高く、長く響く。
 天井を向き、手を躾けられたままに頭の下に置いたまま硬直した嶺江の口が、喉の奥が見えるほどに開き切っていた。舌がだらりと外に垂れ落ち、その瞳が呆けたように焦点を合わせない。
 濁流のごとく流れに、ペニスが押し倒され、その先端で翼が激しく震えている。
「あ、あぁぁっ、あ────っ」
 嬌声が止まらない。
 尿道に入った管が、快楽の源を叩き付ける。
「おやおや嶺江様は、ずいぶんと感じやすい体をしておられるようだ」
「ですね、湯を浴びて絶頂を迎えるなんて……。それに、なんてはしたない声を……」
 あきれ果てた口調の二人の口元に浮かぶ笑みは、もう嶺江には届いていない。
「でも、射精していないのに絶頂を迎えるというのも凄いことですね。ほんとうに淫乱な性質のようで……」
「ですね」
 棒に塞がれて射精できない苦痛もある。けれど、それがすぐに快感に塗り替えられる。
 止まらない嬌声に咳き込んだ嶺江を、嘲笑う声が響いた。
「あれ、また絶頂? 止まらないみたいですけど」
「ほんとうにすごいな。こういうのを達きっぱなしというのかな」
 激しい連続絶頂に、全身を痙攣させて絶叫のような嬌声を上げ続けている嶺江を放置して、リオージュが思い出したようにガジェに話しかけた。
「ガジェ様、そろそろ勉強の時間ですが?」
 その言葉に、ガジェがゆっくりと水栓を半分ほど戻した。
「そうですね。これではキリがありません」
 水流が穏やかになって狙いが外れて、嶺江の体ががくんと崩れ落ちた。
 虚ろな瞳をした嶺江の腰ががくがくと揺れ続け、はあはあと喘ぐ吐息が艶めかしく響く。
「嶺江様、そろそろ勉強の時間ですよ。準備を始めてください」
 まるで何事も無かったように言いつけるガジェの言葉も、まだ耳に入っていないようだ。
「……さぼるつもりですかね」
「みたいだね」
 二人の言葉に、ガジェの眉間にシワが刻まれる。
「困ったことに、嶺江様はすぐにさぼろうとなされるのです。特に自慰やバイブ遊びが大好きですから、目を離すことができません」
「……リジンの次代の王となるべき者は、ずいぶんと淫乱なようで」
「王となるべき大事な勉強よりも、自慰に耽る方がよろしいのですね」
 瞼が閉じた嶺江の体が、弛緩していく。とうとう意識を無くしてしまったようだ。
 それでもペニスは完全に勃起し、口惜しそうに鈴口がぱくぱくと喘いでいた。
 その体をガジェが抱き起こす。
 抱え上げられても意識を取り戻さない嶺江を見るガジェの口元が僅かに孤を描いていた。
「本日の勉強は、お昼からにいたします。嶺江様の罰を与える方が先ですから」
「判りました。では、私たちは一度別室に戻ります」
 昨日から準備されている二人専用の別室は、この館の離れにある。そこに戻って、二人で遊ぶ時間は、たっぷりとあった。


 嬉々として部屋から下がるリオージュの腰に、ラオールの腕が回される。
「ねえ、ラオール」
 少しだけ背が高いラオールを見上げてくるリオージュの視線が、淫らな色を見せていた。
 あの嶺江の淫猥な姿に煽られて欲情している恋人を愛おしく見つめ、ラオールは急くように足を動かす。
 自分の中に込み上げる劣情を必死に抑えつけ、今は早くリオージュと二人だけになりたくて堪らなかった。
 毎日あんな嶺江の姿を見続けて、どうやって平静を保っていられるのだろう。
 これから先、ガジェのように冷静に対応し続けなければならぬ苦行を思って、目眩すらおぼえていた。


【了】