【海音の懇願】

【海音の懇願】


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 寝具に投げられた海音の身体が、何度も弾んだ。
「うっ、くっ」
 小さな呻き声が、微かに開いた口元から零れ続けている。それは苦しげではあったが、甘く強請るような細か吐息も混じっていた。
 貞操帯だけを巻いた腰が、ずっと淫らに揺らいでいる。勃起しきった陰茎は、その鈴口から5cmほどの太々としたトウの蔓が覗かせていた。ここまで勃起すれば涎のように淫液を垂れ流すのが常だが、尿道を5mm以上押し広げていたトウの蔓のせいで滲むことすらできないようだ。
 ザーメンどころか淫液すら閉じこめられた陰嚢は、張り詰めた陰茎の下で重く垂れ下がり、腰が揺れるのに合わせてペシペシと揺れて太股を叩いている。
 横たわった身体は、腰以外は力無く投げ出されていたけれど。早い呼吸に、赤い筋の入る胸が上下していた。
 その肩に触れても、反応は無い。
 手のひらを介して触れた肌は滑らかで、乾いてひんやりとしていた。
 その肩を僅かに引けば、敷き布に髪が乱れて散らばる。その隙間から覗く空色の瞳は濁り、焦点は合っていなかった。白い顔にくっきりと残るクマは痛々しいほどに刻まれている。
「ふあっ、あっ……」
 それなのに、その濡れた唇は薄く開き、赤い肉色の舌が覗き、艶めかしく白い歯を辿る。何かを欲するように動く顎と頬の肉。たらりと流れる涎は、白い顎を汚していた。
 その姿に、海音はニヤリと口角を上げ、寝台に片膝を上げた。
 いつもと同じように、その身体には衣服が身につけられている。
 だが。
「今宵は特別よ」
 カルキスはその口元だけで嗤いながら、ゆっくりと上着を脱ぐ。
 ラカンの王らしく質実剛健な装いにふさわしいそれは、それほど枚数は無い。だが、ことさらゆっくりと一枚ずつ脱ぎながら、その手は時折悪戯のように海音の尻を撫で、勃起した陰茎を持ち上げる。
 そのたびに、海音の身体は小刻みに震え、冷めてた肌は熱を帯び、仄かな朱色に染まっていく。
「あふっ、うっ……ふ……」
 零れる吐息も熱い。その唇近くに顔を寄せて触れ、その熱く淫らな喘ぎ声を感じて。それが早くなるように手を動かして煽り、脱いだ衣服で肌を嬲る。
 限界近くまで嬲られた海音の身体が、今もまだ男の熱を欲しがっていると知っていて、なお、嬲る楽しみを満喫しながら、嗤うカルキスは海音の腰で止められてた貞操帯を取り外した。
 平編みされた組紐はきついほどに締め付けられて、その肌に食い込んでいた。肌に残ったその赤い痕を口付けて舐め上げれば、腰が押しつけるように動く。動かなかった上半身までもが、敷き布の上を踊り、シワを幾つも増やしていた。
 貞操帯を取り除けば、それで押さえられていた尻穴の栓がじわりと穴から抜き出てきていた。
 カルキスのそれに近い太さとは言え、慣れた海音の尻穴では、とどめることなどできないのだろう。
 じわじわと抜け出るそれを、カルキスは手を止めてじっくりと観察する。
 栓は長くは無い。
 ずんぐりむっくりしたそれは、一度狭くなり、また太くなって、先端まではまた細くなっていく。
「あ、あっ、んっ」
 そんなものでも感じる身体がブルブルと震えている。
 口角から垂れる涎はますます止まらなくなり、淫靡な声は大きくなり、その眉根は切なげに寄せられていた。
 尻の違和感に、身体が知らず産み落とそうとしているようで、その姿はひどく淫猥だ。
 その淫らな姿に慣れているはずのカルキスですら、喉が鳴る。
 堪らず手を伸ばし、その両膝をぐっと割り開いた。途端に、身体が仰向けになり大きく股間を割り開かれた姿を晒しても海音は、ただ己の内から湧く疼きに身悶えている。
 仰向けになったせいで、栓がまた中に入り込んだようで、出ていた部分が少なくなっている。
「や、あぁぁ」
 この姿勢では、出にくいのか、苦しげに眉間のシワが深くなり、身悶えて、腰を浮かせようとしていた。
 息む様子は見せるが、出ては入っていく。
「あ、やあ……ぁっ、あっ……」
 焦れったいのだろう。淫らに喘ぎつつ鳴きながら顔を赤らめて、腰をくねらせると揺れながらひくひくと栓が生き物のように蠢く。
 その淫らな動きをじっと見つめていたカルキスだったが、ふとまとわりつくような視線を感じた。 ふっと顔を上げると、空色の瞳が縋るように見つめているのと絡みあう。
 指先が惑うように動いて、伸びた。
「か、るき……す」
 吐息に、言葉が重なった。
 拙い口調で、強請るように。その視線はカルキスから離れない。
「……カルキ、ス、さま……」
 濁っていた瞳が、ただ一人の救いの主を捕らえて、その最奥で光りを灯した。
「……くだ、さい……」
 海音は知っているのだ。
 たとえ理性を飛ばしていても。否──飛ばしているからこそ、今、自分を救ってくれる者が誰であるかを、良く理解していた。
 だから、手を伸ばす。疲れ切った腕は持ち上がらない。けれど、指先だけが伸びるのだ。
「あ、あっ……」
 息を飲み、出せない栓を出そうと息み。
 苦しげに呻くにしては、その声音は甘い。体内を穿つ栓の圧迫感に、痺れるような快感に捕らわれているのが見た目でもよく判った。
 そんな海音をじっと見つめていたカルキスが、ふっと息を吐いた。
 口元だけに浮かんでいた嘲笑がより深くなり、喉の奥でクツクツと低い嗤い声が響く。
「何が欲しいのだ、カイネ?」
 カルキスの手が、悶える海音の顎を捉え、その薄く開いた口の中に親指を入れる。弱々しく当たる歯先に沿わせ、怯える舌を押さえて遊ぶ。
「あ、うっ、うっ」
 問いかけに応えようとするけれど、指が邪魔で喋られない海音の口角から溢れた涎がつうっと筋を作った。
「言葉も知らぬ淫獣に成り果てたか」
 指をさらに入れ、言葉を紡ごうと絡みつく舌を捕らえて爪を立てた。柔らかく熱いそれは、海音の潤んだ肉壺と同じ感触だ。別の指をずるりと奥まで入れて、口内をくまなく指先で嬲れば、びくびくと海音の身体が痙攣し、喉の奥からさらに熱い吐息が零れてきた。
 とろとろに蕩けた身体は、口内とて性器でしか無くて。
 どこを触れても感じる身体に仕上げろ、と命令した調教師達の手管は見事なもので、その仕上がり具合にカルキスの面に満足げな表情が浮かぶ。
 今の海音は口内で感じることなど序の口で、首筋を撫で上げればそれだけで腰を震わせ、腕を掴めば腰砕けになって跪き、髪を引っ張れば、淫らにその身体を捩って許しを請うのだ。
 だからこそ、いつもと違う陵辱はこの身体にたいそう堪えたはずなのに。
「うっ、あっ、お、い……うだあ、い……」
 カルキスが近づけば、嬉々として身を捩り、肌が触れれば歓喜の表情を浮かべて喘ぐ。
「欲しいか……」
 言葉足らずになりながらも繰り返す要求が何かなど、聞き取れなくても判る。
「私以外の男を喰らい込み、悦んでいたくせに、まだ欲しいと言うのか?」
 それに、コクコクと頷く嬉々とした表情に、かつて原初の民を束ねる国の第一王子だった気品はどこにもなかった。
「私より、あやつらの男根の方がよほど旨かったのだろう? だったら、強請る相手は私ではなく、あの者達であろうよ」
 ずるりと口から指を抜き出せば、垂れるほどに唾液がまみれていた。たらりと落ちたそれが、海音の首筋を嬲り、敷布まで垂れていく。
「んっ」
 その刺激に身震いし、けれど、慌てたように首を振った海音の髪がパサパサと敷き布を叩く。明らかにカルキスの言葉に怯えている海音が、保身に紡ぐ言葉は震えていた。
「欲しい……は、カルキス、様、だけ……です……ぅ」
 それのどこまでが本心なのだろうか。
 内心までをも見抜こうとするカルキスの瞳の強さにさらに怯え、海音は涙を浮かべた瞳を瞬かせた。
「やだ……、もうやっ、あれらに……やらない、でくださっ……」
 あれらが何をさすのか明白で、そこにある怯えはカルキスに向けたものより強く、激しかった。 あの男達の陵辱に身体の震えが大きくなっいてた。朱に染まった身体がどこか白くなり、唇がわなわなと震えている。
 その視線は力無く澱み、けれど縋る様子はますます強くなり、カルキスから外れない。
「そうか? だが、あれらで悦んでいたのも事実。まだ今なら呼び戻すのも容易い。せっかくだから、もうしばらく滞在させて、お前の相手をしてもらうとしよう」
 くすりと笑みを零しながらの言葉に、その表情がますます強ばり、言葉が紡げないほどに震え出す。快楽に蕩けていた理性すら呼び起こすほどに、身体が危険信号を発しているのだと、誰が見ても判るだろう。
 調教師の容赦ない教育と厳しさとは違う。
 カルキスの躾とも違う。
 許可さえあれば平気で壊すだろうほどの勢いの陵辱など、実際海音は初めてだったのだから。
 しかも、複数を相手にしたのも初めてだ。
「い、いや……、あっ、ひっ……」
 思い出すほどにその恐慌は激しく海音を怯えさせ、ガクガクと震える身体を縮こませて逃れるように、助けを請うようにカルキスに躙り寄ってくる。
「た、たすけ……て……ぇ。いやぁ……」
 ボロボロと涙を流し、思うようにならない身体で擦り寄る姿に、あの矜持ばかりが高かった頃の海音の面影はどこにもなかった。
 幼子よりも無力で。
 誰よりも助けを請う相手がいないひとりぼっちの王子。
「嫌ならば、誓え」
 そんな弱い者に与えるにしては、カルキスの放った声音はたいそう強かった。
 その身体に染みこみ、精神までをも支配するほどに強く、海音の全てを縛り付けるように。
 耳朶に唇を寄せ、その耳元で囁く。
 何度も何度も。
 海音の脳にその言葉を染みつかせるように。
「お前が私の子を孕みたいと強く願うならば。私の子を孕むためなら何でも行い、その願いが叶い、私の子を孕むのであれば、そうすれば優しく女性を抱くように抱いて大事に扱ってやろう。国母であれば、私が大事にする理由は大いにあるからな」
 それは通常ならば有り得ぬ願い。
 決して叶うことなど無いというのに、まるであり得るように教え込む。
 その囁く誘いの言葉は、怯えて疲弊しきった海音に甘露のように染みこんでいって。



「あ、……あ。、カルキス、さま……。陛下の逞しい御身、を……どうか……神聖なる……種を……」
 それは、過去、何度も言わせて身に付けさせた言葉。 
「どうかぁ……神聖なる子種を……くださぁ、い……」
 快楽に溺れた海音が、教えこんだ淫らな言葉とともに強請るのは、いつものこと。
 けれど、今宵カルキスが教えたのは、まったく別の言葉で。
 海音は抱き寄せられたその腕の中で、うっとりとそれを呟き続けている。
「淫乱で尻軽なカイネは」
 自らを辱め、それすらに酔いしれたように身悶え、篭もる熱とともに次の言葉を吐き出す。
「どうか……カルキス様の御子を孕むほどに……、たくさん、欲しいです。どうか……」
「純血のリジンの王子であり清く潔癖なお前が、混血の私の子が欲しいと言うのか?」
「……は、い……、私は……カルキスさま、の、御子を……孕みたい……」
「混血のラカンの王の子を孕みたいか? リジンの理を捨ててまでなお?」
「……は、い……どうか、孕みたい……欲しい……子種、お腹いっぱい……きっと」
 何を言っても、何を問うても。
 「孕みたい」と繰り返す海音は、カルキスの身体に縋り、淫らに濡れるペニスをその逞しい身体に擦りつけて、快感を追っている。
 それは、まるで愛おしい恋人に強請るさまにもたいそう似ていて。
 今までずっと純血の理を守り通そうとしていた海音の堕ちた姿がそこにあった。