【海音の懇願】

【海音の懇願】


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「カイネ様をお連れしました」
 先ほどまでの傍若無人な態度を消し、狗乱達四人はラカンの王カルキスの前で跪いて頭を下げた。
 傍らに転がされている海音を見やり、カルキスは満足げに頷くと狗乱達に視線を戻した。
「ご苦労だった。礼金は用意させている」
「はっ、ありがとうございます」
 再度頭を下げて、何を言われるより先に、狗乱達はその部屋を退出した。
 長居は無用だと、弁えていた。その勘の良い処世術は今までずっと狗乱達を守ってきたもので、逆らえば身の危険が増すことを知っていた。
 王の人となりを知ってはいても、彼らに根付いた意識は消えない。
 この城で何をしたか、何を命令されたか、全てを自らの胸の奥に収めなければならないことも、契約を交わさなくても、判っていた。それを破れば、即追っ手がかかるだろう。
 だがもとより、王侯貴族の約束など信用はしていない。この先、口封じに襲われる可能性だってある。だが、それが些細なことに思えるほどにこの僥倖を味わえたことを、幸いと思えた。それだけで、金など要らないとすら思うほどにだ。
 そしてまた。
 カルキスもまた、すでに彼らの事などどうでも良くなっていて。
 その視界には、もう海音の姿しか入っていない。
 海音の元へと近づいたカルキスは、足先で俯せに転がった海音をひっくり返した。
「ん……お、許しを……もう……」
 虚ろな視線が宙を彷徨っている。
 海音が何をされたか、知っていた。あの部屋は、海音の部屋と同じく隣室から覗くことができた。
 粗野な男達が何をしたか、何を強要したか。
 海音が何を言って、何を強請ったか。
 それを見て、カルキスは愉しくて、けれど、自分がそこにいないもどかしさを感じていた。だが、そこにカルキスが出てしまえば、それでは調教の効果が薄れる。
 今回のこれは、カルキスが関与していないからこそ意味がある行為なのだから。
 疲れ果て、ぐったりと横たわる海音は、意識も朦朧としていた。
 5時間以上犯され続けている間、気絶すら許されなかった海音は、男達が去った後もその言いつけを守っているようで、理性などないだろうに必死に意識を保っている。その必死さは、悲惨な姿とも相まってカルキスの琴線を擽った。
 それが何の琴線なのか、そこから何かが生まれ、それにひきずられそうになるけれど、それが一体何なのかよく判らない。
 判らないが、海音が虚ろながら自分を見ていることに笑みが生まれる。
「どうだった、私以外の男の味は?」
 その身体を引き起こし、己に上体を預けさせ、耳元で囁く。
「美味かったのであろう? お前の強請る甘い声が、城中に響いておったわ」
「……カ、ル……ス……」
 ようやく傍らにいるのが誰か判ったのか、海音の色を失った唇が譫言のように言葉を紡ぐ。
「私が可愛がるより良い声で鳴いて、誰が主人か忘れていたのではないか?」
 その腫れた尻穴に手を潜り込ませれば、難なく四本が潜り込んだ。
「ひっ、いっ……」
 そこが熱い。一体あの四人の男達の男根を何回銜えたのか。だが、開いたままのくせに腫れていて、いつもより狭いような気がする。
 ねとりと絡む内壁は、いつもと動きが違う。
「あっ、やっ……はっ」
 前立腺を軽く押しただけで、身体がビクビクと跳ねた。あれだけ遊ばれて、けれど、この身体はまだ貪欲に欲している。弛緩した身体の中で、勃起した陰茎だけが元気だ。
「欲しいか、カイネよ」
「カル……」
 何故だろう。
 この王になり損ねた美しい王子は、あれらに汚されてなお、その高貴さを失っていなくて、けれどやはり、ひどく淫らだ。
 その事がひどくカルキスを愉しませて、嬉しく感じる。
 カルキスの持ち物であるこれを、他人に汚させるのは調教の一環でしかなかった。気高きリジンの神の子の末裔への恨みは激しく、いくら汚しても汚したりない。徹底的に嬲り、矜持よりも快楽を取るほどにしてやろうと考えた。
 だから、あれらに犯させたのだ。
 策略というものに縁がなかった海音が、この城のどこかに隠した花押を探し出せるなどとは思っていなかった。その無力さを自覚させ、海音達が卑下していた輩に犯される屈辱を与える。
 戦勝国の王に犯されるよりも、心の傷は深くなる。
 どんな時でも気高くあろうとするその矜持は、ボロボロに崩れるだろう。
 それは、実際効果覿面で。
「……カルキ……スぅ……」
 甘い声でカルキスに強請る憐れな王子のなれの果てが、ここにいる。
 性奴隷にふさわしく、その身も心も淫猥にとろけた状態で。
 その姿に、心が和む。
「カイネ、どうして欲しい?」
 少し優しい声音で声をかければ、彼は僅かに目を瞬かせて、それからうっとりと微笑んだ。
「挿れて……、達かせて」
 強請るように伸びる手が、カルキスの腕に触れる。
 まるで幼子のように欲する海音の姿は、今までとは違っていた。
 誘われるようにさらに奥へと指を潜り込ませれば、何かが爪先に当たる。
 コツコツと固いそれを数度叩けば、そのたびに海音が身を捩り、あえかな嬌声を上げた。
「どうした、何か貰ったのか?」
 硬質なそれは、それほど太いモノではないか、指が届くかどうかぎりぎりだ。これは海音が自ら排出しないと出てこない。
 けれど、倒れ伏した海音は淫らにのたうつけれど、後孔に力が入らないようで。
 狗乱を呼んで聞こうかと首を傾げたとき、その腹に何か文字が書いてあるのに気が付いた。
 拙く簡易文字が多いそれは読みづらい。
 だが。
「くくっ、良いモノを貰ったな」
 愉しげに笑みを零したカルキスが、鈴口から生えるトウの蔓を手に取った。
「トウの木は、蔓も実も葉も似たような特性を持つ」
 まだ固い鶏卵大の実は、種が熟すと水の中に落ちて分厚い果皮部に水を吸い込み膨張する。そして倍の大きさまで膨張するとその皮が割れ、柔らかく粘りけのある果肉と果汁とともにとともに流れに乗せることで、その子孫を増やすのだ。
 そのうちに蠕動運動で多少は降りてくるだろうが、体内の液体程度でそれまでにどこまで膨張するかは判らない。だが、ある程度まで膨らむと、今度は容易に出てこなくなるだろう。実が割れてしまうまでは。
 カルキスは首を傾げ、僅かに逡巡して。
 ニヤリと口角を上げると、海音を抱き上げた。


「あ、んあっぁっ」
 淫靡な喘ぎ声が、湯気が立ちこめる洗い場に響く。
 海音のためだけの洗い場はガラスの釉薬が塗られた陶板が敷き詰められ、壁からは豊かな湯が大きな桶に注がれるようになっていた。
 その桶の横で全身をくまなく石けんの泡で覆われた海音が横たわり、まともに動かぬ身体をくねらせている。
 カルキスにより風呂に連れてこられて、無造作に湯をかけられては、気など失っていられないのだろう。
 虚ろに目覚めた海音を待っていたのは、たくさんの石けんの泡とその泡に潜り込ん出いるのは、調教師の手だった。白い肌を覆う白い泡から覗く、ゴツゴツとした男の手の甲が、ゆっくりと這い、時折ぐっと筋を浮かせた。
 そのたびに、海音の艶やかな嬌声が響き、湯気の篭もった熱い空間の熱をさらに上げる。
「静かにしな。王の性奴隷のくせして他の男の——しかも、賞金稼ぎのならず者なんかに突っ込まれやがって。いくら洗っても、ちぃっともキレイになんねぇぜ。ったく、王もお優しいこった。こんな粗悪品の奴隷なんか、ドロドロに汚れたまんま、ゴミ捨て場にでも放棄しとけば良いのによお」
 ブツブツと文句を言いながら、その手のひらはの動きは優しいと言えるほど、ゆっくりとした動きだ。
「あそこで血と腐臭にまみれた身体で転がっとけば、こんな身体、獣共が悦んで喰ろうて片付けが楽っつうのに」
「ひっ、イっっ」
 男の指がまろやかな膨らみの狭間でぐっと沈む。途端に海音がその背を限界まで仰け反らせ、ぴくんと硬直した。見開かれた空虚な瞳からぽろりと涙が流れ、開いた口からちらりと涎が流れ落ちる。
 そんな海音の様子をまったく無視し、男は腫れ上がった尻穴に突っ込んだ三本の指を、ぐりぐりと掻き回して、肉壁に石けん水をなすり込んだ。
「一体何本貰ったんだよ、汚ねぇチンポを。なんべん洗ってもザーメンが流れて止んねぇし」
「ひぎぃ、痛ぁぁっ、あぁぁっ」
「すげぇ、締め付け。俺の指を食い千切んじゃねえよぉ、この好きもんが」
「あうっ、ああぁっ、やぁぁぁっ!」
 開いた手でべしっと赤く腫れたままの尻タブを容赦なく叩く。
「お、お願いっ、止めてっ、止めてくださいっ」
「はあっ、こっちゃ洗ってやってんだよ。てめぇがご主人様以外のチンポに悦んだ身体をよぉっ。よがって、強請って、たあっぷり飲み込んだクソ汚ねぇザーメン汁を掻き出してやってんだ。それをてめぇは、感謝するどごろか、やめろってかぁ?」
「ぎぃっ、ひぃぃ————っ!!」
 調教師の手が、海音の濡れそぼった銀の髪を掴み、乱暴に引き上げた。滑らかな背が弧を描くほどに反り、涙と涎にまみれて引きつった顔が調教師の顔に近づいた。
 手当をしていない髭だらけの男は、カルキスより立派な体格を持っていた。その太い腕は力強く、片手で、海音を振り回すほどだ。
 海音直属の三人の調教師のうち、もっとも粗野で言葉遣いが荒く、海音を傷つけるほどに容赦ない陵辱を加えるのがこの男だった。
「も、もうし——わっ、ありませ、あぁっ」
 謝罪の言葉など知らなかった海音に、初めてそれを教えた男でもある。
 それは、まだ調教の最初の頃で、頑なに男の言うことを拒絶した海音に施された罰を受けたときだった。
 痺れて色が変わるほどに両腕と両足それぞれに巻かれた縄が何を意味するかも判らずに、首を荒縄で繋がれて、そこから伸びた縄を持った頑強なこの男に、海音は全裸のままに引っ張られて城の中を走らされたのだ。
 息が切れて、手足が疲れて止まろうとしても、男は止まらない。
 そのうちに手足が先端から青白く色を変えて力が入らなくて何度こけても、男は止まらず、首が絞まる恐怖に襲われて、立ち上がり、男を追いかける。
 階段も止まらない。廊下も止まらない。
 そのまま屋上庭園まで走り、転んで柔らかな土にもたつく間にも引っ張られて全身が泥だらけになっても、止まらない男に、いつしか海音は朦朧とした意識の中で、譫言のように繰り返したのだ。
『申し訳、ありません、ごめんなさい。すみません』
 繰り返される謝罪の言葉に男がようやく止まったときには、冷たい石畳の上で大の字に倒れ伏した海音はまともな意識など無い状態だった。
 その両手足は完全に青白く、生物とは思えぬ色をしていた。
『このクソ雌ブタがっ、この俺様に息を切らせる程走らせやがってっ』
 毒突く男の手が、器用に両手足の縄を外して。
 そこに一気に、運動により熱くなった血流が流れ込んだ。
『……、あっ……あっひっ、ひぃぃ——っ』
 痺れなど無縁の海音を初めて襲ったそれは、強烈だった。
 痛いとは違う。いや、紛れもなく痛みだ。だが、疲れきった身体ですら暴れてしまうほどの痺れは、心臓が脈動する度に酷くなる。
『気持ちイイのか、おい』
 大声で嗤いながら、男の手が海音の尻を割り開く。その手に握られて張り型が、悶え苦しむ海音の尻穴に容赦なく突き刺さった。
『あひっ——ひぃぃ——ぅぅっ』
 その張り型は男根とたいした差はないほとに大きさで、その頃の海音はこの大きさは初めてだった。だが、手足の痺れのせいで、感じるはずの痛みが紛れてしまう。
 そして、男の調教の手管は間違いなく、張り型で圧迫されたせいで海音の陰茎は溢れる血流が注ぎ込まれて、今までに無く勃起していた。
『はははっ、こんなでけぇの突っ込んで、悦んでやがるっ。チンポ、びんびんじゃねえかよっ。ほら、踊れよ、あははっ』
 何度も嗤われ、屈辱の中で過ごした日々。
 この調教師は海音を見下し、罵声ばかりを浴びせて海音の精神を傷つけてきたのだ。
 特に、この調教師は医者でもあり、人間の限界を良く心得ていた。
 血流を止めて何分なら大丈夫か。
 浣腸で入る限界はいくらか。
 どの程度、排尿を許さなくて良いか、排便は何日持つか。
 媚薬などいっさい使わずに、知り尽くした限界を海音に与え続けるこの調教師は、痛みと苦しみとともに尻穴からの快感を与え続けた。カルキスよりそのような調教を許された調教師は、自分の番になると自分の全ての技を海音に注ぎ込んだ。
 その結果、海音がその精神の防衛本能から痛みや苦しみの中の快感のみを拾い上げるようになるまで。痛みや苦しみは、同時に快感をももたらすものだと覚えるようになるまで。
 この調教師は、いつでも海音に苦しみと痛みを与え続けた。
 調教師はまた、医療と人の生態系と同じく、薬や毒になる植物についても良く知っていた。
 当然ながら尿道を塞いだトウの蔓がこの湯でさらにその太さを増して、その細い穴を限界まで広げてしまうことはもちろんのこと。
 腹の中のトウの実が割れる寸前まで膨らむのに必要な水量もまた。
 良く知っていた。
「ほおら、これだけ挿れれば良いだろうよ。おぉっと、漏れんように栓しといてやらあ」
 陵辱され続けて腫れた尻穴をさんざん掻き回され、痛みと快感に再びぴくりとも動かなくなった海音の尻穴に、調教師は分量を量った湯を注いで、零れないように太い栓を施した。
 その栓が抜けないように、上から貞操帯を締め付け、錠をかけて。
「おい、雌豚。恐れ多くも我らが王が寝室にお呼びだ。せいぜいブヒブヒ鳴いて、てめぇのザーメンくせぇ身体でご奉仕しろよ」
 蔑む言葉に海音は反応しない。
 けれど、その瞳からはボタボタと幾筋もの涙が流れ落ちていて、この狂気の宴がいまだ終わらないことを海音が理解していることは明白だった。、