【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー3

【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー3

一-三 お披露目

 普段の嶺炎の目覚めはとても良い。
 だが眠れたと思う間もなく、朝食が供される時間だと起こされた時、その気分はあまり良くなかった。
 それでも外聞を取り繕うだけの余裕はあるし、冷たい水で顔を洗えば気分もそこそこに良くなってくる。
 傅かれることに慣れた嶺炎にとって、朝から周りに人がいることは慣れたものだ。
 魔王が支配する国ではあるが、周りの人々は普通の人のように見える。朝食を給仕する召し使いもただの人で、必要なこと以外はしゃべられないのも王城勤めであれば当然のことで躾も十分に行き届いていた。
 それでも食後の片付けを始めた相手にいくつか質問を投げかけてみて判明したのは、王の代替わりは本当であること、しかも王位を継いだのは前王の正統な息子であるのだと、彼らは皆誇らしげに教えてくれた。
 ただそれが王子の誰かは後でわかることだからと教えてくれない。
 そのあからさまな拒絶には嶺炎から見ても違和感はあるが、彼らはそれが当然だとでも言うように「お披露目の儀をお待ちください」というばかりだ。
 だが祝すべき新しき王のお披露目の儀が夜に行われるというのは異常なことだ。その点を尋ねても、誰も不審には思っていないということがわかるだけ。
 嶺炎の行動は制限などされていないようで、朱雀城のいろいろなところに足を伸ばす。
 出会う重鎮、騎士、召し使いの誰と話をしても以前の来訪時と反応は変わらず、最奥にある神殿では神官が神をまつる儀式をしていた。そこに魔族の気配はないし、彼らもまた新しく王を崇拝していた。
 窓の外を見ても、そこに広がるのは穏やかな南国の景色。
 真実を知っている嶺炎ですらすら、魔王のどころか魔族の存在を感じることはできない。あの妖しい衝動を伝える闇烏の姿もない。
 一通り城内を見て回り、嶺炎が下した決断は、今のままでは何も聞き出せないということだけ。
 ならばやはり直接話を聞くしかないのだろう。
 次第に空が薄く陰り、はるかな地平線に太陽が沈む。
 嶺炎は室内に灯りが点る頃になって、お披露目の儀に参列するための正装へと着替えた。
 時間が来れば再び紫の炎の珠がゆうらりと室内に現れる。その儚い姿を一瞥した嶺炎は、その珠が導くほうへとためらうことなく後に続いた。
 薄暗い通路を歩きながら、昼間何度も問いかけた言葉を思い出す。
「不勉強ながら、この国の新たな王となる方を知らぬ。このたび王になられた方が何歳におなりであったか教えていただきたいのだが?」
 そういう簡単な問いなら「数えで十九でございます」という答を得ることはできる。
 だが、「夕月(ゆづき)と聞いたが?」と問いかけても、皆一様に笑みを浮かべて恭しく頷くだけ。
「ご存じでございましたか、さすが嶺炎殿でございます」
 と認めても、自らその名を口にすることはなかった。
 まるでその名を口にするのも不敬だとでも言うように、彼らはその名の持ち主に深く従っているようだ。
 そんなことを考えながら進むうちに、気付けば嶺炎は自身の腕をその手のひらで擦っていた。じわりと肌から滲むように伝わる冷気。南国である〝南の国〟の夜とは信じられない寒さに身を震わせる。
 それはお披露目の儀を行うという大広間が近づくにつれ強くなった。
 昼間は確かに人の気配がした城内だが、今は存在が曖昧しか感じられない。人がいるのか、それとも違う何か。
 だが人はいるのだ。召使いは忙しげに行き交い、お披露目の儀のためか招き入れられた会場では宴の仕上げが忙しい。
 嶺炎が一歩踏み出すたびに深く礼をした彼らは下がっていく。
 だが、まるでその代わりだとばかりに現れたのは闇烏。このモノだけは確かに人でないとわかるほどに人の中では浮いている。
『お待ちしておりました』
 昨夜の影と同じ声音に導かれて、奥へと連れられていく。
 白を貴重とした部屋は、柱から天井の梁まで繊細な彫刻が刻まれており、色あせぬ色彩で南の植物が描かれていた。
 この国の風習どおり身体が沈み込むほどに厚い絨毯の上に並べられた大きめの座布団に座らされ、目前には祝いの膳と杯が足つき盆に載せられて並べられていく。皿に盛られているのは〝南の国〟特有の宮廷料理。
 上座にあるのはごく短い足で幅広のゆったりとした椅子。座面が床に近い座椅子と呼ばれるもののようで、長椅子ほどに幅はあり、座面は大きく背もたれは高い。柔らかそうなクッションは厚手の織りに金糸が織り込まれ、灯火にしては明るい照明にきらびやかに輝いていた。
 今、そこは空いている。
 先に埋まったのは招待客となる嶺炎とユーリア、そしてカストの席。
 招待客はそれだけだと気がついて、嶺炎の眉間に深いしわが刻まれた。てっきり国を挙げての式典かと思いきや、これではひどくこじんまりした内輪の席でしかないだろう。
 いや、大陸にある四つの国から招待客は一人ずつと言っていたから、これで全員なのは確かだ。大陸での国の位置を表すように、膳を挟んで東西南北にその座席が据えられていたと気づいたのは、〝南の国〟の王の来場を告げる声が響いたときだった。
 その声に視線が動く。
 声の主は闇烏、だがその姿を目にしたとたんに、嶺炎からして南側からとてつもない力が叩きつけられた。揺らいだ身体は伏せることしかできず、喉の奥から吐き出すように呻き声が漏れた。
 隣ではユーリアも同様に片手をついて身体を支え、カストは蹲って丸まっている。
 カストとて決して貧弱ではなさそうだったし、この力を受けて気を失っているわけではない。
 だがそれでも無様な姿をさらすしかないほどに、力の主は正視できぬほどに強い力を放っていた。
 その時間は数十分にも感じたが、実際にはもっと短かったのだろう。始まったと同時に不意に終わった圧力は、気がつけばどこにもない。
 解放されたとたんに、耐えるのに強張っていた身体が反動で大きくぐらついた。
「あぁ……くっ」
「き、つ……い」
 左右からの呻き声を聞きながら、嶺炎は奥歯が鈍い音を立てるほどに噛み締めていた顎を緩めた。強張った身体は意識しないと緩められない。まずは手指から順番に動かして、倒れかけた身体をゆっくりと起こす。
 顔を上げれば、先ほどまで誰もいなかったはずの南の座に、二人の人物が座っていた。
 一人は長い金髪に空色の瞳で、白い長衣に身を包み優雅に足を投げ出した青年だ。その服はこの国の神官のものに似ているが、特に模様がない通常のに比べれば、彼が着ている物は刺繍で美しく飾られている。細い首には紅玉付の金鎖の首飾りがあり、長い金の髪は美しく結い上げられて翠の髪飾りで止められていた。
 肌は〝南の国〟の民らしく、嶺炎達よりも濃く、空色の瞳は、明るい空の色だ。
 〝北の国〟では恋い焦がれる空の色は、彼にとても似合っていると確か初対面のときに言った覚えがある。
 あの時のように聖なる色を身にまとう彼は、嶺炎と目が合うとその口角に淡い笑みを浮かべた。
 そしてその隣にいる男。
 本来ならそちらのほうに先に目が行くべきか。だが嶺炎の豪胆なはずの精神は、彼を直視することを拒んだ。
 嶺炎より大柄な偉丈夫とも言える体躯、赤い豊かな髪は背中までうねりながら伸びて、猛禽のようにするどい瞳は紅玉のごとき赤。端正な中に野性味あふれる相貌は、悠然と伏せていた三人を睥睨していた。
 そんな彼が着ているのは嶺炎の着ている軍服によく似たものだ。長い赤髪を無造作に肩から後ろへと払う手はしなやかで美しいが、指先にある黒い爪が禍々しさを醸し出していた。
 その男が口角を上げる。
『ゆるりとくつろがれよ』
 その言葉は確かに耳から聞こえてきたはずなのに、脳に直接注ぎ込まれたような違和感に怖気が走る。何より人が持つ声とはどこか違うものだと、嶺炎はいまだ痺れたように怠い身体を鞭打って、息を荒らしながら二人と対峙した。
「あなたは確か前国王の……第五王子 シュリオ殿では?」
 見覚えのある空色の瞳の彼に問いかける。
『そうだ。シュリオで違いない』
 だがシュリオは笑みを浮かべるだけで答えず、代わりに赤髪の男からの言葉が届いた。口を開くわけではなくても、その言葉を発したのはその男だとわかる。
「やはり……シュリオ殿」
 この場で直接見たことがあるのは立場的に嶺炎のみ。
 だが前王の庶子で五歳のときに王家に引き取られた第五王子は、その類い希な美しさと、その身体にある御印(みしるし)から神子として他国でも有名だ。式辞のときだけ表に出、それ以外では精進潔斎の日々を送っているとの話だった。
 もっとも王子とは言っても出自のため王位から外れており、召し使いたちが言っていた正統な王の息子からは外れた存在のはずだった。けれどシュリオはただほのかな笑みを浮かべたまま、決して言葉を発しない。
 それに、隣のこの男。
 嶺炎は気を抜くと視線を逸らしたくなるのをなんとか堪えて、赤髪の男へと視線を向けた。それでも無意識のうちに目を細めて、直視を避けてしまう。
 それほどまでに男から伝わる気配は異常で、圧も変わらず強い。
「我々は魔王である夕月殿がこの国を継いだと、使者である闇烏殿よりお聞きしたのですが」
『それもまた真。真の支配者は我、夕月である故に』
 自ら名乗った魔王の名に、嶺炎は唇をかみしめた。隣ではユーリア達が荒い息を繰り返し、なんとか身体を支えている。
「ではシュリオ殿は傀儡(くぐつ)ということでございますか?」
『そのほうが都合が良いだろう、人にとっては』
 思わずシュリオを見るが、彼は変わらず微笑み続けるだけで口を挟まない。その姿は確かに心のない人形のようだった。
 そのシュリオの頬に夕月が触れ、顔を向けさせた。そのまま引き寄せ、シュリオの淡い色の唇が夕月のもので覆われる。
「ん、うっ……ぁっ……」
 舌が絡まり、濡れた音が響いた。瞬く間にシュリオの頬が赤く染まり、うっとりとまなざしが蕩けていく。
 力なく泳いだシュリオの手が堪えきれないように夕月の服をつかみ、しわを作った。
 なまめかしい喘ぎ声が、お披露目の場に響く。
「っ……」
 いまだ夕月の圧に支配された空間で息苦しくつらいのに、目の前で繰り広げられるシュリオの痴態に意識が捕らわれたようにもうろうとしてくる。身体の奥が熱く疼き、血の気が音を立てて全身を巡りだしたようだ。
 そんな嶺炎に気付いているのか、夕月が口づけを深くしながら声なき言葉を発した。
『おまえたちは知りたいのであろう、我を解放した顛末を』
「っ……はい」
 身体が熱い、どこかうわついた感覚をなんとか堪えて、嶺炎は頷いた。
 何よりも、〝南の国〟がどうして魔王の手に落ちたのか、仔細が知りたくてここまで来たのだ。
『我を解放したのはこのシュリオよ。この者が願い、我を解放した故に、我は力を貸してこの者を王座につけた』
「なっ、それはシュリオ殿が自ら封印を解いたということ? それはどうして、どうやって」
 衝撃な事実に意識が鮮明になった。
 深い舌の交わりにシュリオの頬に涎があふれ、夕月の太く長い指が首筋から衣服の中へと入り込む。
「ん、あっ……あっ……」
 胸元で膨らむ布が卑猥に蠢いていた。
 そんな光景に当てられながらも、答えてもらえるなら聞き出したいと嶺炎は夕月を見上げた。
 ただそれだけで、息苦しさが増す。
 近くでユーリアもカストも、足をすり寄せ、わずかに身悶えながら、それでも夕月の言葉を聞こうとしている様子が伝わってきた。
『ふむ、どうやってという問いの答えならば、それはこれの身の内にある憎悪と神子が持つ神力と自由を求める強い思い、そして我の願いと力が共鳴した故だな。共鳴が封印に亀裂を入れ、その亀裂から我は脱したのだ』
「な、なんと……」
 カストが呻き、ユーリアは二の句が継げぬとばかりに喉を鳴らした。
「うっ……あん……んあっ……」
 床に押しつけられたシュリオが、上半身から衣服をはだけさせられた。ぷくりと膨れ上がった乳輪を鋭い爪でつまみ出され、全身を朱に染めながら身もだえている。
 神聖で清純な神子であるシュリオが、今や夕月に身も心も委ねている。
 操られている――と聞いてはいても、今の姿は彼の本心のようにしか見えない。
「シュリオ殿がそこまで憎悪を募らせた理由を、お教えいただけるのか」
 そのような問いが許されるかどうかわからなかったが、当時常に神官に囲まれた彼は、神の敬虔な信徒でしかなかったように見えた。嶺炎の記憶の中でもいつも控えめに佇んでいた姿しか残っていない。
 そんな彼が何故──と浮かんだ故の疑問に、夕月が嗤う。
『卑しい身分の母であったが故に生まれる前にその母体共々城から放逐、五歳まで貧民街で暮らし、神子の印が身体にあると知られた後はさらわれるように母から離された。それ以降は儀式の時以外は城の最奥にある神殿に閉じ込められ一切の自由はなく、しかも卑しい身分だからだと蔑まれ失敗すれば罵倒されるだけの日々。しかもその身体は王族のていのよい欲求不満の陰口、慰み者、つまりは奴隷と大差ない、いや、奴隷そのものの扱いを受け続けていたと、こんなところか』
「なんと……そのようなことが」
 啞然と呟き、信じられないと頭を振る。〝北の国〟ではたとえ血のつながりがなかろうとも、一度身の内に入れたものは大切にするべきと教えられている。つながりのうち最も小さいものは家族で、大きなそれは国だ。
「だいたい奴隷などというものは〝北の国〟には存在しない」
「そのような存在は〝西の国〟にも公的には存在しておりません」
「我が国にも」
 西も東も奴隷はいないと二人が続く。
『この国にはいるぞ。これが奴隷の印だ』
 そう言いながら夕月がシュリオの額を隠していた前髪を掻き上げた。
 夕月の愛撫に身もだえるシュリオは肌を朱に染めていて、額の中央にある可憐な六枚花弁の花がより艶やかに浮かび上がっていた。
『中央に持ち主の印が刻まれている魔呪と呼ばれているものよ。刻まれたら最後持ち主には逆らえぬ』
 呪術師の存在を知っている嶺炎はその印を凝視した。そう言われてみればその禍々しい印は呪印と呼ばれるものに似ていた。
「神子の印では……」
『神子の印は右の太腿の内側だ。見えない位置にあるからと同じ形を額に入れられたが、似て非なるものよ』
「は、あ……神の子であるからこそ神子であるのに、それを奴隷に……」
 啞然と口を開きっぱなしにしたのはカストだ。
「愚かな、ここの王族はなんと愚かなことを考えた、大切にしてこその神子であろう」
 怒りの口調で吐き捨てたのはユーリア、彼は嫌悪も露わに、〝南の国〟の王族を批判した。
 嶺炎も黙したまま頷き同意する。〝北の国〟でも聖なる印のようなものはあるがその印が身体にあるからと神子とされるわけではなく、その印があれば幸多い人生が送れるだろうと、その程度のものだ。さらに〝南の国〟にまだ奴隷制度があったことも驚きの事柄だったが、その証拠は今目の前にある。
『だが魔呪で支配されようとも、相手に対する憎悪までは止められぬ。憎悪はいつしか呪いとなり、神子の力と混ざり合ってこの者の望みと共に我まで届いた」
 祈りの力が強い神子の力は、その思いは遠くまで届く。
「……望みとは先ほどの?」
『自由と自分を助けるにふさわしい強い存在』
 カストの問いかけに美しき夕月の口元が、にやりと弧を描く。
『互いに強く自由を欲していたが故に共鳴し、元より封印に使われたのは神子の力、故に封印を破るのも神子の力は効果的だ』
 どちらも望んだものが同じだった。
 神子の力が魔王を封じるのに使われた力と似ていたのであれば、過去の神子も関係していたのかもしれない。王族の神子だからこそ封印は弱まり、そして魔王は解放された。
 過程は推測でしかないが、確かに魔王は解放されここにいる。
 だがシュリオは、今の状況を喜んでいるのだろうか?
 人前で夕月に半裸にされ、愛撫に浅ましくあえぎ続けているシュリオの内心はどこからも窺えなかった。
『我は得た自由をしばらくは満喫したい。故に人が我に逆らわないと言うのであれば、特段何もする気はない』
 長い年月を封じられていた魔王は、些細なことなどに関わりたくないと肩を竦めた。
 魔王の鷹揚な態度は信じられるものなのか。
 嶺炎達は視線を交わしたが全員懐疑的であった。だからと言ってこちらからよけいな口出しをすることもできない。
『だが、ただ無為に過ごすのも面白くない』
 シュリオを喘がせる夕月の紅玉の瞳が鈍く輝いた。
 その視線を向けられた三人ともに強い緊張感と恐怖に身構えた。空気が冷たくピンと張り詰める。
『それにこれは我を滅しようとした。自分が王という地位を得た瞬間にな』
 その言葉に三人が息を飲む。
 だが、と嶺炎は内心でシュリオの行動には同意できていた。もっともそのことは決して表には出しはしなかったが。
 だが、ふっとカストがつぶやいた。
「確かに過去に封じたのが神子の力であったらばこそ再度封印も可能か……」
 伏せた視線に彼が深く千思万考に陥っているのが伝わってくるのだが、嶺炎はちらりと夕月に視線を走らせた。
 その笑みを浮かべたその横顔に口元が強張る。ついで視線がカストへと向かうが、彼は気付かない。
「それはやはり神子が持つ珠に封じて? 私の記憶では、確か神子だけが使える力があるとか、それは興味ぶか――っ!」
 不意にカストが夕月を見、言葉を切った。硬直した顔はすでに青白い。そんなカストに夕月の笑みが深くなる。
『知恵を追い求める者の好奇は身を滅ぼすというが、なるほどな』
「も、申し訳ありませぬっ!」
 頭を下げるカストに、夕月は鷹揚に返した。
『良い。知恵を探求することは我も好む故に思考を止めさせはせぬ。思考せぬ者はただの獣故、相手にしても面白くないからな』
 気に入られたような言葉であるがカストの強張った表情は晴れない。それでも夕月はそのまま言葉を継いだ。
『確かにこれの力であやうく元に戻るところではあったな、封印が外れた後、我の力も万全でなかった故に、だが我を出し抜くにはこれは浅慮すぎる』
 当時を思い出した夕月の哄笑は室内に響き、嶺炎の肌を震わせるほどだった。