【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー1

【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー1



 寝所の室温が闇烏を中心に再び下がっていく。
 王の吐息が白く濁り、空気を求める息苦しさに何度も喘ぎ、取り込んだ空気の冷たさに身体が冷えていく。
 後から各国に伝わったところによれば、老年の域にあった〝西の国〟は対面時かそれとも話を聞いた後でかは不明だが、近衛に発見されたときには息の根が止まっており、絶望と恐怖の入り交じった表情で己の爪で喉をかきむしった血まみれの姿であったとのことだ。
 だがそんな西の王の死に様を聞いたとしても、北の王は彼を侮蔑できようはずもなかった。
 歯の根が合わぬほどの恐怖というものと、身を蝕む妙なる快楽という相反する責め苦を初めて味わう北の王は、小刻みに震えながらもわずかに動く指で寝具を握りしめた。その手の先で、布を持ち上げる自身の魔羅は、そこに染みをつくるほどに液を滴らせている。
 闇烏が首を傾げる。
 薄く笑う。
 まるで王の抗いを楽しむように、手を動かして誘いかける。
『勇敢なる〝北の国〟の王よ、貴殿は〝北の国〟たらんことを望むか』
 それは問いかけのようで、問いかけではなかった。断定的な物言いに、〝北の国〟の王はただ頷く。それは自身の強い決意――のはずだが、王の視線は闇烏に囚われたまま。
『南の国の資源を望むか』
 再び王は頷いた。
 〝南の国〟にある魔水晶技術とそれを可能にする魔水晶。〝南の国〟しか発掘されないその石は大層な力を持っている。
 現在、〝南の国〟の船だけが〝夕闇の海峡〟を北上し、外海の強い海風をものともせずに難所の東海を渡ることができる。その船が運ぶのは寿命を延ばす薬草や病を癒やす万能薬の材料。そんなものを潤沢に得られる南の王族の寿命はいつも長い。
 そんな貴重な産物を他国は〝南の国〟が決めた量だけ、法外な価格で購入するしかなかった。
 それでも供給されていたそれらがどうなるのか。
 軍備を強化するのに必要な鉱物が。
 長寿の効果を持つ万薬草が。
 〝南の国〟しかない代物が手に入らなければ、たちまち困るのは王も含めた富める者たち。老衰が近づけばなおのこと彼らの欲望は強くなる。
『ならば、めでたき祝宴への招待をここに』
 いつの間にか現れた巻物、それが闇烏の手のひらの上でふうわりと揺れる。
『とはいえ、偉大なる王がいかに多忙であるか重々承知、故に招待状に名を記した中の一名のみご招待いたす所存でございます』
 巻物が闇烏の手から高く浮かび、くくられた金色の紐が自然に解けて広がり、一枚の紙となって硬直した王の手元に舞い降りる。
 見事なまでな達筆で記されたそれは、まさしく招待状の文言。
 日付は一カ月後の満月の日だ。
『当日、この身を持ってお迎えに上がる所存』
 闇烏が胸に手を当て、頭を下げる。それも一瞬で、再び合った瞳に、〝北の国〟の王は魅入られた。
「ああ、必ず」
 うわごとのように口が動く。
『ご英断された偉大な〝北の国〟の王に敬意と』
 闇烏の手が伸び、そのことに気が付いた時には〝北の国〟の王の身体に闇烏の手が巻き付いていた。
「お、おおっ」
 恐怖とそれ以上の快楽に、身体が疼いた。先ほどまで襲っていた悪寒は疼きに変わり、鼻孔を崩る甘い匂いに思考が蕩けていく。
 かろうじて動いた視線の先で、闇烏が嗤っていた。
『褒美を』
 届いた言葉に脳が震えた。それは恐怖ではなく歓喜。なぜかと思う間もなく、王の身体から力が抜けて、背中がずれて寝台へと沈み込んだ。
 その上にのし掛かる闇は重さなど感じず、ただ薔薇のような芳香に意識が引きずられる。
 王の冷えた唇が柔らかく塞がれ、熱い何かが喉の奥へと入り込んだ。確かに塞がれたのだと息苦しさに喘ぎ、しかしそれ以上の快楽に全身が震えて王は歓喜の涙を流した。
 このような快楽がこの世にあったのか。
 影のようにおぼろげな肢体が〝北の国〟の王を絡め取っていた。寝間着がはだけ、落ちていく。
壮年とは言え、戦士でもある王の逞しい身体がさらけ出され、冷たい夜気に晒されて震えた。筋肉質な身体は王となっても衰えておらず、男臭い体毛が全身を覆っている。低い室温のせいか総毛立つた肌はそれでも赤味を帯びて、零れる吐息は白く空気を染めた。
「あっあっ……」
『熱く、疼く』
 男の声か女の声か。
 闇烏の妖しい声がどちらなのか、認識ができなくなっていた。自身の身体の穴に入り込むおぞましい感覚に王の喉が震え、びくびくと痙攣する。
 いや、これは肌から感じる感覚なのか。
 背を押され四つん這いになり、高く掲げた腰の下で、雄々しく起ち上がった魔羅が弾けるように噴き出させた。寝具を汚して滴を垂らした魔羅は、それでもまだいきり立ったままで、そこに細い指が絡みつく。
「お、おおっ……す、ごい……なんと、なんということだ」
 これはなんなのだ。
 闇烏の指が蠢くだけで、王の身体は何度も昇り詰めた。
 触れているだけなのに、全身がみっちりと柔らかな肉に包まれたように締めつけられ、熱い刺激に絶頂を繰り返す。
 かと思えば身体の中から押し広げられるような、双方から来る圧迫感が堪らなく良くて、意識が保てない。
『高く、昇る』
 短い言葉が聞こえた途端、股間から脳髄まで眩むような快感が駆け上がる。
「う、ごぉぉ、おっ、あ、ひぃっ」
 だらしなく開いた口から喘ぎ声が零れ、腰が激しく前後した。突き出す度に剥き出しの股間で魔羅が腹を叩き跳ね返る。
 耳元の嗤い声にすら甘い疼きが身体の中を霧散し、快感が増す。刺激に勃起した魔羅は糸よりも太く、だらだらと締まりなく粘液をこぼしている。
『解放』
「おお――っ!」
 耳に注がれた囁きのまま、〝北の国〟の王は逞しい身体に筋肉を浮かせ、全身から汗をまとわせながら男臭く唸った。
 白く濁った陰液が激しく迸る。
 それは人としてはあり得ぬほどに多量の噴出だった。
 狭い通り道を目いっぱい広げた射精は、〝北の国〟の王にかつてないほどの快感を与え、狂わせた。
「おっおおおっ」
 何度も何度も王は射精をくり返した。冷たい空気の中、王の肌から白い湯気が立つ。
 王の意識はすでに白くはじけ飛び、ただ快感だけを追っていた。いまだかつて味わったことのない快感の中、さらなる高みを目指して、
『うまい』
 闇烏が赤い舌で唇を舐めた。愉悦に満ちた声でうっとりと〝北の国〟の王の痴態を見つめた。
 闇烏の声すら王には妙なる快感をもたらし、呆けて白目を剥いたままさらに王は射精をした。ぼたぼたと落ちる量は変わらない。全身を闇烏に包まれたまま、何度も何度も王は絶頂をくり返した。
 そのたびに王の目には見えない金色の煌めきがその肌から滲み出て、闇烏の中へと染みこんでいく。闇が光りを食らうように煌めきは消え、闇烏の金色の瞳が強く輝いた。
『これは良い、おお素晴らしい』
 ここに来て初めて歓喜に満ちた声を上げた闇烏に包まれた王は、その声も聞こえないようでただ雪に焼けた肌を晒しながら獣のように盛っていた。
 腰を振りたくり、熱く柔らかい洞を穿つように何度も突き上げる。狭い射出口はパクパクと開閉を繰り返し、張り詰めた肉の塊は赤黒い肌をいやらしくぬめらせ、太い血管が濃く影を落とすほどに張り詰めていた。
 王は何度も叫んだ。
 悲鳴にも似た嬌声は室内に響く。控え室にいるはずの護衛の騎士や側仕えも、扉の向こうにいるはずの近衛兵も誰も気付かない。
「お、おおぉっ、おおっ、おおっ」
 ただ獣のように、王は絶え間なく腰を前後に激しく振って、子種を振りまいた。それこそ全ての精を吐き出さんとばかりの勢いで、王は快感に蕩けた表情を浮かべ一人で盛っていたのだ。