【四つの王国と魔王の話】序章

【四つの王国と魔王の話】序章

<このお話についての説明>
大海に浮かぶ大陸にある四つの国。
そこに〝南の国〟から招待状が届く。招待された各国の代表となった人達の話。
メインは人同士ですが、魔王も関連します。
(『祝福と呪いの狭間の物語』や同人誌『灰にまみれた珠玉と漆黒の皇子』の世界観ですが交わることはないです、たぶん)

章構成
 1.序章
 2.北の国 公開
 3.西の国(少しだけ作成)
 4.東の国(まったく影も形も)
 5.未定(たぶんエピローグ的〝南の国〟 ただし4にまとめてしまうかも)

最後までかき上げられるかまったく不明ですが、下手すると日の目を見ないことになりそうですので、北の国ができているところでの見切り発車です。
続き本当、気長にお待ちください。

こちら、メリバです。

【四つの王国と魔王の話】
一 序章

 果ての見えぬ大海の、南に浮かぶの大陸が一つ。
 ほかの大陸より小さなそれは、それでも四つの国が存在した。
 それぞれの国は、北から南に走る〝夕闇の海峡〟、東から西への〝黎明の海峡〟の二つの海峡により隔たれ、たとえ肉眼で見えていたとしても民にとっては遠い国でしかない。
 海峡をつくったのは畏るべき魔王だと言い伝えられている。
 今なお気まぐれに人の営みに介入する絶大なる力を持つ三魔族、その魔族たちよりも強大な力を持つ魔王が、怒りのあまりその剣でうがった海峡は狭くとも深い。
 その魔王の怒りがなんであったかは伝わっておらず、だがその怒りのすさまじさ故か、深く切り立った崖は人の行く手を阻み、流れる波はあまたの船をたやすく飲み込み、そして海峡が交わる巨大な渦は、なんであろうと奈落の底に引きずり込んだ。
 その後、大陸を分断した魔王は、人々の願いを受けた神によりその身を地の奥深くに封じられたという。
 生き延びた人々はたくましく、それぞれに国を興した。
 大陸随一の穀倉地帯を抱え、比較的穏やかな国民性の〝西の国〟
 年の大半を雪と氷で覆わる大地故に質実剛健でたくましく、団結力の強い〝北の国〟
 狭い国土ながら知恵と技術力で職人や商売人が多い、利にさとい〝東の国〟
 鉱物の豊かな山脈と海産資源の多い暖かな海に囲まれ、王族が神官を務める〝南の国〟
 
 創世から百年、二百年、三百年……そして五百年。
 四つの国の人々は、この状態がいつまでも続くのだ信じて疑うことはない。
 魔王が滅せられた話はおとぎ話となり、海を隔てたせいか魔族の往来もなく、前の日と何も変わらぬ日々が続くのだと、人々はその日も過ごしていた。
 そんな人々が暮らす大陸の中央部、〝夕闇の海峡〟と〝黎明の海峡〟の合流地点はいつもの通り人など訪れることはない。
 十字にうがたれた断崖絶壁の底は深く海水で満たされ、巨大な渦が全てを飲み込んでいる。その渦の中央は深い霧が立ちこめており、崖の上からでは何も見通すことはできない。
 人の力では決して到達することはできない場所。
 そこに端から端まで二十歩程度しかない島があるとは誰も知らない。
 周囲に激しい激流があり、荒い波が外周の岸壁に押し寄せ、水飛沫が耐えず地面を濡らしているような島だ。
 そんな島に人の姿があった。
 目立つのは豊かな赤髪。さらには並以上の長身、太い腕、身体は筋肉が盛り上がり、薄絹を盛り上げている。
 渦にあおられ吹きすさぶ強い風も、髪を乱すだけ。
 男だ、角張って凜々しい顔立ちはたくましさを際立たせ、透き通った紅玉のような瞳が睥睨するかのように強い視線を波へと向けている。
 その口元は笑みを浮かべていた。声もなく、けれど確かに嗤っていた。
 だがすぐに顔をしかめ、確かめるように右腕を目の前に掲げる。数度握りしめ、開いた手のひらの上に風が渦を巻く。
 次第に強くなり、大きくなった渦が竜巻となるのはすぐだった。
 狭い島全てを巻き込み、かろうじて残っていた地面の石をつぶてのように巻き上げる。
 その目にいる男はみじんも動かず、頭上に掲げた手をぐっと握れば、まるで風ごと握りつぶしたように風が消えた。
 波の音に紛れて、巻き上げた石ころが地面に落ちる音がする。
『ふぬ、力は……まだまだだな』
 掲げた握りこぶしを目の前に下ろし、男は不満げにつぶやいた。だがそれも一瞬のこと。
 紅玉色の瞳を遠く南へと向ける。
「しばらくはおとなしく遊ぶか」
 しょうがないとばかりに肩を竦めてはいるが、その目元は楽しげに嗤っていた。
 そして踏み出すその足は軽い。
 霧と渦で見通せない中で、間違いなく南に抜ける〝夕闇の海峡〟へと歩を進めて。

 ――消えた。