呪われた二人

呪われた二人

呪われた二人

「あっ、くっ……」
 掠れた音が喉から零れた。それより大きく忙しない濡れた音が背後からも響き続ける。
 何度も何度も、時に激しく特にゆったりと、俺の身体を制御できるかのように。いや、確かに制御されているとしか言いようがない。すでに自分の力では自身をどうしようもできなくなっているのだから。
「んぐぁ、あっ……そこはっ、ああっ!」
 開いた口が閉じられない。瞑った目は突き上げられる度に開き、無様な自身の姿を目前の鏡によって認識させられる。
 汗やらなにかしらの体液に濡れた身体には、いやらしくまとわりつく芳香。雄を誘う隠微な匂いが擦れ合う肌の熱により湯気のごとく立ち上っていた。
 視界の端には男の性欲をたぎらせるための香炉が、途切れることなく煙をたなびかせている。それは俺の身体すら支配して、食い込む男の爪の痛みにすら、この身体は燃え上がり求めている。
「ひぎぃっ」
 尻から響く強く激しい音に、悲鳴が上がった。開いた口から唾液が口角を垂れ流れ、見開いた視界が白くぼやけた。
 この身体を蹂躙する自身のものよりはるかに太いものは一体何本目か。
 あり得ない体積が内臓を押し広げる感触に、肺の中の空気が押し出される。苦しいほどの圧迫があるのに、抉られて沸き起こる快感はそれ以上で全身の肌が震えていた。
 無意識のうちに汗で濡れた額をシーツに擦り付けてもがき、四つん這いで膝を突いたところがシワを描く。
「どうした、もうバテたか?」
 目を隠すほどに伸びた前髪を掴まれ、顔を上げさせられた。蕩けた顔が鏡に映る。
 あの魔法の鏡の向こうは俺からは見えない。だが俺を犯す男達が言うには、何人もの男達が待機しているのだ。
 俺を犯すために、この屋敷の主が準備した体格の良い男達。
 並の人族の倍はある体格は分厚い筋肉に覆われ、精悍な身体が持つ持久力は人族には計り知れないと言われる巨人族。
 傭兵として雇われた彼らの慰みものとして俺はこの屋敷で雇われた。
 ただそれだけのために。
「んんっ、ああっ」
 ぶ厚く熱い舌が頬から耳たぶまで舐め上げ耳孔まで入り込む。胸に回った手のひらが女のそれをもむように俺の胸をもみしだいた。平たい何の変哲も無いその胸から広がるじれったいような快感に俺の身体はしどけなく身悶える。
 だが、動けない。
 俺だって成人男子の大きさとしては遜色ないというのに、男の腕の中では子どものようにすら見える。筋肉が盛り上がる腕の中に抱え込まれては、いくらもがいても逃れることなどできない。
 それどころか、太い指が調教された全身のあちらこちらに触れるだけで頭の中が白く弾けている。
「あ、い、やあぁ……あっ、そこ、いやっ、あっ」
 肌がぞくぞくとざわめき、快感が全身に広がった。我慢できなくなって逃げようと這うが強い力で引き戻される。大きく足を割り開いても、規格外の巨根を受け入れるのはとても苦しい。なのに俺の身体はそんなものを受け入れて、なおかつこんなにも悦んでいる。
 音を立てて引きずり出された肉棒が、また押し込められる。
 身体の奥の奥、限界を超えて埋め込まれたそれは最初は痛くて苦しいばかりだった。
 この部屋の中どころか外にまで俺の無様な悲鳴は響き渡り、泣きの入った懇願は途切れることがなかった。
 だが今は。
「あ、ふぁぁ――っ、イイッ、ひゃうっ、ひ、ィィっ……」
 あり得ないほどの奥を貫かれるのがたまらなく気持ちいい。
 締まりが悪くなったように、俺の陰茎からはだらだら体液を溢れさせ、太い肉を締め付ける。 ぶるりと震えて少し多い量の白い液体がペニスを汚した。
 だがそれが収まるより先に次の快感に襲われて、弛緩しかけた身体が硬直する。
 何度も何度も、男達は容易に俺を限界以上に高めて、天高く放り出すのだ。
「ひぎぃぃっ――!」
 まさに凶器と呼ぶしかないものによって体内を抉られ、その刺激は俺の意識を生と死の狭間に持っていく。
 額に浮かんだ汗が頬を辿りシーツにまで滴り落ちた。
「うまそうに締め付けてやがる、どうだ、俺のものは? たっぷりと味わってそろそろ満足か」
 囁く甘い言葉は毒だ。
 疲労困憊の身体が限界を訴え、毒に引きずられる。
「い、あっ……も……いっぱい……。やめ……」
 休みたい、もう止めたい。
 そんな願望が意識することなく口から零れ落ち始めたのだが。
「おいおい、もう止めて欲しいって? いいのか、そんなことを言って」
 うなじをくすぐる笑い声に蕩けていた思考が一気に引き戻される。熱かった身体が芯から冷えた。
「あ、や……」
 別の意味の拒絶がとっさに口からついて出た。視線を向けた先で、俺を犯していた男が口角を上げている。その向こうに見える壁面の大きな鏡が、俺の淫らな裸体を晒しているのにも気にならない。
 ただ男の酷薄な視線と薄い唇から目が離せないのだ。
「なら言え」
 命令は拒絶さえ許さないほどに、俺を支配する。
「……き、来て……もっと犯して……くださ」
 男の望む言葉を口にして、上げていた視線を濡れてシワだらけのシーツへと落とした。
 背後で嗤うような震えが伝わってくる。その振動にすら快感が沸き起こり口惜しさに奥歯を噛みしめる。
「淫乱だなあ、まだ欲しいのか?」
 男の言葉に溢れた涙がポタポタと落ちた。
「欲しい……です。淫乱な俺は……皆さんの肉棒が……欲しい……」
 言葉だけでなく身体が体内のものを締め付ける。
 もっとと誘うように、腰を動かす。
 そんな俺に、男は笑い声を上げた。
「そんなに弟に俺達をやりたくないかっ、はははっ、いいぜ、おまえが満足するまで俺達はおまえだけを相手にしてやろうっ」
 振動のように他の笑い声も被って聞こえた。
「ほら、飲め」
 太い指が口の中に入ってきた。押し込められる丸薬が、口を覆われて注ぎ込まれる多量の唾液で喉の奥へと落ちていく。喉を通るときには熱を持ち始めたそれは、胃の中で俺の体内を焼き、全身にその熱を広げる。
「あ、あつ……」
 尽きかけていたはずの俺の身体に力がみなぎっていく。
 香炉の煙が染みこんだ俺の体力を甦らせる魔法薬は、俺の感覚を敏感にもする忌むべきものだ。
 だが、俺はそれを飲むしかない。
 この無尽蔵の体力を持つ男達の相手をするために。
 男達の関心を俺にだけに向けさせるために。
「淫乱、もっと締め付けろ」
「あ、うあっぁぁぁっ」
 音がするほどに腰が打ち付けられる。男の陰嚢が食い込みそうなほどに深く抉られ、仰け反る背で肩甲骨が浮かび上がった。そこへ男が戯れに舐める。
「あ、ぁぁっ……」
「これだけで達くか、淫乱が」
「ん、あぁっ、ふかっ……ぁっ、ひいっ」
 敏感な背筋への刺激に全身が震え、快感が脳髄まで支配する。
 下腹で膨れ上がった快感は狭い口からほとばしり、すでにぐしゃぐしゃになっているシーツに新たな湿りを与えた。と言っても、ボタボタと数滴が滴っただけのそれはもう薄い。
 何度も何度も快感を吐き出したせいで、震えるペニスはすでに勃起する力さえ残っていない。なのに、男は止まらない。
 それが欲しい。
「ひっ、待ってっ、ああっ!」
「まだだ、まだ欲しいんだろう? ん?」
 男の言葉に、ただ頷く。何度も何度も、もう反射でしかない頷きとともに涙が溢れ散っていった。
 際限ない快楽の地獄は、初めのころの苦痛ばかりのころよりはマシだと思ったほうがいいのだろうか。それでも、嬲られ続ける身体は、この快楽こそが地獄だと悲鳴を上げる。それなのに身体は止まらない。
 すっかりと躾けられた身体は男の肉棒を銜え込み、快感が拾えるようにと締め付けて、乾いた絶頂に痙攣して。
「あ、あっ、うっ……」
 太い腕は俺の身体を軽く抱え、指先で乳首をいじくりまくる余裕すらある。
 いじられすぎて赤く熟れた乳首はいつもの倍以上に腫れ上がり、ほんのわずかの刺激にすら痛みと堪えきれないほどの疼きを身の内に拡散していた。
 


「ずいぶんと淫乱な奴隷だね」
「はい、あの奴隷はたいそう淫乱でございます」
 笑う好色そうな客の言葉に僕は頷いた。
 その答えに満足したかのように客の視線は壁面いっぱいのスクリーンに映し出される映像に戻る。
「ほれ、あのように自ら足を広げて、まあなんと破廉恥な」
 今度は別の客がソファに身を沈めてグラスを掲げながらほかの客へと問いかける。
 その客が指さすところで、僕と同じ顔をした兄が巨体を持つ男に組み伏せられて……犯されている。
 それを極力視界に納めないようにしながら、僕は黙ってそこに立っていた。
 考えることすらしてはいけない。
 何もかも、自分の意思で動くことはない。
 僕はここでは従僕という道具でしかないのだ。
「昔から女好きではありましたが、どうやら自分があのようにされたかったからだということらしいですなあ」
「ほお……それは真ですか?」
「先日本人が強請ってそう申しておるのを聞きましたでな」
「なるほど」
「君もそう思うかね」
 不意に質問の矛先が僕のほうへと向けられた。
「はい、思います。あれは発情した雌犬でございますゆえに」
 僕の答えは決まっている。教え込まれてそれしか答えられないのだ。そうしないとご主人さまからお叱りを受ける。お客さまに口答えなど許されない身の上で、何を言われても諾しかできない。
 その客の元に運んだ銀のトレイの上でグラスがカチカチと震えて音を立てている。どんなにしっかりと持っていても、身体自体が震えていて止められないのだ。身体は熱く、流れる汗が目に入り視界がぶれる。
 耐えきれずに零した吐息は熱く湿っていた。
 首に巻いたチョーカーの、金属が当たるのが気になってしようがない。
 いやそこだけではない。
 僕の身体につけられた装身具の何もかもが、僕の身体を震わせる。
「おいで」
 客の一人が僕を呼ぶ。
 頷き、ほんの数メートル足を運ぶ。だがそれだけの動きに僕はふらついた。力の入らない膝が砕けトレイが傾く。
 その瞬間我に返った僕は、必死でバランスを取って体勢を整えた。
 だけれどわずかに遅く、滑ったグラスが柔らかなじゅうたんの上へと転がり落ちた。
 トレイとグラスが当たる音。
 不快な音を響かせた僕に客達の視線が集まった。
「おや……」
「も、うしわけありませんっ」
 足が沈むほどのじゅうたんの上であったのと、とっさに延ばした手が触れて衝撃が和らいだのかグラスは割れてはいなかった。
 だが、従僕の些細な粗相すら許さないご主人さまの視線が痛い。
 これはとんでもない失態だ。
 先ほどまで身体を支配していた熱はどこかに消え失せ、蒼白になって震える指でグラスを取り上げてはみても失敗が無かったことにはならない。
 僕へと向けられた視線が痛い。
「まあいいさ、気にすることはない」
 たとえ客がそう言ったとしても、ご主人さまは決して許さない。
「申し訳ございません」
 深々と頭を下げて、叱責を待つばかりだ。
 だがご主人さまの言葉はなかった。ただ。
「ぐひっ」
 体内の疼きが一気に膨れ上がった。
「あ、あっ……」
 衣服に包まれた身体の、人目にも晒していない奥深くを太いものが擦り上げていきだした。それは先ほどから味わっているものよりよりはるかに強く、明確に自分の意識の中に存在し、そして実感した。
「あ、い、あっ……あっ……」
 足が震え、力を失った。がっくりと膝を突き、手をつく。四つん這いの姿勢すら取るのが苦しく、そのままじゅうたんの飢えに転がり身体を抱え込んだ。
 腰が勝手に揺れているのに止められない。
 腕でかばう乳首が見えないそれに痛いほどに引っ張られ、指先ですりつぶされる。
「ひぃっ!」
『いあっ!』
 兄の悲鳴と僕の悲鳴が重なる。
 涙にゆらぐ視界の中で、兄が激しい抽挿を受けて歓喜の声を上げている。
 それと同じリズムで僕も堪えきれないままに嬌声を上げていた。
「罰としてシンクロ率を上げて、かつ増幅も倍にしてみました。本当に躾がなってないもので」
 ようやく聞こえたご主人さまの言葉に、視線を向ける。
「お、許しを……お願い……しますっ」
 身体中に走る快感は、全て兄が味わうもの、そのものだ。
 ご主人さまが施した呪に僕と兄の身体の感覚はつながっている。
 何か粗相をすればご主人さまによって僕は兄とつながされる。それも一方通行で。
 しかも増幅さえされてしまうために、僕が味わう感覚はいつだって兄の数倍強い。
「おやおや、やはり淫乱の兄を持つ弟もまた淫乱ですな。このようなところではしたなく悶えておりますよ」
「これで神の子の無垢な身体の持ち主とは、笑えますな」
 何度も聞かされた嘲笑が降りかかる。
「まこと、いやらしい。やはり彼の血を引く者よ」
 祖たる神すら嘲笑する客達は、僕達の国を支配している悪魔だ。
『あ、もっ、もう出ないっ、のに……ああ、達く、達くぅぅっ!』
「ひ、あぁっ、達くっ、達くぅぅっ!」
 映像の中で兄が痙攣して、射精した。
 そして僕の身体も絶頂へと押し上げられる。だけれども。
「ひ、ぃ、……達きたっ……達かせて……っ、ああ、お、お願いっ」
 狂いそうなほどの射精感はあるのに、僕は決して達けない。
「達けばいいじゃないか」
 簡単に言い切るご主人さまの言葉に、僕は首を振った。涙を流しながら絶望の視線を向ける先で、ご主人さまが合図を送る。
 そのとたんに控えていた執事が僕の身体からお仕着せの衣装を引き剥がした。
 簡単に外れるようにされている特注の衣装は、いつでも繰り返される余興のためのもの。全てが茶番であると分かっていても演者である僕には出ないという選択はなくて。
「おやおや、そんなに太いものを」
「あのような敏感な先端に大きなピアスをして」
「こんな肥大した乳首など見たことありませんな」
「あの兄はきれいな身体をしているというのに。このような清純そうな顔をして、どうやら兄より変態らしい」
 一斉に沸き起こる嘲笑に、僕はただ身悶えて隠れることもできない。
 乳首には元のそれより太いぐらいのバーベルピアスが突き刺さり、歪な形で二つが短い鎖でつながれている。その鎖がつながるペニスの先端はやはり尿道を割り開くようにピアスがされて、その奥には太い棒が刺さっていて今は抜けないようになっている。それは狭い尿道を埋め尽くすほどに太く、なおかつ陰茎は歪に変形するほどに戒められていた。ピアスはそんなペニスのあちらこちらにもつけられていて、陰嚢の2箇所からははやり鈴口に向けて鎖が伸びていてペニスが立ち上るのを防いでいるのだ。
「ど、どうか……、射精のお許しを……あひぃっ……ひっ」
 従僕としての仕事を始める前に全身くまなく調教された僕の身体は刺激に弱い。弱い上に兄が味わう快感を増幅されて与えられているのだ。
 我慢できない衝動に、決して縋ってはいけない相手に縋ってしまう。
「あ、ああっ……あっ」
「我慢がきかないようですなあ、兄と同じだ」
「ええ、ええ、本当に」
 伸びた手を取るものはいない。
 願いを叶えてくれるものはいない。
 もう何度も味あわされた絶望を、今日もまた味わうのだ。
 それでも、この身体は浅ましく望む。
「達かせて……達かせて……」
 冷たい視線を寄こす、親の敵でもあるご主人さまは、それでも僕に非情な言葉を向ける。
「粗相をしたのだからまずはお客さまに詫びをしろ。全てはそれからだ」
 僕はその言葉のままにお客さまへと視線を向ける。
 五人のお客さまの股間は、すでに服の下でも分かるほどに大きく膨らんでいた。
 そこへと這いずり、向かう。
「お客さま、どうか僕の口でお慰めをすることをお許しください。どうかおいしい精液を僕のお腹に納めさせてくださいませ」
 先ほど僕が自ら運んだ精力剤を飲んだ男達は、いつだって何時間も勃起したままだ。
「口は一つだ。五人同時には無理だろう?」
 ご主人さまの言葉に、僕は頷いた。
「手も、この穴も全てお使いくださいませ」
 腰を持ち上げ、慎ましく閉じているはずの奥まった穴を開いて見せた。
 狭い、異物を入れることを禁じられた穴だ。
 そこを指し示すことは許されていない。だからこそ僕の身体は無垢なのだ。
 だが、僕は強請るしかない。
 強請れと言われているからだ。
「いやらしい身体を使えと。ふん、そんな汚らしい穴など使えるものではない。どうせ貴様が欲しいだけであろうが」
「おお、そうであろう。本当に淫乱なことだ」
 客達の言葉に、ご主人さまが頷く気配がした。
「いやはやまことに申し訳ない。このような淫乱とは思わず手に入れたのだが、さて、これは罰を与えねばな」
 恐ろしい言葉だった。
 それこそ上がりきった体内の熱が一気に下がるほどだ。
 泣き濡れた瞳で窺う僕に、ご主人さまの冷たい笑みが向けられる。
「何、我らのものを直接使わなくても良い。いや、ここにあるこれを使えばいい。どうだ」
「おお、これはいい」
 ひとしきり罵倒しながら指し示されたそれに、僕は顔色を変えた。それこそ高まっていた熱も一気に下がってしまったほど。
 それは陰茎の形をした道具だった。しかも大きく外に無数の突起が生えていた。その凶器でしかない外見もさることながら、僕はそれがどんな効果を持っているか何よりも知っていた。
 そして客達も。そんな客達がそれをどうするかなど想像に難くない。
「ひぃ、いっ、そんなっ、太いのっ……無理っ……無理」
「無理なものか、フィストもできる穴だと聞いているよ」
「そうそう、これなんか細いほうだ」
 逃げる間もなかった。
 客達の手が、僕の頭を押さえつけ、腰を捉える。出来レースなのか、すでに背後に回った男が準備を始めていて。
「小っちゃいなあ。でも……」
「あ、ひぎっ、ぁぁぃぃぃっっっ!!!」
 プツプツと括約筋を広げながら入ってくる巨大なゴムの陰茎が僕の中を支配していく。
 避けそうなほどに広げられた穴に入り込むそれは、きついながら入っていって。
「おお、あっという間に飲み込んだぞ」
 満足げな声を聞きながら、僕は涙を流したがその涙もすぐに辺りに飛び散った。
「ぎゃあ――っ、ああっ、ああ――っっ!!」
 悪魔の技は、動かぬはずの道具ですから生き物とする。
 中で芋虫のごとくうねり、回転し、伸縮する。突起一つ一つが別の生き物となり、敏感な内臓を抉り締め付ける。
「ひいぃっ、あっ、イイっ、奥が、奥ぎゃぁぁ! ひゃぁあっ、いいっ、ひいぃっ」
 目の玉が飛び出るほどに目を見開き、涎を垂らしながら道具が与える快感に身悶えた。
 そう、道具が与えるのは快感だけだ。
 狭い中を暴れる痛みすらあるはずのそれは、だが全てが快感となって僕の思考を染め上げる。
「もっと欲しいか?」
 快感に蕩ける僕に、ご主人さまが囁く。
 甘く誘う言葉に、僕は頷く。もう理性など吹っ飛び、ただ頷く。
「ではまずお客さまにお詫びを。ご満足するまでその口でご奉仕せよ」
 頷き、座っている客の前にひざまずいた。
 広げた口を満たしてなおあまりある陰茎に喉の奥まで犯される。呼吸すら封じられ、痙攣しながら奉仕するのだ。
「いい子だ。私の精液はとても甘いらしいねえ。しっかりと飲みなさい」
「ひ、あっ、ふぁい」
 甲虫型悪魔であるお客さまは甘い樹液の味だ。強壮効果が高い。
「儂のはすごく苦いらしいが、良薬は口に苦しというでのぉ」
 虎の牙と爪と尾を持つお客さまは口の中を刺すトゲで僕の口内はズタズタにされる。だが、苦い精液を飲めば、その傷は瞬く間に回復してしまう。
「私のは二つあるがな」
 最後の蛇のお客さまは二つの陰茎を同時に奉仕しないといけない。
 誰よりも長く時間のかかる彼のものは、何時間もかかることすらある。
 その間、僕は先走りの液のみで過ごすしか無いのだ。催淫効果の特に強い液体だけを飲みながら。
 そして。
「最後だ」
 全てのお客さまを満足させた後に、ご主人さまへの詫びが待っている。
「どちらがいい? その口で一つずつ喰らうのと、全てまとめて一度でその尻で喰らうのと」
「あぁ……口で、口でお願いします」
 樹木の悪魔であるご主人さまの身体から伸びる無数の陰茎は、全ての奉仕を終えることを僕はできた試しがない。
 もう何度も繰り返された行為は、ただ僕の吐き出せない欲を高めるだけだ。
「お、お願い……達きた……達かせて」
 床を裸体で這い、縋る僕の身体を足蹴にして、冷笑を浮かべたご主人さまが言い捨てる。
「私をその口で満足させることができたら、おまえを解放してやろう」
 それが僕に課せられた呪。
 自ら死ぬことも許されず、ご主人さまが満足することだけを望む日々。
 屋敷に響く兄の淫猥な嬌声。
 そこに僕の懇願が重なる。
 無視されるか嗤われるか、ただそれだけの音。
「おい下っ端、食事の時間だ」
 従僕長が外の廊下に放り出されたまま床に伏した僕の足を引っ張り引きずった。
「い、いや……」
 そんな言葉は涙とともに床を滑って消えていく。すでにお腹はいっぱいだ。
 だが、一番下っ端の僕は従僕長の言葉には逆らえない。
 だいたいここにいる誰もが僕より大きくて強い。
「さあ、喰らえ」
 並んだ陰茎の列に動けなくても、形状もさまざまな陰茎は僕の口に押し込められ、動かされ。
 多量の精液で胃の中が満たされるころ、僕は執事に呼ばれた。
「お客さまがいらっしゃいました。お相手をなさい」
 僕ができることは頷くことだけだった。


 奴隷として得たこの国の元王族の兄弟の痴態を、私は笑みを浮かべて眺めていた。
 兄は弟が身体改造済みの性奴隷であることを知らない。
 弟は兄が自分のために身を投げ出していることを知らない。男に抱かれるのが好きだと思い込んでいるのだ。だから傷一つその身体に無いのだと。
 兄は巨人族のその尽きぬ性欲の解消のために相手をさせているだけだが、弟は粗相をすればいろいろな罰を与えまた客達の相手もさせている。
 改造した身体は精液のみで生きることが可能で回復力もある。巨大な玩具で裂けた穴も痛みよりかは快感を強く感じ一晩も経てば治る。
 だがそれらも、いまだ無垢であるがゆえの力だとあれは知らない。
 私の陰茎を尻に銜えればその呪は解ける。数十本の陰茎をまとめてその身で受け入れれば、すぐに。
 兄のほうは拒絶すればいいのだ。嫌だと、自分から逃げればいい。
 ただそれだけでそれぞれの呪は解ける。私に逆らい拒絶すれば私からの解放は成る。
 どちらが幸いか、それは私にはどうでもいいことだ。
 ただ私は、そっくりの顔をした二人が互いに欲に溺れている姿を見るのが好きなだけだ。
 きれいな顔が歪むのが好きなだけで、それが今終わっても惜しむ気持ちはない。
 ただ好きなように選択すればいい。
 欲に溺れ続ければいいだけの生活など、私に逆らった愚かな王の子に施すには十分すぎるだろう。
 
【了】