【公爵様の優雅な遊戯】1

【公爵様の優雅な遊戯】1

【公爵様の優雅な遊戯】
 公爵である私と彼の賭けは、彼にとって起死回生の一手であったがどうやら私の勝ちのよう。
 そして彼は私のものとなる。
 
 賭け、強制、脅迫、陵辱、淫具、奴隷

全四話 完結ずみ


 ようやく手にしただろう一枚の金貨が、彼の指から滑り落ちていく。
 照明に照らされて金色に輝く金貨は、厚い絨毯の上で弾み、音もなく転がった。
 その様を見つめていた私と彼の双眸が、同時に上がり互いに絡み合う。
 口を開いたのはどちらが先か、だが言葉になる前に、彼の身体から力が抜けて、贅を尽くした絨毯の上で膝を突いた。その横に転がる金貨にはもう一瞥すらしない。
 そんな彼の両頬に流れる雫が美しく、私は誘われるように彼の横に跪き、その頬へと触れた。びくりと震える感覚が指先に伝わる。
 向けられた瞳の色は赤味を帯びた煉瓦色。珍しい色合いが美しいと思ったのはいつだったか。
 ああ、あれは初めて彼を目にしたときだったはず。
 その瞳が、瞬く間に絶望に満ちた色に変わっていくのはなんと美しいことか。
 彼のわずかに開いた口元から白い歯が見えて、何か言いたげに唇が震えた。だが掠れた吐息のような音が微かにしただけで、視線は地に落ちる。
 その頭は、私が声をかけるまで上がることはなかった。



 この大陸にある十の国の中でも最大の面積を誇るのが、我らが偉大なる皇王が収める皇国だ。はびこる悪魔を退け、結界の外に出すことができたのは、初代皇王の類い希なる力によるもの。
 それからすでに皇紀五二〇年と、連綿たる歴史の中で、皇国はいまだ大陸一の栄華を誇る国だ。
 その皇国において、我が家は曾祖父が前々皇王の弟であったことから公爵位をいただいている。皇国の歴史からすればまだ歴史の浅い家ではあるが、血の濃さから皇家に使える者も多い家柄だ。
 現当主たる私は、勇猛の誉れ高い曾祖父の血を色濃く受け継いだらしく、筋骨逞しく、一般の民より一回り大きい体躯なのだが、体力、筋力はあっても残念ながら剣技の才はなく、その分知能に回ったようで、そのおかげで恐れ多いことに宰相職を任されている。
 そんな私も含めて、貴族位の者にとって皇家主催の宴は、何をおいても参加すべきのは道理。今も参加可能な貴族家当主やその子など、各家を代表する人間が集まって、春の宴を楽しんでいた。
 皇家が主催されるこの春の宴は、季節ごとに行われる宴の中でも唯一昼間から夜へと半日にわたって行われる。それは、薄桃色の可憐な花を枝いっぱいにつける桜花を、陽光と月夜のそれぞれで愛でることを目的にしているからだ。
 昼は春の花を愛でながらの軽い食事会、そして夜には本格的な宴となるのだが、その合間に、毎年趣向の違う遊戯が行われるのは常のことだった。
 皇家所有の別邸で行われている今年の宴の遊戯は、宝探し。館の敷地内に隠された宝と銘打たれた希少な初代皇王の肖像入り金貨を探し出すというもの。それだけでなく、隠されているのは他の歴代皇王の物もあり、中には偽物も含まれている。判別できずに本物として提出すれば罰則が科せられるし、歴代皇王の肖像入り金貨を見誤るとなれば、皇王のご機嫌を損ねるは必須。
 そんな緊張感も孕む宝探しの時間の前に、私は私の控え室へと、ある青年を呼び出した。
 皇国の僻地にある小さな領地を持つ男爵家当主の彼は、最近代替わりしたばかり。
 同じ貴族とはいえ、公爵である私と男爵の彼では身分が違うため、現れた彼はたいそう緊張していた。もっとも、元騎士で豪胆さを併せ持つ彼が、その端正な顔が青ざめるほどになっていたのはそんな格差のせいだけではない。
 彼の家は、私に多額の借金をしており、そろそろその返却期限が近づいているのだ。その借金は、彼がどんなに金策に走ったとしても準備できる金額ではなく、さらに期限に間に合わないのだろうということは、今の彼の顔色が明確に物語っている。
 だからこそ、その場で私は彼に一つの提案をした。
 皇家主催の遊戯で賭け事など、本来であれば不敬として懲罰の対象になるかもしれないが、そこはそれ、現皇王はシャレの分かる方であるし、きちんと了承はいただいているので問題はない。
 その上での賭けの内容は、どの御方でもいいから肖像入り金貨を探し出し、それが本物であれば私は彼の借金を帳消しにするというもの。だが見つけられないか、見つけられても偽物であれば、即刻全財産と領地をもって返済し、かつ男爵位も返上、その上で足りない分があれば我が家で働いて返してもらう。
 そこにある希望と、けれども負けたときの損失を天秤にかけ、彼が強張った表情のまま了承したのは、かれこれ二時間ほど前だった。
 今は、先ほど遊戯の時間の到来を皇王が宣言され、参加者が三々五々、風光明媚な庭へと散らばっていく様子を、館のバルコニーから眺めているところ。
 基本は全員参加だが、隠した肖像入り金貨は私が供出したもので、隠したところを監督したのも私。場所を知っている私が参加できるはずもない。
 本日は陽気もたいそう良く、皇王の覚えを良くしようと皆が額に汗を浮かべながら必死になって探し回っている。その中から見つけた彼は、遠目でも横顔が強張っているのがよく分かった。きっと握り締められた拳は白くなるほど力が入っているだろう、そんな力の入った様子が伝わってくる。まあ本物の金貨を手に入れられるかどうかに、彼の命運がかかっているのだから仕方がないことではあるが。
 庭は桜花が満開で、爽やかな風が吹くたびにちらほらと淡い色の花びらが散り、緑の芝生に舞い落ちていた。
 その中を走り回る男達の大半は飽食により恰幅の良いものばかりで、せっかくの優美な景色には少々無粋ではあるが。その分、彼の姿は十二分に目の保養となる。男爵を継ぐ前までは騎士であったため、細身とは言え鍛えられた身体が礼服の中にあるはずだ。走る姿も美しく、社交界の中でも青薔薇の君などと女性達にもてはやされているほどの端正な顔立ちは、確かにこの距離でも目立つ。若者らしく短めの砂色の髪は清潔感があり、陽光の中で美しく煌めいて、とても良い目印になっていた。
 制限時間は残り一時間ほどか。
 隠されたのは初代皇王のものが一枚と歴代皇王のものが全部で二十枚。通常の金貨も百枚ばかり隠されている。偽物は二十枚ばかりだが、知っている者が見ればたやすく見分けられる程度のものだ。
 そろそろ歓声も上がりだし、賑やかな催しとなったことに、発案者たる皇王もご機嫌麗しい。これならば初代皇王の金貨を手に入れた者は、良い褒美をいただけることだろう。
 さて、彼は何かを見つけられるだろうか、それでも何も手に入れられないか。
 いまだ強張った顔のままの彼の姿を眺めながら、私は楽しく長いようで短い一時間を過ごしていた。

                 ※※※

 結果は。

「偽物だねえ」
「そ、んな……偽物、なんて……」
「君の負け、でいいかな?」
「あ、ああ……、なんで……」

 私の勝ち。

                 ※※※

 私は絨毯に転がった金貨を指先で拾い上げた。
 遊戯が終わってすぐに、私に割り当てられた部屋に来た彼。
 皇王に提出することなく私のところに来たのは、やはり彼にとって賭けがどうなるかが重要だからだろう。
 固く握られていた右の拳が私の目前で開かれる。
 その金貨を受け取れば、それは第五代皇王の肖像入り金貨であった。
 受け取った金貨は彼の体温が移り、しっとりと湿った感触がする。
 その金貨を受け取って、よく確認した。
 庭の東北にある木の枝の洞で、金貨をようやくにして見つけたときに彼がどんなに喜んでいたか私は知っている。これで全てが解決すると、その瞳が希望と期待に打ち震えていた様子を、遠見鏡でつぶさに見ていたからだが、なかなかに良い笑顔だったとしばし魅入っていたほどだ。
 だが期待に満ちた彼の表情が、私の一言にすっと消え失せた。
 表情のない亡者の面のように、瞳の焦点すら合わなくなり、その唇がわなわなとただ震える。
「うん、肖像は確かに五代皇王だし、刻印された年号も確かに即位した皇紀二百二年なのは間違いない。だが、五代皇王は、即位した年は戦乱のさなかで肖像入り金貨は発行されていなかったんだよ。だからこれは……偽物だねえ」
 見つけるべきは即位時に発行された肖像入り金貨ではあるが、発行されていない金貨は、含有量は金貨のそれであっても、偽物でしかない。
「そ、んな……偽物、なんて……」
「君の負け、でいいかな?」
「あ、ああ……、なんで……」
 信じられないと見開いた彼に、その金貨を返す。
 受け取った彼は、金貨を何度も何度も確認して、諦めきれないように私へと視線を向けた。
 そのまましばらく呆然と私を見つめた彼は、指先からその金貨を落としながら糸が切れたようにその場に崩れ落ちていった。
 なんで、これが偽物……、嘘だ、違う、……ああ、なんで……。
 何度も同じような言葉を繰り返す声が微かに聞こえるが、それを覆すだけの証拠は今の彼にはないのは確か。
 真偽の判定がつかない場合に私が判別することは、この遊戯の始まる前に皇王が宣言されており、私は公明正大に真偽判断をすることを皇王に誓っている。
 その私が偽物と言えば、それは偽物なのだ。
 しかも、彼の手の中に金貨は他にはない。
 となれば、彼の全財産は私のものとなり、彼の小さな領地すら私の支配下となる。皇家から下賜された領地を失うことは貴族位をも返上するということで、彼にはもう何一つ残されていないということだ。
 いや、確か彼には母君と学園に通う弟君がいたはずで、今後、彼の肩には二人の暮らしもずしりとのしかかるはずだ。何しろ屋敷どころか、当座の暮らしに必要である何一つとっても、その手には残らない――私が提示していた全財産とは、そういう内容だったのだ。
 しかも、足りない。元から借金は、どう足掻いても彼の資産では足りないからこその賭けだったのだから。
 働くにしても、古巣の近衛騎士団は貴族のみ、実力者揃いの筆頭騎士団には腕が足らず、平民が勤める警邏騎士団は、貴族崩れの彼など当面は低賃金の雑用係にしかなれないはずだ。
 家を持つどころか、家族の住まいを借りることも無一文の彼にはできない。
 嗚咽すら零し始めた彼の姿は、かなり憐憫を誘う。
「そうだな、君の家族には家と贅沢をしなければ暮らせるだけの生活費ぐらいは施してやってもいいが……」
 その言葉に、絶望の中に光を見つけたように、彼が顔を跳ね上げた。
「もちろん、君次第だがね」
「私……次第とは?」
 私の言葉に戸惑い、視線が惑う。いまだ絨毯に手を突いたままの肩に触れれば、びくりと強張った。その顔は血の気を失っている。
 足りない場合は、彼自身が私の元で働くこと。
 そのことを思い出したのだろうか。
 何もかも失った彼は、今絶望の淵において、かろうじて岸に指先をかけているようなものだ。
 不安定の中にいて、私の言葉一つで、彼の感情は大きく揺れる。
 伸ばした手で彼の短い髪に触れてみれば、見た目よりは柔らかく、触り心地が良かった。だが私の戯れに不安でも感じたのか、美しい瞳の色が怯えに移ろう様が見て取れて、つい笑みを深くする。
「あの……公爵、様?」
「私の好みはね、君のような若者を夜の褥に誘うことなんだよ」
「しと、ね……?」
 知らない言葉でないはずの、簡単な単語を繰り返す唇はすでに色を失ったまま。血の気を失った頬が震え、戸惑いの色が困惑へ、そして。
「ひっ!」
 一瞬で驚愕へと変わったその表情と、のけ反る身体。私の手から逃れようとする寸前、私はその髪を捕らえ、もう一方の手で背後から彼の身体を抱きしめた。
「逃げるなら、残りの借金は弟君に返してもらおうか」
「なっ、それはどういうっ」
 弟という言葉に驚愕に目を見開き、横目で私を捉えようとしたが、目の前にある耳に、ふっと息を吹きかければ、兄弟思いの彼はその背をぞくぞくと震わせた。どうやらなかなかに感度が良さそうだ。
「君の逞しい身体で夜の奉仕をする、それが君の仕事だよ」
「そんなことができるかっ」
「おや、そんなことを言っていいのかな。賭けに負けたときの内容として、君が働くことは上げていたはずだが」
「そんなものは仕事ではないっ」
「仕事だよ、仕事。借金は完全にゼロになったわけではない。だからこそ、君が私の元で働くと交わしたはず。まあそれが受け入れられないというならば、この話は弟君に持っていくことにするだけだ」
 つまり身代わりだと、言葉にせずとも聡い彼はすぐに気が付いたようだ。言葉を失い、怒りがその表情から消えて、身体から力が抜けていく。
 彼が弟君を見捨てることなどできるはずもない。幼い頃の可愛い顔立ちは長じて良い意味で変化し、社交界の白薔薇の君と噂されているほどだ。
 青薔薇の君よりも可憐な白薔薇は、本音で言えば私の好みから外れているが。
「くっ……、ならば私は……。私が、あなたの相手をすれば、弟には手を出さないと……」
「もちろん、私が手を出すことはないよ」
 私はね。私はやはり君がいい。
「君が頑張ってくれるならば、母君の新しい生活拠点も、金銭も、全て私のほうで手配しよう」
「ああ……」
 虚ろに唸りながらで頭を垂れる彼は、確か二十三歳。一年ほど前に失踪した父親の探索と、判明した多額の借金の金策にと明け暮れて、数ヶ月前に正式に男爵家を継いだこともあって、日々かなり多忙だったはず。こうして抱きしめていると、少し痩せているようだ。
 若い身体にも堪える日々に、身体に沿って仕立てているはずの礼服がかなりだぶついていた。腕も細くなっているようで、どうやら金策に明け暮れた一年間、筋肉もかなり落としているらしい。
 私としては筋肉質のほうが好みだし、体力がなければ持久力もないし、と、これからのことを考える。
「まず、君の身体がどういう状態で、私が気に入るものであるか確認しようか」
 告げた言葉に、跳ねるように私を見上げた彼の恐怖の混じった表情、そして波打つ瞳。
 その表情に、身体の芯が疼くのを感じながら、私は彼の襟首を掴み上げ寝室へと突き飛ばした。
 床に転がりかけたが、すぐに体勢を直す機敏さは、さすがにまだ損なわれていないらしい。
 片膝をついて身体を起こした彼を見下ろし、命令する。
「服を脱げ」
 簡潔な言葉だったのに、聡いはずの彼でもすぐに理解できないようだ。
 仕方なく、私は棚に立てかけていた乗馬鞭を手に取り、そのまま彼の右腕を強く叩いた。
「ひっ、痛っ」
 逃げかけたせいで、かすった程度だが、馬の厚い皮を打つ鞭は堅い。空を切る音と共に情けない悲鳴が響いたが、かすった程度であるし、布地の服の上からであればそれほど響くはずもない。
 それよりも。
「これは命令を聞かないことに対する躾だ、逃げることも、反抗も、許さない」
 再度の打擲から逃げを打とうとする彼のうなじをつかみ、床にと押しつけた。
 彼のような若さはないが、組み手は私の得意とするところ。毎日の鍛錬を欠かしておらず、怠けている輩相手に負ける気はしない。
「う、くっ……」
「命令は一回で聞け。反抗するなら、逃亡奴隷と見なす」
 はっきりと扱いは奴隷だと伝えれば、彼は硬直した。
「奴隷、はっ、奴隷は、国、の、犯罪奴隷だけ、だけしか認められないっ、はずだっ」
 強張った表情のまま、喘ぐように訴えるその言葉に、私も頷く。
 彼の言葉は正しい。この皇国において奴隷とは犯罪奴隷を指す。
 だが。
「借金返済をしない輩もまた犯罪者だ。金額によっては犯罪奴隷に堕とされるし、君――いや、おまえの場合も該当する」
「なっ、そんなっ」
「もし正規の手続きが良いというのであれば、司法部に引き渡し、正式な判定の上犯罪奴隷としてもらおう。そこで正式に奴隷印を施されてしまえば、一生涯奴隷として逃れることはかなわぬ。家族も犯罪者の縁者として肩身の狭いことになるだろう」
「そ、そんな……、ま、待ってくださいっ」
「借金を踏み倒し、犯罪奴隷になるということはそういうことだ」
 犯罪奴隷は重罪人がなるものであり、当人のみの一代限りではある。だが重罪人ということで、家族もいろいろと責め立てられることが多い。
「皇家が管轄する機関に送られた奴隷は、生活の全てを細かく管理され、自由にできるのは息をすることぐらいだ。毎日休むことなく働かされて、寿命も短くなる傾向がある。おまえはそんなモノになりたいのか?」
「くっ……それは……」
「だが私のモノであるというならば、訴えることはしないでやろう」
 貴族でも彼のような下位の者や一般の者は犯罪奴隷がどんな仕事をしているか知らないものが多い。知らなくとも、重罪人は奴隷堕ちさせる、ということから、知らない者は勝手に悪く想像する。
 子どもが悪いことをしたら「奴隷になってしまうよ」と脅しネタになるほどに。
 さらに犯罪奴隷に施される奴隷印というものがあり、目立つ頬に入れられるため、逃げたらすぐに捕まるようになっていた。
 何しろ見つけたときの報奨金がものすごく高いのだ。
 ちなみに私は関係者の一人であるから、犯罪奴隷の仕事ぶりはよく知っている。
「ここでは奴隷印も施さないし、犯罪奴隷よりよほど良い暮らしが可能だ。それに、いつかは一般市民に戻してやることもできる」
「いつか……とは、それは、どの程度、ということか?」
 と、問われて、私はふむと首を傾げた。
「そうだな、一年、私に付き合ってもらおうか」
 やりたいことはいろいろあるが、まあこの時点での契約は一年が妥当だろう。
「一年……」
「そうだ、一年、今日から一年後の同じ日としよう」
 春の陽気の明るい日射しに新緑が美しく輝く頃。
 一年後、明るい日射しの中で、彼は今日の宝探しの中にいたように輝いて見えるだろうか。
 ふとそんなことを考えたが、まあ一年しか経たないのだからそう変わるものではないだろうが。
「分か、りました……、一年なら。一年間、私は、公爵様、……にお仕えします」
 言葉が途切れ、いやいやながらの感情が込められてはいたが、私は気付かないふりをして、笑みを浮かべた。
「そう、それでいい」
 彼が認めなくても、すでに彼は私のものなのだ。どちらにせよ、主人に対し決して逆らえない奴隷と同じ存在にすることは、私の中で確定事項である。
「では、君が私の褥にはべるモノとしてふさわしいか、その身体を確かめよう」
 その言葉に、彼が否やと応えられるはずもなかった。