【公爵様の優雅な遊戯】2

【公爵様の優雅な遊戯】2

 確かに痩せてはいたが、あばらがひどく浮き出るほどでもなく、肌つやもそれほど悪くはなかった。いや、私の手のひらに吸い付くような触り心地の良い肌は、及第点を与えてもいいか。これは食環境次第で、もっと良いものになるだろう。
「く、……うっ」
 奥歯を食い縛り、裸体を晒した身体を仰向けにして、四肢を伸ばした状態で、彼は必死に声をかみ殺していた。
 声を聞くのも楽しいが、我慢する姿というのも一興だ。
 すらりとした体躯に薄い筋肉。だがもともと剣を振るうほどには鍛えていた身体は、食事と運動次第で、実践的な鍛え方をした適度な筋肉にすぐに戻るはずだ。
 砂色の髪より少し濃い体毛は、意外にもささやかな量であり、陰茎の周りを覆うだけ。
 その間から小ぶりの陰茎が力なく垂れ下がっていた。――おっと、つい自身のモノを基準にしてしまう悪い癖が出たが、小ぶりと言っても、成人男子とすればまあこちらも程よいサイズと言ったほうがいいか。
 皮もかぶっておらず、鬼頭の形も良い。勃起すればなかなか良い形で楽しませてくれるだろう。その様を想像して、思わず喉を鳴らしたら、手のひらの下で、かわいそうなほどに彼の身体が震えていた。
 大きく息を吸い込んで胸が膨らみ、また平に戻る。薄く日に焼けた肌の中でさらに濃い色の中で尖る一対の乳嘴(にゅうし)。形良く膨らむその大きさは、女のモノからすればとても小さいが、指で摘まむことはできる。
「いっ!」
 誘われるように親指と人差し指で彼の右の乳嘴を摘まんだら、おもしろいように彼の身体が跳ねた。その動きで乳嘴が強く引っ張られ、反射的に強く摘まんでしまい、痛みを訴える。
「動くな」
 自らを痛めつけてしまったせいか、まなじりに涙を浮かべた彼は、奥歯を噛み締めたままこくりと頷いた。
 指先を離してみれば、摘まんだ側だけ赤く色づき、少し扁平していた。今度はその扁平を戻すように摘まんでみて、また離して、そしてまた摘まむ。
 力を入れるたびに身体が震えているが、先ほどのように大きく動くことはなく、唇ばかりを噛み締めている姿が目に入った。
「目を閉じるな。何をされているか見ろ」
「は、はい……」
 閉じられた瞳が開き、彼の赤味を帯びた煉瓦色の瞳が自身の胸へと向けられた。と言っても、はっきりと見えないのだろう。眉間にシワを寄せて、眇めて見ている。
「ふむ、良い子だ」
 従順さは必須だ。
 どうやら彼とは、なかなか良い遊びができそうだ。という判断はまだ早計か。
 私は先走ったことを考える自身に自嘲した。待望の彼を手に入れたことに、少し浮かれているらしい。
「この乳嘴はいじり続けることで大きく成長すると言われている。手が空いているときは常に弄りなさい、両方ともだ」
「え……あ、いえ、分かりました」
 一瞬呆けた彼が、慌てて頷く。おずおずと持ち上がった手が、それぞれの乳嘴に触れ、摘まみ上げた。
「もっと強くだ、痛みを覚えるほどに」
「はぃ……くっ……」
 痛みに顔を顰めた様子を確認し、私は満足気に頷いた。
「指先を動かして揉みなさい」
「は、ぃっ」
 なるほど、これはなかなかいい。苦痛に歪む顔も、押し殺したような吐息混じりの声も、緊張して張り詰める肌、震える筋肉。乱れた髪が寝具に擦れて音を立て、身悶える身体を中心にシーツがシワを作る姿も。
 これは、見ているだけでもなかなかにクル。
「足を開いて立てなさい」
 今度は下半身へと向かい、股間の奥に隠された入り口が、戸惑いながらも露わになる様をゆっくりと見た。
 筋肉質な内股の狭間に向かい、手燭の灯りを寄せてやれば、熱に怯えたように内股が震えた。奥のそこも、堅くすぼまってはいるが、息づくようにひくりひくりとひくついている。
 まあ直接触れなくても、今までの様子から見ても処女地なのは違いない。
 その上の会陰を隠すように垂れた陰茎は、相変わらず力がなかった。
 ならばと、そっと息を吹きかければ、悲鳴を上げて彼の足が勢いよく跳ねる。それこそ、私が下がらなければ、膝で頭を強打していたことだろうほどに。
「危ないな」
 冷たく言い放てば、彼が慌てて上半身を起こしてきた。
「も、申し訳ありませんっ」
「誰が起きていいと言った?」
 叱咤すれば、謝罪しながら仰臥に戻る。従順な姿は褒めてもいいほどだが、勝手に動いた罰は必須。
 私は彼に、右手で自身の陰茎を愛撫するように命じた。
「勃起するまでやれ」
「……はい」
 冷たく見下ろす私の視線に怯え、頷く彼。
 いつかはまた、前のように勇気ある騎士のときのまなざしを見てみたいものだと思いながらも、今は怯えた彼を存分に楽しむことにしている。
 だが彼のぎこちない手つきは、まるで男のモノに初めて触れた淑女のような状態で、これでは勃つはずもないと私でも思う。
 手の中でも垂れ下がった陰茎が、焦りに速くなった動きにより少しはマシになるが、それでもなんとも情けない姿だった。
 そのうち勃つだろうか、と、彼が苦労する様を酒を飲みながら眺めていたが、これでは時間がいくらあっても足りない。
 宝探しの遊戯からここまで、大した時間が経っていないように見えても、窓の外はそろそろ夜の帳が下りる頃合いか。
 全身汗にまみれ、苦痛にも似た表情を浮かべた彼は泣きそうに瞳を潤ませて、時折私のほうへと懇願の視線を送ってくる。最初の頃に泣き言を言ったから、懇願するようなモノは私のモノとして認められない、と言ったら何も言わなくなったからうるさくはないのだが。
 さて、そろそろこの状態にも飽きが来たなと思いながら時計を眺める。
 すぎた時間の分、夜会の時間が迫ってきていた。
 春の宴の締めくくりとして主要な催しである夜会には当然のように皇王もご出席なされるもので、招待までされていて無断で欠席するわけもいかない。
 正装に着替える時間も必要で、私は仕方なく彼に寝台から下りるように指示した。
「夜会の準備をしろ。皇王ご出席の夜会に遅れるわけにはいかない」
 その言葉に何か言いかけた彼が、それでも開きかけた口を閉じ、急ぎ寝台から下りようとしてふらついた。
 その身体が私に触れる。
 すぐに姿勢を正し一歩下がったが、そのとき私の視界に彼の下肢が入ってきた。
 横になっていたときにはよく分からなかったが、彼の陰茎はようやくといったように勃ち上がりかけていたのだ。勃起してもなかなか良い形をしており、小ぶりながら――いや、ごく普通の、つかみやすい大きさをしている。しかも硬さも十分なようで、なかなか握りがいがありそうだ。
 時間があれば、鞭で嬲ってみてみたいが、やはり夜会に遅れるわけにはいかない。
「よろしい、今後はもっと早く勃起させろ」
 頷きながら視線を上げれば、彼の左の胸、左手でずっと摘まんでいた乳嘴が赤く色づき、ぷっくりと膨らんでいた。明らかに右と大きさが違い、ピンと立っている様はずいぶんと淫らだ。
「ふむ厭らしい形だ」
 これなら、良い飾りが取り付けられそうだが、残念ながら準備ができていない。今度宝飾師に似合うものを作らせよう。
「服はクローゼットにある」
 と、準備していた服について指示をし、彼がクローゼットに向かったその背を見ながら、そういえばと私は空の酒のグラスを取った。
 琥珀色の酒を少しと水を多く、さらに懐から取り出した瓶の中の液体を一滴……、おや、少々余計に入ったが、まあ些細なことだ。
 彼が服に気を取られている間にできあがった薄い酒を手に、彼を呼び寄せグラスを差し出した。
「そのような青白い顔で皇王の御前に出るのは不敬ゆえ」
 私の言葉に彼は一瞬ためらった後、自ら頬を擦りつつ、すぐにそれを飲み干した。


 美味い料理ではあっても、特に目新しいものはなく、周囲の会話も退屈で、無意味な時間がすぎていく。
 せっかくなので、彼にこういうときの作法を教え込みたがったが、いまだ彼は男爵のままで、公爵の私とは身分が違いすぎる。と言って、男爵でなくなれば、こういう場には出られない。
 青薔薇の君とうたわれる彼を、こういう場で嬲りたいものだが、何か方法がないか思案することで無聊を紛らわせる。
 遠く離れた場所にいる彼を伺いながら、隣席の男と実りのない会話を繰り返す。
 夜会もそろそろ終盤にさしかかるだろう頃、彼が動き始めた。どうやら気分が悪くでもなったのか、俯き加減に部屋を出ていく。もともとここに来るときも顔色は悪いままだったから仕方がないし、どちらかと言えば、よくこの時間まで我慢したなと、感心する。
 彼の姿が完全に部屋から消えたのを確認してから、私は傍にいた顔見知りの皇王様の侍従を呼び、耳打ちした。皇王が私を懇意にしている関係で、その侍従ともよく話をするのだが、彼は職務で忠実で、そのための知識も豊富、非常に頼りになるのだが、今も私の依頼に深く頭を下げて了承し退席していった。
 さて、彼はどこへ向かっただろうか。
 侍従に頼んだので、いずれ見つけ出してくれるだろうが。
 ほろ酔い加減の身体の熱をさしがてら、館の中庭へと足を運んでいく。今宵は満月で、大きな月の光が木々の影を色濃く芝に落としていた。
 広い庭はあの宝探しをした場所だが、今は昼間の喧噪が嘘のように静まりかえっており、私はその中をゆっくりと歩き、夜の散策を楽しんだ。
 爽やかな風が酔いを覚ますのにちょうど良い。ゆっくりと歩いて美しく花咲く花壇へと足を運んだそのとき、私の目にきらりと光るものが目に入った。彼の瞳と同じ色の煉瓦が積み重なる、そのわずかな隙間だ。地面の芝に半ば埋もれかけていて、月明かりが反射せねば気づかないような場所に、それはあった。
 指先で拾い上げれば、美しい金色の硬貨。まさしく今日隠された一つに違いない。数少ない金貨だからこそ念入りに隠されて、見つけ損なった物なのだろう。
 月の光を頼りに表と裏と矯めつ眇めつ確認すれば、これは本物であった。五代皇王の即位記念の金貨。
 即位年は戦乱で、遅れて発行された故に非常に発行数の少ない金貨であり、この国でも私のもの以外、片手の指が余るほどしか特定されていない。
 肖像自体は彼が見つけ出したものと同じもの。金貨として考えるなら、その価値の違いはない。
 だが、希少性というだけで、この金貨は天井知らずの価格が付いている。
 それこそ、彼の残りの借金がこれ一枚でまかなえるほどのものなのだ。
 その金貨を握り締め、ふと傍らの木を見上げる。
 ここは彼があの金貨を見つけ出した場所だ。背の高い彼だからこそ、見つけられた小さな洞。それに気を取られて足元のこれを見逃したのだから、どれだけ彼が舞い上がっていたのか考えるだけで笑えてしまう。
 私はその金貨をポケットの奥へとしまい、うかつな彼の気配を探った。
 さてその彼は一体どこにいったのだろうか。
 今なら、逃げようと思えば逃げられるだろう。だが彼は逃げられない。
 弟君のこともあるけれど、あの薬を飲んだ状態で逃げることは難しいし、何より先ほどの侍従はひどく優秀で、今ごろはもう彼を見つけているだろう。
 ゆっくりと奥へと歩き、高い塀に囲まれた敷地の端まで来てみれば、そこには小さな物置小屋と周囲の木々のこずえに隠された奥にある小さな空間があった。
 何に使った跡なのか、木の枝から何本もの綱がだらりと垂れ下がり、いくつかは幹や枝にしっかりと結びつけられているが、その反対側は奇妙な色に変色し、だらりと伸びている。
 下生えの雑草は何カ所かで踏み荒らされ、地面も抉られているところが多い。どことなくすえた臭いがする場所で、なぜか猛獣を拘束する革帯と、犯罪者を固定する木の枷、そして乗馬鞭がまとめて転がっていた。いずれも泥だらけで、だが意外にも新しい。
 そんな奇妙な空間に、なぜ私が足を踏み入れたかと言えば、なんとも言えぬ奇妙な声が聞こえたせいだ。
 鳴き声のようであり、人のすすり泣きのようであり、喘ぐようであり、悲鳴でもあり、歓声でもあり、その全てが混ざり合ったような声に、誘われていった場所。
 そこで、白い肌を晒した男の上に、衣服を着たままの男がのしかかっていた。
「ひ、やあ、さわ……で……、んぐっ」
 甘い吐息を零し、艶やかな声で喘ぎながら激しく身悶えているのは、砂色の髪を月明かりに煌めかせている、私が探し求めていた彼。
 満月の明かりの下でより白く見える肌を晒した身体から、剥ぎ取られたのであろう地面に散らばった服、何より響く濡れた音が何をしているか、鮮明に伝わってくる。
 皇王主催の夜会を抜けだし欲に狂うその様は、貴族としてどう考えても厳罰もの。
 私はその様子をしばし眺めつつ、さてどうしたものかと首を傾げる。
 だが、整った若い顔が淫らに歪む姿を見るのも楽しく、彼の肌が泥にまみれ、汚濁に覆われる姿も興を誘うせいで、ついつい魅入ってしまっていた。
「ひんっ、だ、嫌だ、そこっ、イッ――、イクっ、もっ」
 艶やかな声が、静かな庭に存外なほど大きく、甲高く響き、私は思わず背後の館へと視線を巡らせた。だが館まで不審な声が届いている気配はなく、誰一人人影は出てこない。
 こんな奥まった場所からの声は届かないようだが、これ以上大きくなったら難しいのも確か。
 それは上にのしかかる男も気が付いたのか、大きな手が彼の顔の下半分を覆い隠した。快楽に歪んだ顔が隠れたのは残念だが、男の判断は正しいだろう。ここに口枷がないのが惜しいところだが、見回してもそのような物はない。
 そのさなか、男のもう一方の手が彼の尻の後ろへと伸びたようだ。残念ながら私からは見えないが、びくびくと震える彼の伸びた足を見る限り、ずいぶんと善いところを虐められているようで、限界が近いのか、頭を振りたくっている。
 しばらく観察していれば、腰の揺らめきがさらに大きく、呻き声は手で押さえられているというのに大きくなった。
「んーっ、ぐっ、うっ」
 靴下を身につけたままの爪先が乱れた地面をさらに深く削る。伸びた手が、丈の短い草をつかみ、ブチブチと引きちぎった。どうやら荒れた草地は、先達が似たようなことをした痕のようだ。同じような、長く伸びる後が二本、ほぼ並行に走っている。
 ひいふうみい、と数えた数は、草の伸び具合からしてできた時期が違う。
 そんな中で蠢く彼は、月明かりのせいか、先ほど見たときよりも白く見える肌は、それでも紅潮しているようだし、汗ばんでいるのか、身じろぐたびに細かな煌めき、私を楽しませる。
「んっ、くーっ、いぃぃっ!!」
 不意に、彼の身体が跳ねた。
 上になった男の背が上下したほどで、勢いでその手が彼の口から外れる。
「ひゅっ!」
 途端に口から漏れた空気が鋭く鳴り、開いた口から舌がだらりと落ちた。がくがくと震える足が、その爪先で強く地面をつかむ。
 強い快感を味わっている姿をもっと観察しようと、私の足は彼へと近づいた。だが、こっそり歩いたつもりでも、鋭敏な神経を持つのであろう上の男が振り返る。身を捩った拍子に見えたのは、男の手と彼の下腹を汚す白い粘液。
 露わになった腹が大きく上下し、煌めく下生えの中で彼の可愛い陰茎がくたりと腹に伏している。
「こんなところにいたとはな」
 盗み見ばれた気まずさからそんなことを呟き、深く一礼する侍従に頷く。
「見つけてお連れしようとしましたが、何しろ発情状態がひどく、仕方なく落ち着かせる処置をしておりましたが、これで三回射精をしておるというのに一向に落ち着かず、でございます」
「そうか、それは手を煩わせてしまったな」
「とんでもございません」
 皇王の侍従として名実共に筆頭と言われる侍従の彼が、できないのであれば、それは誰にもできないことは確か。
「さてと、ここはどうやら特別な場所に見受けられるが、どうしたら良いだろうね?」
 私の言葉に、侍従は一度視線を背後の彼へと向け、再び私へと向き直った。
「どうやら激しい発情はいまだ治ることなく、されどこちらは皇族方のお赦しもなく立ち入りはできないところでございまして、即座に移動をされるか、そうなされないのであれば、皇王様に許可をいただくべきと思われます」
 なるほど。
 私は侍従の身体の向こうにある彼を覗き込んだ。先ほど少し萎えたと思った陰茎が、再びむくりと起き上がり、力強く脈打っているように見える。
「本当に私のモノが申し訳ないことをした。皇王には詫びし、許可をいただかなければならないな」
 私達の深刻な会話にも気付かずに、股間に手を伸ばし、浅ましく自慰を繰り返す彼の姿に、さすがに私の眉間のシワが深くなる。
「運び出すよう手配をいたしましょうか?」
「いや、これに関しては私がなんとかしよう。こちらの場所を乱したことについては後ほど謝罪させていただくので、申し訳ないが、しばらく借り受ける旨、先に伝えていただけないだろうか。とりあえずの詫びとしてこちらを皇王に」
 そう言って、先日取り寄せておいた特別な薬が入った瓶を侍従に渡す。
「疲労困憊でも一滴で精力が戻るほどの薬であるので、使い所にはご注意するようにと」
「かしこまりました。それではご伝言と共にお渡ししておきます」
「それから君にはこれを感謝の証として」
 渡したのは、先ほど拾った金貨。
「欲しいものができたら、これを持ってくれば交換してあげよう」
「当然のことをしたまでですが、公爵閣下からの褒美としてありがたくお受けいたします」
 恭しく美しい所作で頭を下げた侍従が、私の伝言と共に館へと向かう。その背をしばらく見送ってから、私は彼の傍らへと近づいた。
 片膝をついて覗き込めば、より彼の姿が鮮明に目に入ってくる。
 零す吐息は熱く、淫らに蠢く手は、汚れた陰茎を音を立てながら擦り上げている。目の焦点は不規則に移ろい、身の奥から沸き起こる快楽に心身共に委ねていた。
 ふむ、あの薬との相性は良好のようだ。
 一滴で無垢なる乙女すら発情する薬だ。女遊びにうつつをぬかす時間もなかった彼ならば、よく効くだろうとは思ったが。
 ああそういえば、手が滑ってうっかり二滴……いや三滴ばかり入れたような気もするが。
 まあどうでも良いが、泥まみれで何度も吐精を繰り返している姿は、なんとも私の欲をそそってくれる。このまま見ていると、私までこのような場所で盛ってしまいそうなのだが。
 いや、ここは皇族方の場所、我慢すべきところだ。
「ん、あっ……なん、なんでぇ……また、またぁ、止ま、ない、止まらな、あぁっ、いいっ!」
 それでも、鼓膜を震わせる声に身体が熱くなるのは止められない。
 しかし、こんな状態の彼を連れ歩くこともできないし、抱えるにしても目的地の私の部屋はさすがに遠い。
 周りに散らばる服は泥だらけだし、どうしたものかと首を傾げた私は、そういえばと傍らに小屋があることに気が付いた。
 この場所を隠すためかと思ったが、ふと明かり取りの窓を塞ぐ木の板の隙間から中を覗き込んでみれば、中には綱もあれば、いろいろとそろっている。
 移動して扉に手をやってみれば、どうやら鍵はかかっておらず、簡単に中に入ることができた。せめて布か何かないかなと探ったが、そういう類いのものはなかった。何しろ彼の服は、なぜかビリビリに破けており、着られる代物ではない。 
 暗い中探るようにして確認したが、結局手に触れたのは太く丈夫な糸ぐらいだった。
 あとのさまざまな道具は、今のところ使い道がない。
 それはともかく、しょうがないので、暴れて泥をまき散らす彼を捕らえようと、そこらにぶら下がっている綱を引っ張って、彼を押さえつけて後ろ手に縛り上げた。
「ひ、い、痛っ、ああ、そこ、ひぃっ」
 痛いと言いながら、欲は薄れず身を震わせて悶える彼。
 後ろ手に縛った先は木の枝にかけて、足元もおぼつかない彼を無理に立たせた。
「足腰にしっかり力が入るまで、綱にでも縋ってなさい」
 命令しても聞いてもおらず、綱にぶら下がるようにゆらゆらと揺れるだけ。
「あっ、あぁっ……」
 喘ぎ声なのか返事なのか。まあ返事だと思って、今度はと足首それぞれに別のロープをつなぎ、肩幅分ぐらい開けさせて、別々の木へとつないだ。
「そのいきり立ったモノが萎えさせろ。こうしておけば隠すことなく、つぶさに見えるだろう」
 腹の下で前へと突き出した陰茎が、彼が腰を前後させるだけでへこへこと揺れていた。まるでおもちゃで遊ぶような仕草に私は呆れ、堕ちていた乗馬鞭を拾うと、尻がこちらに突き出された拍子に勢いよく打ってやる。
「ひいぃぃぃ――っ!」
 心地良い音が耳に響き、手のひらに伝わる震動も心地良い。
 赤い線を尻に作った彼は、激しくのけ反り、目を見開いて硬直していた。その瞳に少しは理性が戻ったように見えて、私は今度は軽く尻を叩く。
「い、っひぐっ」
「いつまでみっともなく勃たせている。さっさと鎮めろ」
「あ、ひっ……こ、これは、あっ」
 理性を取り戻したせいか、少しはまともな反応を返す彼に、私は今度は罰となるように糸を手に取る。
「痛い、いっ、やめ、やめてくれっ」
 暴れるせいで縛るのは難しいが、片方を引っ張れば締まっていくもやい結びは得意なので、やればあっという間だ。
 それで二つの乳嘴をくびり出すように結び、両方ともを彼の陰茎の亀頭部に結びつけた。
「罰としてこうやって突き出しておけ」
「こ、こんな……痛いです、痛い」
 裸体で前へと陰茎が突き出す格好は、まあ見ていて恥ずかしいとしか言いようがない格好だ。陰茎の重みで乳嘴が引き伸ばされてはいるが、千切れることはない。
 それに痛みは効果的だったようで、どうやら理性は完全に戻ったらしい。今さらながらに自分の格好に真っ赤になったり、青くなったりで、ずいぶんと忙しい。
「私は君の服を取ってくるから、おとなしくそれまで待っておけ。騒げば、そのみっともない姿を衆目に晒すことになるだろうよ」
「ま、待って、待ってください。ここでこんな格好で……」
「なら裸で戻るか? そろそろ夜会が終わるから、館内はどこも人がいるのだがね」
「っ!」
 絶句する彼に、私は軽く手を振って、踵を返した。
 後ろで何か叫んでいるが、私とて忙しい。夜会が終わる際の皇王の挨拶を聞き逃すわけにはいかないし、何より侍従経由で伝えたとしても、私自身詫びを入れねばならぬところだ。
 本来ならば、皇王の別邸であのような不埒なことをしていた彼が罰を受けるべきだが、すでにあれは私の所有物だと皇王はご存じ。
 私が詫びを入れるのは致し方ないことだった。