【The Gift from the Creater-4】後編

【The Gift from the Creater-4】後編

「ただいま、ミサト」
 柔らかな感触と共に、さっきまでとまったく違う言葉が、不意にかけられた。
 途端に身体に纏い付く淫靡で残虐な雰囲気は立ち消えて、どこか清涼な空気に晒される。
「こっちを見ろよ」
 なんだかやけにはっきりとした、脳髄にまで染み渡るような声音はひどく優しい。
「……」
 誘われるように向けた焦点の定まらない視界に、ぼんやりと映るのは金髪の男だった。
 これは……誰?
「あぁあ、さんざんヤられちまったようだなあ」
 苦笑混じりの声音も聞いた事があるような。
「よいしょっと、ああ、軽く作っといて良かった」
 抱え上げられ、建物の中から連れ出される。
「けっこう時間がかかっちまって、タイムオーバーになるかと思ったぜ」
 タイム、オーバー?
 空気が変わっていた。
 意識が明瞭になり、身体の隅々まで感覚が戻ってくる。
 俺は……。
 虚ろな頭のままに、目だけで辺りを見渡して、再度俺を抱え上げている男の顔を見やって。
「……ご、主人様?」
 リュウジ……は、ご主人様。
 そして、俺は——ミサト。
 ここは、ゲームの中の……世界で……。
 そして、ミサトがどんな目に遭っていたのかを、ようやく思い出した。



「タイムオーバーになると、従者は消えるって聞いてたけど、マジだったみたいだな。冗談じゃねえや……」
 ミサトを近くの大木の下に座らせたリュウジは、さっきからずっとブツブツと文句を言いまくっていた。
 きっとタイムオーバーになると、俺の心は精神崩壊を起こして、そしてミサトとともに闇に葬られるのだろう。
 ミサトは消えて、俺は狂ってしまって殺され役のNPCをやらされて。
 そして、あんなクエストで他の従者を犯したり、殺したりしてしまうのだ。
 けれど。
 もしタイムオーバーになって狂わずに残ったら、そうしたらどうなるのだろう?
「まあ、間に合ったから良かったけどよ」
 なっと、笑いかけられて。
 俺は、それまで考えていたことを一瞬忘れて、思わず頷いていた。
 それは、リュウジの表情から、ほんとうに安堵したのだということが伝わってきたらだ。
 もし、狂わずにいても、俺はまた別の従者になるだけだ。現に、ミサトになる前は、幾人かの従者を兼務していたのだから。二人でも三人でも、同時に操作できるようになっているシステムなので、そんなことも可能だったのだ。
 けれど、ミサトの重労働ぶりと面白さに、そして、リュウジの起こす行為は、プレーヤーを愉しませ、他のモノ達の購買意欲を煽ると運営側が俺をミサト専属にしただけなのだ。
「ミサトは今日はヤられ過ぎちまったみてぇだから、ここで休むか。俺もなんか疲れたしな」
 ううっ、と大きく伸びをしたリュウジが、装備を外して野営の準備をする。
 その言葉に目を瞠った。
 いつもは、何かを殺すという猛々しい衝動のままに、ミサトを犯し尽くすのがリュウジだ。
 けれど、今日のミサトの扱いは、どこか優しい。
 野営用のキャンプは敵を寄せ付けない作りになっているから、野獣がうろうろするところでキャンプをはって、その中で犯される事も多々あったというのに。
 今日は中に入っても本当に何もしないようなのだ。
 一瞬で設営できたキャンプにミサトを抱えて運び寝かすと、全裸の身体にリュウジ自身のマントを被せて、リュウジも離れたところに横になる。
 どこか後悔の滲んだような、優しい視線を向けられる。
 視線がどんな意味を持つか分かってしまうミサトにとって、それはあまりにもむず痒いモノで、けれど、なんだかひどく安心できるもので。
 リュウジはそのままログアウトしていくのかと思ったけれど、しばらくぼんやりとミサトを見つめ続けていた。



 だけど。
『そろそろ、お強請りするんだよ』
 突然頭に響いた運営の声に、驚愕する間も無く、俺は無意識のうちに喋っていた。
「ご主人様……、このクエストで、アイテムを貰ったと思いますが……それを、ミサトにつけてください」
 その言葉に、リュウジが目を剥いて。
 途端に霧散したのは、さっきまでの生暖かい心地よい雰囲気だった。
 ニヤリと嗤うリュウジの、その変化にひどく戸惑う。
 一体俺は……何を言ってしまったのだろうか?。
 背筋に走った悪寒は、決して外れたモノでは無いだろう。
「これがそんなに欲しいか、淫乱ミサト」
 取り出されたのは、細長い金属の棒。その表面は凸凹としていて、片端にはリングがついていて、自在金具で繋がっていた。
 それはきっと、ろくでもないアイテムだったのだ。
 大人しかったリュウジの欲望に一瞬にして火を付けてしまうほどの。
「これ、そろそろ着けようかって思ってたからちょうど良かったけど、まさかミサトから強請られるとはなあ。淫乱なミサトらしいや」
 リュウジの逞しい手が、がしりと掴んだのはミサトのペニス。
「ひっ!」
 まさか!
 俺が強請ったモノの正体を、惚けた頭でもこの時気が付いて。
「あ、ひっ……」
 恐怖に一瞬にして萎えたペニスに、それがズプッと突き刺さる。
「ぎ、あぐぅぅぅっ!」
 鋭い痛みが全身を襲う。ずる、ずるっと粘液を噴き出す鈴口に入っていくのは尿道用のプラグ。
 俺は、……なんてモノを。
 今のミサトならば、決して自分から強請るはずもないもので。
 こんなものを挿れられたら……。
「ひ、あうっ、……」
「入った、入った、このリングはピアスになってってから……、へえ、こうやってピアスにしてしまうと、このプラグはもう外れねぇなんだ、ははっ、こりゃいいや、これは次の時に着けようっと」
 楽しげな様子には、さっきまでの労りなど欠けらも見えなくて、リュウジの嗜虐性が前面に出ていたのがありありと判った。
『そのアイテムはね、『強欲の楔』って言われているんだけど、従者専用アイテムの一つ』
 恐怖におののく俺の頭の中に、運営の声が響く。
『それを身に付けた従者が傍に仕えていると、ご主人様の欲望は際限なく高まって戦闘力や攻撃力が上がり、その欲を叶えるってものなんだ……。もっとも実際は欲望を高めて、その欲の解消を手伝うってものなんだよ。つまりミサトをおもしろおかしく蹂躙しようって考えることが増えるだろうってこと。しかも、このアイテムは、従者が欲しがってつければ、ますます効果が高くなるんだ、あははははっ。従者身寄りに尽きるだろう? これで、リュウジはますます強くなるんだから、戦闘力も、性欲もねっ』
 その説明に、俺は愕然とその身を硬直させて、嬉々としたリュウジを見つめることしかできなかった。
 ああ、俺は……自ら……。
 くたびれ果てた従者に対するリュウジに芽生えた労りを摘み取ったのだ、と。
 リュウジは、アイテムによって、その欲望をますます強めてしまったのだ。
 それこそ、運営側が思うままに、俺は自ら墓穴を掘った。
 あのまま痛みに壊れる側にいたら、犯され尽くして狂ってしまえたら、もしかするとミサトから解放されたかもしれないのに。
 あるいは、痛みにただ耐えていれば、リュウジの、ここに連れてきてくれたような優しい労りを感じ取られたかもしれないのに。
「ああそういや、衣装も着ないとな」
「はい、ご主人様」
 疲れていたはずのミサトの身体は、けれど、いつの間にか回復していて、言われるがままに衣装を身につける。
 これもアイテムの効果なのかもしれない。
 元気でなければ、リュウジの強欲の相手などできないから。
 その様子をニヤニヤと嗤いながら見つめるリュウジには、もう労りの欠けらも感じられなくて。
「あ、ああっ……」
 狂いそうなほどに嬲られた身体は、また元気にその衣装が与える快感に身悶えて。
 傷だらけで痣だらけで、精液まみれの身体で、際限なく欲する淫らな身体を晒してしまう。
「マジ、消えなくて良かったなあ、こんな最高傑作の奴隷。二度と作れねぇし」
 ぽつりと呟いくリュウジの瞳の奥には、身震いするほどの残虐の焔が見て取れた。

【了】