【強い願望】前編

【強い願望】前編

 死のう。
 レネがそう思ったのが、二日前。
 同性であるが故に公表できないまでも、将来を誓い合った恋人のカラを、目の前で起きた事故で失った。
 可愛いカラ、キスですら恥じらい、けれど、レネを受け入れてしまえば淫らに身をくねらせて、熱い日々を過ごした最愛の恋人。
 一生離すことなどないと誓ったのに。
 なのに、失った。
 きっかけは些細なことだったけれどデート中に口論になって、彼が怒って。帰ると自分の車に戻ろうとする彼を止めようとして伸ばした手が、カラの肩で滑った。
 甲高い音はその直後。
 目の前が文字通り真っ赤に染まり、衝撃で背後に尻餅をついたレネに熱い何かが降り注ぐ。
 一瞬静寂に包まれた世界の中、動けないレネが目にしたのはゆっくりと宙を舞うカラの瞳で。
「カラ……?」
 高い車高の車に挟まれて。
 見開いた瞳が有り得ないほど飛び出ていて。
 赤みのある髪の彼の頭部が、レネの足元に転がった。
 頬に走った鋭い痛みは、まるで彼に引っ張叩かれようだったけれど。
 それが千切れ飛んだカラの指の爪が食い込んだせいだと知ったのは、病院のベッドの上で、事故から三日も経って正気を取り戻した後だった。
 それからのレネは生きる屍だった。
 カラが天使の髪のようだと誉めた金髪もグシャグシャで色褪せ、深い海の色をした瞳は鈍く濁り、白い透き通る肌は透明感を失って、見た目も死体のようだった。 
 喧嘩しなければ。
 あの肩が掴めていたならば。
 一月経っても、二月経っても、後悔は深くレネを追い詰めた。しかも、あの血まみれの情景も消えないどころかますます鮮明になって、レネの心を蝕んだ。
 目を閉じれば、いつも真っ赤な世界だ。
 消えない頬の痛みは、彼の怨嗟の深さを知らしめる。
 傷はモデルという職を失わせ、未だ取り憑かれたように何もない中空に向かって謝罪を繰り返すレネから友人も離れ。
 生きる糧のない日々に、レネが選んだのは死だった。
 それも、そこから落ちればたとえ生きのびても助けることのできないと言われている断崖絶壁からの自殺。
 世界の果て、と噂されるその地から落ちれば、きっとこの身は無惨な姿になるだろう。
 それこそ、あの日のカラのように。
 醜く千切れて、カラのようにバラバラになれば、許されるような気がして。
 はるか先の白波より近く見えるゴツゴツと岩肌にも、恐怖はなかった。
「いつかまた、カラと一緒になれればいいな」
 たった一つの願いだけを口にして、レネは一歩を踏み出した。
 

 断崖絶壁から身を投げた記憶はあった。
 全身を走る激痛は、確かにそれを証明している。
 苦痛で朦朧としていても、ここが天国などではないだろうことは知覚できていたけれど、ここが現実だとしてもどこなのかは判らない。それを考えられるほど意識がはっきりせず、ただやけに柔らかな、包み込まれるような感触と青い部屋にいる事だけが判った。
 誰も助けられないと聞いたのに。
 考えられるようになって、最初に考えたのは、そんな恨み言だったけれど。
 その直後、意識の回復を待っていたかのように動き出した身体の下の何かに、一気に身体が持ち上げられ、そんな恨み言など消し飛んだ。
「ギャアアッ!!」
 怪我だらけであらぬ方向に捻れていた四肢に負担は少なかったけれど、痛みが無いわけではない。背中から首や頭などは優しく包み込まれていたけれど、大きく割り広げられた両足からの激痛に悲鳴を上げる。激しい苦痛に意識が遠のく。だが、闇に落ちるレネを激痛が掬い上げてしまう。
 涙で歪む視界に、血にまみれて歪んだ足が見えた。
 その間に何かいる。
「あぐっ!」
 それが何かだと認識するより先に、何かが体内にググッと入り込んだのが同時だった。
「ひっ、あ、な、に……」
 驚く間もなく、細かった何かは狭い道を、アナルを押し広げるように太くなる。
「な、ん……尻に、なんかっ! あああぁっ!」
 ギチギチとあっという間に穴を満たされ、引き延ばされる痛みに悲鳴を上げた。
 串刺しにされる恐怖に、身体が逃れようとのた打つ。だが、大怪我をしている身体は、まともに動かず、悪戯に苦痛を増やしただけだった。
「い、あ……っ」
 得体の知れない何かが脈打つ。柔らかな弾力に富んだソレでの痛みはないけれど、満たし広げる動きに圧迫感が酷い。
 足の間にいる何かからそれは伸びていて、剥き出しの尻に体温のある何かが触れた。
──生きて、いる?
 脈打つうえに自在に動くそれは、ある程度入り込んだところで、止まった。だが、数度大きく脈打ったと思ったらググッと太くなり、その圧迫感が酷い。
 怪我の痛みに息苦しさが加わって、ゼイゼイと大きく喘ぐ、と。
「ヒィッ」
 息を大きく吐いた瞬間、それがゆっくりと動き出したのだ。
「ひ、う……動く、な──ああ」
 溜まりまくった排泄物が一気に出て行くような不快感と解放感が気色悪い。
 泣きながら身を捩って逃れようとするけれど、身体を包み込んだ何かにそれも叶わない。
「はう!」
 突然ベニスへも刺激が走り、レネの瞳が大きく見開かれた。
 視野が広がったせいで先よりクリアになった視界の中で、肉色をした木の蔓のようなものがズルズルと体内に押し入るのが見えた。
 しかも枝分かれしたそれが、上がってくる。
 木の幹から伸びた蔓が増えて細い切っ先が、ペニスに絡まる。その先端の緑鮮やかな新芽が鈴口に触れてそよぐ。別の蔓は右の乳首に巻きついて、傷口を晒す左の乳首まで先を伸ばした。
 淡い色の小さな新葉が、肉色を晒すそれを覆う。
「……うぅ、あく」
 口にも蔓は入り込んだ。
 表面は松の幹のようにささくれ立っているのに、それは柔らかく、レネを傷付けない。
 けれど、尻の奥深くまで潜り込んで蠢く蔓は、先よりますます太くなって、ゴリゴリとした感触すら与え始めた。
 抽挿も早く、アナルの壁とところだけは細く、中では太くなって、さらに小刻みな振動で持って肉壁をもみあげるのだ。
「あああぁっ、ひぎい、ヤ、ヤダ……あうっ」
 不快さの中に、小さな快感の芽が生まれ、一気に膨れ上がる。
 ピクリと身体が小さく跳ね、小刻みな痙攣を繰り返した。
 怪我がひどく痛い。けれど、それを上回る快感に意識が持って行かれる。
 その身体に、バシャバシャと液体が降りかかった。
 雨粒のような、けれど粘性を持ったそれにレネの身体が覆われる。
「ふおおおおぉぉぉ」
 木しか見えないそれが吠えた。
「あ、あああああっ!」
 熱い圧迫感に焼けそうだった。中で流れる何かが暴れていた。
 それが、前立腺をこね上げている。
 目がくらみ、ギュウと瞑っても弾けるのが止まらない。そそり立ったベニスがビュッビュッと白濁を吹き出し、ポタポタと青い床に落ちた。痺れるような快感は、全身すら麻痺させて、痛みすら薄れさせたようだ。
 はあはあと零す荒い吐息も、淫らな熱に誘発されたものだ。
 グッタリとしたままぼんやりと重い目蓋を開けた。前より痛みが消えていて、最初より首が動く。
「何が……ここ、どこ?」
 キチンと考えないと駄目なのに。それは判るのに。
 大怪我の身体に湧き起こった快感の渦に飲み込まれて、まだ考えられない。
 上半身は相変わらず何かに支えられ、怪我した四肢も青い透明感のあるものに覆われていた。
「あうっ」
 蔓が抜けていく。ペニスや乳首のソレもだ。
 傷を持っていた乳首が、淡い色の皮膚に覆われていた。
 他の傷も塞がっている。
 爛れた熱に覆われた思考は、その違和感に気づかない。
「ヒィッンン!」
 新たな刺激が、今度は全身の皮膚から来た。身体を支えていた青いゼリー状のものが、レネを包み込もうとしていた。ジワジワと広がるその動きが堪らなく良いのだ。
 背が仰け反った。
 アナルを広げて、また何かが入ってくる。
 包み込んだゼリー状のモノは頭部にまで及んでいて、青い天井しか見えない。だから、今度は何が入ってきているのか、全く判らないけれど、それが与えるものが先と同じものだということはすぐに知れた。違うのは、全身くまなく包まれている感触が加わっていることだろう。
「あぅっ! ぐふ……ぅっ」
 口内すら何かに満たされる。舌を包み、歯茎をなぞり、口蓋を刺激する。のどの奥まで入り込んだそれが奥を開き、脈打ち、震えた。喉からズルッと僅かに抜け、また奥深く入り込む苦しさに悶えるレネだったが、アナルもまた、同じような動きで奥を暴かれ、ギチギチに広げられていた。
「ひ、いいっ──も、ひああぁ」
 ペニスも包まれ、尿道に残っていたザーメンを絞り出される。鈴口から流れたそれは、だが覆うゼリー状のそれに吸収され、跡形もなくなった。
 それだけではない。
 床に落ちた先のザーメンも、体液も、瞳から流れる涙すら全て、もうどこにもなかった。
「あぁっ、はうッ」
 口からズルリとそれが抜け落ちた。続いてアナルも解放される。
 その刺激に小刻みな痙攣とともに、薄い色のザーメンを噴き出した。
「ぁ……ぅ……」
 数度震えたレネだったが、すうっとその瞳から光が失せていき、緩慢な動きで閉じられた。
 身体からも力が抜け、かろうじて浅い吐息で息があるのが判る。
 抜かれた拍子にアナルからも僅かに粘液が流れたが、それらはすぐにゼリー状のそれに吸収されてしまった。
 否、そこだけではなかった。
 怪我から流れていた血も、汚れも。体内に注がれた相手の体液まで全て、ゼリー状のそれは吸収しつくしていて。今のレネの身体には汚れなど、一滴すら残っていなかった。
 捻れた四肢も、怪我も、完全ではないが元に戻っている。
 今のレネは、ゼリー状の寝具に包まれて眠っているようにしか見えなかった。





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