【甘受と諦観】(3)

【甘受と諦観】(3)

【テル Side】

「テル? なんか、暗いな。どうした?」
 帰ってきた須崎が、開口一番呟いて、俺の顔を覗き込んできた。
「……別に」
 吐息が触れただけでぞくりと肌が粟立つほどに調教された身体は、須崎の匂いにだって反応する。
 逃れるように壁際により、目の前で須崎と三坂が手荷物を広げるのをぼんやりと見つめた。
「ねぇ、面白い事あった?」
 三坂にじゃれつく伸吾は、こんな時にはまるで子供に戻ったように、言葉遣いも幼くなる。
 その姿に、胸の奥が痛くなる。
 親として、こんなところに伸吾が嵌まるのは良くないと判っている。けれど、伸吾にとって、ここは自宅よりリラックスできるところだと、俺は気付いてしまっていて、こうやって目の前で見せつけられる度に胸の奥が苦しくなるけれど、止めることはできなかった。
「ん……、おもれぇことはなかったなあ。ただ、飲んで食べて、また飲んで。温泉入って、また飲んでって感じで」
 須崎がコキコキと首を動かして、盛大に肩を慣らす。
「ああ、やっぱバスで寝ると首がいてぇ」
「つうか、狭いんすよね……、と、あったあった、ほいこれ」
 須崎に頷いた三坂が、土産物らしく紙袋の中から小さな袋を取りだして、伸吾に渡した。
「へ、何?」
「土産、たいしたもんじゃねぇけど。後、こっちは飯ん時に、食べるように買ってきた」
 がさがさと破られた包装紙から覗くのは、かまぼこなどの練り製品がセットになったもののようだ。それも渡されて、伸吾が満面の笑みになっていた。
「ありがとーございますっ。あ、これってストラップ?」
 小さな紙袋の中身は、まん丸の猫の顔のプレートがついたストラップだ。
「かーわいー。ありがとっ!」
 嬉しそうにしている伸吾が、ほんとうに喜んでいるのが判ってしまう。
 猫が好きな伸吾。
 昔欲しがって泣く伸吾に、結局飼えないのだと諦めさせたことがあって。
 嬉しそうな伸吾に、また胸の奥が痛くなる。
 お土産なんて、もうずっと、していない。
 三坂が帰ってきてから伸吾は三坂にべったりで、その目には俺は入っていない。
「そういや、そこの時計屋の後藤さんが、飲み過ぎてさあ。酔っ払ってすっぽんぽんで踊り出したんだぜ。あれはぴっくりしたなあ」
 心底うんざりとぼやく三坂に、須崎が苦笑を浮かべて同調した。
「ああ、あれは俺もちょっと……引いた」
「へぇ、あの後藤のおじさんが? でも、そんな変な人じゃ無いよなあ。真面目で無口で。てか、テンチョも三坂さんもチンポ好きじゃん? タダで見られたのに、なんでそんな暗い顔……」
「ばーか。チンポはぴちぴちのが良いんだよ、お前みたいな、な」
 三坂が伸吾の首を捕まえて、ぐりぐりとげんこつで伸吾の頭を突く。
「や、あ、痛いって」
「だいたいあの人、65だぜ確か。あんなじじいのチンポ見たくもねぇのに、真正面でもろに見てしまったんだよ。もうなんつうか、妙に頭に残ってて」
「だよなあ。せめて記憶を他のチンポに置き換えようと思ったんだが、温泉行ってもなんでか爺ばっかしかいなかっだんだよなあ……。おんなじ旅館に、どっかの大学生ご一行様がいたって言うのに」
 ブツブツと文句を言い合う二人の会話は、どこかが変だ。
 まあ、それもこの二人だと思えば普通なんだろうけど。
 考えても詮無いのだと溜息を零して、広げられた荷物の中から洗濯物を拾う。
 なんだか何かしていないといたたまれないものがあって、それらを持って奥の部屋の洗濯カゴに突っ込んだところで、後ろから須崎が追いついてきた。
 俺が入れた上から、さらに追加の服がばさりと入って、そのまま俺の身体に手が回ってきて。
「……てぇことで、テル来い。お前ので記憶のすげ替えせにゃあ、やってらんねぇ」
 隠さない欲望が触れた手からも伝わってくる。言葉に、声音に、その視線を見返してしまうと動けない。首筋を舐められて、それだけで、神経が敏感に震え、全身に熱が広がっていく。
「っく……」
「欲しいか?」
 堪らずに零れた喘ぎを嗤われて、耳元での誘いとともにシャツの合わせから指先が潜り込んできた。
 欲しい、といえば、欲しい。
 昨夜、薬まで使われた身体は、オモチャしか与えられなくて。朝は、うっかり忘れていた近所の清掃作業に呼び出され、解放される暇なんてなかったのだ。昼前に終わったそれは、けれど、その頃には伸吾はもう三坂に会えると浮き浮きしてて、こっちは完全に無視された。
 だから、身体はもう餓えきっていて、どんなに否定の言葉を吐く理由を考えようとしても、口が勝手に動いてしまった。
「……ほ、しい……」
 いつもなら、もっと我慢できるのに、今日はもう無理。
 というより、もう何もかも忘れて、ぐちゃぐちゃになりたい。
「どうした、またシイコに虐められたか?」
 クスクスと笑う吐息に首を振り、その腕に縋る。
 否定しても須崎にはばれている。
 伸吾に犯された事を忘れたいがために、須崎に犯される事だけを望んでしまうことを。
 記憶を塗り替えて欲しい。
 心が切り裂かれそうな痛みに苦しみ、いつかそう縋ったときに、須崎が応えてくれたから。
 意識を失うほどに快楽に狂わされて、次の日身動ぎ一つできなくなって。
 それでも、ほんの少し、意識を切り替える事ができたあの日のように、今日もまた縋ってしまう。
「たの、む……から。ご主人、さま……、お願い、します」
 須崎とともに使い古された畳の上に横たわり、足を上げてその身体を引き寄せる。
 腕を首に回して引き寄せて、近づいた唇に自らのそれを押しつけて。自ら舌を差し入れて、その奥にある舌を探し出して。
「くくっ」
 須崎が嗤い、多量の唾液が流れ込んでくるのにすら、身体の奥が熱くなる。
 これ以上沸騰したら、暴発してしまいそうな気がして、はあっと熱い吐息を吐き出すけれど、すぐさま口を塞がれて、熱はそのまま自分の中に舞い戻ってきてしまった。
 熱くて、長い口づけは、それだけで十分な性行為だ。
 口内の柔らかな粘膜を、熱くてざらりとした舌で嬲られて、突かれて。
 絡み取られた舌に触れる感触に、ぞわぞわと全身の肌が総毛立つ。
「淫乱」
 耳孔に吹き込まれた短い言葉に、須崎に向けた視線が揺れた。
「い、んらんな、奴隷、に……ください、チンポ、を」
 頬を擦り寄せ、腰を打ち付け。
 須崎の胸元から立ちあがる蒸れた汗の匂いに、くらりと目眩にも似た酩酊を味わって。
「わかった、わかった」
 苦笑を浮かべて、俺を引き離した須崎の呆れた風情の表情が、獣のそれに変わる。
 いつもは恐ろしく思っていたはずの表情を、なんで今まで怖がっていたのか判らない。
「可愛いお強請りができたご褒美だ、たっぷりと味わいな」
 いつだって男を迎え入れることができてしまうアナルは洗浄済みだ。そこにいきなり入ってきた須崎のチンポは、疲れて餓えた身体に貰った甘い飴の棒のよう。
「あひっ、ああぁっ、んんっ」
 美味しくて、熱くて、口の中一杯に溢れた涎が、口角からはみ出して流れていく。それに須崎が吸い付いて、舐め取って。
「すっげえ、最初からマックスだな」
 噛みつくような口づけを、離すまいと頭に廻した腕を強く引き寄せる。
 奥深くまで貰えた熱いチンポは、昨日のバイブなんか目じゃないほどに気持ちよい。激しい抽挿に、泡が弾けるような快感が脳まで響く。
「あっ、あっ、イイっ、もっとぉっ、奥までぇっ」
 ぎっちりと絡みあった足にも力を入れて、抜けそうになる須崎のチンポを逃すまいと締め付ける。
「イイっ、こんなっあぁぁっ、ああっ、すっごぁぁ」
 オモチャなんか嫌だ。
 熱くて、脈動してて、太くて、柔らかくて、長くて、奥まで届いて。
 俺の精神の奥底までをも犯して、全てを忘れさせてくれるのは、これだ。
 他の何よりも。
 他の誰よりも。
「ひ、い、っ、達く、イクっ、もうっ、」
「ああ、達けよっ、ほら、ほら、ほらっ」
 限界を訴えれば、抽挿が激しくなって、最奥に打ち付けられる衝撃に、一気に高みに昇っていく。
「ひっ、あぁぁっ」
 我慢に我慢を重ねた解放は、あまりにも呆気なく限界を超えて。
 全身を硬直させ、強張った股間でただ一つ震えるチンポから、吐き出される精液が、勢いよく胸を汚した。
「あっ、あっ、……っ、」
 何度でも、いつまでも震えて、ブルブルと震えながら間欠的に噴き出して。
 乳首に落ちた熱い感触に、さらに熱い圧力が加わって。
 堪らずに落とした視線に、須崎のそれが絡む。
 肉厚の舌を出してぺろりと舐め取るその卑猥な姿に、達ったばかりの身体がぞくりとざわめく。
「あ……ご、しゅ……さまぁ、好き……離さないで……」
 口元まで強張って、うまく舌が動かない。
 それでも縋るように手を伸ばし、キスを強請った。
 驚いた須崎の、その新鮮な表情に微笑んで、その唇を舐めて合わせる。
 苦みのあるキスは、いつもなら嫌悪の対象なのに。なんでこんな美味しいキスを嫌がったのだろう。
 過去の嫌な記憶はあるのに、それ以上の甘い疼きが全身を襲う。
 ああ、俺は……。
 俺はもう……この人のもの。
「テル、まだだぜ。まだ、始まったばかりだ」
 絶倫のご主人様の、ひどく上機嫌な言葉に、こくりと頷く。
「くだ、さい……もっと」
 この精神が、何もかも忘れてるまで、もっと。
「たくさん、犯して、——壊して……」
 ただ、欲しくて、全身で強請っていた。



 次の日、会社だからと早めに起こされて。
 重い腰と疲労感が抜けない身体に、たっぷり犯されたのだろうとは思ったけれど、いったいどのくらいしたのか記憶が無い。
 ただ、須崎が機嫌が良くて、なんだか優しいのでホッとする。
 俺よりたくさんしただろう伸吾は相変わらず元気で、作った朝食を並べながら、機嫌の良い須崎に首を傾げている。
「どうしたのさ、テンチョ。なんか気味の悪い笑顔が貼り付いているよ」
 ご主人様相手の歯に衣着せぬ言い方に、それもどうかと思ったけれど。
 確かに須崎の笑顔は、気になった。
 何かを企んでいるとかいうのではなくて、純粋に悦んでいるような、楽しんでいるような、そんな感じ。
 普段のご主人様ぶりとはちょっと違うそれに、三坂も不審そうで。
「どうしたんです、店長?」
 黙ってご飯を口に運んでいた俺も、ついつい須崎を見つめてしまう。
 そうしたら。
「え、ああ、昨日っつうか、夜中にさあ、テルがようやく同居にOKだしてくれたからさあ」
 上機嫌に宣う須崎の言葉に。
「え?」
 思わず上げた不信感ありありの声は、俺だった。
 同居の件は、前々から言われていたけれど、けれど、OKなんか出した覚えは無い。
 この件に関しては、いろいろなしがらみとか世間体とかがある関係で、無理は言われていなかったし、まして、通い奴隷でも辛いのに、住み込み奴隷にまでなんなきゃいけないんだ……と、立場上、強い拒絶はしていなかったが、賛成はしていなかった。
 だから、OKなんか出した覚え……は……。
「ま、さか……」
 走馬燈というのは死出の瞬間に訪れるというけれど。
 今はある意味、その瞬間と同じなのかもしれない。
 脳裏をものすごい勢いで流れる昨夜の記憶。
 縋って強請って、悦んで。
 いや……それはもう、理性が崩壊すればいっつも似たようなものだ。
 ただ、いつもと違うのは、何だかあんまり嫌悪感がないような……。
 三坂と伸吾のいちゃつきを見ても、何だか安定していられるのは……。
 頭の中がすっきりしているというのは……。
「えっ……と……」
 かちゃんと箸が皿に落ちる。
 伸吾と三坂、そして須崎が俺を見ている。
「父さん、顔が、真っ赤?」
 探るような視線から逃れるように顔を背けても、狭くて至近距離の場所では逃れようも無い。
「父さんてば。何々、テンチョ、何が起きてんのさ?」
「な、テル。同居、OKだろ? 同居したら、たっぷり可愛がってやるよ。シイコも三坂にべったりできるしな」
 ニヤリと嗤うのは、人の悪いご主人様。
 思い出した記憶が、頭の中で何度もリフレインしている。
『俺が好きなら、一緒に住むか?』
 突き上げながらの甘い言葉に、俺は確かに何度も頷いた。
『好き、好き……一緒に住みたい』
 ああ、確かに言ったのだ。俺は、もう限界で。
 須崎に縋るしか生きる方法は無いのだと……そんなふうに思っていて。
『一緒に住むなら、シイコなんかに貸す暇ねえほど、可愛がってやる』
 しかも、そんな言葉も聞かされて。
『住む、一緒に、住むから、シイコにやるなっ、俺は、ご主人様の、もの、だからっ』
 シイコは俺を壊す。
 いつか壊される。
 けれど、俺は……俺は、シイコに壊されたくない。シイコ……伸吾に壊されたくないのだ、俺は。
 けれど、いつか壊されるのなら、どうせ壊れるなら、須崎が……ご主人様が良い。
 溢れる涙を舌で舐め取られ、抱きしめられて、その腕で泣きじゃくって。
 思い出した記憶は、赤面もののシーンばかりだ。
 だけど、はっきりしているのは、「好きだから住む」と言ったこと。
 俺を騙して、犯して、奴隷にして、他の男にまで貸し出してしまう、この卑劣な須崎に対して。
 俺は……。
「なあ、テル?」
 窺うような視線は、まるで確認しているよう。
 きっと須崎の頭の中にも、今自分が思い出しているシーンがあるのだろう。
 どうして、こんなことになったのだろう。
「それは……、住む場所が広がるって言うから、それにいつも帰るのが大変、だし……」
 嬲られて、黄色い太陽を見ながら帰ったり、仕事に行くのは辛い。
 いまだって、どこかじくじくと痛むアナルと重い腰は、今日の仕事が思いやられるほどで。
「ここなら、駅からも近いし……会社も近いし……」
 しかも混む方向とは逆だから、座れることも多くて。
 そんな理由を口にしていると、にやりと嗤う須崎と、そして。
「やったあっ、三坂さんっ、一緒に住めるねっ」
「おおっ」
 大喜びの伸吾と三坂。
 撤回など絶対できない状況に、俺は、ただ溜息を吐く。
「テル?」
 俯いた顔をニヤニヤと笑いながら窺い見る須崎は、意地悪だ。俺を虐め、犯し、狂わせ、淫らな奴隷として扱う。
 けれど。
「ご主人様の言うとおりにします」
 そっぽを向いてつぶやく俺は、奴隷として仕えるならば、須崎は伸吾よりはマシだ、という考えでケリをつけていた。
 もう逃れられないなら。
 だったら。
 繰り返される溜息は、けれど続いた須崎の言葉で飲み込んだ。
「俺も約束を守ってやるさ。可愛い奴隷のためにな」
「え……?」
 約束、なんてした覚えはなかった。
 一体なんのことだと思ったけれど、須崎はニヤニヤと嗤うばかりで、何を考えているのか判らない。
「何?」
 問いかけの答えは、言葉ではなくて。
「んっ」
 シャツの下に忍び込んだ須崎の手が、乳首のピアスに触れた。
 そういえば新しいピアスを付けられていたことを思い出す。ドッグタグのようなそれを見たくもないから、さっさとシャツを羽織ったんだが。
 捲られたシャツの下から覗いたそれには飾り文字で書かれた「SUZAKI’s Slave」の文字。
「えっ……と?」
 だから、何が言いたいのかが判らなくて、不審げに見つめると、須崎は苦笑して。
「俺の奴隷の印」
「は?」
 いや、今でも俺は須崎の奴隷だけど。
 ますます訳が判らなくて、首を捻っていると、突然伸吾が不貞腐れたように唇を尖らせた。
「何、なんかそれって独占欲を感じるぅ?」
「俺だって独占欲くらいあるし。お前だって専用奴隷を手に入れたんだ。もう貸さなくたって良いんじゃないか?」
 それって……。
 伸吾を見て、須崎を見て。
 自分の乳首にある名前入りのドッグタグを見つめる。
「お、れは……」
「テルのマンコは俺専用にしよっと」
「ええっ、ずるいっ」
 シイコが小さい頃のようにムキになっている。
 いろいろ我慢させてきたせいか、あまり我が侭を言わなかったけれど、それでも子供らしい時もあった。その頃のような物言いは、けれど、困ったように俺と須崎を見比べている。
 その口元が、少し笑ってるような——もしかして、言っているだけ……?
「一緒に遊ぶ時は良いけどよ……って、お前最近ワガママ。三坂ぁ、ちゃんと躾ろよ」
 ブツブツ文句を言っている伸吾を適当にあやしながら、須崎が俺を見ていた。
「と言っても、ご主人様の言い付けを守らねぇ奴隷からは、いらねえけど」
 口では笑う須崎の瞳は笑っていない。
「それ、外して取り上げたら、二度目はねえよ」
 外されたらどうなるんだろう?
 背筋を這い上がる悪寒に押されるように頷いた。
「ま、もりま、す」
 震え、強張る舌で、それでも言い切ったとき、なぜかビリッと、疼きとも痺れともとれる震えが走った。
 身体が熱くなって、治まっていた筈のペニスに血が集まってくる。とろりと視界が揺れた。
 そんな俺を見ていた須崎がニヤリと口角を上げた。
「淫乱テル」
 熱の篭った声音と共に差し出されたのは、この店の勝手口の鍵をおさめたキーケースだ。横幅は2cmくらいで、長さは6cmくらい。丸みを帯びた楕円のそれは厚いところで1cmくらいで、持てばズシリとした重みがある。
「今日は記念日だからな、チンポピアスにそれ付けな」
 命令は簡潔で、絶対。
 この重みが俺のものに……と想像した途端、下腹部の奥が疼き始めた。
 ああ、と、半ば諦めにも似た境地に陥りつつも、トグロを巻く熱はますます温度を高くする。
「鍵を無くしたら、そのタグも外すからな」
 そんなことを言われて、どうして俺が逆らえるだろうか。
 こんなものを付けて会社に行けば、意識しすぎて仕事になんかならないというのに。
「今日は会社休めよ、俺たちが店に出ている間も虐め抜いてやるからな」
 引き寄せられて押し倒されて。
 ほんの少し前なら、会社を休むなんて考えられなかったけれど。
 けど。
「は、い」
 了承の声は、躊躇いなど無く、しかも、呆気なく勃起してしまったペニス以上に熱くてしっとりと湿ったものだった。

【了】