「三坂さん、この前さぁ、クリスマスのプレゼントの欲しいもの考えとけって言ってたよね?」
そんなことをシイコに言われて、俺は調合の手を止めて振り返った。
正月休み分のまであるから、さっきからひたすら作りまくっているのだけど。しばし休憩とばかりに背伸びをして。
「あぁ、決まったのか?」
一週間ほど前に、何が欲しいか言ってみろ、と言った奴だと思い出す。
淫乱奴隷かつ出来の良いバイトのシイコが、期待に満ちた目をこっちに向けていて。
「あのさ、俺、クリスマスイブにDーランド行きたいっ!」
「えっ?」
その言葉に、俺は数秒間マジマジとシイコを見つめちまっていた。
てっきり、エロエロ拘束衣とか、ズコズコ電動玩具とか、チンポピアスとか……、そんなものかと思っていたのに。
Dーランド?
しかもイブ?
なんかむちゃくちゃ混みそうな……とか、むっちゃ寒いだろ……とか、あんなトコでさすがに青姦なんてできねえぞ、おい……とか。
ついでに言えば、あの辺のお高いオシャレなホテルはカップルでいっぱいだろうから、今更予約なんてぇ無理だ。
脳裏を過ぎる様々なマイナス要因に、拒絶反応が起きた。
「マジ?」
シイコのチョイスにしては、健全すぎて冗談かと思ったのだが。
「マジマジっ」
シイコは全くもって本気らしい。
満面の笑顔で、おねだりをするシイコは、行きたいオーラが全開だ。
そういえば、こいつはガキん時にああいう場所に、あんまり行ったこと無かったんだよなあ。
と、幾ばくかの同情心に、拒絶の言葉が封じられてしまう。
けど。
「でね、ナイト・パレード見に行こ」
それはさらに寒いじゃないか、とピクリと口元が歪んだ。
どうせならエロ野郎限定ドライブスポットなんて方が良いんじゃね、とか思って。
「ああゆーとこは、ちょっと……。寒いし……それに」
最近どこもかしこも監視カメラがあるから、エロいことできねえし……と話を逸らそうとしたんだけど。
「俺さ、三坂さんとフツーのデートしたいんだ」
ニコリ、と。
無邪気ともいえる笑顔は、いつもの淫蕩な気配なんて微塵もなくて。
「恋人同士みたいに、ね。手を繋いで、引っ付いてたら、寒くなんかないと思うし」
純真無垢な青少年の甘い恋に焦がれたような視線と言うべきか。
シイコの縋るような視線に、俺の背筋にゾクリと走ったのは悪寒なのか他の何かなのか判らない。
ただ。
「お、男同士で引っ付いてたら……さすがに違和感あるぞ」
何でか、視線を外せない。それどころか、断ろうとすることに罪悪感がひしひしと沸いてくるんだが。
「ああ、そゆことなら大丈夫。あのさ、俺女装するつもり」
「じょ、そー? ……って女装、か?」
一瞬、漢字変換が追いつかなかった、ぞ、おい。
こいつが女装……って。
「そ。ロングのふわふわダウンコートにショールとか、帽子とかで、結構誤魔化せると思うんだよね」
言葉のままに脳裏のシイコが服を着ていけば。
「お化粧しちゃえば化けられるし。俺、この前の学祭でふざけついでに大学の女の子に教えてもらったんだあ。化粧品も百均で買い込んできたし、ね?」
何というか、こういう時のシイコは躊躇いがないというか何というか……。
絶句状態の俺の前で、もう行くつもりになったシイコがとうとうと計画を語ってて。
この展開に付いていけないのは、俺とシイコの、歳の差のせい、なのだろうか?
いや、こいつは奴隷で、あんま甘えさせちゃあ、ダメだろ、とかとも思うし……。
「夜だし、パレード始まっちゃったら、みんなそっちに注目しちゃうし」
「あ、ん……」
なんつうか、その期待に満ちた目に逆らえる奴なんか──いねえよなぁ……。
操られるように頷いて。
けれど、嫌な感じはなかった。
「楽しみだねっ?」
本当に、心底嬉しそうな笑顔を向けられて、どうして拒絶できるだろう?
「ああ、そうだな」
俺も甘くなったもんだなあ……と思いつつ、それでも、シイコの願いの無邪気さが嬉しかったりもするのだから仕方がない。
それに。
まだ喋り足りなさそうな唇に吸い付いて、吐息のかかる距離で聞いてやる。
「当然、俺へのプレゼントもくれるんだろ、その日に」
「もちろん」
途端に無垢な瞳が淫蕩にとろけて、首の後ろに回された腕に引き寄せられる。
「その後は、三坂さんにたっぷり楽しんでもらえるようにするつもり」
──分不相応なお願いを叶えてもらったダメな奴隷に、たっぷりお仕置きしてね。
耳元で囁かれた言葉は、誰にとってのご褒美なのか。
「ったく。ほんとにイイ性格の奴隷だよ、お前は」
ご主人様を翻弄する悪い子には、今からお仕置きだと。
背筋を滑らす俺の手に、シイコが密やかな嬌声を上げて。
仕事中に盛るんじゃねえっ、と、あまりの忙しさに危機迫った上に欲求不満の店長の拳骨が落ちたのは、その直後だった。
【了】