【楼寿 淫鬼の僕(しもべ)】前編

【楼寿 淫鬼の僕(しもべ)】前編

「うっ、ふっ、くっ、う、ゃぁっ」
「くっ、んっ」
 突き上げられる度に零れる吐息が、淫らな熱気に絡みつき、狭く薄暗い空間を支配していた。
 埃が舞い、虫の死骸や枯れ草が砂に交ざる場所で、ねっとりとした熱い湿気が絡みつき、空気が重く澱んでいる。
 そこは、山の奥深く打ち捨てられた小さな物置のような小屋だった。
 その昔、猟師が休憩どころとして使っていたのか、壁から落ちた棚の下には割れた茶碗が転がり、朽ちた薪が一束と、湿気った布きれが地面と大差ない色になっている。
 壁板が割れ、風雨を逃れる術にもならぬそんな小屋の中で、今、猛々しく欲を貪る男がいた。
 その男の体躯は逞しく、筋肉は隆起し、汗ばむ全身の動きは休むことなど知らぬほどに旺盛な動きを見せていた。
 その荒々しく彫りの深い顔は、うっすらと笑みを浮かべ、ひどく楽しげに見える。
 そんな男の視線が向けられているのは、床に押さえつけられた一人の青年の苦痛と快楽に満ちた顔だった。
 男の身体の下にいるのは、男に比べれば華奢としか言いようのない青年だ。
 一糸纏わぬ姿で、汚れた床に転がされ、激しく腰を打ち付けられ続けている青年は、望んでなぞいなかった淫らな欲に翻弄され、喘ぎ、止まることの無い支配を受け続けているのだ。
「や、やめ……てぇ……あうっ」
 ヒイヒイと嘆き哀しみ、助けを請うていたのはもう過去のこと。
 掠れた悲鳴と拒絶の言葉ではあるけれど、そこに滲む確かな欲情は隠しようも無い。
「嫌か? だが、貴様の肉は我が美味いと絡みついておるぞ。外して欲しくないと、ぎゅっと締め付けてな」
「あっ、い、あぁっ、やぁっ、あっつ……ああ、こんなぁぁ」
 ぐちゃぐちゃと濡れた音ばかりが耳に届く。
 泡粒が弾けるように身体の中で何かが爆発し続けている。青年の下肢の奥深く、内臓は疼き続け、たまらない刺激に先を欲しがっていた。
「ふふ、喜ぶが良い。我が贄に選ぶのは光栄なことなのだ。このような快感は、贄で無くては味わえぬ故に」
「はぁっっ、あぁぁ、イぃっ、そこっぉっ!」
 どくん、と身体が跳ね、硬直した身体が浮き上がり、床に落ちる。
 びくびくと小刻みに痙攣して、とろりと粘液を垂れ流しているのは、青年のペニスだ。その彼は、
 男に贄と呼ばれたのは、先日成人したばかりの隆紀(リュウキ)で、ここへは迷い込んできただけで。
 気が付けば、この男に犯されていた。


 大学の休み、隆起は趣味のマウンテンバイクで山道を走っている間に、気がつけば妙な空気を感じる場所に迷いこんでいて、そのまま夜になってしまったのだ。
 今日は晴天だと言っていたはずの天気予報が外れたのは、星も月も見えぬ暗い世界。絡みつくような夜気の気配に、怯え、縋るようにライトの先に見えた小屋に入り込んだ。けれど、その小屋に入った途端、身体は中を舞い、引きずり倒されたのだった。
 それからずっとだ。
 丈夫なはずのライダースーツは引き裂かれ、無防備となった身体は汚れた床から起き上がることも許されなかった。
 尻の狭間に冷たい粘液状の物を塗り込められて暴れに暴れたけれど、一歩とて逃げる間も無かった。
 見せつけられた男として羨ましく思えるほどの巨根は、それが触れた先に気付けば畏怖すべきもので。
 だが男は、恐慌状態の隆起を容易く押さえつけ、狭いアナルを割り開くのに、躊躇いなどまったくなかった。
 だが、裂けると思った穴は、裂けること無く受けいれた。
 思った以上に柔らかく、痛みも少なかったことに安堵したのも束の間、それが瞬く間に固くなる。
 中から押し広げられる圧迫感に上げた悲鳴は、けれど、次の瞬間。
「ひああぁぁ!」
 恐怖に萎えていたペニスに一気に血流が集まった。
 体内の熱を沸騰させるような、熱い血の奔流が全身を駆け巡る。
 ひくひくと震えた鈴口がすぐに粘性の高い白濁を噴き上げ、自らの腹を汚していった。
 それは、未だかつて無いほどに激しい快感だった。
 ただ突き上げられただけ、腸を満たすそれが大きく固くなっただけ。
 ただ、それだけのことに、身体が歓喜し、頭を蕩けさせていくのだ。
「なっ、あぁ、いっ、嫌ぁぁぁっ」
 それでも、この異常な状況を理性が拒絶する。
 男に犯され、達ったなど、受けいれられるものではないと、否定する。
 けれど。
「あ、ぅっ、くぅ、な、なんでぇ、やだ、また、またぁっ!」
 いったいどうしてなのか、自分の身体の中にいるそれが何か知っているのに。
 嫌悪しか湧かないそれが、どうして。
 どうして、こんなに良いのか、判らない。
 熱は広がり全身を包み込む。熱はどんなに吐き出そうとしても吐き出せるものではなく、狂った熱は五感のうち、触感ばかりを敏感にして、その結果、与えられる刺激ばかりが全てになっていくのだ。
「ひっ、イィっ、ひぎ、っ、くあっ、あっ、あぁ」
 裂けんばかりの圧迫感よりも快感の方が強い。無意識のうちに逃れようとする力は入っていなくて、ただ、指先にあたる板をカリカリと引っ掻くだけなのだ。
 板窓の隙間から、迷っていたときにあれだけ望んだ月が覗いていた。
 中天にまで到達するそれが淡い影を落とし、濡れた身体を浮かび上がらせ、淫らに悶える隆紀をさらに彩った。
「あ、ああっ、あつっいぃ……、ひあぁぁ、すごぉぉ……ひああぁ」
 もう何もかも限界の筈なのに、意識はそこなわれること無く隆紀を支配していて、自分が何をしているのか、まざまざと理解させている。
 けれど、逃れる術を持たない快楽は、確実に全身を支配していて、与えられるそれを喜んで享受しているのだ。
「あっひっ、ま、たぁ……こ、んな、いっぱぃ」
 どくんと波打つ身体に合わせてペニスが震え、色を失った精液が滲む。
 長く続く、快楽しか無い陵辱に、隆紀は全身の肌を己の汗や弾けた体液で濡らし尽くしていた。
 使われていなかった雑な作りの床板はささくれていて、それが肌を傷つけ血を滲ませるのも、快感にしかならないのだ。
 濡れた肌は、土埃や枯れ葉を付着させ、時間の置いた体液が放つ異臭が立ちこめて、今や惨めとしか言いようのない中で、その憐れさを意識したただけ、体内奥深くが悦んで疼いている。
 意識までもが欲に支配され始めていた。
 もっとも、通常ならば早々に狂っていても仕方が無い状況だ。けれど、こんな状態まで保てた状態が実は異常だったと——すでに隆紀には考えることもできなくなっていた。


 叫び続けた喉は枯れ、嬌声はもう遠くには響かない。
 過ぎる快感に身悶えて離れようとした身体は力強い手で押さえつけられ、僅かに逃げてもずるりと引き戻された。
 その足の間に陣取った男は、その逞しい腰を大きく割り開かれた隆紀の股間へ打ち付けるのを止めようとしない。
 最初から続く濡れた音は、男が射精するときだけ深く突き入れた状態で止まり、けれどすぐに動き出した。
 ぐちゃ、ぬちゃ。
 ぶちゅぅっ。
 泡立つ白濁が隆紀の股間も太股も、そして床まで濡らしているけれど、猛々しい肉棒はまったく萎えていない。
「や、あ……も……いっぱぁ……ぃ……」
 濁って揺れる視界に見えるそれに、隆紀は堪らず呻き、とろりとした笑みを零しながらも啜り泣く。終わらない陵辱に気付いた意識が零した涙は、汚れた床に染みをつくるしかできないままに消えていく。
 互いの股間に垣間見えた男の肉棒は、泡立つ粘液が絡み、月明かりに反射して赤黒さを増した突起を幾つも備えた荒々しいものだ。女の手首ほどにもあるそれは、根元から雁首にいたる中間がもっとも太い故に、ひどく図太く見えた。しかも、雁首のさらに先はその図太い部分よりさらに大きく張ったエラを持ち、ずんぐりとした亀頭のそれが外に見えるほどに抜き出され、また勢いよく突き入れられる。
 そのたびに隆紀の身体は跳ね、隆紀の力無く萎えた、男のそれから見れば子供のようなペニスの先端からたらりと粘液が滲み出た。
「ん……」
 小さな堪える音が男の喉から響く。
「あっ……ぁぁ……」
 男の射精は激しく、ドクドクと体内に迸る刺激に、隆紀もガクガクと身体を痙攣させて、熱い吐息を零した。
 もう何度も味わった射精は、信じられないほどに激しいもので、体内だというのにはっきりと判ってしまう。
 奥深く、ひどく熱く感じるそれがじわりと腸壁に絡みつき、馴染み。そこから全身へと広がっていくのだ。
 まるで体内に植え付けられた何かが、成長し、根を伸ばし、全身の神経を支配していくように。
 その結果、より敏感に感じるようになってしまうのだ。
 そして。
「あ、や、ぁぁっ、」
 男がまた動き出す。
 跳ねた身体を起こされて、両の手首をそれぞれに掴まれて。
 起こされた身体は、より深く太いそれを喰らい込み、軽く揺すられる度に妙なる快感を生み出した。
 開かれた足は力無く投げ出され、太い肉棒を銜え込んだ尻穴はシワ一つないほどに伸びきっている。今にも裂けそうに薄く伸びた肉壁だったが、持ち主の意に反して、身体はびくびくと震える肉棒を美味そうに屠っていることに隆紀は気付いていなかった。
 否、その肉棒が先よりさらに太くなってることにすら、虚ろに天空を仰ぐ隆紀には知るよしもなかった。
 その伸びきった肉穴を隙間無く埋める肉棒は、今や大人の男の手首ほどにもなっていて。
 それでも隆紀が感じるのは快感だけなのだ。
「い、あっ、あっ、ああ——っ」
 開いた口が閉じられない。
 伸びきった肉筒の中で、快感の源が激しく押しつぶされるほどになっていた。
 そうなってしまえば、動かされなくても感じてしまい、絶頂が絶え間なく押し寄せてくる。身体はたとえ掴まれていなくても倒れないのでは無いかというほどに硬直していて、よりいっそう強く肉棒を締め付けてしまい、さらに感じて硬直して。
「ひぃ、いぃぃ——、ああぁっ、すごっ、おおおっ、おおおっ」
 僅かにあった瞳の中の意思の力が、力無く消えていき。
 身体を構成する物質全てが、快感という渦の中で、極上の美酒に浸かっているように酔いしれ、それだけがあれば良いのだと、ただそれだけに支配されていき。
「あ、はぁぁぁ、イイっ、ぃぃよぉぉぉっ、いあぁぁ、裂けるぅぅぅ、裂いて、いっぱいにしてぇぇぇ」
 狂ったように、男の肉棒だけを欲するようになっていた。



「リュウキ……」
 長い陵辱は果てることなく続き、外がうっすら白み初めてようやく。
 男が、射精で無く動きを止めた。
 けれど隆紀は気付かない。
「あはっ……、ああっ……イイ、い、もぉっとぉ……あぁっ」
 男はもはや動いていなかったが、代わりに隆紀の腰がゆらゆらとゆらめき、張り詰めた肉を締め付けて、萎える事の無かった男の肉棒を味わい続けているのだ。
 どのような技か隆紀には知るよしもないだろうけれど、今や男の二の腕の太い部分ほどにもなった肉棒を喰らうには、足を大きく割り広げないとならなかった。
 隆紀のペニスの二本分以上はある肉棒を、惚けた顔を淫らに歪ませて涎をだらだらと流して、ただ味わう隆紀は、もはや色に狂った狂人にしか見えなかった。
 一晩中快楽に晒された白い肌は紅潮したままの色に染まり、淫らな体液に濡れ、塵芥に汚れ、血を滲ませていた。
 その身体に野太い腕が回り、勢いよく引き上げる。
「ひっぎぃぃぃぃっ!!」
 枯れ果てていたはずの喉から悲痛な叫びが迸った。
「……ぁぁ、い、いやぁぁぁぁっ!」
 いきなり体内から消え失せた巨大な熱杭に、激しい喪失感に支配される。
 快楽は一気に消え、それが無いことが堪らなく辛い。
「やっ、ぁぁ、な……んでぇぇ……、やぁあ」
 がくがくと痙攣する身体は、抜けた肉棒を力無く探そうとするけれど、一晩中の陵辱は、確実に隆紀の体力を奪っていて、指一本すら動かなくなっていた。
 ただ、ゆらゆらと蠢くのは、腰だけなのだ。
 ずっと動かし続けていたそこだけが、まるで別のもののように蠢いて、肉棒を探していた。
「リュウキ、よ。我が選んだ贄よ」
 けれど、男はそんな惨めに踊る隆紀を床に放りだして、すくっと立ちあがった。
 その股間に垂れ下がる肉棒はようやく萎えたようだが、それでも勃起した隆紀のペニスほどもある。
 それを視界に入れた隆紀は、その状態でも欲しいとばかりに立ちあがろうとしたけれど、腕が持ち上がらずに、芋虫のように悶えるだけだ。
 そんな隆紀を一瞥し、男は。
 嗤った。
「我の精は美味かったか?」
 クツクツと地響きがするような低い嗤い声がいつまでも続く。
 それすらも堪らないとばかりに身悶える隆紀の目は、聞いているかも判らないほどに虚ろだ。
「だが、我の精は無償の施しでは無いぞ」
 男の手が宙を舞い、外から差し込む陽の光が腕に絡みつく。その手が動く度に、光は白い霧となり、深く室内を満たしていき。
 威風堂々とした男の姿が、消えていく。
「い、いぁぁ、まぁってぇ……待ってえ」
 あれが欲しいのに。
 もっともっと。
 もっと奥深く犯して。
 グチャグチャに掻き回して、ドロドロにしてくれ。
 穴という穴に挿れて、犯して、もっと……。
 力無く悶える隆紀の姿すら隠すほどの深い霧の中に、男の声が響いた。
「我が欲しければ」
 微かに、けれど、確かに、耳から脳髄まで犯すように、男の声が染みこんでいく。
「我に犯されたいなら」
 嗤い声が空間を支配する。
「愚かでさもしいその雌の身を、300を越える逞しい雄に与えよ」
 クツクツと嗤うその男の姿が、背後の陽光に照らされて僅かに影となって見える。
 その影の中、二つの煌めく赤い輝きと、頭上に伸びる一対の鋭い突起とともに。
「異なる300の雄の精を浴びたその身を我に捧げよ。さすれば、我のこの肉棒を褒美としよう」
 声だけが残って、けれどすぐに嗤い声と共にそれが消えていく。
「い、いややっ、待ってっ、待ってぇぇぇっ」
 ようやく伸びた腕の先で、霧が消えていく。
 さっきまで立ちこめていた白い霧は渦を巻くように消えていき。
 そして。
 何も無くなってしまえば、男の気配などどこにも無く。
 ただ、薄汚れた朽ちかけた小屋の床で、呆然自失の隆紀だけが転がっていた。


【続く】