【淫魔 憂 GAME】 後編 綱紀side

【淫魔 憂 GAME】 後編 綱紀side

 12畳程度の室内は、憂が放つ熱と淫臭に満ちていた。
 輝くほどに磨かれたいたはずの大理石の床は、今や白濁や粘液でべっとりと汚れている。憂の肌で塗り広げられたそれらは、乾いた物もあるけれど、まだ濡れている物も多かった。
「んうっ、くう──っ、ふぅ……」
 憂が息を止めて痙攣する。喉の奥からの堪えながらの唸り声と共に、股間からポタポタと新たな体液が流れ落ちていた。
 室内の真正面に置かれたカメラはパソコンに繋がっていて、その映像を逐一ウェブ上に送っている。
 欲情して肌を朱に染め上げた憂の痴態は、余すことなくただ一人閲覧を許された関根のディスプレイに映っていることだろう。
 今までの様子からして、関根が己の性欲に従順で、かなり嗜虐性が強いことは判っている。
 実際、彼は手に入れたアイテムを残さずに試そうと、次から次へと憂に使わせていた。
 敏感な憂には僅かな刺激すら激しい快感になるというのに、絶え間ない刺激に狂わせて、何度も精液を噴き出させている。
 繰り返された陵辱のあげくに己の精液にまみれた憂は、すでに疲労困憊でどこか虚ろな表情で、ただ与えられる快感に身悶えるしかない。
 そんな憂の隣にいる綱紀は燕尾服の上を脱いだベスト姿であったが、それでもじっとりと汗を浮かばせていた。
 けれど、室温を下げるつもりは無く、自らの放つ熱気でももうろうとする憂の姿をじっと観察している。
 その綱紀のマスクの奥に浮かぶ瞳は、今やはっきりと赤みを帯びていた。
 常に冷静沈着の綱紀でさえ、憂の媚態にはそそられる。もっと狂わせ、男に犯されるしか無い生き物にしたいとも願う。だがその一方で、憂に人気があるのはその瞳から何度狂わせても戻ってくる人としての理性のせいだろうということも判っている。
 壊しきれない理性は、憂の強さではあるけれど。
「いっ、あぁぁ──、あ゛っ!」
 身悶えながら嬌声を上げた憂が、一瞬その身を強張らせ、がくりと崩れた。もっとも、崩れ落ちればただでは済まない体勢だから、必死で1mほど下への落下は堪えているようだ。
 ぜいぜいと体を揺らしながら大きく息を吐く憂は、そのアイテムが出てきたとき、命令されるまま自らまたがった。
 涙を流して嫌がりながらそれでも従うしか無かった憂は、虚ろながらもまだ理性がある。
 自転車のようなフレームにはサドルが無い。またがるのは直径が30mm程度のフレームの上に直接で、手は棒と同じ高さのストレートのハンドルに固定され、足は床に届かずだらりと垂れ下がっている。
 前傾姿勢のため陰嚢を二つに裂くように体重が乗っていて、圧迫感は相当なものだ。さらに、尻には馬の尻尾をなぞらえた飾り付きのバイブが深々と突き刺さっていた。
 会陰を痛めつけるという点では、三角木馬の方がキツイだろう。
 だが、このアイテムの良いところは、フレームから伸びた短い鎖が乳首を前傾姿勢で固定し、ペニスをきつく軸に固定できるところだった。アナルバイブを取り去れば、そのまま人が犯すこともできる。
 苦しい姿勢でアナルを激しく貪られ、仰け反れば乳首を引っ張られる。固く縛り付けられたペニスは、ろくに射精もできないままで、万一体位が崩れれば体重がそこにかかり千切れそうな激痛に襲われる。
 そんな恐怖付きのアイテムだということを憂は良く知っていて、これが出てきたときにはその顔を蒼白にして恐怖に引きつらせたほどだった。
 高額の課金アイテムの一つ『シルバーホース』。
 関根は、五時間ほどプレイして課金アイテムの利用が可能になったとたんに、金に糸目を付けずに、それらを使いまくっている。
『憂、まだだよ。体を起こしなさい』
 関根の声だけがスピーカーから響く。
「ひ……あ……はぃ……」
 がくがくと震える腕が、上体を支える。
 ちゃりちゃりと音を立てて鎖が伸びて、ピンと張った。
 股間のペニスは、固定用のベルトで擦れて赤く擦りむけているけれど、びんびんに勃起したままだ。先端から漏れる淫液が、ねとりとシルバーフレームを汚し、迷彩のような模様をつくっていた。
『そうそう、しっかりと胸を張りなさい。君は馬なんだよ。早く走るためには鞭が必要だから、鞭を上げよう』
 その言葉に、仮面の下で綱紀は嗤いながら、手に持ってた鞭を振り上げた。
「ぎぃ──っ! ひああっ!」
 パシ──ッと甲高い音が鳴る度に、腕に心地よい振動が伝わる。
 憂の滑らかな肌に赤い線が浮かび、それにクロスするように次の鞭を下ろす。肌を裂くような物ではないが、音と痛みがたいそうきついものだ。
 モデルのように毎日丁寧に手入れしている憂の肌は白く滑らかで、鞭の痕は良く映えた。
 鞭が下ろされる度に、汗も飛び散り、開ききった口の端から涎が溢れ落ちる。憂の甘美な涙がぽろぽろと溢れては、床の白濁の中に混じっていった。
「いやぁぁ──っ、あぁぁ──、痛っ、止め……っ」
 辛さに上げたであろう制止の言葉に、綱紀の腕に力が入る。
「ぎぃぃ──っ、ひぎっ」
 何も言わなくても、憂にはその意味が判ったのだろう。涙に濡れた瞳がちらりと綱紀を見つめ、痛みに耐えかねたように閉じられたけれど、制止の言葉は出てこなくなった。
 こういうところも強いと思う。そうでなければとっくの昔に壊れて使い物にならなかったろう。
 いや、強いからこそ、憂への陵辱はより過酷になり、憂を壊したい輩を愉しませることになるのだ。
『ああ、良く走ったね。少し疲れただろう?』
 10回ほど叩いた後、関根の言葉と共に腕を下ろした。ひくひくと震える憂の体が、がくりと沈み込む。腕はわなわなと震えていて、体重を支えるのも限界なのだ。けれど。
「ああっ!」
 びくんと憂が勢いよく跳ね起きた。その勢いで、軸と乳首を繋ぐ鎖が、ピンッ音を立てて伸ばされる。
「ひぎっ」
 鎖は切れることはなく、伸びが足りない分は大きくピアス穴を広げることで補っていた。その痛みが相当だったのだろう。今度は憂の背が丸くなり、小刻みに痙攣すらしていた。
『ご褒美は嬉しいかい? そんなに尻尾を揺らして』
 冷静なようで、明らかに興奮している関根の声が響く。
 憂の尻尾が、ぶらぶらと大きく揺れていた。憂の肉筒を精巧に測定し、最大限の快感をもたらすように設計したバイブが激しく振動しているだろう音が、外まで響き渡っていた。
 バイブの強弱は関根が自由に操作できるから、こうやっていきなり強にされることも多い。そのタイミングの取り方は、綱紀ですら感心するほどだった。
『憂、気持ちよさそうに喘いで……。どこが良いんだい?』
 関根の問いかけは止まらない。
 息も絶え絶えの憂に、容赦なく追い打ちをかける。
「あ……、はあっ、お尻……、はあっ、お尻の穴の奥が……気持ち──イィっ」
 いつの間にか弾けたのか、床にポタポタと落ちた白濁液が新しい液溜まりを作っている。
 その量がかなり少なくなっているのを見て取って、綱紀はそろそろか、と呟いた。
 虚ろな表情で、関根の命令通り動く憂は、もう反射的に対応しているだけだろう。
 このゲームが始まってから6時間だ。
 憂の体力が限界なのは、彼を良く知る綱紀には判っていた。
 淫魔である憂は、本来ならばその体力は尽きることなく、いつまでも男を銜えてよがり狂うことができる。
 だがここしばらくの実験で、その体力が続くのは生身の動物系の生き物を相手にしている時だけだと判ったのだ。綱紀が飼う憂と、主の黄勝が飼う狂のどちらも、同じ傾向を示したので間違いないだろう。
 無機物や植物でできた生きていない玩具は、敏感な体を快感地獄に落とす効果はある。けれど、それだけだ。
 この種の淫魔は、性欲は食欲を満たすための物だと考えればつじつまがあった。
 相手が生きていなければその精気を吸うことができずに、体力ばかりを消費してしまう。
 男も女も性交時の興奮によってそれを大量に放出する。それを体液とともに喰らうのが淫魔の食事だ。
 憂や狂のように男を求める種はそれが精液であり、女を求めるような種はそれが愛液だった。だからこそ、精液を注ぎ込まれている間は、憂は決して果てることのない快楽の中にいられ、そしてそれを糧に体内で鬼が悦ぶ精気濃度の濃い液体を精製する。
 特に男の淫魔の精液は、鬼の子を孕み育てる苗床の良質な栄養になるのだ。
 そのためにも、もっと多くの淫魔が必要だった。女を好む淫魔に種づけされた女は淫魔を孕む。さらに孕むのが女淫魔であれば、その子は純血種に近づいていく。
 綱紀達は憂達の両親も捕らえていた。彼らはすでに身も心も淫魔化させられていて、父親は新たな淫魔の生産にせっせと取り組んでいた。残念ながらその妻は年を取りすぎてこれ以上の淫魔の子は孕めないが、その分、夜の街で淫らに男を誘い、鬼の役に立ちそうな男達を探している。
 さらに、淫魔は鬼の激しい嗜虐性を解消する相手としても申し分ない。
 純粋な淫魔であればあるほど、彼らは壊れにくい。そう、憂や狂のように。
 そして。
「やはり彼も我が一族の血を色濃く継いでいる」
 口の中で呟いた言葉は、高性能のマイクを持ってしても誰にも届いていない。
 淫魔の媚態を目の当たりにすれば、どんな輩でもそれに魅入られる。それは、鬼の血が濃いほど顕著だった。
 長い刻の果てに人に紛れた下位の鬼を捜し出すのは、鬼の一族の繁栄のために重要な課題の一つだった。
 そんな鬼の血を引く輩は、まず間違いなく淫魔によってその血を甦らせる。この淫魔達を餌にして、すでに数人の鬼が新たに仲間に加わっていた。
 そして今宵、関根もまた、鬼としての性質を解放するだろう。
「いや……もう……許して……」
 関根の命令はどんどん激しくなっていった。
 乳首は重りがつけられてだらりと伸びている。根元に浮かぶ血の玉が、揺れる度に流れて肌を彩った。
「ひっ、ひぃぃ、痛っ、つぅっ」
 フレームの上で、強張った筋肉がギシギシと音を立てているのが聞こえるようだ。
 体を支える腕が小刻みに震えている。
 背中に浮かぶ赤い筋も相当痛いはずだが、それでも憂のペニスは勃起したままだった。



 陰液にまみれたペニスがヌラヌラと輝いていた。
 だが、長時間の陵辱にそのペニスもさすがに萎えてきており、肌も荒れて、目の下にクマが色濃く浮かんでいた。
『ダメだ、まだだよ、まだ時間は十分ある』
 朝の8時まで徹底的に嬲り尽くすつもりの関根の言葉に、憂が絶望的な悲鳴を上げる。
「い、やぁ──っ、もうっ、もう……動けなっ、疲れて……苦しくてっ」
 その言葉に、綱紀の視線が手元のディスプレイに向かった。
 今関根が見ている表示と全く同じ映像を映しているそれに、新しいアイテムが加わったのを見て取る。
 憂は、何がキーワードだと知らない。
 知らないからこそ、できるだけ喋らないようにしてきたのだろうけれど、キーワードはとても簡単なものばかりだった。
『そう、だったらお薬を上げよう』
 嬉々とした関根の言葉と共に出てきた薬の瓶を見て、憂が息を飲んだ。
『これでまだまだ遊べる』
 特製強壮剤は、淫魔ための特別製。
 疲れ知らずで淫乱な淫魔に本来薬など不要だが、そんな淫魔をとことん喰らい尽くして痛めつけるようにして遊ぶための薬だった。
 その薬には体力回復のための薬効はなく、生産能力が衰えた陰嚢を回復させる効果があるだけだ。けれど、疲れ果てた体で己の精気を放つ射精は、自殺行為に等しい。だからこそ射精量が減る仕組みなのだが、この薬はそれを強制的に解除してしまう。
「い、いやっ、もう、もう……許してっ」
 身を捩って、近づく綱紀から逃げようとする。
 生きるための最低限のエネルギーすら根こそぎ奪われていく射精は、憂に地獄のような苦しみを与えるのだ。
「憂、飲みなさい。まだ時間はある」
 その言葉に、憂はぶるぶると震えながら頑なに拒絶していた。差し出される薬に手を伸ばさず、ぎゅっと目を瞑って見ないようにしている。
 粘液に濡れた唇は色を失っていた。
「憂……逆らうか?」
『憂、飲みなさい』
 二人の主人からの言葉に、それでも憂はイヤだと首を振った。もう、逆らう事の恐ろしさに頭が回らなくなっているのだ。
 がくがくと震える体は足腰すら立っていない。逃げられない憂に、綱紀が無理矢理飲ませることも可能だが、それでは面白くない。
『憂……?』
 関根が訝しげに問いかけて。
 答えられない憂に、沈黙が室内を支配する。
 綱紀も動かなかった。
 この薬を飲めば、憂は指一つ動かすことができなくなるまで、否──呼吸すらできなくなるまで、射精を続けるだろう。それでも憂は死なない。死なせない。
 淫魔の生産はまだ始まったばかりで、しかも、ここまで生粋の淫魔が生まれるには、もう少し時間がかかる。女の淫魔は、未だこの憂達の母親のみで、今産まれても子供が産めるようになるには、20年近くかかるだろう。
 そんな貴重な生粋の淫魔を壊すつもりは毛頭無いけれど。
『……憂、ではお前が欲しい物はなんだい? 薬の代わりに何が良い?』
 スピーカーから響いた言葉に、綱紀は憂から離れた。
 関根は聡い。聡いからこそ、使い道がある。
 綱紀のたいそう愉しげな様子は、外からは窺えなかった。だが、彼の心はこの先を想像しながら、愉しく成り行きを見守っていた。
 憂の瞳がカメラを捕らえ、その向こうにいる関根を窺うように見つめ、逡巡を繰り返すよう視線を泳がせる。
 憂にとって、薬の代わりに欲しい物はたった一つだ。
 それこそ、いたぶられている最中、彼の視線は無意識のうちにそこに向かっていた。それを関根が気づいているかどうか。
『憂が欲しい物を上げよう。それを言うなら、飲みたくない薬は飲まなくても良いようにする』
 そんな問いかけに、憂は一瞬戸惑っていたけれど、その動きが不意に消え、瞳の焦点すら淡く消えると同時に、曇っていった。
 もう限界だったのだろう。足りない精気は飢えになる。飢えは心を麻痺させ、飢えた淫魔は、それを調達することだけしか考えなくなる。
 だから皆が言う。
 鬼は聡いが、淫魔は愚かだ。だから、淫魔は道具にしかならない。
 そんな淫魔が戦慄く唇を開いた。
 理性を手放した淫魔の肌に色が戻ってきていた。
 彼が望むのは、飢えた良くを満たすことだけ。そのために体が変化する。男を誘う淫猥な体へと失った色を戻していった。
 零れたのは熱を帯びた吐息。
 薄桃色に染まった肌はしっとりと汗ばみ、濡れた唇の上で朱色の舌がちろちろと動く。
「ほし……、生身……の、ちんぽ」
 欲情した声音は小さけれど、マイクはしっかりと拾っていた。
 スピーカーから、関根の息を飲む音が生々しく響く。
「欲しい……ザーメン、挿れて……」
 手が伸びてくる。
 憂の力のない手が伸びて、綱紀に向かう。
「おか……して……、欲しい、チンポ……、イヤらしい体に注いで……」
 たらりと溢れた涎が、顎を伝い首を流れる。
「カメラに向け、お前の主人は、今あっちだ」
 指さされた先を見た憂が、這いずるようにカメラに向き直った。
 理性を手放した淫魔は、見えない相手を堕とそうと淫らに体をくねらせた。
 舌が何かを舐めるように動いて、ぎらつく瞳は淫欲にまみれていて。
 動かない足を、やはり言うことの効かない手でなんとか抱え上げたその奥で、充血したアナルがひくひくと喘いでいる。
 そこをカメラに見せつけて、憂はうっとりと呼びかけた。
「ここに……ほし……」
 指先が、アナルの縁にかかる。
「ん……お腹空いたんだ……、いっぱい欲しい、関根、様……挿れて」
 ぐいっと指がアナルを押し広げて、真っ赤な肉がぱくりと口を開けた。収縮してひくついている肉壁が、ねっとりと濡れながら誘っている。
『あ、あっ、う、おぉぉぉ──っ』
 スピーカーから響き渡る感極まった声を聞くより早く、綱紀は配下の者に指示を出した。
 新しいアイテム欄にあるそれが、間違いなくクリックされるであろう事を確信していたからだ。

 
 1時間後、綱紀はその淫臭に満ちた部屋を退出した。
 新しいアイテムの到着に、憂はすぐに足を開きアイテムを受け入れた。そうなれば、綱紀がサポート役をする必要もない。
 すぐに盛りきった獣のような二つの声が響き、ビチャビチャと二人分の体液が放出され始めた。
 さんざんアイテムで嬲られた憂のアナルは、どんなに凶悪な逸物であろうと、関根の立派なペニスであろうと難なく飲み込み、それでも足りないとばかりにひくついている。
 パンパンと肌と肌が打ち合う音がやたらに早い。
 あそこまで狂った淫魔がを正気に戻るには多量の精液が必要で、人であれば無理な量だ。だが、鬼の濃い精液であれば、量も少なくても良い。
 そんな説明も関根には無用の長物だったようだ。
 その瞳が赤みを帯び始めたことなど気づかずに、関根は憂の体を堪能していた。この状態に至るまでに何度も自慰をして射精しているはずだが、関根のペニスは元気が有り余っているようだ。その性欲もまた鬼のそれと大差ない。否──彼は鬼そのものだったのだ。
「よしっ、注いでやる。腰を振って、搾り取れっ」
「ひぁぁぁ──んっ、んっ、くうっ! ああっ、深──っ、ぐぅ」 
 赤い瞳をぎらつかせた関根は、一心不乱に憂の尻に腰を叩きつけていた。 
 綱紀が去ったことなど気づいてもいない。
 歩みさる綱紀の服や髪から淫臭が漂う。染みついてしまったその臭いに、綱紀はにたりと笑みを浮かべる。その笑みは、見る者がいれば凍り付くように冷たく、ひややかな物だ。
 新たな仲間をどのように使うかは、全て綱紀の手に委ねられている。
 なかなか商才もある関根は、得難い仲間だ。しかも、その褒美は憂を抱かせるだけで済みそうで、費用対効果の高い仲間を得たことは、綱紀の力、ひいてはその主である黄勝の立場にも直結する。
 すでに不動とは言え、地固めの必要性を常に意識する必要はあって、綱紀にとって主を盛り立てる者を手に入れた悦びは、何よりも代え難いものだった。

【了】