【淫魔 狂(きょう) 褒美】

【淫魔 狂(きょう) 褒美】



 腰を高く掲げた四つん這いのような姿で台に拘束された奴隷を、背後から早い速度で突き上げれば同じリズムで甘く掠れた悲鳴が迸り、男の欲情を誘う芳香が霧散する。心地良い酩酊を誘うそれらが、男の嗜虐性を煽った。
 狂という名の奴隷のその浅ましい媚態は、その場のオスの性欲をひどく刺激し、男に興味などなかった者まで色情に狂わせた。
 実際、男もそうであったはずなのに。
 だが誘われるようにぬかるむ穴に突っ込めば、敏感な鬼頭が熱く熟れた肉壁に締め付けられた途端に、止まらなくなった。
 突っ込んでいるのはペニスだけなのに、全身の服の下の肌を直接熱い粘膜に嬲られ、締め付けられているような、激しい快感に襲われた。 堪えきれない快感の渦が、あちらこちらで爆発する。激しい運動で息が上がるのに、止まらない。一つ爆ぜれば、立て続けに爆ぜ、重なる爆発はより大きく、激しく精神を翻弄した。
 その快感の激しさに酔いしれた男は、嬉しげに腰をくねらす狂の痴態に、知らず舌なめずりをし、もっと得られるであろう愉悦を求めてしまう。
「ヒィっィ! いああぁっ!」
 この奴隷の快楽の源はたいそう分かりやすく狙いやすい。しかもそこを突けば、粘膜がうねり、痙攣が激しくなって快感がより増した。
 しかも、狂はひどく敏感で貪欲だった。前立腺を押しつぶしてやればすぐに空達きし、けれど、そんなものでは物足りないとばかりに、ペニスを誘い込むように腰をくねらせ、淫らな嬌声を上げて男を何度でも誘った。
「アァッ、イク、イクッ、もおっ! あぁ」
 甲高い嬌声がひっきりなしに響く。絶頂は果てしなく繰り返され、並の男なら絶頂地獄のはてに果てているだろう。だが、狂は達くほどに元気になり、さらに激しい絶頂を迎えていた。
「ひっあああっ!! あくっうっ! も、も、やああっ」
 意識が飛ぶような絶頂への歓喜と、果てなく繰り返されることによる苦痛とが入り混じった鳴き声が響き続けて、掠れてきている。それすらも、オスを誘い嗜虐性を煽る。
 肌を打つ音が大きく響くほどに強く乱暴に抉っても、狂は達く。細い腰を掴んだ手にまで痙攣が伝わり、熱い粘膜がうねり締め付けるのだ。そこを乱暴に抽挿すれば、ヒイヒイと嬉しげに鳴いて、また痙攣して涙する。
 短い感覚で繰り返す空達きの度に、真正面の大きなディスプレイの上にあるカウンターが、カチリカチリと進んでいた。
「もぅ、も、ユ、許し……あぁっ、あっ、またぁ──」
 ディスプレイには狂の、涎を口の端から溢れさせ、快楽に煽られ淫らに蕩けた顔を映していた。それが虚ろなままに懇願を繰り返す。
 泣き濡れた顔は時折辛そうに歪ませる。だが、目許まで紅潮させ快楽に蕩ける顔での拒絶の言葉は、とても言葉どうりの意味にはとれなかった。
 穴が空の時は「許して」と泣いて嫌がっていたクセに、ペニスを突っ込まれた途端に喜び咽び泣いて、全身で男を誘う。いや、「許して」も実は「空っぽにするのは許して」なのだろう。何本もペニスを味わい、注がれた大量の精液を喰らってなお、物欲しげにひくつき涎を垂らしているのだから。
「はっ! まだ欲しいかよ、この淫売が!!」
 全身で男を欲しがる色情狂の女よりも、狂は男を誘うのが堪らなく上手い。女遊びに長けた男たちを獣化させ、ただ狂で解放する事だけを望ませた。
 そんな狂には、自身を犯す男の姿は見えない。頭部も頸部も下に向かって固定され、何人いるかも判っていないだろう。
「も……ゆる、して……も、出させてぇ、いっぱい、ああ」
 許されない射精を求める声は哀れだ。だが、絶頂だけなら飽きるほど迎えているくせに、それは別物だと欲しがる貪欲さに、周りから嘲笑が漏れた。
「メス豚がなぁにを出したいってぇ? テメェはケツかき混ぜられて、よがってりゃ良いんだよ」
 狂と違って、男たちには全てが丸見えだ。
 正面のディスプレイのお陰で、背後から貫いていても、快感と苦痛と、欲に飢えた様がよく見える。
 狂の紅潮した顔は欲情を隠さず、トロンと潤んだ瞳はその奥に欲求不満の焔を宿し、凌辱者たる男を誘っているのだ。
 その横の小さめのディスプレイでは狂の拘束されたペニスと重そうな陰嚢が物欲しげに揺れていた。いきり立った狂の先走りの淫液すら自由に流せないペニスが絶頂の度に震えて、鈴口をパクつかせているところも見えている。
 目の前の尻は突き上げが止まれば、もっと、とでもいうように揺れ、捲れた肉壁が熱く真っ赤に熟した様を晒して誘ってくる。
 それは、犯している男だけの思い込みではないはずだ。その証拠に、周りにいる他の様々な人種の仲間たちも感じているはずで、散々犯して満足したはずの男たちも、この後の待ちくたびれている男たちも、皆一様に、嘘吐きな奴隷をあざ笑っている。
「それでもいっちょ前に射精してえってか? だったらちゃあんと働きな。俺たちを誘ってたっぷり突いて貰えりゃ、カウンターはとっとと回るぜ」
 カウンターの数字は、既に45。これはこの狂が空達きした回数だ。ただし、50になればカウンターはリセットされるから、本当の数字は判らない。もう何度かリセットされているけれど、その回数など誰も気にしていなかったからだ。
 このカウンターが50になれば、狂は射精が許された。たった数秒、尿道に入っているカテーテルをせき止めている枷が外れ射精ができるのだ。
 そんな狂を拘束する台には、そんな枷も含めていろいろな装置が付属していた。
 これを持って来た男は、これを『牛車』と呼んでいた。荷馬車ではなく、牛を運ぶ車に近いニュアンスらしい。
 確かに犯すのに程よい高さの台に上半身を乗せられ、頸から上と四肢や腰がその土台に括り付けられている姿は牛に見えなくもない。
 だが、牛に喩えられるのは太いカテーテルでペニスと繋がっている容器のせいだろう。狂がだした僅かな精液は全てその容器に集められていた。
 カテーテル中を満たす白い液体は、前回の射精分の精液だ。容器の入り口にある小さな吸引ポンプが動かなければカテーテルは閉じていて、そのせいで狂の射精は完全に制限されていた。
 さらに、アナルを撮るカメラも伸びていて、その映像を狂の視線の先にあるディスプレイで見せつけていた。
 何本ものペニスに犯され、ぷっくりと腫れ上がった真っ赤な肉壁が、グチュリとペニスと共に食い込む。抽挿の度に泡立った精液を滲ませて、男たちが射精する様を羨望の眼差しで見つめながらよがれるように。
「あああああぁっ!!」
 50回目の絶頂から一テンポ遅れての解放に狂の喉から絶叫が迸った。同時にカテーテルの中に流れが生まれ、容器にボタボタと精液が零れ落ちた。
「ヒャアっ、何だよこれっ! 堪んねえっ!!」
 犯していた男が嬌声を上げる。
 たいそう熱い粘膜がうねっていた。絞り上げるようにペニスに絡みつき、グネグネと蠢き痙攣する。まるで意志のある軟体動物に絡みつかれているようなのだ。
「す、げっ! 持ってかれるっ」
 決して早漏とは言わせなかった自身が費える程に早く2度目を迎え、呻き、痙攣する身体をやみくもに狂に押し付けた。この妙なる快感を一瞬たりとも逃したくなかったのだ、が。
「アアアア──ッ、ヒアアアッ!」
 狂の嬌声が一転悲鳴と変わった。
 カウンターがリセットされた途端に、まだ射精中だったカテーテルが塞がれ、逆流する激しい痛みにのたうち回る。
 狭いチューブから出てくるには時間がかかる放出は、無情にも一定時間で機械的に閉ざされた。それはこの男たちがどうこうできる問題ではなく、狂を絡め捕っている、この装置のシステムなのだ。
「あああ……も、許してぇ……、おねがぁ……ヒ、アウっ、くっ!」
 泣き喚き、乞い願っても叶えられない。
 男たちはただ、与えられた獲物が持つ最上級の性具である肉壺を堪能すればよい。運が良ければ射精時の締め付けを味わえるけれど、それを知らなくても十分だった。
 
 
 男たちは、20人の出稼ぎ戦闘集団だった。そして狂は、命を削った一仕事直後に与えられた特別な贈り物だったのだ。
 後は帰りの輸送機を待つだけだった彼らの前に現れた男は言い切った。
「昂揚しきった精神を鎮める行為が必要でしょう。これは我が主からのささやかなる贈り物でございます」
 そう言って差し出されたのが狂だったのだ。それこそ一目で欲情を誘うほどに淫らな性奴隷は、確かに、荒れ狂う精神をぶつけるにはたいそう具合が良い逸品だった。
「ひぅっ!!──くあっ──」
 ガツガツと体内を抉られ、狂の嬌声がますます激しくなった。
 最高級品のボーンチャイナのような滑らかさに、果実のような瑞々しさを持つ肌は、えもいわれぬ色香と沸き立つ芳香で男たちを誘う。
 完成された極上品の性奴隷です、と教えられたら通りの身体は、冷めた熱すら熱くたぎらせるようだ。
 一人が済めば次へ。繰り返される陵辱に果てはなく、寝食も己がなぜこの地にいるのかも忘れて溺れていく。
 そのうちに一人、また一人と体力を使い果たしても、他が狂の身体にむしゃぶりついた。
 ただ一人、狂だけのすすり泣きが響くようになるまで、その狂気の宴は続いたのだった。
 
 
 固定された場所が痛んだ。
 アナルはもう感覚はないはずなのに、体内から流れた粘液の刺激にブルリと震えて、熱い吐息を零す。下腹部にわだかまった大量の熱が煮えたぎっていた。
 長い間狂を責めさいなんだそれは、脳細胞まで犯しているようだ。
 
 誰か達かして、誰か突っ込んで。
 カウンターが進まないと出せないのに。
 
 自身のものだけでなく、他人のものもあわせて精液袋と化した身体は、精液を吐き出すことしか望んでいなかった。
 装置からの解放なぞ望めない狂にとって、それだけしか望めなくて。
 だが、狂を堪能した男たちは、今はもういない。アナルを犯すペニスが無ければ、カウンターは動かない。
「まだほしいか? 10人をヤり殺し、3人を廃人にしてなお?」
「あ……き、しょ、さま……」
 己の支配者の声が脳に届いたとたんに、混濁していた思考がクリアになり、意識がはっきりした。同時に自分がまた人を食らいつくし、殺したのだ、と理解してしまう。
 黄勝の実験に供された様々な生物は、狂の身体に狂い、溺れ、その精神を病んで。たとえ生き残ったとしても、いずれ鬼に全てを提供して、無惨に朽ち果てる。
「七匹も良い実験材料が揃った。邪魔な輩どもであったが、虜にしてしまえばこちらのもの」
 生き残った男たちを回収して戻ってきた黄勝の言葉に僅かに身じろぐ。彼らに同情などしないけれど、この先の彼らの悲惨な運命を想像して、良い気分にはなれなかった。
 知らなかったとは言え黄勝が仕える一族に関わればろくな事にならないのは、狂自身が良く判っていた。欲に狂い、既に息絶えた者達の方がよほど幸せかも知れない。
 雇い主に化け、狂を褒美だと差し出し。
 淫魔の色香と淫臭に狂わせば、死か、廃人一直線……のはずだったが、生き残った者がいた事に、黄勝すら驚いていた。
 嬉々として持ち帰った彼らを、まずは簡単に調べてきたのだろう。
「淫魔の精液にあまり触れていないせいか、それとも、お前の飢えがたいしたことないのかとも思ったが……生き抜いたのは半数以下。となると鬼の血が混じっていたかと調べれば、あれらからは獣の臭いがしたぞ。となれば、獣人族のなれの果て」
 いつも黄勝は狂に、実験の経過から成果、その結果できた産物の効果まで楽しげに教える。
 その内容は、本当に人でないものだと認識させられる物ばかりで、いつも打ちのめさせられた。だから、彼らが人でないと知っても、驚きはない。
 鬼がいて、淫魔がいて、それに獣人が加わったとして、異常と感じられなかった。
 実際、彼らの人で有り得ない耐久力は、淫魔と交わってなお、彼らを正気に保ち、その狂暴性を具現化した。
 狂の背に残る鋭い爪痕は何本にもなり、鋭い犬歯の傷跡も多い。
「お前のお陰だ。役立つぞ、あれは」
 黄勝が笑う。
 虚ろだった狂の心に冷風が舞い込み、高ぶる身体の熱を冷ますほどの冷酷な笑みだ。
「だから、お前のペットとして飼うのを許してやろう」
 その言葉の意味を理解するより早く、全身から一気に血の気が失せた。
 激しい危機感に襲われたが、けれど狂には逃れる術など有りやしない。瞠目して、塞げない耳で聞きたくない言葉を聞くしかなかった。
「7匹の獣人もどきは、使い道がある。だが、獣人は己の欲求を満たさぬと裏切りやすいという記録がある。だから、常に欲望を満足させるように世話をしておけ」
 それが何を意味するか判らぬ狂ではない。
 けれど、狂に許されている返事は、「はい」という言葉だけだ。
「ああ、だがその前にそのたっぷりと濃縮された精液を採集せねば。淫魔の媚薬は強力だが、精製しないと保存できないうえに、限界まで体内での濃縮が必要というのが難点だな」
 黄勝のあくことなき探求心は留まることを知らない。
 それは、最適な濃縮具合の精液を創るための空達きと適度な放出量の関係を把握して作られたあの装置にも表れていて。
「まことに得難い実験材料だな、淫魔というものは」
「イアアアアアアア!!」
 全身の神経が弾け、細胞の全てが爆発した。
 ペニスから濃縮して濃厚な精液が、それに相応しい粘性でもって流れていく。カテーテルを介していても、その射精感は変わらない。むしろ、ポンプの振動も相まって、より激しく感じた。
 しかも、快感だけではなく、パワーを最強にされた吸引ポンプで無理に精液を搾り取られるのはたいそうな苦痛も伴って、拘束されていなければ、暴れ回っていただろう。だが、頑強な装置は揺らぎもせずに、狂の身体が傷付いただけだった。
 陰嚢の中の限られた精液を搾るだけにしては、黄勝はなかなかポンプを止めなかった。
「良いか? 良いだろう」
「あ、ううっくううううぅ──っ!!」
 一滴残らず搾り取られ、無くなっても吸引を続けられ、苦しむ狂を眺めながら、黄勝は楽しげにうっそうと微笑んでいた。

【了】

その後(樹輝編)