スカトロ描写あり
身体が熱い。
サウナの中にでもいるような、ねっとりとした熱気が肌にまとわりつく。
これは夢の中だから、目覚めれば良いのだ、と判っているのだけど。
意識は薄闇の中から抜け出そうとしない。
身体の上に何かがのしかかっているように、重くて苦しくて堪らなかった。さらに、まとわりつく熱がイヤで、腕で払おうとしたけれど、その熱が粘液か何かのように絡みついて離れない。
「あっ、はあぁぁ」
身体の中も熱がこもっていて、せめて吐息と共に吐き出してしまえと、肺の中の空気を絞り出す。けれど、今度はその熱で喉が焼け付き、冷たい物が欲しくて堪らなくなった。
「み、みず……」
額に汗が流れる感触に、ゆるゆると頭を振る。
少しずつ浮上してきた意識が、頬に触れるかたい感触に気づく。
手が、腕が、布団を求めてさまよったけれど、指先が引っ掻いたのは、爪も立たない固い板だった。
なんとか脳が覚醒し始めたのか、そんなことが少しずつ判ってくる。
「ん、ここ……は?」
ゆるゆると頭を上げて数度瞬きをしてみるが、周りの様子が眩しくてよく見えない。
だが、妙な体勢を取っているのが判った。
息苦しいのも通りで、胸が圧迫されていて、さらに足をきつく曲げて伏せている姿勢なのだ。
何で、と、一気に意識が覚醒し始めたその時。
「あ……んっ!」
尻の狭間に何かが触れた。冷たい硬質なそれが、そのまま奥へと入り込んでくる。すぐに、尻の中に冷たい液体が流れ込んできた。
「い、あぁっ!」
衝撃に、頭が一気に覚醒した。
大きく見開いた瞳の中、視界が白く爆ぜる。
逃れようと伏せていた身体が起きあがろうとしたが、顔の両側にあった手首も、太ももの横にあった両方の足首もその場所から動かせなかった。
それどころか、何かが食い込む痛みすら走る。
「あっ、なん、何でっ」
慌てて辺りを見回せば、背後に義兄となった啓治の姿があった。
さっきまでと変わらぬスーツ姿に、部屋も宴を開いていた広間だったけれど。
「な、にっ」
先ほどまでキレイに飾られていた花も料理も、今はもう無い。
白いクロスのかかったテーブルも、椅子も消えていて、あるのは純一を取り囲むように置かれたゆったりとしたソファと純一が乗せられている台だけ。
それどころか、純一は全裸でその台に括り付けられていたのだ。
「まずはキレイにしないとな」
「ひ、ひぃ、あぅっ」
冷気すら漂う言葉と共に液体が体内に入り込んでくる。
よく冷やされたそれは、すぐに腹を刺激し始め、腸の中で出口を求めて暴れだした。
すぐにグルグルと腹が鳴り始めて、便意が急速に高まっていく。
「あ、い、や──、やめっ」
苦しさに逃れようとするが、括り付けられた四肢はびくりとも動かない。
内側は柔らかいが形状を変えようとしない固い皮革によるベルトが、両手首と足首をきつく固定しているのだ。
「な、何で? どうし、てっ、うくぅ!」
するりと器具が抜けていく感触に、ぞくりと肌が粟立つ。その拍子に中の液体が吹き出そうになって、反射的に尻タブに力を入れた。
「そうだ。許可無く排泄は禁ずる」
嘲笑すら浮かんだ声音に、純一は呆然と背後の啓治を見つめた。
これは……誰だ?
姿形は、義兄となった啓治そのものだというのに、見知っていた啓治とは別人のように見える。知っている啓治は、威厳と優しさが同居したような頼りがいのある人だったはずなのに、今向けられている視線は凍えるほど冷たい。
「……に、い……さん?」
震える口が、義兄を呼ぶ。
夢でも見ているのかと、縋り付くような思いで見つめる。
けれど。
「おにいさま、だ。会社では社長で良いが、それ以外の場では全ておにいさま、と呼べ、と言ったはずだ」
僅かな違いに、啓治の瞳がすうっと細められる。
間違いを指摘する声音も、地を這うほどに冷たい。
最初の時は、その言葉を口にする恥ずかしさ故にためらう純一を、啓治は笑って許してくれたというのに。
「命令に従わぬならば罰を」
すうっと上がった口の端が、視界の中でぶれる。
「ぎゃああぁぁ──っ」
弾ける音が鼓膜に届くより早く、激しい痛みが背筋を貫いた。迸った絶叫に、気体と液体が同時に噴き出す音が混じる。
痛みに震える身体からの放出はランダムで、汚れた液体が周辺に飛び散り、床を汚した。
実のところ、純一には見えない場所にバケツが置かれてはいたけれど、それで受け止められたのはせいぜいが最初の重い塊のみ。他は底や壁で跳ねて、辺りに飛び散ってしまっていた。
さらに普段なら羞恥に襲われるような放屁音が幾度となく繰り返される。
ダメだ、と思うのだが、衝撃がそれを許さない。
「いやゃあぁっ!」
一度だけでなく、二度三度。引き締まった尻の皮膚に振り下ろされる殴打は、加減などされていなかった。
「ぎゃっ──ひあっ」
右に、左に繰り返され、日に焼けることのない白い皮膚が、真っ赤に熟れていく。
「あ、あぁ……ぁ──っ」
「許可無く排泄は禁ずると言ったばかりなのに、なんというヤツだ」
十回殴打したスパンキングの道具を傍らに置いた啓治の視線が、汚れた尻から大腿、さらに床にまで及んだ。
先ほどまで美味しい料理の匂いが立ちこめていた広間は、今は悪臭が広がりひどい有様だ。
肩を竦めて振り返った啓治の視線が、ふと床に落ちた。
「ああ、こいつを使わせてもらおう」
その視線の先にあるそれが、侮蔑の言葉に反応した。
痛みと精神的なショックにもうろうとしていた純一の瞳が、床に近い位置の何かを捉える。
「早くキレイにしろ。次に移れん」
呆けている脳を揺り動かすような、低く
威厳のある声が響いた。
啓治ではない。
だが、その言葉に弾かれたように床にいるそれが動く。肌色の腕が動き、滑らかな曲線を描いて背中が落ちる。掲げられたのは、引き締まった白い尻。
じゅる、ずる。
何かを吸い込む音が、それからする。
──まさか……。
純一の脳裏が、見るな、と警告を発していた。
それが、人、だと、もう理解はしていたけれど。
その姿が、誰かか容易に想像できたけれど。
「時間かかりそう……。今日は純一がメインなんだからさ、さっさとさせてよ」
快活な春樹の声に、「そうだな」と了承の声が続いて。
「孝典、手とバケツを使っても良い。早々にキレイにしろ」
聞きたくなかった名前が耳に届いても、まだ信じてはいなかった。
けれど。
「……と……さ、ん?」
上げられた頭の、こちらを見ない横顔。口から顎を茶色の異物で汚しているのは、間違いなく純一の父親、孝典のもので。
不快な異臭が漂っていた。
尻から大腿に流れ落ちる感触が、さらに床まで落ちる音がする。
その真下に、孝典はいて。
かろうじて見える汚れた床の上で、孝典の手が、跳ねて飛び散った茶色の汚物を集めている。
それから……。
「や、な、んで……何で……」
四つん這いの頭が、その集めた山に降りていく。
くちゃっ、ずるっ、ぴちゃ。
手の中も、僅かに開いた口元にも、ねっとりとした便がたっぷりとついていて。
傍らにあったバケツの上で、孝典がそれを落としていく。
口が開いた途端に、ボタボタと落ちていくそれ。両手の指の間からも、滴り落ちていく。
「や、そんな……ああっ」
ごくりと喉が動いている。口の中に残った純一の便を飲み込んでいるのだ。
「汚れは自分でキレイにするのは当然だが、今日は特別だ。かわりに孝典にがんばってもらうとしよう」
「あ、あっ……あっ……」
嘘だ──嘘だ。
目の前の現実を頭が拒絶する。
「おまえは先に体内の掃除だ」
「ひっ、あっ……」
入り込んでくる冷たい液体に身体が震える。
けれど、それ以上に心が悲鳴を上げていた。
嘘だ。
と、何度も目に見える全てを否定しようとして。
だが、何度瞬きをしても、目の前の光景は無くならない。
膨れあがった腹から込み上げる鈍痛も、高まる排泄の欲求も変わらない。
「許可無く排泄した場合の罰は、おまえの身体での掃除だ」
素手で拾い集め、舌で舐め取り、腹の中に集めて運ぶ。その後であれば、廃棄したければしても良い。
罰の詳細が、排泄欲求に苦しむ純一の脳に深く刻まれていく。
今、『父親』がしているように。
訳が判らぬままに、『排泄は許可があるまでできない』のだということが、多量の液体を注ぎ込まれる行為と共に脳に刻み込まれていいった。
限界はすぐに来た。
けれど、その許可が下りない。
「あ、んっ、も、もう、出した……。トイレ、トイレ、行かせ……て、…く…さい」
純一のまなじりから顎にかけて、幾筋もの涙の痕があった。
もう何度こうしてお願いしただろう。
けれど、ソファでくつろいでいる男達は、誰も動こうとしなかった。
ゴロゴロと腹の音がはっきりと響き、鋭い痛みが下腹部から胃の辺りまで駆けめぐる。
気持ち悪さに悪寒が走り、吐き気すら込み上げていた。
もう無理だ、と、今にも尻の力を緩め、腹に力を入れそうになるけれど、先ほど見た父親の姿がそれを思いとどまらせる。
「ひっ、もっ──、あぅ、お、おに……いさ、まっ、あ、ひぐっ」
プツと小さく音がした。
内股を辿る滴の感触に身震いする。
そんな僅かな解放ですら身体が歓喜して、さらなる解放を欲するけれど。
それでも今回はまだ意志の力で何とか堪え切れたけれど。
「もう……もう……」
蒼白になった肌に、冷たい汗が伝う。
涙と鼻水で汚れた顔は醜く顰められ、内なる衝動に堪えるだけだ。
疲れ切った身体にはもう堪えられない。
ひくひくと小刻みに身体が震え、ぐちゅっと僅かなしたたりが内股を伝う。
その感触に、絶叫のような悲鳴が迸った。
「お、おにっさま──お兄さまぁ──っ」
もう、保たないっ、もう──っ!!
悲鳴に含まれる懇願は、明らかだった。
それに、啓治が口角を上げた。
「許可する。出せ」
喜色に満ちた声音で発せられた許可は、今の純一にとって神の声に等しいものだ。
ひくりと純一の身体が震えた。
信じられないと見開かれた瞳が、背後の啓治を捉える。
「あ、出して……」
続かなかった言葉だが、意味はくみ取れるそれを、啓治は否定しなかった。
「礼」
簡潔な言葉の意を、今度は違えなかった。
「あ、ありがとうございますっ」
感激に声が震える。
その刹那の啓治に対して感謝は真の思いだった。
強張っていた表情が緩み、ぷるぷると筋肉が震えるほどに込められていた力が、一気に萎えた。
「あ──っ」
続いたのは歓喜に満ちた嬌声だ。
背を反らし、天井に向かって叫びながら、体内で滞っていた液体を力一杯噴き出していた。
宴が開かれていた広間の真ん中で、人の視線を浴びながら。
獣のように見られながらの排泄を悦ぶ純一の身体が弛緩していく。
ひくひくと尻が震え、最後の一滴まで出し切ろうとしていた。