昨日までの嵐が嘘のように澄み切った青空が広がり、風が緑の清涼な香りを心地よく運ぶ。
ラカンでは、祝いの儀式が雲一つ無い晴天であれば、それは神に祝福された証だと言われていた。
一度決めた祝いの日程は、よほどのことがない限り変更しないのはそのせいだ。
占いにも似た風習はラカンの祖にまで至るという。ところが、ラカンの長い歴史を紐解いても、雲一つ無い晴天というのは非常に少なかった。
それなのに、神の祝福でしかあり得ない、と言えるほどに、雲が一つも無い。しかも、夜半過ぎまで激しい嵐で、この婚儀は祝福されないのだと警戒されていた矢先だったのだ。
その奇跡のような天候の変化もまた、集まった民を否応なく興奮させる。
神の祝福は、王家のみならず民にも与えられるのが常だからだ。
古老が過去を懐かしみ、伝え教える晴れの日の奇跡。
前の祝福は、前王の末子が生まれた時のこと。誕生の儀式を上げているその日、ラカンの鉱山で貴重な鉱石が発見されたとの報告がもたらされた。そのせいで、ラカンの技術力は画期的に伸びたのだ。
祝福を受けたとされる王位継承は、名君と誉れ高い王のものだ。
そんな祝福をもたらす青空の下では、豊富な飲食物が振る舞われ、酔いに任せて歌っている者も多い。小競り合いのような騒動はいくつもあったけれど、大半の民は浮かれ、今日の善き日を讃え合った。
いつもは荘厳なはずの教会の鐘の音も、今日は悦び踊っていて、それに合わせて女性達が軽快なリズムで踊りながら、色とりどりの花を道に振りまいた。
城と、城に次いで歴史ある建物である教会の間のその道は、距離としては2kmばかり。
ラカンの象徴である二つを結ぶ大きな道の両側は、ラカン屈指の貴族の館が並んでいて、常ならば、一般庶民は立ち入ることなど無い道であったけれど、今日は誰もがそこにいる。
皆、これから始まるパレードを一目見たいと集まった人たちばかりだった。
ふっ、と城の前にいた人々が耳を澄ませた。
賑やかだった通りが、流れるように静かになっていく。同時に鐘の音も止まり、教会寄りにいた人たちも話をやめた。
道の、中央にいた人たちが、それぞれに両端に寄りだした。声の無いざわめきが、空中に霧散していく。
動きながらも皆の視線が、城門に集中していた。
「開く……」
誰かが、呟く。
とても小さな声が、周りの人に届く。否、皆、同じような言葉を呟いたのだ。
金属の棒を絡めて作られた剛健な城門は重い。滅多に開くことがない門が、今ゆっくりと動き始めていた。
ぎりぎりと、金属と土が擦れるのは不快な音のはずなのに、誰も耳を塞ごうとしない。ただ、その先にあるはずの──今、僅かに見えだした行列を見つめていた。
最初に門から現れたのは礼装を着込んだ高位衛兵達。彼らの両脇を駆け足で追い抜いて、道の警備に走り出したのは大量の衛兵達だ。彼らによって、教会までの道が確保されると、王家の旗を掲げた旗手、文官、従者達。
普段は拝めぬ礼装ばかりの行進がしばらく続いた後、再び衛兵が現れた。
途端に、城から教会に向かって、歓喜の声が湧き上がった。
彼らが取り囲む一台の馬車がゆっくりと城の外に出てきたからだ。
本日の主役が乗るそれは、パレード用の屋根無しの六頭建ての馬車で、質実剛健な王族に似合わぬ華奢で清楚な印象の塗りをしていた。馬までも色とりどりの花で飾られている。
「おおおおお──っ」
歓喜の声は、雄叫びにも似ていた。地響きのように大地と空を揺るがし、人々の鼓膜を震わせ、陶酔させる。
若き二人の純白の正装が、陽光に煌めく。
「おお──、マサラ様、マサラ王子様、おめでとうございますっ」
誰が最初に叫んだのか判らない。
けれど、確かにその声がきっかけになって、どよめきが次々に祝辞へと変化した。
「おめでとうございますっ」
「ご結婚おめでとうございますっ」
「マサラ王子様──ぁっ!」
花吹雪が舞い、特に若い女性の一群から、甲高い叫声がほとばしる。
周囲にまんべんなく笑みを振りまくマサラが自分の声に応えたと、激しく興奮し飛び跳ねて。感極まって崩れ落ちる者も一人や二人ではなかった。気を失いながらもその表情は恍惚と言って良い。
王族である以上に医師としても優秀なマサラは、庶民に人気が高い。女性であれば、たとえ身分違いでも王子の傍に寄り添いたいと密かに願う者は多い。まして、貴族の娘であれば、その可能性は皆無ではなかったのだから。
婚儀の話が出た時に、悔しがった女性は数え切れない程だと言われていた。それでも彼女たちは、この善き日の王子の晴れ姿を一目見たいと集まっているのだ。
「きゃぁぁぁ──っ」
またしても絶叫が響き渡る。
マサラが傍らの新婦の肩をそっと抱き寄せて、ベールの上から口づけを落とした。その仲むつまじげな様子に、若い女性達は頬を真っ赤に染めて視線を逸らし、そうでない人々は微笑ましげに見つめていた。
ゆっくりゆっくりと、人が進むより遅い馬車の中で、マサラは祝いの言葉を投げかける群衆に手を振り、選ばれて待機していた子供達が差し出す花束を受け取った。
民衆の目からは、新婦の顔はほとんど見ることはできない。顎近くまで届く繊細なレースの生地は、透けそうで透けないからだ。見えるのは、顎から首の肌と、両脇に流れる髪。
そんな中、新婦の顔を見ることができた者がいた。
花束を渡した少女達だ。
「キレイなの。とってもキレイだったの。凄いのよ、私、渡したのよっ」
大役を果たし終えた少女達は皆興奮していて、大人達の問いかけにも要領を得ない。それでも、数度息を飲んで、胸の動悸を押さえる仕草をした少女がうっとりと呟いた。
「とっても、キレイな……。お空の青よりキレイな瞳だったのよ。お顔はずっとずっと色が白くて、ほっぺたは薄桃色のお花が咲いたみたいだったし、髪もきらきらと光っていたの。すごいの、キレイな色ばっかり……」
「あのね、あのね、髪がきらきら光っていたの。お月様の光みたいに」
夢見心地の少女達の言葉は、あっという間に四方八方に伝わった。
「やはりリジンの方なのか……」
「でもリジンの王族はみんな性奴になったじゃない」
「マサラ様のことだから、きっと素敵な方を手にいれられてお気に入りになったのよ。だって、あの優しいマサラ様なら、たとえ敵国の人でもお気の毒に思って気を遣ったに違いないもの」
マサラの性癖を知らない民衆は、囁き合う。
今日という日まで、相手が誰かは秘密にされていたから、多数の噂が流れていた。
近隣の友好国の姫君、または、リジンの姫君という噂が有力視され、けれど、リジンには姫君はいないと否定する者もいて。どれが真実なのか判らないままだったけれど。
「姫君はいないと言うが」
「だったら、王子だろ。なんせ女みたいな顔した連中ばっかだって言うし」
相手がリジンの王子だと判り始めた民衆の表情が僅かに冷める。
ラカンでは同性との結婚に禁忌はない。王族とて全く前例が無い訳ではないのだが、何しろ今回の相手は性奴だ。
けれど。
「性奴ったって、敵対国の捕虜ってだけだ。あいつらの王様が悪いせいで堕ちた連中だろ。しかも、全部が全部罪悪人じゃねえって。タムラン様んところが引き取った子は、そりゃあ良い子でよ。タムラン様も我が子のように可愛がっていらっしゃって。あの子も元御貴族様ともおもえねぇほど人当たりが良くて優しいぜ」
そんなことを言いだしたのか誰なのか。
「そういえば、あの向こうにあるお屋敷の男爵様のところは、預かっていた子とご子息と婚約させたわよ。性奴ったって、もともと奴隷扱いされていなかったもの」
それに便乗したかのように、あちらこちらで「性奴と言っても……」という話が発展し始めた。
数人に伝播すれば、噂話して広がるのは早い。実際、そのような事例は今年に入ってから皆の耳に入るようになっていて、どうやら性奴といっても名目上で、たんなる捕虜や人質のような扱いだったというところも多いのだという認識が広がっていた。
「あのマサラ様が完全に所有したいほどなんだからな。それに何より我らがカルキス王がお認めになっているんだから、反対するのも野暮ってもんだろ。それに、こんなに神に祝福されているというのに」
その言葉に皆一様に賛同し、同時に前より激しく祝おうという気持ちが盛り上がっていく。
しかも、純血を誇り他民族を除外していた原初の民が、混血種の最たるラカンの王家に嫁ぐ事を決めたということは、原初の民がラカンに屈したということに他ならない。
そうなれば、美しいと言われるリジンの元王子を少しでも見たいと、馬車に近づこうと殺到する。そんな彼らを押しとどめる衛兵達も必死だ。
衛兵達に押し戻されながらも、通り過ぎる馬車に必死で手を振り、声をかける。
「マサラ様ぁ、お相手のお名前をっ」
王子だと判っても、一般庶民にはリジンの、特に王家の情報は少ない。姫君はいないということすら知らない者が多いのだから、名前を知るものなどほとんどいなかった。
「カザナだ」
マサラが答えると、今度は祝いの声に名前が加わる。
「カザナ様、万歳っ! マサラ様、万歳っ!」
その連呼に、カザナもまた小さく手を挙げて応えた。
その手が小刻みに震えている様子も、額が汗ばみ、頬を紅潮させていることも、民衆は気づかない。
荒い吐息が繰り返され、切なげに細められた瞳が熱に浮かされたように潤んでいる。時々絶え入るように息を詰め、小さく身悶える。
そんなカザナの様子がわかるのは、せいぜい馬車の周りにいる衛兵までだ。そんな彼らが内心では嗤っていることも、民衆達が気づくことはなかった。
「ひっ、あああっ!」
馬車から降り教会の中に入ると同時に、マサラの腕がカザナの腕を掴んだ。強い力で引っ張られ、それでなくても力の入らない身体がふわりと泳ぐ。
零れた悲鳴が、次の瞬間拒絶の悲鳴に変わったのは、下肢を覆っていたドレスのスカート部が一気に取り払われたからだ。一本の腰ひもで結わえられていただけの服。しかも、腰ひもが外れると、上着まであっというまにはだけてしまう作りだ。
布が舞うとカザナの全身から淫らな匂いが立ち上り、足下に糸を引く粘液が垂れ堕ちた。その感触にぶるりと身震いして、両腕で身体を抱きしめる。
「お、お願いします……返し、て、ください」
日陰の冷たい空気が肌をなぶる。やたらに冷たい感覚に、どこもかしこも濡れてしまっているのだと気がついて、羞恥に顔に血が昇った。
馬車の外からは見えなかっただろうが、実は腰から下は一枚の四角い布だった。羅紗のように透けやすいそんな布の下には、下着すら身につけていなかった。そんな布を腰に巻き付けられただけで、否応なく馬車へと乗せられたのだ。
その馬車が進んだのは、道という道を埋め尽くした人々。その視線が、全て自分に向かっていて、カザナは羞恥に気を失ってしまいそうだったのだ。
それでもあるだけでもマシだった布すら取り払われ、拘束され陰茎から陰嚢までを粘液で濡らしたペニスも、内股に垂れるほどに溢れた愛液たっぷりの女陰も、さらに深々と張り型を銜え込んだアナルまで丸見えになってしまった。
さらに祝いの日のために磨き込まれた白い肌を朱に染めた姿は、それだけで男達を欲情させる。周りにいる御者や衛兵達の間から、息を飲む音が隠しもせずに響いた。明らかな嘲笑も響いている。
「次のお召し物でございます」
カツンと石畳を鳴らした靴音と冷ややかな声に、カザナが怯えたように身体を震わせた。
この二年と半年の間、マサラ以上に恐怖の対象であった声音は、たとえ顔が見えなくても間違いようがない。
そのムルナが、カザナの目の前にふわりとシルクの生地を広げた。それが何を意味するのか判らなくて、戸惑う。
否──それだけでなくて、何もかもが判らないのだ。
二ヶ月ほど前、搾乳優先のためにグロテスクと言って良いほど歪で長く造られた乳首が、何の説明もなく親指の先ほどの長さと太さに変えられた。
長い乳首を忌み嫌っていたカザナにとっては悦ぶべき事ではあったけれど、何か意味があるのかと素直に喜べない。
さらに一ヶ月ほど前から、髪や肌の手入れを徹底的にさせられるようになった。接客は相変わらずだったけれど、肌を傷めるような客は来なくなった。
そして今日、何が起きたか判らないままに進み出した馬車まで聞こえてきたのは、マサラの婚儀を祝う声だ。
しかも、その相手が自分だと、向けられた視線が言っている。
おめでとうございます──と差し出された花束を震える手で受け取って。
その無垢な瞳に、自分がどんなに恥ずかしい格好をしているか自覚して、激しい羞恥が沸き起こった。
皆が自分を見ていた。
羅紗の布を巻いただけの腰。姓奴の張り型を埋め込まれ、拘束されたペニスを勃起させている姿を。
耳元でマサラがそれを教える。
淫らなカザナに気がついている者もいるようだと。
そのたびに緊張し、力の入った身体が、張り型を締め付ける。性器になったアナルは、僅かな刺激に真っ赤に熟し、馬車の振動のたびに敏感な肉壁を擦られてひくついた。
それでなくても、以前に街で乳売りをさせられた時に浴びた人々の視線のせいか、視線が怖い。見つめられると自分の淫らな姿を見られているのかと思ってしまう。しかも、気にすれば気にするほど、肌は敏感に視線を感じてしまうのだ。
それなのに、身体は欲情し、さらに淫猥な姿を晒そうとする。
今でも僅かに身動ぐたびに、背筋が痺れるような快感が走り抜ける。もう達きたくて堪らなくて、腰が勝手に動くのを止められない。
そんなカザナに、マサラが冷ややかに言い放った。
「すぐに着ないのなら、この後の儀式も、帰りのパレードも、全裸で出て貰おうか」
「か、帰りって……全裸って……」
紅潮していた肌が、一気に蒼白になっていく。
「姓奴のお披露目となれば、そのイヤらしい身体を、たっぷりと見せねばならないだろう」
「そんなっ、そんなことできません。あんなにたくさんの人達が、いるのに……」
こんな淫らな身体を一般の民にまでさらすなどと、堪えられない。マサラの館で裸になるのとは訳が違う。
「お、おねがい……しますっ、そんな裸で外に出るのは……お許しを……」
床に崩れ落ち、手をついて頭を下げて頼み込む。
「自ら進んで裸でうろつくような輩は、性奴といえどそういない」
向けられる蔑みの視線は、一対だけではない。四方から来る視線を敏感に感じて、ガクガクと全身が震えた。
「儀式への参列者が異議を唱えないのであれば、儀式は成立いたします。もっともその根回しはすでに済んでいますので、参列者以外がこの後異議を唱えようとも、聞き入れる必要はないのですが……。さすがに裸で出るほどに淫乱で変態な性奴は、受け入れないと言われるかもしれませんね。そうなるとマサラ様にとって婚儀を潰された王子と笑いものに……」
「そうなれば、やはりおまえの淫乱さを全国民に知らしめて、私はだまされたのだと言うしかなかろうな」
「カザナ様を広場に据え付けて、民に自由にさせるしかありません」
縋り付くような視線を無視して、二人が勝手に話を進めていく。
「あ、いや、ですっ。……あっ、お、お許しを……」
もしそんなことになったら。
カザナとて、自分には残虐な王子が、実は国民にはとても愛されているということを知っている。
もしそんなことが発表になったら、カザナに対する仕打ちは一体どうなるだろうか、想像するに恐ろしい。
「ふふ、おまえのせいで、私につきまとう数多の女性達が男に奪われたと悔し泣きしていたからな。その恨み辛みの視線に晒されながら絶頂を迎えさせてもよいぞ」
今度は全裸で馬車に乗せられ、嬲られ犯される姿が脳裏に浮かんだ。
「そ…それだけは……」
街に出さされた時の、激しい陵辱を思い出して、大きく首を振る。
人の目は怖い。人の好奇の視線が怖い。
恐怖に蒼白になり、痙攣しているかのごとく震えだしたカザナの股間に視線を落としたマサラが、ふと肩を竦めた。それにも気づかぬほど怯えたカザナの腕が強引に引き寄せられる。
剥き出しになったペニスからたらりと粘液が流れ落ち、床に小さな痕を作っていた。
蒼白になりながらも、カザナのそれは達けないままに勃起し続けていたのだ。
「全裸でさらされると聞いて煽られたか。これほどまでに淫液を溢れさせているとは」
くっと喉を鳴らしたマサラに、カザナは嫌々と小さく首を振った。けれど、その身体が欲情しきっているのは、露わになったペニスを見れば明らかだ。
「なんとイヤらしい花嫁だ、リジンの王族とは、かくも淫乱で恥知らずな一族なことよ」
くつくつと嗤いあい、嘲る声がそこかしこから聞こえる。
わざとらしい辱めに、カザナはきつく唇を噛み締めた。悔しさなどとうの昔に忘れたと思ってたけれど、マサラは巧みにカザナの感情を引き出す。
王子としての矜持は、何度壊され、何度思い出さされただろう。
それでも、全裸で外に出されることだけは──と、悔しさをかみ殺しながら、再度マサラに縋ろうとした時。
「カザナ、足を開いて前屈みになれ」
不意にマサラの命令が聞こえた。
ぎりっと奥歯が鳴る。だが、反抗できたのは、それだけだ。
前屈みになった拍子に、奥まっていたアナルが丸見えになる。太い張り型の尻だけが、少しのぞいている状態だ。
「自分でひり出せ」
「え……」
マサラの冷酷な言葉に、カザナの身体が引きつった。
中に埋もれるほどまで入った張り型は、姓奴カザナ専用の張り型だ。性奴にすべからず与えられる、ペニスの神経と直結したそれは、張り型に与えられた刺激をそのままペニスに伝える。
そのせいで、カザナは馬車の振動が張り型に伝わるたびにそれを締め付けてしまい、狂おしいまでの刺激を自分のペニスに与え続けていたのだ。
ハアハアと荒い呼吸を押さえて、笑顔で花束を受け取ることが、どんなに辛かったことか。
時折、布越しに刺激してくるマサラの手に悶えながらも、それでも言われるがままに手を挙げて応えるしかなかった。
そうしろと言われたことができなければ、マサラは躾に対して容赦が無くなる。
「どうした?」
笑みを含んだ声音に、苛立ちが交じり始めていた。
「は、はい」
ぞくりとした悪寒は恐怖すら伴っていて、熱く火照った身体を僅か冷やす。
けれど、尻に力を入れたとたん、さらなる熱がペニスから全身へと伝わった。
「あ──っ、あっ」
力を入れると張り型が僅かに排泄されていく。性器でしかない直腸は、そんな些細な振動でも十分に快楽を拾うのだ。しかも、力を入れたことで締め付けてしまったせいで、ペニスまでもがまとわりつく肉に擦られるような刺激を受ける。
「ひ──ぃ、あぁ、いやぁ」
今にも射精しそうなほどいきり立ったペニスを揺らし、激しく喘ぎながら必死になって力を入れる。
尻を付きだす姿勢は苦しく、太ももの痙攣がしだいに大きくなってくる。それでも止める訳にはいかなくて。
時折走り抜ける淫靡な感覚に、意識が呑み込まれそうになるのをなんとか堪えて。
稲光が煌めいているかのごとく、目の前が何度も弾けた。
達きたくて達きたくて堪らない。
なのに、ペニスと陰嚢の動きを阻害するように戒められていて、射精できない。
女の器官で絶頂を迎えることはあるけれど、カザナの男としての機能が満足しない限り、いつまで餓えがおさまらないのだ。
朝からずっと快感はあっても射精はさせてもらえないせいで、僅かな刺激でも達きたくて堪らないというのに。
「早くしろ、そのままにしたいのか?」
いらつきを押さえぬ声音が理性を取り戻させ、しなければならないことを思い出させる。
張り型を出さない限り、射精は許されない。もっとも、許される可能性もないのだけど。
それでもやらない訳にはいかなくて、カザナは命ぜられるままに、思いっきり力を入れた。けれど。
「あくっ、いっひぃぃぃぃ──っ」
ごりっと音が響いた。小さな振動が、背筋すら震わせ、脳髄で弾けた。
「があぁぁ──────っ!!」
固い張り型の反り返ったエラが、カザナの敏感な前立腺を弾いたのだ。
汽笛のような甲高い悲鳴が荘厳な教会の中に長く響いた。
強張った身体が、不意に崩れた。
軟体動物のように身体が崩れ落ちていくのを止められない。
冷たい床に頬をつけても、全身が麻痺したように動かなかった。
ただ一カ所だけ、戒められたペニスが、ひくひくと震え、鈴口から粘液を何度も吹き出す。
「なんと。神聖なる教会で絶頂を迎えるとは」
「しかも、手も使わずに尻に力を入れただけで、でございます。まこと、淫売とはこのような者をいうのでしょう。しかし、これでは先に進みません。恐れ多くも王はすでに中でお待ちでございますのに」
「淫乱な性奴だと見せるのも良いかもしれぬ。適当に飾り立てろ、すぐに祭壇へ向かう」
二人の嘲笑を含んだ会話が耳に入っても、カザナの脳は何一つ反応しようとしなかった。
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