【居場所-カザナ(樹香)編】

【居場所-カザナ(樹香)編】

【居場所-カザナ(樹香)編】
 ※RAKANの風南編にて掲載しています【居場所】の樹香がカザナの身体に入ってしまった話。
 女体化、♂×♀風、陵辱等々につきご注意ください。また、樹香の話ですが、カザナの身体なので風南編にカテゴリ分けしています。
 マサラとの絡みを、という要望がありましたが、あまり絡んでないです。
 【居場所】未読の方はそちらを先に読まれたほうがいいかも……?



 目覚めた時、身体の重さをまず感じた。いつもと違う部分的な重さもあるし、何より全身がどこか怠く、滲み出るような疼きがそこかしこにあった。
 樹香にとって馴染みのあるそれは、久しく誰とも相手をしてもらっていないからか。
 身体にまとわりつくような疼きは、自身の飢えを自覚させる。
 浅黒く焼けた肌は元の肌色などどこにも残さないほどで、それは明るい陽光の中での展示が多いことを物語っていた。けれどその時の拘束によって傷つけられた傷痕も今はもうない。
 キスカによって商品となった樹香の身体は常に適切な手当てが施され、樹香にとってひどい陵辱であってもこの身体が壊れることはないだろう。
 視界に入る白い手を眺めながらそんなことを考えたその時、その腕が自分のものでないような違和感を覚えた。
 いや、確かにこれは見覚えのないもの、なのに自分が動かそうとした腕そのものであるのは違いない。
 目を瞬かせて凝視する腕を握り、けれどすぐに下腹部からの重苦しい疼きに顔をしかめた。知らず喉の奥で唸り、慌てて鳴る音を止める。無駄吠えを許さぬ主人の下に長く居続け、樹香は無意識のうちに音を発することに敏感だ。
 それでも身じろぐだけで鳴ってしまう両手足の鈴、せめて不協和音を鳴らさぬように染みついた動きで身体を起こそうとして、もう耳に慣れてしまった音がないことにも気が付いた。
 どんなに静かに動いても鳴ってしまう鈴の音、けれど今はチリとも鳴らない。その鈴が着いているはずの腕にも何もなく、何より別人でしかないほどに白く細い。
 何より重いのは胸だ、思わず見下ろした先にはあるはずもないモノがあって、樹香はその大きさに息を飲んだ。というより、一体これは何なのか。
 目を瞠った樹香は、それでも疑問と同時に浮かんだ答えに静かに混乱する。
 驚愕とか慟哭とか、とにかく感情の発露に無縁の日々にあった樹香の反応はどこか鈍い。それでもその口から忙しないと吐息が零れ、身体が小刻みに震えていた。思わず手のひらでその大きな乳房をすくい上げる。思った以上にずしりと重く生身の肉だとぬくもりが伝えてくる。
 これは女性にある乳房と相違ないのだろう。だがその先端の色づいた乳首は大きくて長く、はるか昔に見た乳牛の乳首のように思えた。
 どうしてこんなものが……と唸るより先に、これとよく似たモノを晒した存在を思い出す。
「ま……さか」
 こぼした声も馴染みがない。いや、聞いたことはあるのだけれど、それを自分の口が発したことが恐ろしかった。
 乳首から離れた手が自身の顔に触れる。視界の片隅に入るのはふわりとした長い髪、触れたどこか丸みを帯びた顔立ち。骨太の樹香に対して華奢な体格は腕も細い。
 柔らかく丸みを帯びている身体は、投与され続けている女体化をより促進させるための薬のせいだと知らなくても、樹香はこの身体が誰のものかたやすく思い至った。
 視界に入る身体は異様ではあるが明らかに女性のもの。だが衣など許されぬのであろう身体は股間にそびえる存在も目にすることができる。
「か、かざ、な……」
 樹香にとっては愛らしい弟の風南、その彼がこのラカンでどういう目に遭っているのは、樹香は知っていた。主たるキスカがラカンの王城に居を構えているため、まれにマサラが連れてくる風南を目にすることがあったのだ。もっとも彼の姿はいつも遠目でしか見ることができず、その詳細をはっきり知ることはできない。それでも肌の白さと華奢な体躯の銀の髪を持つリジンの民で、このような異形となっている者を樹香は風南しか知らなかった。
「どうして?」
 普段ならば掠れて出ない声が自然に零れた。
 いつの間にか樹香まで風南のような身体に変えられたのだろうか? 顔や姿まで、知らないうちに自分は風南にされたのだろうか。
 この顔も、この声も……?
 動揺と混乱の中、明らかな恐怖に身震いする。
 キスカがまた何か新しい遊戯を思いついたのか?
 マサラが何か実験をしているのだろうか?
 どちらにせよラカンの王族が抱える狂気は、樹香には耐えがたいほどに恐ろしい。
 震える身体を庇うように身を抱きすくめると重い乳房を支えた腕が乳首をかすめ、喉の奥が小さく鳴る。
 込み上げる欲情は普段の樹香が与えられるものとどこか違った。
 張り詰めているような乳房の痛みもついで襲ってくる。見た目は柔らかいはずの乳房はガチガチに強張り、先端からじわりと染み出す感触に身震いをする。
 それだけでぷくりと膨れ上がった乳白色の液体が乳房を伝い、腹を辿る。
「あっ……」
 零れたあえかな嬌声に慌てて口を閉じるけれど、肌がざわめくのまでは止められない。
 その刺激はいまだかつて味わったものとは違う。この身体は前の樹香よりもはるかに敏感だと気が付いて、思わず零れる先を足元の布で止める。だがその布きれの刺激だけでも身体の奥が熱くなる。
 腹の奥が熱くなり、じわりと滲み出るような感触は乳首だけでなく股間もだ。
 それは小ぶりの形良い陰茎の先端だけでなく、それこそ本当に股間が疼き、そして中にあるものを締め付ける。
 その意味を、男の身体には決してない存在がそこにあることを、樹香は悲しい思いで感じた。風南と同じ身体ならばきっとそこにも女と同じものが作られてるだろうと。
 ラカンの医療技術はリジンのそれをはるかに凌駕しており、樹香には信じられぬものばかりだ。
 だがラカンならば、樹香をこのような身体にしてしまうことなど簡単なことだと知っている。性奴隷に課した戒めも、風南に施された施術も、そしてキスカが飼っているキメラのガガのような存在も、樹香はもうその恐ろしいまでの技を知っているのだから。それは同時にどんなに否定しても、この状況が決して逃れられぬ現実なのだということも樹香に示していた。
「う……くっ」
 起こした身体は重く姿勢が取りにくい。
 ああ、こんな身体で風南は生きているのかと、自分が体験して初めて知った胸の重さに弟の苦しみを思い知る。
 弟達の中でも中性的で、まるで姫が産まれたのかと思ったほどに昔からかわいかった風南。だからといってその彼が男だということは、兄弟として育った樹香だからこそ何よりも知っていた。そして風南が自身の中性的な容姿よりも樹香のような男らしいほうが好きだと思っていたことも知っている。
「風南……あの時逃げ出すように言っていれば」
 その口がこぼすのは悔恨の言葉。
 風南に嶺江を託して逃がそうという意見もあった戦時中、リジンの城が堕ちるはずもないという――兄王とそして重臣達の言葉に縋ってしまった自分達。
 神の子の血を引く我らがリジンの民はすべからず神に守られているのだと、あの頃はただそう信じていた。けれど結局神の助けはなく、そして今苦しめられているのはこの身体に流れる呪われた神の子の血のせいだと信じたくなくても信じてしまった状況で、神を敬う心はすでにない。
 この地に来て教えられた神話はリジンのものとは違っていた。信じられるはずもなく、嘘だと言い張る樹香を、何よりも裏切るのは樹香自身の身体だったのだ。
 裏切る身体に引きずられるように、樹香はいつしかそれが真実なのだと理解して、そうなれば全てが疑惑へと変わっていく。
 いつしか樹香はリジンの民と祖と言われる神を憎み、同時にリジンの純血の理を厭うた。心の中に生まれた嘆きと恨みは深く、思い出したその時の思いも加えて、樹香は自身の重い身体を支えながらも俯いたまま恨み言を呟き続ける。
 鈴の音がない今、それは静かな空間に大きく響いた。


「狂った神の存在を認め、今さらながら懺悔するか、カザナ」
 自分以外誰もいなかったはずの空間に不意に届いた声に、樹香はその頭を跳ね上げた。
 最初に視界に入ったのは衣をまとう者の足、上げていけばその全身が目に入る。
 その姿に身体どころか意識までもが硬直し、同時に全てが萎縮して逃げるように視線が地に落ちた。
「何をしていると思えば」
 何より彼の、不機嫌も露わに発せられた言葉に全身が一気に強張り、身体が勝手に平伏する。顔を上げることすら叶わず、震える声が勝手に零れた。
「マサラさま……」
 マサラ――風南を手に入れたカルキス王の弟が仁王立ちになり風南を睥睨していた。
 どうしてここにマサラがいるのか?
 いや、さっき彼はなんと言った?
 薄い記憶の中で、つい先ほどかけられた言葉を必死になって思い出す。けれど思い出すより先に、マサラが樹香の髪を掴み上げた。
「なあ、カザナ、おまえは朝の仕事もせずに何をしている?」
「……あっ、か、ざな……」
 呆然と呼ばれた名を呟いた。震える口から零れるそれはほとんど言葉になっていなかったけれど、マサラには届いたようで訝しげに首を傾げている。
「何を言っている?」
 問われて答えられるはずもない。
 自分は樹香だと言いかけて、けれどそれは寸前で喉の奥に飲み込まれた。
 マサラはこの身体を風南だと思っている。それなのに樹香だと言って信じられるのだろうか、それとも何もかも納得づくで遊んでいるのだろうか。
 これはまたキスカの思いつきかか何かか。
 マサラすら騙して何かしているのか。
 わからないままに言葉を失った樹香は何も言えない。元より長い間キスカから無駄吠えを許されなかった樹香は、言葉を発するのが怖いかった。
 そんな樹香にマサラは訝しげに首を傾げたものの、まあいいとばかりにその視線を眇めた。
 そこに強い叱責の色を感じて、さっきまで樹香だと思っていた身体は、意識するより先に動いていた。それは樹香がキスカに感じる恐怖と同じものだ。
 きっと何かをしなければいけなかったのだろう、しなければきつい罰を与えられる何か。けれど樹香は何も知らない、何をすればいいのか何もわからない。
 ただこの身を差し出せばいいのか、それとも何か奉仕をするべきなのか。
 その何かが違えば、与えられるのは躾けという名の罰だ。
 過酷な罰は受けたくない。同じ罰なら甘いものを、痛くないものを。
 そのせいで快楽に狂うモノに成り果てようとも、それのほうがよほど良かった。
 だがマサラが望むものなど知りようがない。
「とりあえず朝の支度だな」
 言葉と共に頭が床へと押しつけられた。強い力に逆らうことなく床へとひれ伏せられ、胸が強い力で圧迫させる。
「あひっ、ひゃんっ」
 床で大きな乳房が圧迫され、その衝動で熱い乳が噴き出した。その刺激が生み出した全身に走った甘い快感に喉が震えて嬌声が零れる。
 広がり濡れた床に滑りが良くなって肌がこすられ、押しつけられた痛みより快感が強い。
「勝手にこぼすとはね」
「ひ、あっ、もっもうしわけえ、ああ、ひぐっ」
 低い声に言葉が勝手に零れる。止めないとと思うのに、震える手で乳首を握った途端に、脳天まで貫く快感に息が詰まる。
 一瞬の硬直ののちに腰が揺れて、その時樹香は自身の腹の中に存在する大きな異物に気が付いた。いや、元々あったけれどまるで馴染んでしまって気にならなくなっていたものだ。それがずるっと下りてきてその存在を意識した途端、樹香は激しい射精衝動に襲われた。
 それが腹の中の性感帯、徹底的にしつけられたその快楽地獄のもとを押しつぶしている。
「ひゃぁっ!! あっ、あーっ、んぎぃっ!」
 目の前が白く弾け、腰が勝手に揺れる。頭を押しつけられたせいで高く掲げた尻が物欲しげに揺れていることなど気がつけない。
 女の陰部に埋め込まれた大きな張り型だけでない、もう一つ、その下りてきた何かが快楽を生む器官を抉り、もみあげ、張型と共に押しつぶしていた。
 爆発したような激しい衝動に周りの音が消えた。
 だからマサラが何か言っているのだとわかっても、その意味が理解できなかった。
「勝手に達くなど許した覚えはないが」
「ああ、ひい、ひゃうぁぁっ!」
 乳房を掴まれる、その刺激だけで快感が爆発し、全身何もかもが濁流に溺れるように快楽の中に埋められる。
 これはなんだ、一体……。
 キスカにもいろいろな陵辱じみた快感を与えられたことはあるが、それのどれとも違う、腹の奥から湧き上がる強い衝動に気が狂いそうだった。遠のく意識が初めて味わう類いの快感に疑問を呈するけれど、樹香にその答えは思いつかなかった。
 大きな乳房に蓄えられた乳が牛のような乳首から放出する快感は射精と同じかそれ以上で、しかもそれが二カ所あるという意味を。
 自分の腹の中には大きな卵を産む器官があって、それが尻を犯されるたびに感じる器官をごりごりと押しつぶすことを。
 貞操帯代わりの張り型がそれを助長する。
 そこまで改造された風南の身体は女のものと男のもの、両方の快感を味わうだけでなく、もとより全身が性感帯になるように改造されていた。樹香はそのことを知らず、ただ得も言われぬ絶え間ない快感に一気に溺れた。
「ああ、ひああっ、深い、きつっ、いっ、いいーつ、だめぇっ! あひぃぃっ! 飛ぶ、とんじゃうっ、あはぁっ、あっ、あっひゃふひぃ――っ!!」
 キスカが与えるのは恐怖と嫌悪と痛みが先だ。快感はその先にあって、逆らえば逆らうほどにその救いは遠くなる。だから知らなかった、最初から与えられる快感の渦は、樹香の意識程度で堪えられるものではないということを。
 早々に理性を飛ばし、狂い暴れる風南の身体は獣そのものだ。
「やりやぁ、くるし、ぃぃっ、あひゃ、なにぃ、こりぇ、あはははっ、はひぃぃぃ!」
「なんだこれは?」
 そんなカザナの身体の様子にマサラもおかしいと感じたのか、その手が止まる。だが止まっても一度発情して狂いだした身体はとどまることを知らず、白目を剥いて浅ましく喘ぎ続けるだけだった。


 次に樹香が正気を取り戻した時、そこにいたのはマサラと、そしてキスカだった。
 力の入らぬ身体は床に投げ出されていたが、キスカを認めた途端にその意識は一気に晴れ、重い身体が知らず平伏しようとする。けれど身体のだるさは尋常ではなく、擦れた乳首がもたらす疼きに力が抜けかける。
 だがそれでも必死に堪えたのはそこにキスカがいるからだ。無駄な動きも、言葉も、音も、キスカが望まぬならば立てることはできない。それは恐怖と共に本能にまで深く植え付けられた樹香のキスカへの服従心だった。
 平伏し、人形のように固まって言葉一つ発せぬ様子に、キスカがこくりと頷いた。
「へえ……確かにこっちがジュカっぽいね」
 キスカがつぶやき、その視線が横へと走った。思わず視線だけで追ったその先は大きな窓で、その向こうは広い中庭が広がっていた。
 いつの間にかキスカがいたのは王城の中二階、あの中庭が見下ろせる部屋だ。
 その中庭にある岩の一つに括り付けられている日に焼けた身体に、ひくっと喉が鳴った。
 短い銀の髪、手足や胸にぶらさがる鈴はあまりにも見慣れたものだ。拘束された身体にのしかかる大きな犬は鈴の音で発情するように躾けられた遊戯用の犬たちで、乗り上げ強く腰を振る犬の陰茎がどれだけ凶悪なモノか樹香はよく知っていて、だからこそその下で泣き叫んでいる姿を恐怖に感じる。
「あ、あれは……」
 喘ぐように言葉が零れた。
 あれは自分だ、自身の身体だ。
 樹香は呆然とその姿を見つめ、それから今の自分の巨大な乳房を見つめ、そして惑うようにキスカを見つめた。
「き、すか、さま……」
 許されていないと知っていながら問いかけてしまうほどに、樹香は混乱していた。
 これは一体なんだ?
 あそこにいるのは自分だ。ここにいるのも自分だ。
 ならば私は風南の中にいるのか?
 改造されたのではなくて、入れ替わったというのか?
 だがどうやって? どうしてこんなことが起きた?
 続く疑問は言葉にしようがなくて、ただぐるぐると自分の中を駆け巡る。
「ということは、あれの中身はカザナか?」
 マサラが眉間に深いシワを刻み込み、考え込んでいる。続く言葉樹香の中にもあるものだ。
「何が起きた?」
「さあね、けれどそれなら納得ができる。今日のジュカは聞き分けが悪くて初めのころと同じだったからな」
「このカザナも何も知らなかった、朝の務めを欠かせばどうなるか、知らないはずがないというのに」
 何よりあまりにも自分の身体に慣れていなかったとマサラが独りごちた。
 そんな二人に一体何が起きたのかと自分こそが問いたかったが、それを口にすることはできない。
 そんな樹香をマサラが覗き込む。
「いつから変わった?」
 何がと答えかけて、キスカの視線に萎縮する。
 その様子にマサラがキスカへと視線を走らせた。
「しっかりと躾けていると褒めてやりたいが、まずは答えさせろ」
「無駄吠えしないようにしっかりと躾けたからなあ。まあしょうがない、ジュカ、マサラの質問に答えていい」
 その命令にキスカは頷くことで答えた。
「やはり中身はジュカということか。外見はカザナだというのに」
 舌打ちしたマサラは不機嫌さも露わにキスカへと強い視線を向けた。
「言葉で答えろ」
「お、きたら違いました、ここにいました」
 震える手で胸を押さえ、かろうじて答える。
「起きて……朝からか」
「ジュカも朝からだな、無駄吠えが多くなったのは……」
 きっとほぼ同時に二人に異変が起きたのだと交わす視線が語っていた。
「戻るかな?」
「原因が分からぬからなんとも言えぬ。戻らない可能性もあるな」
「まじかよ」
 眉間にしわを寄せ、あり得る未来を告げながら考え込むマサラに、肩をすくめるキスカ。
 そんな二人を見つめる樹香の身体は青ざめ、小刻みに震えている。総毛だった身体を抱き込む手は爪まで白い。
 何か良くないことが起きていて、自分は今風南の身体の中にいるのだ。
 あの華奢だった骨格はそのままに、女体化させられた身体に。
 それは決していいことではないと樹香は気が付いていた。キスカの性嗜好は異性であるが、女性の奴隷を飼うことはしていない。
 今も風南の身体に入った樹香に向ける視線はとても冷たい。それはいつものキスカの視線とはあまりにも違っていて、厭われているのだと明らかにわかった。
 しかも。
「ちっ、躾け直しか」
 荒々しく呟かれた言葉が冷たく樹香の心を抉る。
「向こうを取る?」
「あたりまえだろう、こんな乳房おばけ、見ている分には面白いかもしれないが、自分で遊ぶとなれば食指をそそられない」
 吐き捨てる言葉に、樹香の心が冷たく凍り付く。その言葉どおりなら自分は捨てられるということか。
「外見が重要か?」
「まあ、あれが元の樹香のようであればいいんだが」
 結構気が強いところも気に入っていたんだが。
 そんな言葉が途切れ途切れに聞こえた。
「そうだな、これがあのカザナと同じになるかどうかは躾け直し次第か。従順で扱いやすいやつだったがこれはどうかな」
 その言葉の意味を、キスカが向ける視線の先を樹香は理解した。
「い、いや……だ」
 途端に言葉が迸る。
「ま、待ってくださ、キスカさまっ」
 伸ばした手は触れることなく床に落ちる。
 髪を掴まれ痛みが走った。そんな樹香を一瞥して、キスカはただそれだけで踵を返した。
 興味などないと、もういらないとその背が言っているような気がした。
 浮かんだそのことに樹香はおびえ、恐れた。
 捨てられるのだと、絶叫したいほどの恐怖に支配される。
「待って、待って、置いていかないでっ、キスカさま、キスカさまぁっ!」
 伸ばした手が届かない。
「いい加減にしろ、おまえはカザナだ、その身体はカザナだから私のものだ」
 髪をつかむ声が低く絶望をもたらした。
「いっ、ま、マサラ……さま、私は、樹香です……樹香だから」
「違う、おまえはカザナだ、この乳を噴き出すだけで達きまくる身体も、毎日卵を産み落としながら絶頂を繰り返す身体も、いつも汁をだらだらと垂れながら女陰も、全部この私が作り上げたカザナだよ」
 酷薄に顔を歪ませる新たな主人に樹香は絶望の悲鳴を上げた。それはキスカの元では決して許されなかった悲鳴だ。だがこのときばかりは、この声がキスカに届いてほしいと樹香は切に願う。罰を与えられてもいい、お願いだから連れていってくれ。
 けれど部屋から出ていったキスカは振り返りもしなかった。
「イイ声で鳴くものだ。最近はそういう初なところを見せていなかったが……。ほら、もっともっと、早朝の鶏のように鳴いてみろ」
 聞こえるのはマサラの声だけで、キスカが消えたのとは反対のほうへと引きずり歩かされる。
「とりあえず、まだ朝の仕事は終わっていないだろう?」
「ひっ!」
 それが何なのか、まともに歩けない樹香を引きずるように歩くマサラは教えてくれなかったけれど、少なくともろくでもないものだということだけは樹香にも伝わってきた。


 連れられていったのはマサラの屋敷だ。
 そこには樹香に対して慇懃無礼な態度を隠そうともしない男が待っていた。樹香を捉える蔑む視線は背筋が凍るほどに冷たい。そんな男にマサラが命令する。
「躾け直しだ、皆をそろえろ」
「かしこまりました、マサラさま」
 その言葉に、樹香は再び悲鳴を上げた。これから何が起こるかわからないというのに、けれど身体のほうが恐怖に凍り付き、これから激しい陵辱が来るのだと何よりも理解して震えて出していた。
 首輪が締められ、四つん這いを強いられた。
 それぐらいはいつものことだが、つれて行かれたその先で待っていた男達に、一歩も動けなくなる。
 そんな樹香を男達は引きずり込み、与えたのは三人がかりでの陵辱だ。
 それだけならお客相手に経験したことがあったけれど、改造された風南の身体で受ける陵辱は知らないものばかりだった。
 樹香が知っている胸への刺激は強い痛みと混ざり合った快感だ。
 鈴のついたリングを引っ張られ、薄く引き延ばされた乳首に血を滲ませながら、それを上回る快感に身悶え涙して、ビリビリとした疼きに性器は無様に勃起してうるさいほどに濡れた鈴を鳴らすのだ。
 だけど今、それとは違う激しい快感に、樹香は目を見開き閉じることすらできない口から浅ましい嬌声を迸らせていた。
「い、いぁっ、あぁっ、ひぃんっ! 出る、搾ったら、駄目ぇぇぇっ!!」
 太い指が大きな乳首を平になるまで潰し、大きな乳房を逞しい手のひらが扱き上げていた。そのたびに噴き出す乳はだらだらと身体を汚し、床にたっぷりと液だまりを作っていく。「ひっ、いぁぁっ、りゃ、めえっ、しぼんないでぇぇっ!」
 言葉を発しては駄目なのに、けれど止まらない。
 ごりっと痛いほどに扱かれる乳房に握りつぶされそうな乳首は痛いはずなのに、それ以上の激しい快感に樹香はそれだけで絶頂を迎え、跪かされていた足はがくがくと震えて崩れる寸前だった。
「どうしたんだい、まるで生娘みてぇに恥ずかしがってさ」
 逞しい身体つきのネリと呼ばれていた男が呆れたように見下ろしていた。だがその手なのだ、さっきから樹香の乳房から乳を絞っているのは。
「マサラさまが最初っから躾け直しだって言ったのはこのことかよ。この物慣れぬ様は久しぶりだぜ」
 もう一人のヤナが反対側の乳房を揉みしだく。
「ひぐっ、痛っ、ああんんんっ、やあっ、駄目、ひゃあっ!!」
 跪かせ、乳を差し出させる格好でいた樹香の乳房は今男達の手で絞り上げられ、ひっきりなしに乳を噴き出していた。最初は受けていたコップは溢れ、床に飛び散った乳からは甘い匂いが辺りを満たしている。
 その中で嬌声を上げる樹香が崩れそうになれば乳房をひっぱり姿勢を正してさらに絞る。
 乳搾りの役目を仰せつかったという二人の力は容赦がなく、白い肌に幾重にもみみず腫れと青あざが広がっていた。
 二カ所から射精にも似た快感を味わい狂う樹香にとってすでに身体の力は抜けている。けれどそんな身体を支えている二人の手は決して緩むことはなかった。
 そして。
「さて、そろそろだな」
「マサラさま、よろしいですかね?」
 気が付けば、背後にマサラが控えていた。乳が搾りつくされるまで姿の見えなかったマサラは、気だるげに樹香の背後に腰を下ろした。
「ああ、いいだろう」
 繰り返し与えられてきた快感に、意識も薄くなった樹香の下で誰かの声が響く。
 崩れかけた膝が抱え上げられて身体が宙に浮いた樹香は、その浮遊感に少しだけ意識を取り戻した。
「な、に……?」
 乳房を掴みながらもう一方の腕を樹香の膝下に入れて持ち上げた二人。
 何が起きたかわからぬ樹香は視線だけで辺りをうかがって。
 その瞬間、身体が一気に下ろされた。
「ひぎいぃぃぃっ!」
 びくんと激しくのけ反った身体がその姿勢のまま硬直する。
 巨大な肉の楔に貫かれた女陰。
 だけどそれだけでない快感は、全身がばらばらになりそうなほどに激しい快感を樹香の意識に与え、崩壊させた。
 身体ががくがくと激しく痙攣し、ぐるんと白目を剥いて大きくのけ反ったまま倒れようとする身体は、ネリとヤナに支えられたままだ。けれどその尻の下、大きく割り広げられた股間の何も無いはずのところに深くみっちりと埋め尽くされたモノの持ち主は、物憂げにそんな風南の身体を一瞥し、嘆息を吐いた。
「身体はカザナのモノだというのに、どうも乗り気にならないね」
「そうっすか、これはこれで愉しいっすけどね」
「どこか違うんだよ、カザナなのにカザナじゃないという、なんとも言いようがないのだけどね」
 そんなマサラの声が遠く聞こえる。
 何が違うのだろうか。
 これは風南の身体で間違いないけれど、と樹香は薄れる意識の片隅で呟いた。
 ああ、でも確かに私は樹香であり風南じゃない。
 それは樹香自身も感じていた。
 自分の身体でないものの中で味わう快感は、確かに目も眩むほど激しくて苦しいものだった。けれどどこか違うのだ、陵辱の限りを尽くされ、まるで物のように扱われ、苛まれ尽くされているのは同じなのに。
 そして与えられる刺激も、その大元の存在も、やはりいつもと違っていた。
『ちが……これキスカ、さま、じゃない……どこ……キスカ、さま……』
 真っ白な世界で樹香は探していた。
 いつも自分を見ていた存在を、その強い視線を、樹香は思い出していた。
 ここにないそれはどんなときでも樹香を見ていて、さげすみ、どこか愉悦に満ちた感情も乗せて、そして静かに樹香を観察していた。名も知らぬ者に犯されても、多種多様なモノに犯されても、いつでも彼の視線を感じていた。
 なのにそれがない。
 樹香はわずかに残る意識を振り絞り手を伸ばした。
『キスカさま……私を……見て……』
 私をいつも冷たく見てくれるキスカさまのところへ。



 長く伸びた指先で、同じく伸びてきた指先がすれ違う。
 ふわりと動いた体の横を、同じく向かってきた体が通り過ぎる。
 戻りたい。
 帰りたい。
 違う声音の同じ願いが、すれ違う。
 



「マ、サラさま……」
 揺すられ揺れるカザナの身体が不意にぽつりとつぶやいた。
 視線をさまよわせてうつろな表情の中で、口元が震え、拘束された腕が悩ましげに蠢く。
「……あっ、あ……あっ」
 身もだえ発する嬌声がどこかさきほどと違うのだと、周りにいた者も直感的に感じた。
 その中でマサラはしばしそんな風南を見つめ、ふっと微笑んだ。
「戻ってきたか」
 そうして満足気に頷いて、その耳元に自身の唇を近づけた。
「おかえり、私のカザナ」
 揺らぐ顎をつかみ、身体を起こしてカザナの背を床に押しつける。上からのぞき込むカザナの視線はまだ焦点が合っていない。
「だが勝手に私から離れたことは許しがたい」
 冷たく響く言葉と共に、その日一日カザナの悲鳴ともつかぬ嬌声はいつまでも途切れることなく続いていた。

【了】