【水砂 捕獲】(4)

【水砂 捕獲】(4)

 何時間経ったのか、ミズサには判らない。
 けれど、もうアナルの壁は麻痺していて、閉じきらない穴からだらだらと多量の粘液と精液が太股を伝い床へと流れ落ちていた。口の中も肌も髪までもこびり付いて乾きさえしている。
 しばらく何も食べていないうえに、ずっと揺さぶられ続けた体は限界に近く、四肢も自分の物ではないようだった。けれど、腹は減っていない。疲れ切ったのは顎も同じで、口の中は飲みきれなかった精液が赤い粘液を淫らに彩っている。胃の中に蓄えられた精液は、そろそろ消化されきっているだろう。男達の汚濁は血流に乗り、ミズサの全身を犯し尽くすのだ。
「起きろ」
 音が脳を揺さぶる。虚ろな瞳に映った影が近づくと拍子に、腕に痛みが走った。
「うっ……くっ……」
 腕全体から肩へと広がった鈍い痛みに堪らずに顔を顰めて唸れば、今度は頬に鋭い痛みが走る。頬を殴られたのだと気付いたのと、視界がはっきりとしたのが同時だった。
「な……に……」
 天井か床か、それか男達のペニスばかりしかなかった視界が開けていた。あれだけ群がっていた男達がいつの間にか数歩下がったところにいて、けれど、その視線は全てミズサに向かっていた。
 ミズサの体が白く汚れるほどに欲望を吐き出したはずなのに、その瞳に宿る欲望はまだまだ強い。そんな視線で、ミズサを凝視している彼らの表情は卑猥な笑みを浮かべていてずいぶんと愉しそうだ。
「な、に……?」
 転がされていた体が引き起こされていた。後ろ手に拘束している縄が脇や肩に食い込んで上体を起こされていた。重い頭を支えきれなくて、がくがくと揺れる。
「んっ……うっ、あぁ……」
 ジャリ、と金属が鈍い音を立てる。
 どこかぼやけた視界を巡らせば、胸と腕の戒めに繋がれた鎖が天井へと伸びていた。錆び付いているけれど、丈夫さだけは衰えていない鎖は、ミズサの体を軽々と持ち上げていた。
 そのまま中腰の上体まで吊り上げられる。上半身の痛みに耐えかねて膝で足を支えれば、背後から伸びた手がその膝を大きく割り開いてきた。さらに、腰を後ろに引っ張られ、上体を支えにわずかに前傾姿勢になる。その分胸に食い込む縄に体重がかかり、ぎりぎりと締め付けられて息苦しさに喘いだ。
「厭らしい体だ」
「あ、あぁっ」
 乳首に走る痛みとそれ以上の快感に、疲れ切ったはずの体が震える。ひくひくと股間で震えるペニスは立ちあがる元気すら無いのに、たらりと粘液が溢れて落ちた。弄られ続けて腫れ上がった亀頭を流れる粘液の、その僅かな刺激すら敏感に感じて、ビクビクと痙攣して。震える肌が縄に擦れて、また感じて。
「い、んぁっ……も……うあ…ぁ」
 一人悶えるミズサの姿に、男達の視線が絡みつく。
「淫魔……」
 聞こえた言葉に首を振る。けれど、そんな否定に賛同してくれる者などこの場にはいない。
 疲れ切って青ざめていた肌が僅かな刺激であっという間に火照って、虚ろな瞳は快感に澱み濡れている。その身体には、熟した木の実のように赤黒く膨れあがった乳首が二つ、それぞれにリング上のピアスが付けられているのだ。揺れる度にぷくりぷくりと玉を作っては糸を引く鈴口にも、亀頭の裏から貫通した太いピアスがある。それら全てに細い縄が結ばれていて、それらは床でとぐろを巻くほどに長かった。、
「ほら、踊らせろ」
 ルクザンがその縄の先を、観客と化している男達に投げ渡す。
「ひっ、あうっ」
 ピンと伸びた縄を握る喜色満面の男達の手がくいくいと小刻みに揺れる。
 その度に柔らかな場所が伸びて縮んだ。
 突っ張る痛みはたいそう酷くて、けれど、ルクザンの指先がピンと突っ張った乳首を弄げば、痛いはずの刺激が甘酸っぱい快感になった。
 涎が流れ落ちて、胸を伝う。それが乳首を伝い縄まで濡らしても、縄は巧みに揺らされて。
 陰嚢の中は空になっているのに、ペニスは浅ましく頭をもたげ、こちらも涎を垂らして鈴口のピアスを淫らに濡らす。
「また尻穴がひくひくと震えてやがる。まだ欲しいらしいぞ、この穴は」
「痛っ」
 尻タブが引き裂かれんばかりに左右に割り開かれて、ぷくりと膨れあがって赤く腫れたアナルに乾いた風が触れた。
 さんざんペニスを喰らったアナルはいまだにひくひくと震え、中から透明な粘液混じりの白濁を垂れ流している。
「てめぇも喉が渇いただろうからなぁ」
 そんなミズサの上の口に、瓶が突き立てられた。
「たっぷり飲みな」
「んっ、ぐっ」
 流れ込む液体は舌を刺激し、それが溢れるより先に喉が動く。流れ込んだのはアルコール度数の強い酒で、喉と腹を焼く代物だ。それこそ、気付け薬としても使われているほどで、注がれるままにたっぷりと飲んだミズサの意識も確かに覚醒させた。
「な、に……」
 現状を再認識して、狼狽える。
 それほどまでに視姦してくる視線は強く、男達は元気だ。剥き出しの胯間でいきり立っているペニスを手で支えて扱く真似をして見せる者もいた。
「も、お……無理……っ」
 視線から逃れようと顔を逸らした途端に、体にルクザンが探るように触れてきた。産毛をまさぐるような微妙な食感に、敏感な肌がゾクゾクと反応を返す。
「あっ、はぁぁ……」
 手が、首筋を、乳首を、脇腹を這う。
 そのどれもがミズサの性感帯であり、触られると堪らなく感じてしまう場所だ。
 ようやく取り戻した理性も、あえなく崩れ落ちていくのを意識して、顰めた顔に涙が流れて落ちていく。
「ははっ、あれだけ噴き上げたのに、また勃起してやがる……」
 どうしてこんなにも淫らな体なのか。
 それが純血の業なのだと言ってしまえばそれだけだけど。性奴隷として生きるためにあるような体は、あまりにも惨めだ。
 ペニスの先から流れる糸を引く粘液が止まらなくなって、込み上げる快感に気付けの酒も役に立たなっていく。
「尻からもチンポからも……口からもだらだらと涎を垂らしまくって、マジ好きもんだな」
 感心すらしている声音はルクザンのものだけど。
「お頭、こいつですかね、例の……」
 声をかけてきた男のの手にあった張り型が視界に入り、まさかと目を瞠った。
「あ、あ、……厭だ……、あ」
 さっきまでの快感は消えて、今度は激しい恐怖に襲われた。快感とは違い、どんなに震えても体の熱は上がらない。それどころか下がる一方だ。
 男が持ってきた物は、性奴隷ならば持っていておかしくない。だからこそ、ミズサも嫌々ながら持って来ざるを得なかった代物だ。
「ああ、それだ。やっぱり持ってきてやがったか」
 それが何なのか、ルクザンの物言いからは良く知っているのが判る。大きな手のひらで、ころころと転がされるそれは、いつもより小さいように見えた。
「こいつが飼い主の手元にあったら、逃げられるもんじゃないからな」
 ニヤリと嗤ったルクザンが、舌を出してぺろりとそれを舐める。途端に、背筋を駆け上がった疼きは、気のせいでしかなかったはずなのに。
「俺たちはちょいっと休憩するけどよ。貪欲なてめぇはちゃんと遊べるようにしといてやるよ」
 頬に触れて、すりすりと撫でつけられる。
 固いようで柔らかな触感のそれは、股間の間で萎え気味のミズサ自身のペニスと同じ形をした、性奴のための張り型だった。



 姓奴の張り型は、性奴隷となった時に額に埋め込まれるチップと共に全ての性奴隷に与えられる代物だ。チップと連動するそれは、張り型に与えられた刺激をその性奴隷のペニスからだと認識させる。そのせいで、逃げようと思ってもその張り型を作動させられて、腰砕けになって捕まる場合が多い。また、飼い主によっては、一定以上張り型から離れると、自動的に疑似快感を与えるようにしている者もいた。
 ラカンの技術は医療技術に特に秀でていて、特に再生医療と脳の解析はかなり先進的な技術を持ち得ていた。
 それは、特殊な細胞を持つ植物の培養に成功したからだ、という噂だが、中央にて秘されているその根幹技術をミズサは知りたかったけれど目にすることは叶わなかった。
 そんな技術の派生でできた性奴隷用の備品は、性奴隷の全てを支配するモノだ。
 だからこそ、ミズサはその張り型を持ち出した。
 逃げる性奴が何よりも持ち出すべきモノだと知らない人間も多いけれど、知っている者がいれば、持たずに逃げ出せたことに不審を持たれる場合もあるからだ。
 だが、それは諸刃の剣だ。
 知られていれば、それを使って今度はそこから逃げ出せなくなるからだ。
 こんなふうに。
「ひっ、ああぁっ!」
 触れられてもいない場所から、妙なる快感が込み上げる。さっきまでの勘違いではない。現実に襲ってくる快感に、固く噛み締めていたはずの唇が開き、悲鳴のような嬌声が溢れた。
「や、やめっ」
 腰が逃れようとそれから跳ね回るけれど、そこには何もないのだから逃れることなどできなくて。
「なるほど、ねぇ……たいした効果だ」
 ルクザンがその張り型に舌を這わせていた。ねっとりと舐め上げ、鈴口に当たるところをつんつんと刺激している。その感覚がミズサのペニスに伝わっていた。
 どうやらルクザンは、張り型の操作方法を熟知しているようで、切り替えスイッチを巧みに操って、快感を倍増させているのだ。
 それに気付いて、ミズサは快感だけでなくごくりと息を飲む。先より倍増した怯えに、ミズサの頬がわなわなと震えた。
「確かにおもしれぇな、これは」
「ひ──ぃっ!」
 広い空間に、ミズサの悲痛な悲鳴が響く。
 さんざん嬲られたアナルは、麻痺が取れれば今度はジクジクと膿んだように痛みを訴え始めていた。そこに張り型が一気に納められたのだ。
 収縮の治りの早いミズサのアナルは、その張り型をきゅうきゅうと締め付ける。
「ぬるぬるのくせして、入りにくい。そんなに締め付けて、ずいぶんと味わっているな、ここは」
「や、やめっ、痛っ!」
 固い爪の先がアナルのシワを伸ばすように突つき、入ってこようとする。その、腫れた場所の敏感な痛みに悶える。
「動くんじゃねぇよ、おっ、この辺りのどこか」
 捕まってしまえば、何をされるか判らない。そんなことは判っていたけれど。それも覚悟して、この山に入ったのだけれど。
「ひ、ああぁぁぁっ!」
 ミズサのたいそう敏感な快楽の源を張り型でごりごりと抉られては、そんな覚悟も吹っ飛んでしまう。
 ミズサのそれとよく似た張り型は、けれど生のペニスとは違う感触をもたらす。
 適度な弾力の皮一枚の下は固い芯があって、ペニスより圧迫感が強い。そんな張り型で、無理矢理前立腺をこね繰り回されて、ミズサは不自由な体で逃れようとした。だが、上半身は吊られて、動くのは下半身ばかり。それも、ルクザンによってしっかり尻を固定されていれば、たいして動けなくて。
「欲しいか、そんなに尻降って強請って、よお」
「あ、あぁぁっ、あひぃぃ──っ」
 腕の力に任せて激しく抜き差しされて、貫かんばかりに先が押しつけられるのは前立腺の場所で。
「やぁぁぁっ!! はぁぁぁっ!!」
 出尽くしたはずのペニスから、たらりと白濁混じりの粘液が垂れ落ちる。
 およそ射精とは呼べぬ排出は、それでもいつまでも止まらない。
「達きっ放しで最高だろうっ。ほらっ、もっと気持ち良くしてやるよっ」
 嬉々とした声音が何をしようとするのか、もう考えられない。
「はっ、あぁぁ──っ!!」
 触られてもいないペニスが、熱い肉に包まれていた。蠢く肉は、ペニス全てを覆い尽くし、摩擦による快感を余すことなく伝えてくる。
 それと同じ、否──それ以上の快感が、アナルにも。
 二カ所同時の、同じリズムの快感は、何度されても慣れるモノではなかった。しかも、張り型が激しく振動しているのだ。
「ぎぁぁぁぁぁっ! ぁぁぁぁぁっ」
 息を吸う間も無い。
 悲鳴にも近い嬌声を上げ続け、与えられる快感を享受するしかない。
 絶えない絶頂に痙攣して硬直すれば張り型を締め付け、それは、妙なる快感をペニスにも教えて。
 もう意識すら飛んでもおかしくないのに、与えられる快感に、それもできないほどなのだ。
「ほらほらほらほらっ」
 ルクザンの鍛え抜かれた腕の筋肉は疲れを知らないほどに動き続ける。
 尽きぬ快感の連鎖は、すでに苦痛に近い。
「あぁぁ、ひぐぁぁっ……あ、あぁ、ぅぅっ」
 声が出なくなっても、全身の力が抜けてただ揺さぶられるだけになっても。
 空色だった瞳が暗く濁り、開いた口から涎がだらだらと零れ落ちるだけになって、ようやく。
「ちょっと休憩だな」
 ルクザンの言葉は、もう届いていなかった。
「そいつ、狂っちまったんじゃあ?」
 さすがに様子のおかしなことに気が付いて、手下の一人が不安そうに問うている。だが、ルクザンはそれを一笑に伏した。
「ラカンの性奴隷には、長く使うためにいろいろと対策がされているんだ。特に狂気に逃げるなんて楽なことはぜってぇに避けるもんの一つでな。だから、こんなことでぶっ飛びやがらねぇ」
「へぇ……相変わらずラカンの技術はすげぇな……、ってことは?」
「もちろん、休憩が済んだら、再開だ」
 その言葉に、歓喜のざわめきが大きくなる。
「お頭ぁ、後でまた使わせてくださいよぉ、さっきのでまた兆してきやがったんで……」
 そう言う鼻息荒い手下達に、ルクザンは躊躇うことなく頷く。
「今度は、この張り型を適当な女の穴に押し込んどいて、こっちはこっちで使うってのはどうだ?」
「そりゃあ、良いっ! だったら、こいつのチンポを……」
 上がる歓声はたいそう多く、しかもルクザンに触発された新たな遊びは、尽きぬ事無く提案され続けたのだった。

【水砂?捕獲編 完】