生け贄2

生け贄2

 水の化身は、蛇の性を持つという。
 贄に捧げられたあの滝の場所から少し離れた洞の中で、彼はその身体に巻き付かれていた。
 普段は人の姿をしているのに、彼を犯すときだけその身体は柔らかく、長くなる。
 全身に絡まる冷たい肌から、ぞわぞわとした何かが、いつもより火照る身体から染みこんで混じり合っていく。
「あっ、あぁっ……やめ……てぇ」
 自由の利かない身体が勝手に仰け反り、開ききった喉から喘ぎと悲鳴が迸った。
 その声は掠れ、その瞳は虚ろだ。
 もうずっと、昨日から愛撫され続けてきた身体は限界だ。何度も嬲られてきた身体は、呆気なく昂ぶるというのに、ずっと激しく追い立てられて下腹部の中では吐き出せないモノで燃えたぎっていた。
 過ぎる快感はひどく辛く、許して欲しいと懇願するけれど。
 没頭し始めたソレは、彼の言葉など聞いてはいない。
 チロチロと長く細い先割れの舌が、乳首を包み込み、揉みしだく。長い指が幾重にも陰茎に絡みつき、指先が鈴口から長く中へと入り込んで、中から前立腺を刺激し続けていた。
「っ、あう────っ! くぅっ、やああぁぁっ、もう、も、許しっぇぇ」
 ずるりずるりと入り込んでは出てくる生殖器は、二つあって。
 一つずつ犯されれば、二人分にも近い長さで犯され続け、二ついっぺんに押し広げられればその激しい圧迫感が凄まじい。
 しかもそれだけでなく、毛羽立つように立った鱗を持つペニスは、ざらざらと肉壁を擦り、出て行くときには肉をこそげていくのだ。そらに前立腺をも圧迫して、一度の抽挿でも堪えきれないほどのに快感を生む。さらに、ペニスは二つとも簡単に射精しないから、いつまでもいつまでも体内から抜けることはない。
 ぐちゃ、ぬちゃ、と粘着質な音が洞の中に響き、全身から流れた様々な体液が地面を汚していた。
 何度も何度も犯された身体は、もう簡単に快感を覚え、どろどろに溶けたようになって力が入らない。その身体を好きなように弄ばれても、逆らう術など無かった。
 ただ、とろける頭の中で、霞む視界の中で、彼は苦しげに呻き、快感に身悶える。
 馴染んだ肌は互いに一体になってしまったようで、手のひらで触れたそれは、もうどちらのものか判らない。
「も、おねがっ……あぁぁ」
 水の化身の力と、彼が持っているという火の力は相反するもので、力を奪われれば燃え上がる火は熾火となり、化身の暴れる水は凪いていく。
 その過程は、身体の奥底で強制的に燃えたぎらせられたモノが引きずり出されていくようなものだ。それは、膨大な量を一気に噴き出す射精にも似ていて、彼を狂わせるのだ。
 そうやって引きずり出された火の力は水の化身に喰らわれ、そして水の力を鎮めていくのだが、水の化身は神にも近い強大さを持っていて、少々の力では鎮められない。
 人である彼に宿る力程度では、簡単には鎮められないほどの力。
 それ故に、化身は徹底的に彼を性的に昂ぶらせ、その身体の中で燃えたぎらせて溜め込ませてから、喰らうのだ。
 一日から二日。
 化身にとっては戯れに始まったその行為は、その欲望のままに激しくなり、止まらない。
「もっ、もう──っ」
 人の身体である彼にとって、性的な刺激に溜まるのは、熱だけでない。その陰嚢にたっぷりと詰まった精液が出口を求めて脳に射精衝動を与えているというのに。
 先端から入った細い指は尿道を隙間無く埋め尽くし、陰茎に絡まる他の指が動きを固定して、いつまでも射精させてくれなかった。
 ソレが望むものを得るまでは、決して終わらない。
「ひっ、ぎ──っ、いぃぃ」
 どろどろに蕩けた尻穴がの中に、もう一本の陰茎が潜り込もうとしていた。
 蛇は再生を司る力を持つという。ソレもその力を持っていて、行為が終われば傷ついた身体は治される。
 だが、処女のごとき状態にまで戻されれば、毎度毎度開かれる痛みに襲れて慣れることはなかった。
 ずり、ずりっと、抜いては入り、また抜かれて。
 少しずつ二本の陰茎に拓かれていく身体は、しっかりと固定されて逃げることなどできない。
 びくびくと痙攣し、涙と悲鳴を振りまいて、けれど、尿道の奥から性感帯を直接刺激されて、身体は火照り、絶え間ない射精衝動に、嬌声が迸る。
 ぼやけた視界の端に入る外の明かりがまた薄暗くなったことにも気付かずに。
 絶え間ない快感と痛みに翻弄され続けながら、入りきった二本のペニスに犯された。
 化身にとって、夜こそがその生活の場。まして満月ともなれば、その力は満ちあふれ、余興を愉しむ時間としては最高だ。
 ずるりと這いだした洞から、月明かりの下で腰を揺らめかし、腕の中の憐れな贄を貪り、愉しんでいた。
 先ほど喰ろうた火の力は、二日煮詰めた甲斐があったかたいそう甘美な味わいで、暴れる力を凪ぎさせた。おかげで、力を現に映す湖が月明かりに美しく煌めいて静かなたたずまいを見せていた。
 その傍らで、贄を嬲るのは単なる余興だ。
「も……無理……、ゆるし、て」
 人の姿であぐらをかいて、向き合うようにのせた贄は、掠れた声で懇願しながら力無く胸にもたれていた。疲れ切っているのだろうが、その目元や発散した残り火で火照った肌は、彼が未だ発情したままだということを、化身に伝えていた。
 実際、貫いたままの二本のペニスに伝える得も言われぬ刺激は、彼が欲しているからだ。
「何を言っておる。離さないのはお前のその淫らな性器よ」
「や、ぁぁっ、ちが……やだぁ」
 嫌々と子供のように首を振るが、その声に宿る響きはひどく甘い。 
 揺れた拍子に、貪欲な肉壁がまだだとばかりに化身のペニスを包み込んで中へ中へと誘い込み、勃起しきったままのペニスの、たらりと涎のように粘液を零す鈴口は、ひくひくと震えて刺激を欲していた。
「嘘をつくでない」
 贄は人の子ではあったが、度重なる化身との交わりで、その淫らな身体をより成長させていた。
「淫乱なそなたの身体はまだ欲しいと欲しておる」
 理性が戻った化身の言葉は優しい。けれど、その縦長の瞳に浮かぶのは、欲情に満ちたそれだ。
 鎮めるのと余興は、それは全く別物で。
 ペニスへの血流が倍増し、それは一回りは大きくなる。
「い、やぁぁぁっ!」
 圧迫感の増したそれから逃れようと暴れる身体を押し倒し、のしかかって、ずるりと引き出したペニスを打ち込んで。
「ひっ、いぃぃぃ────っ、やだっ、また、またあっ」
「淫乱」
 ぬかるむ湖のほとりに快感に咽び泣く顔を押しつけ、尻を高く掲げさせて性器でしかない尻穴を穿つ。
 力を鎮めるときには理性などないから高めるだけ高めてから貪るだけだが、余興は理性があるからいろいろな楽しみができるから。
「も……、やだ…ぁ……ぁあっ」
 貫かれた拍子に噴き出された精液が、ぼたぼたと波打ち際の黒い地面に白い染みをつくり、湖へと混ざり合う。
 ぼおっとそれが明るく輝くのは、水の力に入り込んだ火の力が放つ明かりであると、知っているものは少ない。
 それを知る化身はニヤリと嗤うと、贄の耳元で囁いた。
「我の滝の湖に力を注ぐ時、その力が弾け飛ぶときに願いが叶う。願ってみよ、願いが強く大きいほどに、それは叶う」
「えっ、あっはぁぁ」
 理解できないとばかりの反応は、けれど、突き上げられる快感に掻き消されていく。
 その聞いていない耳に、力ある言葉で誘いかける。
「この淫らな身体にふさわしく、鬼になれ。我のために人の短い一生を捨て、水の力を得て生きる鬼になれ、その身に火の力を纏ったままな」
 そうすれば、この素晴らしい身体は、一生使い続けることができるだろう。そして、決して離れられぬのだ。水の力を与えられるモノなど、このあたりではこの化身だけなのだから。
 寿命など、この湖に向けられる人の信仰心さえあれば、そして、この湖の地下にある神の力の源があれば、決して涸れ果てることなどないその化身の、その一生を共に生きるために。
「ひあぁっ」
 繰り返される淫行に、すでに理性など無い虚ろな彼の耳に、繰り替えす。
 ボタボタと精液を湖に零しながら悶える身体を蛇となった身体で包み込み、快感を与え続けながら。
「鬼となり、我にその力と身体を捧げよ」
 ぽわ、ぽわっと明るく輝く湖の中のそれが集まっていく。
 涙と体液と泥で汚れた身体を月明かりに晒しながら身悶える贄の姿を照らすほどに輝く、それが明滅する。
「鬼に」
「お、に……」
 繰り返されて、つられるように言葉が出てくる様子に、化身はほくそ笑んだ。
「淫欲の鬼に、」
「い、んよく、おに?」
「そうだ、淫欲の鬼になりたい」
「なりたい……鬼に」
「そうだ、繰り返せ」
 虚ろな瞳で、繰り返させられた言葉は、静かな月明かりの中に響く。
「淫欲の、おに……になりた……」
 その瞬間、轟音と共に湖の中心で水が吹き上がり。
 その水滴が彼の身体に降り注いだ。
 
 その村には、一つの言い伝えがあった。
 澄み渡る夜空に響き渡る風の音はねぇ、神の声なんだよ。
 月明かりよりも明るく輝く湖は、神がその力を出している証。
 神が住まう奥山の御神殿には、決して足を踏み入れてはいけないよ。近づいてしまったら、できるだけ早く離れなさい。
 神が時折遊んでいらっしゃるらしくてね、すぐに気付かれてしまってね。
 そうしたら、神の怒りを買ってしまうよ。
 そうなれば毎夜の声が聞こえなくなってしまって、そうしたら、ここいら一体は水の底に沈んでしまうのだ。
 けれど、ちゃんと決まりを守っていれば。
 そうして、我々が神に、この地の安寧を願えば、それは神の永遠なる力の助けになり、そして守って貰える。
 だから、神に願うときには、ロウソクに炎を灯し、その火の力を借りて、それだけを願いなさい。
「神様、いつまでもいつまでもこの地を守ってください。その力を保ってください」
 そうすれば、この地はいつまでも神に守られるから。


【了】