日々の記憶が薄く、今の感情は平たんだった。
怒りを覚え、憎しみが沸いたこともあるが、今はもうどうでもいい。
始めて俺を豹の姿で犯したダーバリアは、それがたいそう気に入ったのか高い頻度で豹のままに俺を犯す。
そういうのが好きな夫婦がいないとは言わないが、人型の俺にとってダーバリアの野郎のアレははっきり言って凶器だ。
そんなもので散々に犯され続けられたら、気力なんてものはすぐにどっかにいってしまった。
迫る黒い塊と常に続く熱い疼き、込み上げる快感に狂う自分自身の声だけがいつまでも記憶に残っている。
今は甘酸っぱいような刺激が、疲労感に麻痺したはずの身体を走っていた。
身体の大半に痛みが走りほんの少しも身じろぐことができない。そのまま深く深く眠っていたいほどに怠く、それすらも辛かった。
なのにピチャピチャと小さく響くその音と、舐められているという感覚に目が覚める。
「い、いい加減……にしろ……」
無意識のうちに呟き、言葉が出たことに違和感を覚えながらぼんやりと音のする方向を見ると、黒豹の頭が俺の立てた足の間でうごめいていた。前脚が俺の尻の下にあるのか、柔らかなふわふわとした感覚がある。その分上に上がった尻の狭間に感じるその熱く湿ったその感覚は覚えがあるものだ。
また俺の体液か何かを舐めているのだろう。
こいつはこの変態行為が大好きだ。
じんじんとした疼くような痛みが走るそこ。
俺よりざらついた舌で舐められるといつもなら痛痒いような嫌な感覚があるのだが、それすらも麻痺したように感じない。
獣体で責められるといつもこうだ。
人の姿ではあり得ない寸法のそれは、俺の身体を壊してしまう。
ああ、壊れているはずだ。
だって、動かない。
「も……嫌……だよ……」
ぽつりと呟く俺の言葉なんて、誰も聞きやしない。
普段なら触られたくもないからそこでも暴れているのだが、今は全身のあちこちが痛くて怠くて、口を動かすのもおっくうだった。
諦めてやりたいようにさせて、視線だけを明るい日差しが差す空を窓越しに見上げる。
明るさが増しているのは、季節が移っているからか。
俺の雑貨を扱う小さな店はどうなったのだろうか。
近所の人たちと陽気に交わしていた挨拶が懐かしい。
懐かしすぎて……また、逢いたくて。
そんなことを考えていると、ぐずっと鼻を鳴らしてしまった。
それに気が付いたのか黒い頭がむくりと起き上がる。その顔は赤く染まっていて、べろりとそれを舐め取っていた。
ああ、舐めていたのは俺の血かよ、まじで変態だよな、ダーバリア。人の血をすする化け物かよ。
なんて毒づく力さえ今はない。
ぼんやりと眺めていると、むくりと起き上がった逞しい肢体が目に入る。こうして陽の下で見ると、輝くような漆黒の毛と引き絞った体格はすごくかっこいい。
黒とはこんなにもきれいなのか……。
黒の稀少獣種――黒豹の均整の取れた身体は、神が与えたほどに美しい。
まじでこの変態性格すらなければ、賞賛に値する生物だとは思う。
そんな獣が一歩俺の方へと進むと、ふわりと爽やかで甘い匂いが辺りに漂った。
その香りに俺は自然にまぶたを閉じていた。
こんな変態野郎でもこれだけは褒めてやってもいい。
雌を誘うフェロモンの匂いだが、こいつのそれは香水のように芳しい。しかも吸うだけで、俺の動きそうにもなかった身体にじわりと活力が沸き起こる。
それでちょっと弛緩してしまったのだろう。
ダーバリアが仕留めた獲物を転がすように前脚で俺をひっくり返した。
「んぐ……」
柔らかいはずの寝具だが、もろに鼻を打つと結構響く。涙が浮かぶほどの痛みに呻いて、さすがに文句の一つも言いたいと思ったその瞬間。
「んあっ」
うなじに走った甘い痺れと同時にピリピリと鋭く走った痛みに、変な声が漏れる。
首輪のすぐ上、犯されている最中に思いっきり噛まれたところだ。皮膚を牙が貫く感覚があるほどきつい噛みつきに、確かそこも血が流れたはずで。
「……へんたい……」
言って驚いた。
今までそんな言葉すら言えなかったのに、少し制約が変わったのだろうか。
けれど、無意識のうちに続けようとした言葉は、喉の奥に消えていった。
なぜか出すことができなかった。
だいたい自分が何を言いたかったのか、よく判らない。
判らないけど、ああ、もう疲れた。
だからもういい。
「……ばーか」
小さく呟いたそれは聞こえたのかどうか。一瞬動きが止まった舌が、何事もなかったように動き出す。
ペロペロと舐めている間、俺の上にまたがっているのか、背中にふさふさとした毛並みを感じるようになっていた。感覚なんてどっかにいっていたはずなのに、動かれるたびにそれが背中をふわふわと擦ってこそばゆい。
それに、近付いたせいか、あの爽やかな匂いも強くなって、なぜか安堵してしまう。
知らず俺の尾がダーバリアの腹を叩いていた。
ふさっふさっと衝撃を与えないのは、力がもう入らないせい。
緩い反復運動だけの動きに、ぐるっと豹の喉が鳴っていた。
怒るのか、また呪が重なるのか。
ぼんやりと頭の片隅では考えるのに、俺の尾は止まらない。
まるで怒られるのを誘っているようだとすら考える。
疲労困憊になってしまうほどに犯された直後だというのに、俺の身体も相当に変態化しているんだろうか。
そんなことを考えてしまった自分がなんだか悔しくて、悲しくて。
いつもなら絶対に見せてやらないと頑張る涙がもろくも溢れ出してしまった。
グスグズと鼻をすする音も大きくなり、もう俺のなけなしの矜持などどうでも良くなっていく。
まじで性具とか奴隷にふさわしい精神までをも支配する呪をかけて欲しいと願う。
そうすればこんなこと呪いのせいで仕方がないんだって思えるのに。
このアホ王子、バカ、ボケ、変態ダーバリア。
かっこいいのに、変態野郎。
頭の中だけでの罵詈雑言は尽きることなく、それでも涙はボロボロと溢れて泣いていると、ダーバリアが俺の頬に舌を伸ばしてきた。
俺の涙が甘くてうまいと言い切る変態らしい行動だ。
背中にずしりとした重みがかかるが、さすがに俺がつぶれない程度には加減をしてるらしい。そこまで屈んで、ピチャピチャと俺の全ての体液を、もったいないとばかりに舐め取っている。
そのせいで背中にダーバリアの体温を感じた。
なめらかな革のように見える漆黒の艶やかな短毛に覆われた背側と違い、腹は少しふわふわとしている。その毛並みが気持ち良くて、俺は吐息を零して不自然に力が入っていた力を抜いた。
ぴしゃんぴしゃんと足を打っているのは、あの尻尾だろう。まるで遊んでいるように右に左にと叩くそれは痛くはないが、なんだかくすぐったいような変な感じだ。俺も尾で叩いてやる。さっきよりちょっと勢いをつけてぴしゃんぴしゃんと。
気が付けば、全身の重苦しい痛みは消えており、疲れも癒えていた。
毎日犯され続けて結構体力がついたのだろうか。それとも、遊びやすいように潤沢な魔力でもって治しているのだろうか。
なんとなく後者のようなん気がしたのは、舐められると少し体調が良くなっているように感じたからだ。
自分の魔力あれば、ダーバリアがどんな魔力を流しているのかぐらい判るだろうに。
変態らしく、赤黒いおどろおどろしいんだろうかなんて思ったけど、でもなんとなく頭に浮かんだのはふわふわの甘い綿菓子だった。
ああきっと、あの柔らかな腹の毛が触れているせいか。
ふわふわとした感触に包まれいるようだから。
って、俺は一体どうしたんだろう?
ふっと、端から見た俺は一体どんなふうに見えるのかと思ったけど、そんなことは考えるだけでも恐ろしい。
獣姿のダーバリアに犯されて、平気でいられる力なんて欲しくもなんともなかったし、ダーバリアのふわふわと毛並みと匂いに癒やされたなんて思いたくもない。
だが身体が楽になったことは幸いに違いないし、この匂いには睡眠導入の作用でもあるのか、なんだか眠くなってきた。
とくんとくんと毛皮越しに鼓動が届く。
規則正しいそれに、意識が掠れていく。
「……愛おしい……これが、愛おしい……か」
なんだか遠くで声が聞こえる。
あの不遜な元王子、なぜだか躊躇ったような声音。
何が起きたか判らないが、どうやらダーバリアは戸惑っているらしい。
いい気味だ、なんでも自分の思い通りになると思っているのは大間違いだ。
「……、愛おしいぞ、確かに、愛おしく、離しがたい。このように……」
訳の判らぬ呟きを、俺は内心笑い飛ばしながら聞いていた。
だって、あり得ないだろ、それ。
夢うつつの中で聞いていた……。
※
「んあ——っ、あ、ひんっ、やあっそきょ、だめぇぇっは、げしっ、ひああぁっ!」
来る日も来る日も、部屋の中では俺の浅ましい嬌声が響いていた。
今日は人の姿でのしかかるダーバリアが、楽しげに嗤う。
「そんなにも私のものが欲しいか、ぎゅうぎゅうと締め付けてくるぞ」
「ちがっ、ああっ、まっ、待てっ、ああっ」
俺の嬌声に鎖の音が響く。
いつものように、いつもと変わらぬ日々。
ときに呪が増え、ときに減り。人の姿かと思えば獣になり、変態野郎は俺を蹂躙する。
「お前の身体が子を孕めるようにしたぞ」
その中でも最たる呪がそれだった。
変態はとうとうとんでもないことをしてくれて、俺に母体となれる要素を仕込んだのだ。
確かに男同士を選んだ二人のために、どちらかが子をなせるようにする魔法は存在する。役所が認めた二人に施す特別な許可が必要な魔法は、普通ならば魔術師数人が行う施術だ。
ただ男同士故か、たとえ身体は変えられてもそこには互いのどちらもが子が欲しいという強い願いが必要だ。変えられた身体の中に二人の願いの力を核が宿り、子を作り、育む。
少なくともその前段階の一番難しい身体の変化を簡単にやってのけたダーバリアは、嘘だろ……と俺が呆然とするほどに凄いのだが。
いや、それより前に、なんでそんことを勝手にする?
「な、んで勝手に変えるんだよっ、俺の意思は無視かよ……」
涙目で睨んでも迫力なんかない。
それよりもなんで俺が子を孕まないといけないのだ?
見た目が男のままなのが救いだが、それも些細なことでしかない。
俺は男で満足していたのに。
あまりのことに号泣する俺に、ダーバリアがのたまう。
「私の子を孕むというならば、ここからしばらく解放してやってもいいぞ」
解放という、俺にとって喉から手が出るほどの願いを、最低最悪の条件で引き換えにした。
「おまえが俺の子を孕んでいる間だけ、おまえを手放しても良い」
「なんだよ、そんな……なんで、なんで……」
一体何が楽しいんだ?
手放すってどういうことだよ。
すでに飽和状態の俺には、もうダーバリアが一体何をしたいのかが判らない。
「どうだ?」
問われて、俺は……。
「い、嫌だっ、嫌だっ」
なけなしの理性で拒絶する。
俺が子どもを産むということも嫌だ。
どうせ手放すったって、孕んでいる間なんか、何にもできやしない。
逃げるのだって限界がある。
男の身体で孕んだまま放置されて、一人で生きていくのは難しい。
それがここから少しでも離れる手段だとしても俺は受け入れられない。
「な、なんで、なんで俺が、てめぇなんかの子を孕まなきゃなんねえんだっ、くそ変態がっ」
孕まされるぐらいなら、ここにいるほうがいいっ。
「そうか、それは残念だ」
そんなことを言いながら、嗤っていた。
楽しそうに嗤い、そして獣化した。
「んあああっ、やあっ、ぎあぁぁっ」
巨大なそれで一気に貫かれた。
何度もされて慣れたとはいえ、それでもいきなりはたいそうきつく。
白目をむいて仰け反り絶叫する俺にのしかかり、うなじに牙を当てながら、ダーバリアはのたまった。
「孕みたいと思わせてやればいいだけだ。そうだな、私は五人の子が欲しい。五人の子を産むほどにたっぷりと私の子種を注いでやろう」
「え、あっ、あっ、ひぎっ、ぎぃぃぃーっ!!」
何度されても慣れない、食らうかのようにうなじに牙を突き立てられ、恐怖の絶叫が迸る。
毎度体液を舐めながら治癒を施しているらしく傷の治りは早い。でないと毎晩相手をするなんてできるはずもなかった。
しかもくそったれなことに、ダーバリアと俺の魔力の相性が良いのか、ものすごくなじみが良いのだ。それこそ気が付けば治ってるという感じで拒絶する間もない。
どうせこうやってまた牙を穿たれるなら、治さなくていいって思うのに。
いっそ衰弱死させてくれればいいのに。
「うまい……もっとくれ」
「い、いやぁ……ああっ」
「……ああ、もっと泣け、喚け、これほど私を歓喜させるおまえの存在に、私の力はますます高まるぞ」
激しい抽挿による痛みと衝撃、それでも迸る快感に朦朧とした俺には、ダーバリアの言葉は単なる響きにしかならなくて。
ただ、叫ぶ。
「もっ、あああっ、く、くるっ……、ひ、ぃぃ、ああぁぁ——っ!」
「子を孕みたくなるまで、尻に何かを入れていないと歩くこともままならないほどに疼く身体にしてやろう。私の力を持ってしての最高の呪術は私以外誰をも解けぬ。その力を、おまえは際限なく私にくれる。おまえに際限なくかけてやれる。ああ、番だからこそおまえは私の力をこんなにもなめらかに受け入れる。これこそが真なる番の真髄、最高だっ」
「ちがっ、真なる番はこんな、ああぁっ!」
「真なる番だ。これほどまでに相性がよい。何より、私には判るのだから」
「い、いあ——っ! ふかぁぁ、おっきっ、弾けるっっ、ああっ!!」
「喚け、狂え、快楽の果てに、私に力を与えろっ」
興奮したダーバリアの言葉がわんわんと響く。
言葉が文字となり、力となって俺に染みこんでいく。
それが、俺の中の魔力と絡み合い、俺をがんじがらめに絡めていった。
それが何なのか、ダーバリアが何を望んでいるのか、巨大な性器で穿たれ、揺すられる俺が知るよしもなくて。
「ひっ、またっ、またっ……ぁぁぁっ!」
際限なく襲ってくる絶頂に、俺はただ叫び続けるだけだった。
ダーバリアは一体俺に何をさせたいのか。
子を孕ませたいだけなんだろうか。
課せられた呪のせいで、日々疼く身体は俺の気力を奪っていく。
すでに散々犯され使われていたせいで限界だったのに、やつの呪はさらに俺を疲弊させていく。
疼く身体を持て余す俺を放置して出かけて何日も帰ってこなくなって、俺はいつ帰るか判らぬやつを待ち続けていた。
ようやく帰ってきても、俺を無視する。
好色な目で俺を眺めて舌舐めずりして、股間をはっきりと勃起させているのに、俺に近付かない。
あんなにも芳しい匂いで俺を誘っているのに、来てくれない。
だけど俺から近付くということは、子を孕むことに同意したことになる。
互いが強く欲しいと願う必要がある同性同士の子作りは、異性同士のそれよりはるかに確率が低い。幾ら身体を変えても、核が作れなければ子は生まれないからだ。
だからきっと、俺が欲しいと言うだけでは、子はできない。
そんなことはダーバリアだって判っているだろうに。
「子を産む決心はついたか?」
「……んくっ……」
やつの声にすら欲情する身体を持て余しながら、首を横に振る。その動きにすら甘い疼きが込み上げて、俺は奥歯を噛みしめながらやつを見つめた。
「……なぜ……」
「なんだ?」
「なぜ子が欲しいんだ?」
食い縛る歯の隙間から唸るように問いかけた俺への返答に、ダーバリアは不思議そうに首を傾げた。
「子はたくさんいると楽しいだろう?」
「だったら、なんで俺が産まなきゃいけないっ……」
「ほかに誰が産むと言うのだ?」
誰とは言えなかった。
こいつが俺以外誰かを相手にしているのし知らなかったからだ。
結婚していないらしいというのは知っていたし、俺のことを番というのだったら、それ以外は目に入らなくなるのが獣人の習性だ。
だが、あれだけ性具とか奴隷とか蔑んでいたくせに。
こいつにとっての番は便利な性欲処理相手だろうに。
俯く俺に、ダーバリアが続ける。
「おまえが子を産むなら、楽しいだろう」
「な、にが……楽しいって……」
「おまえならたくさん産ませられるだろう」
「な、んで……俺が……」
「母は私以外子を産まなくて、おもしろくなかった。五人もいれば楽しめたのに」
「五人……楽しめるって……」
一体どういうことか判らなかった。でも、おもしろくないってなんなんだよ。
楽しめるって、何をするつもりなんだよ、俺が産んだ子に。
どういうことなのかさっぱり判らないけど、なんだか嫌な予感がした。
産まないほうがいいって、そんな気がした。
それにあいつの匂いが俺の性欲を助長して、身体の疼きが激しくなる。
思わず蹲る俺に、やつの悪魔の囁きが聞こえてきた。
「私の子を孕めば、常に身体が疼く呪は解除してやるぞ」
「ん、んんんっ!」
うなじに触れた舌の熱さに身震いした。
イけないのに、射精衝動は止まらずに腰が揺れる。
「あ、はっ、ぐっ……」
「私の子を孕め」
耳から脳に届く悪魔の言葉に、俺は首を振る。熱くなる身体を持て余しながら、朦朧とする頭で、それでも首を横に振って拒絶していた。
三カ月は我慢した。
それが限界だった。
ダーバリアの魔力はその言葉を呪として俺を変えていく。
やつの言葉は絶対で、俺の身体は決してそれに逆らえない。
やつの言葉どおり、俺は尻に何も入れていない間、この身体を襲う快感と疼きに苛まれた。
起きている間、ずっとダーバリアのアレが欲しかった。
入れてと強請るほどに、俺はあいつを欲したのだ。
なのにやつは俺を拒絶する。やつの気が向いたときだけ与えられるおやつのような施し。
中途半端に煽られて、くすぶる欲情はさらに澱み、腹の中で巣くい続けた。
食べているときも挿入を欲した。
食べているものがダーバリアのアレにしか思えなかった。
朦朧とする中で俺はやつに屈した。
「た、のむ……、子を産みたいっ、おまえ、の、子を……俺に子種を……仕込んでくれっ、頼む、……頼むダーバ……」
犯してくれと喚きながら、子を産むことを望んだ。
俺の浅ましい欲望の果てにだけ望んだ子を、俺は腹の中で育てられるのか。
そんなことを頭の片隅で考えたときには、もう遅かった。
「良かろう、私もおまえとの子が欲しい」
子どもを孕みたいと強く願いながらダーバリアを求め、それにやつが応えた形で、呪は完成した。
世の同性同士の恋人がどう願うのかは知らない。
だが俺は、あいつに背後から犯されながら、何度も何度もそう口にしたのだ。
うなじに噛みつかれ、牙が食い込む刺激に乾いた絶頂を味わい、穿たれる熱い刺激に悶え狂った。
「ああ、欲しい……、子ども、……ダーバとの子……欲しい……」
白く染まる快感の中で、俺はそんなことを何度も言っていたらしい。記憶の薄い状況で、ダーバリアの精をたっぷりと注がれながら、与えられた快感に俺は泣いた。
ダーバリアの子を孕むのなら、こんなんじゃなくて。
「……愛おしい……愛おしい……、……子を……孕め」
ダーバリアが何かを言っていたが、俺にはもう何も聞こえなかった。
「私の……番」
嬉々としたダーバリアの言葉の後、狂うほどの快感の中で俺は子を孕んでいた。