【諦観した先の未来-2】詳細Ver

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 あれから、たぶん一カ月ぐらい経ったんだろうか。
 俺がダーバリアのもとに連れてこられてから、時間がどのぐらい過ぎているのかもよく判らない。
 ただ判るのはやつは一向に俺に飽きる気配がないということだ。
 日をおかず犯され続けた身体は、信じられないことに早くにやつのものに慣れてしまい、犯される快感を絶望とともに味わっている。
 どんなに嫌だと思っても、やつの性器が俺を貫けば痛み以上に理性が弾け飛ぶような快感に襲われる。
 尾の根元の飾りも日増しに強い刺激を与えてきているというのは気のせいではないだろう。高貴な貴族ぐらいしか持たない金でできた飾りは、俺なんかにふさわしいとも思えない。
 なのにやつは、似合うといやらしく嗤い、爪弾くのだ。その振動が俺を狂わせると知ってなお激しく。
 慣れ、というものはどこにもなく、俺の知らない何かを見つけては突きつけて遊ばれる。男の胸にある乳首なんか飾りだと思っていたが、それすらもあいつの手にかかれば玩具となり、重い金の飾りが付けられた。
 飾り立てられ弄られ続けたそれは、赤く熟した木の実のようで、触れられるだけで奥がずくずくと疼く。最近ではその疼きが身体の中まで重く響く。
 だがそれも、ダーバリアが俺に施したさまざまな呪のせいだ、と思っている。
 いや、そうに違いなかった。優れた魔術師であるダーバリアは、息をするようにたやすく呪を施してきた。今もその呪の一つが発動してしまい、身体がやつをたまらなく欲していた。
 とにかくやつを欲しくて身体が疼くのだ。
「ん、あっ……く、そっ……あつっ、い……ああっ」
 尻が濡れてひくついている。
 涎を垂らして淫らな顔を晒し、思考までもが赤く染まっていく。脳裏に浮かぶのはやつのバカでかいアレだけ。思い浮かべるだけで口内いっぱいに涎が沸き起こり、欲しくて欲しくて身体が熱く身悶える。
 知らず耳がやつがどこかにいないか探って動く。
 音と匂い。
 やつの動く音も、あの匂いも考えるより先に気付いてしまう自分が憎い。
 あんなやつの言いなりには決してなりたくなくて、荒い呼吸で身体を冷まし、なんとか意識を保とうとはしていたのだが。
 それでも。
 どんなに頑張っても長くはもたないことは、繰り返された行為の果てに理解してしまっていた。
 ダーバリアが施す呪の効果は凄まじいの一言で、簡単には解呪されないうえに、このような性的興奮を煽るものに俺が逆らえた試しはない。
 全身至るところに棲み着いた快楽の虫が騒ぎ立てて、ダーバリアの子種をもらえと喚いている。それほどまでに体内から沸き起こる衝動は激しく、堪えきれないままに寝具の上でもんどりをうつ。
 全身の肌がじんじんと疼き、下腹の奥深くが茹だり、堪えきれない熱がそこから広がっていた。
 最初はほんの小さな熾火だったそれは、爆発的に広がり身体全体を蝕んで視界すら赤く染まってしまうのだ。
 それは飢えと同じだ。
 生きるために身体が欲するように、このままで狂って死んでしまうと思うほどに激しい。
 決して意志が弱いとは思っていなかったが、自分がここまで快感に弱いとは思っていなかった。
 涙を流し、堪えきれないままに頭を振り、汗にまみれた髪がパサパサと柔らかな寝具を打った。うっすらと開けた視界に入るその髪の色は白に近い。灰色の髪が若白髪でさらに薄くなっている。この色は、灰色狼種にしてもかなり薄い。
 髪は魔力をためるから、その色が濃いほどに強い魔力が備わっていると言われているが俺の魔力は強いほうだ。灰色狼種という種自体が割合に強い魔力を持つのだが、それでも黒の色を持つダーバリアのそれは無尽蔵で、到底敵うものではなかった。
 黒に抗おうことができるのは、特殊な魔力を有する白の稀少獣種だけだ。
 白と黒は対で、黒をなだめるのが白で、白の力が黒を強めると言われている。
 詳しいことは伝わっていないし、どうしてかっていうことも判らない。だが総じて昔から黒と白の対は吉祥だと伝わっているのだ。
 故にこの二色が揃う国は、過去例を見ないほどにが栄えるという伝説すらあった。
 でも俺は灰色で、しかも早々に魔力封じの呪を課せられて、今は何の魔力も使えない俺はあまりにも無力だ。
 ハアハアと荒い吐息を零しながら何度も唾を飲み込み息を整えて、暴れる情欲を落ち着かせようとはしているが、焼け石に水という喩えがこんなにも似合う状況はないだろう。
 吐き出す息までも熱すぎて焼ける喉を掻き毟ろうとした指先に、金属の枷が当たる。無骨なそれは丈夫な鋼鉄でできていて、これこそが俺に永続的に呪を施す。奴隷の血と主人の血に浸され、呪文が魔力によって刻まれた媒体。
 これがある限り、俺は魔力を使うどころか自死する手段すら選べない。さらにダーバリアの呪がかかりやすくなってしまう。
 こんなものがなくても、言葉一つで呪を追加できるやつの力がさらにだ。
 そういって一つずつ、ダーバリアは俺に呪を重ねていった。
 それらはダーバリアの性格と同じくものすごく質が悪い。そのくせダーバリアは俺の心、服従心や反抗心までは弄らない。
 だから俺はいつだって必死になって逆らって、俺を犯そうとするダーバリアから逃げようとしているが、そうしようと思うころには必ずこの身体を浅ましい快楽が襲い、男が欲しくて仕方がなくなってしまっていた。
 一度発動した呪を鎮めるためには、ダーバリアの精液をたっぷりと注いでもらうしかなくて、しかも重なった呪を鎮めるには一回の射精では到底足りず、量の多いダーバリアのですら三回は注いでもらわないと完全には解消されないようになっていた。
 しかもこの呪は、もし注がれた精液の量が少なければ、静まったとしても熾火のようにいつまでも残り、次の呪の時間にはもっと激しい衝動が沸き起こるという――悪魔ですら思い付かないような代物だった。
 誰がこんなくそ野郎にこんな力を持たせたんだろう。
 呪が発動するたびに、まだ理性があるころの俺が考えるのはそればかりだ。
 ある意味、虎に翼、鬼に金棒、変態に呪術、絶対に組み合わせちゃいけないものだろうが。
 そんな強いのに逆らえないのは判っているが、だけど理性がある間はどうしてもそれを自ら受け入れることはできない。できないけれど、この呪に関して俺ができることは込み上げる熱と性衝動に理性が吹き飛んでしまうまで苦しむしかないのだ。
 今も。
「んあ……や、だ……ぁ……」
 身体が熱くてたまらない。身体が内側からどろどろに溶けていくのに、実際には溶けているわけでなく延々とその狂おしい熱に翻弄されるばかりだ。
 膨れ上がった欲を解放したくて腰が揺れる。
 手が、必死で我慢していたそこに伸びる。
 信じられないほどに熱くて太くて硬くなった俺のもの。
 しとどに濡れて滑るそれを握りしめたらもう止まらなかった。
「あ、うっ、うぅっ、あっ」
 震える手で触れるだけでイってしまいそうに感じるそれを、両手で激しく扱いた。
 今すぐにでもイきたい。射精したい。
 重くなり鈍く痛むような玉から、全てを絞り出したい。
 だが首輪に施された呪がさらに俺を苦しめる。
 その呪により、俺は犯されながら許可を得ないと自ら放出することもできなかった。
 二重三重の呪が俺を苦しめ、貶めていく。
 朦朧として崩壊しそうな理性の中で、俺はたった一つだけの絶望的な願いを繰り返していた。薄れていく意識の中でもいつだって、そうせざるを得なかった。
 じゃないと淫欲の中に沈み込みそうだったから。
 だから願う。
 俺にこの呪を打破する力があったならば、俺にもっと強いの力があったならば、俺は……ダーバリアに……。


 扉を開く音がしたとき、ぴくりと身体が震えた。
 全身が汗で濡れ、股間は透明で滑る体液で濡れそぼっている。
 それをしっかりと両手で包んだまま、顔を上げた。
 見えるのは黒い人。
 黒い耳と黒い尾が俺を誘う。
「お、おね……がい……しま……す」
 人としての理性を必死でつなぎ止めていた俺の精神が、本能に支配された瞬間だった。
 かくかくと揺れる腰をもう止めることはできなくて、仰向けになり、いきり立った陰茎を自ら揺らし扱きながら、ようやく現れたダーバリアに向かって大きく股を開いた。こうすれば、その視界に俺の双丘の狭間にあるアナルが、パクパクとあえいでいるのが判るだろう。
 愚かな姿勢をしているとは思っている。
 だが、もう我慢も限界だった。
 頭の芯まで痺れたようになって、罵る言葉などもう出てこない。
 拉致されてから犯される喜びを教えられてしまったアナルは、そこでやつのものを銜え込むことを望んでいるのだ。
 だが、ダーバリアの性格の悪さが前面に出た呪いは、俺の理性の崩壊すら制御しようとした。本能に支配され、知恵無き獣のように欲望だけに動くようになっても、俺の精神の奥底で理性は目覚めたままなのだ。
 巨大な性欲という本能に支配された空間の中の小さな泡の中で、幼子のように小さくなった俺自身に、欲望に支配された無様な様子を見せつけさせるためだけに。
 いっそ溺れて忘れてしまいたい記憶は、俺から決して消えることはなかった。
 冷静なその部分が全て覚えていて、正気の間も俺を苦しめる。
 それが判っていても、俺は襲ってくる欲求から逃れられない。
「お、お願い……、あ、うっ……欲しい、ですぅ…………あ、あ」
 ベッドサイドでただ俺を傍観するやつに手を伸ばした。
 憎むべきダーバリアに懇願の視線を向けて、口角からだらだらと涎を垂らしながら這い進む。そんな俺を楽しげに見つめているダーバリアは、ぴくりとも動かなかった。
 俺が望むものが判っているのに、そうしたのはダーバリアなのに。
 いつもは太ももに巻き付いていたはずの尻尾がゆらゆらとダーバリアの後ろで踊り誘っている。淫らな熱に苦しむ俺を見つめる瞳には明らかに嗜虐の色が揺らめいていて、その口角から鋭い牙が覗き、赤い舌が乾いた唇を舐め上げた。
「ここ、に……くださ……い、あんんっ、欲しい……」
 言葉を口にするたびに、理性は崩れ、衝動だけに支配されていく。
「ダ、ダーバリアさまぁ……」
 許された唯一の呼び名を口にしたその甘さに、まだ残っていた理性が悲鳴を上げる。だが、一度口にしたらもう止まらなかった。
「欲しい、です、ダーバリアさまの……ものが……」
 その名を口にすることを躊躇う。まだ躊躇うだけの理性はあった。でも、止まらない。
「んあっ」
 段階を踏むように激しくなる衝動に、俺は上体を仰け反らせ、膨れ上がった乳首を突き上げた。
 一部の種族では互いの絆を深めるリングだというそれは、ここに来てすぐに着けられたもので、鋭い針が貫く痛みを俺はまだ覚えている。キラリと光る金の輪が汗に濡れて、揺らめくろうそくの炎を反射した。
 継ぎ目のないそれも呪がかかっていて、さっきから細かな振動がずっと続いており、甘酸っぱいその振動がさらに俺を狂わせる。
「い、入れてぇ、お、ダーバリアさまぁ、逞しい男根で、お、俺の孔を塞いでぇ……」
 腰を突き上げ、股間を大きく開いてアナルを晒した。
 欲しい、欲しい、欲しい。
 そればかりが思考を支配している。
 早く突き上げて、たっぷりと注いで欲しい。
 もうこの欲求から解放されたい……。
「飲ましぇてぇ……いっぱい……ああ、ダーバリアさまあ……、俺の……愛おしい……」
 歪んだ視界の中にいる美しい黒豹。人の形でもしなやかな身体は、細身であってもその身体にはしっかりと筋肉がついていた。
 その身体が俺の身体を蹂躙するさまを知っている。
 それが与える激しい快楽と至上の喜びを知っている。
 教え込まれた言葉で、俺は犯されることを願う。
「お、俺の愛おっし……ダーバリア、さまあ……お、おねが……いれてぇ……、奥までぇ、おっきいものでぇ、いっぱい……子種飲ませてぇ」
 動いてくれない。
 だから彼に手を伸ばす。首輪から伸びた鎖がガシャガシャと音を立ててピンと突っ張る。だけどどんなに伸ばしてもダーバリアは遠く、そして自分から手を伸ばすことをしない。
 ひどく遠いそれに俺は幼子のように泣き始めた。
「い、いやだぁっ、ちょーだいっ、子種、欲しいのお、ちょーだい、ねえ、愛おしいダーバさま……、俺を……愛してぇ、はやくぅ」
 名前を、さらに愛称呼びをして、愛おしいのだと訴える。
 一つずつ枷が外れるように狂っていく俺。
 何度も教え込まれた言葉は、その段階にそって変わっていく。
 目の前にある、この熱を解消するたった一つのそれが見えているだけにもらえないのがつらい。
 我慢に我慢をさせてお情けのように与えられるのだと知ってはいても、理性が崩壊した俺にはもうダーバリアにすがるしかないのだ。
 つらさにボロボロと涙が溢れ、寝具に染みを作る。ヒクヒクと震えぱくつくアナルは、いつも仕込むようにされている香油が染み出て会陰まで垂れていた。そんな刺激すら全身の肌が粟立つほどに感じてしまっていた。
「ダーバさま……ダーバさまぁ」
 何度も名前を呼び、煽るように自ら四本の指の根元まで潜り込ませてかき回し、射精できないペニスを扱き続ける。
 掲げるために支えた足はそろそろ限界で小刻みに震えていたが、同時に心の中では失望が支配しかけていた。
 もしかしたら、今日はもらえないのだろうか。
 そんな恐怖が俺の背を貫き、その恐ろしい想像にガタガタと震える。
「ダーバ……さま……」
 だが。
「欲しいか、私が」
 不意にダーバリアが口を開き、笑みを孕んだ声音で問うてきた。すでに限界を超えて虚ろになった頭に、鮮やかにその言葉の意味がひらめいて。
「ほし……いれてぇっ、欲しいよう」
 グズグズと泣き声を上げて、その言葉にすがった。
「こ、ここ、ここに、早くぅ」
 腰を上げる力はなくて、今度は伏せた上体で腰を上げて、狭間が大きく開くようにした。背中にふさふさの尻尾が振れ、背中をくすぐる。そんな刺激にすら俺の身体は甘く震えた。
 背をそらせ、入れやすいようにダーバリアの腰の高さに調整し、今か今かと太い陰茎が割り入れられる刺激を待ち受けていたけれど。
「そうだな。今日は趣向を変えて、獣体ならば犯してやっても良いな」
 待ち望んでいた刺激はなく、膨らんだ気配に圧せられる感覚に、一瞬理性が戻った俺は呆然と後ろを向いた。
 さっきまで人の姿があったところに、今はひときわ大きな獣となった黒豹がそのしなやかな身体をくねらせ長い尾を揺らめかせていた。彼の国でも珍しい真紅の瞳が冷ややかに俺を見ている。
 魔力が高いものほどたやすく完璧な獣体になれるのだが、ダーバリアの力ほどだとそれは瞬く間であった。俺だって狼の姿を取ることができるぐらいに高い力はあるが、ここまで早くない。しかも封じられている今は、この人の身体でしかいられない。
 なのに。
「どうした、欲しいんだろう?」
 漆黒の瞳が赤く染まっている。血を浴びたような瞳が映すのは俺の瞳だ。茶色はずなのに、やつの色のせいで赤く見える。
 浅ましく強請る俺を見て、長い舌が涎とともに舌舐めずりをしていた。
 俺の腕より太い前脚がドスンと寝具の端に乗り、揺れる。
 彼の国に住む獣人は大柄なものが多いというが、その中でもひときわ大柄な王族の出であるダーバリアは、狼族でもある俺の二倍はあった。
 そんな黒豹のもう一方の前脚がベッドに上がり、その股間にぶら下がるものが垣間見えて。
「ひっいいぃ!」
 無様な悲鳴が止められなかった。体内を駆け巡っていた熱が一気に冷めた。
 蕩けていた精神が激しい警告とともに引き戻される。小さく蹲っていた理性も戻り、恐怖の悲鳴を上げる。
 逃げようとした拍子に身体が仰向けになり、崩れた腰はもう上げることもできなくて、振るえる腕でかろうじて上半身を支えるだけだった。
「は、はいら……ない……」
 それぐらい大きかった。
「だが、欲しいのだろう?」
 わざとらしく腰を前に突き出して、その、凶器としか言い様がないものを見せつけてきた。
 太さはベッドに乗った前脚ほどもあり、ひどく長くゴツゴツといびつな形をしていた。人の姿のときも確かに太くて長く、巨根という言葉が似合う代物だったのは違いないが、無理矢理だったとはいえそれでも受け入れられた代物だ。
 だが黒豹としてのそれは、その何倍も太く長く。あんなもので貫かれたら壊れてしまうことが容易に想像できた。
「無理……むり、だ……そんなの……」
「そんなことはないさ、おまえの貪欲な孔は、この程度は平気で銜え込むだろう」
 さらりと言い放ち、ベッドの上に上がってくる。
「おまえの好きなこれで、たっぷりと可愛いがってやろう。何、最初はつらいだろうが、すぐに悦んで自ら腰を振るようになる。おまえの淫乱な孔は、なんでも食らい込むほどに貪欲だからな」
「い、いや……ちが……あっ」
 怖い、嫌だ、無理。
 叫ぶ理性は確かにあり、俺は逃げようとジタバタとと足掻く。
 けれど、信じられないことに、俺自身の身体は、確かにそれを求めていた。
 恐怖に青ざめながら、身体の奥は疼いていた。下腹の奥のそれは期待を孕み、早く貫けと尻の孔がひくついている。手足に力が入らないどころか、腰をあれに擦り付けようとしていた。
 そんな自分が嫌で逃げたいのに、あれから目が離せない。
 ふわりと辺りに漂う雄の匂いが強くなっていた。雌を誘う雄のフェロモンを敏感に嗅ぎ取り、俺の身体が身震いする。
 こんな凶悪な生き物なのに、漂う香りは酩酊するかのごとく芳しい。
 ふらりと目眩が起きて、身体から力が抜けるほどに、その匂いに誘われる。
 ああ、本当。どうしてこんなにもやつの匂いは俺を誘うのだろう。俺は、どうしてこんなにもやつの匂いが好ましいと感じるんだろう。
「ほら、欲しいのだろう?」
 怖いのに、言葉に身体が甘く疼く。
 顔の横に黒い脚が下りた。 
 下りてきた獣の顔から出た長い舌が俺の頬を濡らした涙をベロベロと舐める。
「うまいな、もっと泣け、おまえの涙を私によこせ」
「そ、んなの……」
 どこか甘い言葉が、俺の警戒心を解きほぐす。
 危険だと叫ぶ理性が追いやられて、酔ったように身体から力を抜いた、のだが。
「い、いやぁ、ぁぁっぎぃぃぃ——っ」
 首筋に濡れた熱い吐息がかかったそのとたん、目の前が真っ赤に染まった。
 激痛が、首筋と、そして俺の下半身から走ったのだ。
 痛い、なんてものじゃなかった。
 衝撃となった激痛は、俺の末端まで支配し、その感覚しかなくなる。
 痛いのが首筋なのか、尻なのか、判らない。
 グルグルグルと黒豹が喉を鳴らし、俺のうなじに牙を立てていた。
 血を噴き出して真っ赤に染まった尻の上で、信じられないほどの動きで腰を動かしている。
 気絶してもおかしくない状況でも俺の理性はそれをつぶさに観察していた。いや、観察させられていた。
 もう身体は放心状態で、ただ揺すられるだけなのに。ダーバリアの好物の俺の涙が、ただボタボタと流れ落ちる。
 さっきまで俺を狂わせていた激しい欲求はまだあったけれど、そんなものすら片隅に押し寄せられて、俺はただの淫具として孔を使われていた。
 そうだ、俺は淫具だ。
 ダーバリアだって俺のことを性具だとか奴隷だとかなんとか前に言っていた。
 何度も何度も言われて、だから嫌だと拒絶していたのに。
 その間、ダーバリアから漂う匂いが俺の鼻を麻痺するほどに漂っている。爽やかで甘い、どこか冷たい匂い。
 悔しいことにそれを意識するとほんの少しだけ痛みが癒え、精神が慰められる。けれど揺さぶられる状態は変わらず、そんな些細なことはすぐに忘れた。
 叫び続けて喉が痛いが、体内を抉られて反射的に出る嬌声が止まらない。
「あ、ひぎぃー、そこ、しょんなぁぁぁっ、だめぇぇっ……、ああっ」
「良いんだろうが、欲望に溢れた淫らな甘い匂いがそこら中に立て込めているぞ。もっともっとと子種を欲しがり放っているんだろうが、ほら、まずは軽く出してやろう……」
「ぐ、あ、ぁぁぁっ、ああぁ……いっぱい……すご……あぁ」
 中から激しく突き上げられような衝撃とともに待望の子種を注がれて、俺は恍惚のあえぎ声でそれを味わっていた。
「イけ」
「んひっ、ああぁっ!!」
  寝具まで血まみれになっている無残な姿なのに、俺は射精することもなく達していた。全身の隅々まで震え爆発してしまったように、激しい快感が意識を白くする。
 そのままベッドに突っ伏すが、入りっぱなしの股間は大きく割り開かれたままだ。
 ベッドに身体を預けていると激痛の中でも暴風雨のように暴れていた欲求が急速に萎えていく。
 けれど凪いできた身体は、そこで終わらせてはもらえなかった。
「ぐっ、……まっ、待ってぇぇっ、あひぃぃぃぃっ、ぐ、ぐるしー……」
 落ち着いた身体から離れることはなく、ずいぶんと楽しげに喉の奥を鳴らしながら、黒い巨体が俺の上でうごめき続ける。
 視界は白くぼやけ、自分の身体が揺すられるのがまるで他人事のようだ。
「出せ」
 冷たい命令に、俺の身体は射精する。
 何度も何度も、刺激にたまり続けた子種はこんな行為でもずっと出したくて苦しんでいたのにそこに快感はなく、まるで義務感のような射精だった。しかも何度も出さされて、そのうちに出し過ぎて痛みが出るようになって。
 唸るように訴えれば、嗤いながら言った。
「出すのが好きなのだろう。これからは定期的に七日ごとに出せ。何をしていても、時間がきたらおまえはここから役にも立たない子種を出すのだ。どうせ、私の相手をしているしかおまえにはすることはないのだからな」
 呪が上書きされた。
 それが、前までの呪とは違い、まっ昼間に発動する呪だと気付いてはいなくても、ろくでもないものなのは違いなかった。だが人の身体を獣の身体で犯された衝撃は凄まじく、指一本動かす気力が沸かなかった。
 そんな俺を、黒豹のダーバリアは、丸一昼夜経つまで解放してくれなかった。