【託された想い】6

【託された想い】6

 卵を腹に抱いてから三ヶ月と少し。
 抱卵部屋と言う名のアイルの部屋で毎夜紫紺の相手をする日々は、最初の頃のように早々に意識を失うことは無くなった。けれど、その分長く、激しくなったのではないかと思うほどに、紫紺との行為はアイルを翻弄し、激しい快楽の渦に溺れさせられる。
 もう慣れたと思ったら、さらなる体位で交わって、羞恥に悶えるような事をさせられて。
 紫紺に指摘されるまでもなく、自分の身体がどんどん淫乱化していくのが怖いほどだった。
 それでも、そんな時間がある──それが大半だったにしても、それでもアイルの生活は快適だった。
 最初に言われた通り、アイルがおとなしく言うことを聞けば、紫紺とてそんなに乱暴ではない。
 施されている充実した衣食住は、アイルが南の国で日々を暮らしていた頃よりもはるかに上質だ。それに、紫紺の館の中でなら、大切なものとして扱ってもらえる。それが大切な卵の孵卵器だからというだけなのだと、身のほどをわきまえる必要はあることは理解していた。
 耳長族に好意的とは言っても、彼らの意識にあるのはせいぜいが愛玩動物なのだということは、傍仕えとしていろいろ教えてくれるようになった敬真から言い含められていてたからだ。
 知らない方が危険だからと北の国ではできるだけ控えて隠れて暮らすことを教えてくれた彼は、紫紺の館から外には出ないようにとこんこんと言っていたのだ。
 敬真によれば、一般庶民の方が貴重品でもある耳長族を大切に扱う場合もあるけれど、金に物を言わせることができる富裕層は、耳長族を使い捨ての道具だと思っているという。だから普段は閉じ込めていて、犯しやすいからと裸で過ごさせることが通常だとも言っていた。それどころか性奴隷扱いで、客人に提供しているところも多々あるという。
 けれど、紫紺はアイルにきちんとした衣服を与え、部屋からも連れ出してくれる。
 アイルが紫紺しか知らないことも、それは紫紺の優しさなのだと敬真は言っていた。毎日の相手が面倒で、複数の他人に供与することなど良く行われているのだと。
 アイルも貴種の彼を襲っていた輩達を知っているから、その言葉の方がすんなり理解できていた。
 もともと竜人自体苛烈な性格の者が多く、実際紫紺も最初は無理矢理で乱暴で、今も怒らせると怖くて恐ろしいのは変わらない。特に彼の勘気に触れれば、その仕置きは強烈なのだ。
 命令が聞けなくて、その怒りのままに柔らかなところの毛を無理に引き抜かれたこともあるし、恥ずかしいこともさんざんさせられた。尻叩きなど序の口で、吊るされて鞭で打たれたことも、犬のように這いつくばって引きずり回され、餌だと口だけで食べさせられたこともある。
 けれど、普段の紫紺はそんなことはあまりなくて、館内であれば紫紺か敬真が一緒であれば出歩いて良いと言われていて、最近ではあの館で働く何人かの竜人とも顔見知りになっていた。挨拶をしたら丁寧に返してくれるし、決して邪険にはされていない。
 毎日の紫紺の相手は大変だけれど、それでもそんなふうに少しは気が安らぐ時間があることが、アイルの精神を落ち着かせてくれていた。
 それに、最初のうちは、そんな紫紺を怒らせないよう唯々諾々と従うしかなかったけれど、紫紺への適切な対応は彼を喜ばすことに気が付いてからは、少しだけ考え方が変わっていった。
 最初の頃に指呼の兄である第一王子に対する悪評とあの貴種の彼の存在を見せつけられたせいで感じていた竜人族への恐怖も、紫紺に対しては少しは変えることができている。
 苛烈だと言われる彼の性格も、特に間違った者、勘違いした者、そして愚かな者相手だと如実に出るのだということも理解してきた。
 紫紺が気に入る対応ができると彼は優しいし、褒美のように施される口づけもなぜだかとても安心できるものだった。それに機嫌が良ければ、稀な笑みすら見せてもらえて、頑張った甲斐があったと思えるし。
 最近、誰も隣室にいないこともあるのは、紫紺からの褒美だ。
 けれど、その紫紺は二日ほど前から、任務で館を離れていた。
 すぐ近くの街で彼の持つ商隊が立ち往生したとの知らせに、他の誰もが止めるのも聞かずに出ていってしまったのだ。
 その間、卵への刺激は自分でこなせと、立ち壁に張り型がつきだしている道具を渡されている。それは前屈みになって尻を突き出し、自らそれを銜えて抽挿する仕組みのもので、一人で絶頂するまで張り型で尻をふりたくる様は、はっきり言って恥ずかしい。しかも、その時ばかりは紫紺の命令で監視している敬真が確認するのだから、よけいに耐えられない。けれど、卵のためと言われれば、アイルには逆らえなかった。
 今はもうすっかり子宮に馴染んだ卵が、アイルはひどく大切なもののように思えてならないのだ。
 もとより耳長族の母性本能は強い。他人の子すら自分の子のように慈しむ質で、そんな母性本能が如実に現れているためだ。それは卵殻に含まれる成分と子宮内壁が反応して、擬似的な母性のための分泌物になって脳に回るからだと言われているらしい。
 それだけでなく、紫紺に「強い子を育てろ」と言われたことに、強く従いたいと最近やたらに思うようになっていた。強い子を育てたら、きっと紫紺は悦んでくれる、そんなことを思い始めると止まらないのだ。
 だから、きつくて辛くて恥ずかしい行為でもなんとかこなして、休む日々。
 紫紺はすぐに帰ってきてくれると思うから、これは少しの間だけのことだから、と。そんな一人行為の後は急速に襲ってきた睡魔に、アイルは逆らえずにそのまま寝具に伏して眠りにつく。
 紫紺相手ならもっと保つのになと思いながら、そのまま深い闇に陥って。


 いつもの寝具の上で昨夜は一人で寝入ったはずなのに、きりきりと腕に食い込む痛みと、揺らぐ身体の心許なさに気がつけば、辺りは薄闇に包まれていた。
 しかも、全裸で縛られ吊られている状況に気が付いて、悲鳴が迸る。
 光を良く感じる瞳は、窓にかかっている分厚いカーテンの隙間からのわずかな光を捉えて、薄闇でも部屋の様子を窺えた。
 少なくともここは、アイルが知っている場所ではない。
「誰かっ、誰か、いない?」
 いい加減、自分の身に起きる信じれない出来事にも慣れたと思っていたけれど、何が起きたかまったく判らないこの状況に不安は強い。
 特に最近は少し扱いが良くなっていると思っていたから、余計にだ。
 ひとしきり騒いで助けを呼んでみても、聞こえの良い耳がピクピクと動いて探ってみても返ってくる声はない。
 今までこんなにも音が聞こえなかったことはなかった。しっかりと防音の効いた部屋だとは判ったけれど、それは何の助けにもならなかった。
 もしかすると、紫紺の館の外なのかも。
 そんな恐ろしい考えが頭に浮かび、さあっと血の気が失せて、激しい悪寒に身を震わせた。
 少し寒いこんな環境に、あの館の人たちが大切な卵を放置するわけが無いからだ。
 あの館以外で、さらにそれが貴族などの館だったとしたら、自分のような耳長族の立場など塵芥も同様だからだ。
 唯一助けてくれそうなのは、紫紺の館の人々だけれども、ここがどこかも判らないうえに、こんなふうに縛られていては彼らに連絡のしようもない。
 襲いくる不安は強く、自由にならぬ身体に苦痛が増してくる。
 吊られた身体は、身動きするたびにゆらゆらと揺れて、よけいに縄が腕に食い込んだ。かろうじて届く足裏が届く程度で、なんとかバランスを取ろうとするけれど、後ろ手に縛られ背中からぶら下げられては、どうしても安定しない。
 胸と腕に食い込む縄はたいそうきつく、時折爪先立ちになって少しでも痛みを和らげようとするけれど、僅かな時間しかもたない。何より、そうとうきつく縛られているのか、腕など縄から先がだんだん冷たく痺れてきている。
 それに、寒い。
 何一つ身に纏っていない状況もその寒さを助長してるのだろうけれど、その冷えが腹を襲ってくるのが気になった。
 最近少しだけ膨らんできた下腹も、尖ってきたように前に出てきた乳首と乳房も剥き出しなのだ。
 敬真から、冷やさないようにとさんざん言われ続けているからよけいにだ。
 それが少し気になって、せめて卵の入ってる腹だけでも温めたいと思うけれど、どうしようもない。
 それにしてもどうしてこんなことになっているのか、薄闇の中で少しでも情報を得ようとするけれど、見えるものは客間のような家具ぐらいで、音もしない。
 その静けさに、闇雲に恐怖が押し寄せてくる。
 こんな恐怖は、紫紺に拉致された直後以来だと、不意にそんなことを思い出した。
 紫紺に拉致された時も恐怖はあったけれど、それでもあの時はすぐに紫紺に犯されて、そんなことを考える暇も無かったけれど、今はただ吊されているだけの上体のせいか、やたらに嫌な考えばかりが浮かんでくる。
「んくっ」
 腕が痛くなって爪先立ちでなんとか緩めて、その拍子にチロチロと小さな音色を鈴が奏でた。それは、一ヶ月前に鈴口に穿たれた戒めの楔の跡地につけられたものだった。
 かしめて簡単に外れないようにされたそれだけは、どうやらこの身に残されたらしいけれど。それがさっきから揺れるたびにちりちりと小さな音を立てている。
 それは、平時であればむず痒いような刺激を与える敏感なアイルには酷な飾りであったが、それで紫紺の怒りが解けるのならしようがないと、できるだけ意識しないようにして、付けている飾りだった。
 チリチリ。
 腕のしびれと食い込む縄に、少しでも楽になろうと身を捩れば、陰茎の先の鈴が鳴る。
「んっ……」
 それが小さくても甘く疼く。
 なんでこんな時に、と思うけれど、前に吊されながら犯されたこともある、と思い出した瞬間、陰茎がぐぐっと鎌首をもたげてしまったのだ。
 それは泣きたくなるほどに恥ずかしく、その浅ましさにひどく落ち込む。
 少なくともここには紫紺はいない。
 そして、この先、何が起こるか判らない。なのに……。
 浅ましい反応を示す身体が恥ずかしくて堪らずに俯き、大きくため息を吐いたその時。
 最初に足音を捉えた。
 それは耳長族の躍動するような音で無く、明らかに竜人族の重々しいもので。しかもそれが複数聞こえたのだ。小さかったそれが少しずつ大きく、助かると思うより先に最悪の想像に恐怖が湧き起こる。
 通り過ぎて欲しいと願うのに、けれどその足音は近いところで止まってしまって。
 微かな音を立てて鍵が開いて、きしむ音すらしない良質な建て付けの場所だと、判ったの時には、差し込んだ明かりの強さに目に痛みが走った。
 慌てて閉じた時には遅く、薄闇に馴染んでいた瞳にその光は強く、目が眩んでしまった。
 と同時に、三人の衣擦れの音が近寄ってきた。耳長族の聴力は竜人族のそれより良くて、この距離であれば見えなくても確実に判断できるのだ。
「へえ、これが」
「ああ、紫紺王子のお気に入りだと」
「まあ、確かに珍しい色をしているが、はっ、孵卵器を愛玩するとはあの王子もたいしたご趣味よな」
 眩んだ白い視界に、闇のように佇む三人の、しかも状況からして竜人以外あり得ない彼らの存在に、アイルの全身から一気に血の気が失せた。
 少なくともこれが紫紺の企てでは無いことは一瞬で理解できたし、何より彼らの物言いに第二王子たる紫紺への尊敬の念が全くないことは明かだったのだ。
「この腹にあるのが紫紺王子の卵か?」
「ひっ」
 下腹に不意に触れられて、その冷たい手とそれ以上の悪寒に、身を竦ませた。
「逃げんじゃねえよっ、このガキっ」
「ああっ!」
 何かが破裂するような音が右と左で連続して響く。続いて振動が頭蓋内に伝わり視界がぶれた。遅れて走った痛みと揺れる感覚に一瞬意識が遠ざかりかけたことを知る。
 男の一人か左右の側頭部を続けて殴ったのだ。それが敏感な耳孔を圧迫したのだと気が付いたのは、その直後だった。
「ったく、躾がなってねえ」
「王子に甘やかされてんだよ、きっちりしつけてやらねえと」
 どこか遠くでしゃべっているように男達の声が聞き取りづらくなっていた。
 けれど、男達はさっきから離れるどころか近くなっている。
「だが、こいつは王子しか相手していないっていうからな、どうせ生まれてもたいした子じゃねえよ」
「ああ、昼夜を問わず犯された借り腹からお生まれになった第一王子様のお子に比べりゃあなあ」
 ハハハッと甲高い声が笑い声がうつろに響く。
 何だこれ。
 不快な感覚に、怯えが強くなる。音がうまく聞こえない。遠くのざわめき、風の音、近い人の呼吸音、心拍音、意識すること無く聞こえていたそんな音が一気に消えて、近い会話でもくぐもっている。
「耳、耳が……」
 痛い。確かに奥の方が痛い。
「はあ? ……ああ」
 竜人の一人が呆然とするアイルの態度に嗤う。
「耳長族は聞こえないことを不安がるからな、遊ぶときはまず耳をつぶすってのが常識なんだぜ、知らねぇのか」
 アハハと馬鹿にするように嗤われて、知らないと返すこともできない。
「耳孔を狙って平手打ちすりゃ、けっこう簡単に奥の膜が破れて、聞こえにくくなるって寸法よ。ついでにこの耳も断ち切ってやるとおもしれえんだが」
 ぐいっと二つの耳をひとまとめにして掴まれて、根元が千切れそうな痛みに音の無い悲鳴が零れた。
 ためらいの無い彼らの行動に、冗談なんかじゃ無いと判ってしまって。
「おいおい、最初っから飛ばすなよ、まずは、だろ」
 少なくとも後から実行するつもりなのだろう。
 手が離れても、震えが止まらない。
「や、やめて……ください……」
 紫紺の時は決して出ない拒絶は、けれどやはり男達の勘気に触ってしまったようで。
「はあ、止めてって何様だよ、てめぇは」
「ああ、てめえは早く突っ込んでって強請るしかねえだろうよ、あの玩具みてえによ」
「おまえも見ただろう。俺たちに突っ込まれてヒイヒイ喜んでた白い奴を」
「え……あっ」
 そこまで言われて、アイルはようやく思い出した。あの時、あの貴種の彼を犯していた竜人達と今目の前にいる彼らが同じ者だということに。
 あの時、城の最下部とも言える下男達が棲まう区画で飼われていた彼を、打ち据えながら犯していた者達。
 思い出して彼らの顔を見上げれば、その瞳に浮かぶ色は、あの時と同じで……。
 あの時の恐怖を思い出して、ガクガクと震えるアイルに、男達は嗤って言った。
「あれがさあ、ぶっ壊れちまって、最近溜まってたんだよな。そしたら、別のを用意してもらえるって聞いて、喜んできたんだぜ。だからたっぷり楽しませてくれよ」
「あれはまだ遊べたっていうのに、おまえが両方に三つも四つも卵を入れるからだろうが、しかも一週間以上経って硬化しきった腐ったのをよお」
「二輪差しも平気な孔のくせして、受け入れなかったあれが不良品なんだよ。喜んで銜えてたくせによお。もっとなんて言うから、押し込んでやったって言うのに、血反吐吐いて壊れるなんて思わねえよ」
 惜しいと言いながらも、楽しげに語る内容は受け入れがたいもので。
 まだ柔かな時に一つ入れるだけでもきつかった卵を複数個。入るはずも無いそれを無理矢理いれられて。
「ひ、いぃぃぃぃ」
 残虐な彼らの行為に、震えが止まらない。
「まあ、いきなりはそんなことしねぇぜ、俺らもさ」
「そうそう、まずは溜まってるザーメンを絞り出させてもらうから、それからだな」
「やぁ……あっ」
 竜人の冷たい手が尻に触れる。
 逃げようとするけれど、つま先立ちで吊された身体が自由になるわけもない。
 ぐいっと腰が上げられて、胸と腕に食い込む痛みが強くなったとたん。
「ひぎあぁぁっ!!」
 一気に奥まで入ってくる肉塊が奥を突き上げる。
 腸壁が破れそうなほどに激しく強いそれは、快感よりも痛みが強く、苦痛と恐怖しか感じられない。
 しかも、力の強い彼の抽挿は絶え間なく、ガツガツと貪られて、身体を捩ることもできなくて。
「やあ、ぁ、ぁっ、がっ、あっ」
 突き上げられるたびに、声帯が意味の無い言葉を吐き出すだけだ。
「おい、こっちも孔はあるんだぜ」
 しかも、別の二人が揺れるだけの足を抱え上げて、さらけ出したのは女陰のほうだ。
 とたん、男達の考えが想像できて、アイルは白目が目立つほどに見開いた。
「や、やだぁっ、そこはやめてぇぇぇっ」
 卵を入れられたときに広げられただけの場所は、実のところそれかし知らない場所だ。流産の可能性が高いからと紫紺は使っていない。
「卵が……卵が……」
「ん、ああ、流れるって? はは、大丈夫さ、てめぇの腹の中の卵が強ければな。第一王子のお子なんか、こっちでさんざん突き上げられたっていうのに、最後には二輪差ししても、流れなかったしなあ。ああ、でも、どうせこん中の卵なんて弱いんだろうから、とっとと流して新しい卵を孕んだ方が良いんじゃねえか」
 指が、膣の中に入ってくる。
 その違和感に、ぞくりと総毛立ち、背筋を這い上がる悪寒に震えながら、激しく頭を左右に振った。
「お、お許しを、後ろだけならいくらでも、いくらでもお使い、くださ、い……、でも、でも……」
 たとえ強い子のために必要であっても、それは紫紺にしてもらいたい。
 こんな訳のわからぬ竜人の者に犯されたくなかった。
 けれど、怯えるアイルに劣情をそそられたのか、彼らが取り出した陰茎は勃起して、粘液すら滲ませている。怖がるアイルがさらに彼らの欲を誘うのだと、怯えるアイルには判らない。
 近づいた彼らから饐えた臭いがするのは、汗だけでないようで、吐き気すら感じるほどの嫌悪感が湧き起こった。
 ちらりと見下ろしたそれらも、色素が沈着しているだけでなく、汚れが付いているようだった。
「さあて、こっちの味はいかがかな?」
「待って、待って──止めてぇぇっっ!」
 アイルの悲鳴でしかない懇願は、けれどきれいに無視された。
 もとより力の強い竜人に、アイルの筋肉が逆らえるはずもなく、一気に股間を広げられて、逃げる間もなく汚らしい陰茎が潜り込んでくる。
「やっ、ああぁっ、やめてぇぇっ、いやぁぁっ」
 頭を振りたくり泣き叫ぶアイルに返されるのは嘲笑だけだ。
 後ろから突き上げられる動きに合わせるように、グイグイと他人の肉棒が入り込む絶望に、アイルの見開いた両目から滂沱のごとく涙が流れ出す。
「いや、いや……いや……」
 紫紺のものでない陰茎が食い込むことの、なんと恐ろしくもおぞましいことなのだろう。
 体温の低い竜人の陰茎が、まるで熱を持たない器具か何かのようで、悪寒ばかりが身体を支配する。
 吐き気がするような嫌悪感と恐怖に、アイルの身体の震えが止まらない。
「い、や……あっ、あ……あぁ」
「うほっ、マジきつい。こりゃあ、ほとんど使われてねえぜ」
「こっちもいい塩梅に熱い肉が絡みついて、たまらねぇ」
「おいっ、さっさとやれよ。俺だって突っ込みてぇんだ、早くしねえよと貴様の孔、犯すぞ」
 じれったく要求する残りの竜人に、彼らも苦笑を浮かべた。
「おお、ちょっと待ってろ。ほぉら、イイ声で啼けよっ」
「こっちもだ、ほら、ほらっ」
「いああっ、ああっ、ぎあっ、あっ」
 前と後ろ、互い違いに、あるいは同時に、突き上げられては抜く寸前まで戻って、また入り込む。
 こんな輩に感じたくは無かったけれど、紫紺の巨大な陰茎に嬲られ続けて快楽を教え込まれたアイルの敏感な身体は快感を拾い上げている。
 けれど、今は嫌悪感ばかりが先に立ち、恐怖に震えることしかできずに、突かれる拍子に声が漏れるだけだ。その股間では萎えた陰茎が鈴の音色を立てながら踊りまくり、始めて雄を銜えた陰部から、刺激に出てきただけの愛液がぶちゅぶちゅと泡だって流れ落ちる。
「いやっ、あっ、やだっぁ、ああっ、たま、ごっおっ、ああっ、だめぇっ、ああっ」
 流れる涙が小さな乳房を濡らし、男の固い腹が膨らみのある下腹を押しつぶす。ごりごりと外から卵を圧迫されて、その痛みにアイルは泣き喚いていた。
「こ、壊れるっ、止めて、ああっ、ひいっ、うっ」
「壊せよ、腹の中でバリンと壊れる感触も乙のもんだぜ」
 得意げに伝えられた言葉に、彼らがそれを実践したことがあるのだと気が付いた。
「ひっ、お、おねが……い、しますっ、た、卵だけは……」
 こんなにも愛おしい卵を、ここまで温めた卵を、壊されることは恐怖でしか無くて、嫌悪感も何もかも拭い捨てて必死になって懇願する。
「お願いっ、お願いしますっ、何でもします、何でもしますから、卵だけは」
 薄桃色の瞳から溢れた涙が、青白くなった頬を流れ落ちる。
「み、みなさん、どうか、いっぱい愉しんで……だからっ」
 両足を抱え上げられて、ぱっくりと広げられた股間の筋肉に力を込めて、ごりごりと内壁を擦る二つの陰茎を締め付ける。
「ほほっ、締まりが良くなったぜ、淫乱孵卵器はもっと嬲って欲しいってか?」
「は、はい、お願いしますっ、みなさまの、みなさまのっ、お好きなように……だから、だから、卵だけはっ」
 ゴリ、ズリッ、ブジュ、グジュッ。
 二つの音が繰り返し、さらに激しくアイルの中と外から響く。
「良い心がけだ、そうだな、おまえが俺たちが飽きるまで付き合ってくれるってんなら、その卵のことも……考えてやっても良いな」
 ぺろりと目の前の竜人が、いやらしく舌なめずりをして。
「俺たちゃ、第一王子さまから特製の性欲増強剤をたっぷりといただいて、あれを犯してきたせいか、その辺の穴をいくら犯っても物足りなくってしようがないんだわ」
「もう穴だったら、何でも良いのさ」
「ばかばかに緩んだ穴でも射精しまくってやったっていうのに、壊れやがって」
「ああ、簡単に壊れやがって……俺たちを待たせた罰だっ、ほれっ、俺たちを悦ばせてみろっ!!」
「ひぎっ、ぎぃぃっ」
 抱え上げられた足が、一気に下へと降ろされて。体重がのって絞まった縄が腕に激しく食い込む。肩まで響いたそれに悲鳴を上げるまでも無く、腰を強く掴まれ降ろされて、最奥を穿つ衝撃に全身が硬直した。
 信じられないほど奥に、前も後ろも届いている。
 白目を剥いて、力無く開いた口角からたらりと舌がこぼれ落ちた。
「へへっ、良いだろう? 閉じた先を広げられて」
「ちん先が、かってえ殻をノックしてるぜ、響いて堪んねえだろう?」
 揶揄でしかない言葉を吐く竜人の目は、すでに正気で無かったけれど。信じられぬほど奥まで犯されたアイルはそれを知覚することなどもうできなくて。
「んああっ、おくう……たまひょぉ……壊へぇ、やだぁぁ、ああっ、おねがっ、おねがあぁぁいいぃぃ」
 激しく揺すられ、突き上げられ。
 狂った竜人たちが望むままに犯され、弄ばれて、快楽など二の次の恐怖の中、アイルの精神は卵のためだけに、快感にのめり込めない。
 けれどどんなに懇願しても際限の無い陵辱に、アイルの身体が痛めつけられていく。
 今まできついと思っていた紫紺との行為は、こんなのに比べたらほんとうに優しいのだと思うほどに。
「やめ……ひいぃぃ、お願、ぁぁぁい……、ああっ、ひぃぃっ!」
 叩き付けられるように吐き出された精液は、1回で外まで垂れるほどに多かった。
 薬で狂わされた身体は、そんなところまで異常性を見せていて、その異常なまでの性欲でアイルを痛めつける。
 交代した竜人の陰茎が入り込み、溢れた精液が下肢を流れ落ちる間もなく。
「おい、流れっちまう。足首を縛って上から吊せ」
「おう」
 足具に縄を巻かれ、高い位置に上げられる。
 体重が、肘の上腕近くに巻かれた腕と足首に食い込んで、その痛みはさらに強くなり、腕などもう指先に感覚が無くなってきている。
 尻が高くなって、溢れる精液を押し込めるように、やっと順番がきた竜人が、先より激しく快楽を貪る。
 それが済めばまた次が。
 三人しかいないはずなのに、途切れなく前と後ろの穴には何かが入っていた。
 冷たい、固い。
 それが玩具なのか竜人のそれなのか、知覚することすら困難で、吊られた感覚が無くなっても、未だゆらゆらと揺れているようで。
「ああっ、いやぁぁ、おねが……ひゃ……あ、たみゃ……たみゃごぉぉ」
「ああ、まだ壊れねえぞぉ……、おい、もっともっと激しくねえと、これ壊れねぇぇ」
「だったら、二本同時にいれようぜぇぇっ」
 足が加減無く抱え上げられて。
「ぎああぁ──っ」
 ボキッと体内に響く衝撃に、喉が血を吐くほどの絶叫が迸った。
 けれど、それすらも無視されて、ミシミシと女陰が音を立てて引き裂かれる痛みに、もう開ききった喉からは音すら出ない。
 壊れる……。
 壊さないで……。
 行き過ぎた痛みに、もう麻痺すらしたように意識が離れていく。
「あ、ぁぁ、ぎぁっ、ああっ」
 竜人に比べれば小さな身体に、三人の身体が重なって、もうアイルの身体はほとんど外から見えない。
 そんな肉の中心で、アイルはただ悲鳴を上げ続けるだけだ。
 もう時間の感覚さえ無くなっていて、あれからどのくらい経ったのか判らなくなっていた。
 今が昼なのか、夜なのか。あれから何日が経っているのか、それともまだあの日なのか。実は時間など経っていないのか。
 股間でグチャグチュと泡立つ体液は、ほとんどが竜人達の精液で、床に液だまりができるほどになっており、乾いているものもある。
 床に這い、けれど縛られたままは変わらなくて、手先の感覚が無くなっていた。片側の足は、血の気を失い腫れ上がって、不自然に揺れている。
 抱え上げられた身体が再び陰茎の上に降ろされる。
 もう何度も突っ込まれたそれを、難なく銜え込むけれど、辛いのは変わらない。
「やめ……、卵、たま゛ょおお、があ……許しでぇ……あっ、んぐっ」
 快感は無い、痛みと嫌悪すらもう感じない。
 狂った竜人達の欲を解消するだけの行為に、アイルの声音は弱くなっていた。
 竜人達の位置が変わる。
 今度は背面に一人、前にも一人、斜め後ろに一人。けれど、入っていくのは肛門だけ。
 鱗の無い、紫紺よりは細い陰茎とはいえ、三本あればそれはひどく太い。
「ひ、ぎいぃぃぁぁぁっ」
 衝動的に出る苦鳴はすでに掠れていた。
 ただ耐えられない疲労感に意識が薄れていく。
……紫紺さま。紫紺さま、助けて……。
 何より守らねばならぬ卵が壊れてしまいそうで。
 アイルは縋るように頭の中で紫紺の名を呼んでいた。