【託された想い】4

【託された想い】4

 無様な同胞の姿は、企てた以上にアイルを縛ってくれたようだ。
 もともと船の中でも柔順だったけれど、今では身を投げ出すことを厭わなくなった。と言っても、決して楽に受け入れたわけではないところが楽しませてくれる。
 今朝方、受胎から二ヶ月経った卵を腹から生み出した紫紺は、さっそくアイルを縛り上げ、その胎内に卵を入れようとしていた。
 今なら柔らかい卵は、狭い膣を逆送させることができる。
 自分が産んだとはいえ、その卵に愛着はない。ほんの少しの産みの苦しみは、記憶にも残らないほどに些細なものだったし、見た目も白い塊でしかなかった。
 いつから竜人族に母性が無くなったのかは誰も知らないけれど、卵を温め子を育てることが面倒だという思いは常に先にある。
 昔の母体は、この卵を胸に抱くように懐に入れ、一年間大事に肌身離さず持っていたというけれど、そんなことをしていたら訓練もままならず、仕事にも差し支えるのは当たり前だ。強く優れていなければならぬ竜人族にとって、そんなことができるのは最初から上を目指すことができぬ愚かしい者だけなのだ。
 そういえば、と、抱卵後の出産は耳長族によっては母体を損ない死ぬものもあるらしく、壮絶な痛みに耐える体力だけは付けさせるようにと貞宝に言われていたことを思い出す。
 まあ、毎日紫紺の性欲の相手をするのであれば、その程度の体力がなければ務まらない。
 気絶するなと命じたら、必死になって意識を保とうとするくらいには、気概はあようだから。
 それに。
「薬を、お使いくださいませ」
 薬は一度しか使えぬと伝えたアイルは、それでもコクコクと頷いて、今を乗り切ることを優先させてきた。
 すでに馴染んだ肛門よりも、始めて異物を受け入れるだろう膣の痛みとを比較すれば当然の心理だろうけれど、その悲痛な表情は相も変わらず欲がそそられる。
 もっとも紫紺自身は膣を裂けさせるつもりはなく、薬を使わねば固く閉じた子宮口が開かぬ事も判っていた。結局アイルをからかうしかない行為であった紫紺は、アイルの言葉を拒絶することなく薬を取り上げ、たっぷりと刷毛に垂らす。
 未だ何人も侵入を許していないそこは、いまだ膜も残っている。
 むだに膜を破らないように、開いた小さな穴に潜り込ませた細い筆で、内壁に丹念に薬を塗り込める。
 その間アイルはというと、胎内を蠢く異物に絶え入るように、ぎゅっと目を瞑り、括られた肘掛けに縋るようにきつくそれを握りしめていた。
 屈強な竜人族とは比べものにならないほどに弱く、儚い存在で、そんなものに大事な卵を任せるなど、元は唾棄していたのだけど。
 親友に「卵を産みたいから協力してくれ」と言われて、まあ良いかと考えたのは、気まぐれでしかなかった。
 話の流れで、なぜ自分まで卵を産むことになったのかはよく判らない。
 けれど王族の計画外の産卵は贄の手配から外れていて、さすがに今回貴種を手に入れることはできなかったが、もとより白いだけの貴種など好みでもなんでもなかったし、使い勝手が良ければ誰でも良かったのだ。だから今回の贄の中から一番に選ぶということで話はまとまっていたのだけど。
 もっとも贄から選ぶより先に、その色が目に留まってしまったのだから、仕方が無い。
 耳長族も王族である貴種が浚われれば問題視してくるかもしれないが──もっとも、それでも文句を言わせぬ関係ではあるけれど──一般の民であるアイルの拉致は、何の問題にもならないものだった。
 それにしても、こんな色などどういう組み合わせで生まれたのだろう?
 親は茶色と黒色だったという。
 祖父母にまでいたれば白灰種がいるというけれど。
 たっぷりと薬を塗りつけた刷毛を抜き出す際、目の前にあった薄桃色の陰毛を、興味深げに見入る。
 この色は暗い色の多い竜人族には無いものだ。だからこそ、あの時目に付いたのだろうけれど。
 灯火に煌めくそれは、今は少し橙色かかっていて、普段より艶めいて見える。
「んっ」
 なぜかじわりと込み上げる腹の奥の熱に、ごくりと涎を飲み込んで、誘われるように手を伸ばし数本を引きちぎれば、痛みに煽られたうめき声が小さく漏れ聞こえた。それにわざと胡乱な視線を向けてやれば、慌てて口を閉じて頭を垂れる。
 この子は賢い。
 あの虚栄心ばかりの兄王子にふさわしい白い道具は、キイキイとうるさく泣き喚き、かわいげもなく逆らい、禁止されたことばかりを行って、早々に勘気に触れてすぐに捨てられたが。
 色と声の音色だけで思わず連れてきてしまったけれど、これがあんなバカでなくて良かったと、しみじみ思う。
 柔順で、賢い。
 言われたことは必死でこなし、できないことは紫紺の意に沿った形で妥協案を提案してくる。
 ほんとうにこんな得がたいものを見つけられるとはたいそう運が良くて、あの夜、月夜に誘われて散歩に出た己の行動を自画自賛するほどだ。
 そんな紫紺の前で卵を受け入れようと開かれた股間に、再度卵を押し当てる。
「力を抜け」
「っ、いっ」
 息を飲みながらの返事に、強張った太股がわずかに緩む。
 真円に近い卵は膣口よりはるかに大きいけれど、それでも押しつければ、肉が広がっていく感触が卵越しでも伝わってきた。
 ぐにゅっと濡れた朱色の肉襞を広げ丸みを食い込ませれば、僅かに卵がたわんで、形が歪む。やや楕円になったそれを後ろから手のひらで押し込むように押さえれば、くぐもった悲鳴とともにじわりと肉の中に埋もれ始めた。
「ぐっ、うっ」
 小さく震える身体は、恐怖からか、それとも痛みからか。己の手の力加減で変わるその様子が楽しくて、時折揺らし、ほんの少し引き出したりして楽しんでいたけれど、ふと、目の前で萎えてぶら下がる陰茎が邪魔だと思ってしまった。
「勃起させろ」
 ピンと指先で弾けば別の生き物のようにぶるりと震えたけれど、いつまでも立ち上がらないどころか。
「……い、痛っ、ひっ、もうし……ありませっ……んんっ」
 意識はしているようだが、青白く染まり汗だくの身体はいうことを聞かぬようだ。固く閉じたまぶたは震え、かろうじて応えようとはしているが、それだけだ。
 目の前でぶらぶらと揺れるそれを再度爪弾いて、さてこの邪魔物をどうしたものか、と。
「ああ」
 考えるまでもないことだと、閃いたままに卵を押さえながら腰を起こし、手を伸ばした先はアイルの腕を縛る紐だ。非力な腕では千切れぬそれも、紫紺の力ならばたやすく切り裂ける。
「痛っ」
 強く食い込んだ紐の痕を赤く残した手首を捕まえ股間に引き寄せた。
「自分で支えろ」
 再度爪弾くように起こし、腹を打たせた陰茎を掴ませる。
「は、い……」
 頭を起こしたアイルが小さく頷きながら、己の陰茎にその細い指を絡める。これで良いかと窺うように、薄く開いたまぶたの間から濡れた薄桃色の瞳が見えた。
 それがやけに艶めいていて視線が外せない。
 あの時己が気に入った色は、色欲にまみれるとさらに鮮やかに己を縛る。特に濡れた瞳は、いつまでも見ていたいほどに引きつけられるのだ。
 ごくりと喉が鳴る。
 知らず力の入った手によって卵が肉の中に埋もれ、アイルが堪え入るようにきつく眉根を寄せた。とたんに消えた色に、焦燥にも似た感情が湧き起こり。
「目を開けろ」
 端的な命令に、即座にアイルは従って、怯えた桃色と視線が合った。
「良い子だ」
 思わず呟いて、道具相手に何を言ってるんだと苦笑が浮かぶ。幸いにアイルは従うことだけに必死なようで、その呟きに何の反応も示さなかったけれど。
 それはそれでどこか不愉快な気分になって、腹いせに卵を押す手に力を込めた。
「ひあっ!」
 苦痛に顰めた顔は、けれど視線だけは紫紺に向けられたままだ。
 開いた膣が薬のお陰で徐々に卵の最大径に近づいていく。ガクガクと痙攣する身体が薬では吸収できぬ痛みに苦鳴を上げ、涙がこめかみを伝い、乱れた髪を濡らす。薄桃色の一束の髪を伝い、ぽたりぽたりと滴が流れ落ちていって。
 ああ、もったいない。
 流れ落ちるそれを今はこの身で受けられないことに、焦燥が湧いた。
「泣くな」
 堪らず出た命令にひくりと震えた瞳は、もう怯えた被食者のそれだ。抗うこともできぬ悲哀感をその瞳に映したそれは儚げで美しく、どこか、愛おしくて……。
「!?」
 刹那紫紺の動きが止まる。
 いったい自分は何を考えているのか、と。
 そんな思考は竜人族としては受け入れがたい感情なのに嫌悪感が無くて、そのことに戸惑いは大きいけれど、だからといって切り捨てるのも妙な気がして。
 儚い存在など、常ならば不要な者だと切り捨ててきていたのに。
「アイル」
 なぜに呼びかけてしまったのか、判らないけれど。
 判らないままに、なぜかいても立ってもいられぬままに、衝動的に卵を押し込んでいた。
「いあぁぁっ!」
 いきなり大きく広げられた痛みに喚くアイルを見つめたまま、その腹を撫でる。
 ぴたりと手のひらに触れた熱い柔肉の濡れた感触に、卵を飲み込んだ膣口へと視線を移した。
 ようやく飲み込まれた卵は、けれどまだ終わりでは無い。
「まだ力を入れるなよ」
 一言言い置いて、指を入れてさらに卵を押していく。
「うっ、ぐっ」
 反発する力が強い。腹が脈打ち、太股が震えていた。抜けない力が卵を排出しようとしていて、負けないように潜り込ませた指を増やした。
 その先に、もっともきつい箇所が待っているのだから。
「ひっ、ぐっ、うぅぅ……」
 しゃくりを上げるようにえずき、己のペニスを爪が食い込むほどに硬く握っている。まるでその痛みで腹の奥の痛みを紛らわせるように。
 また閉じられた瞳は、溢れる涙が増えている。
 痛みを堪えて息を止めてしまい真っ赤になった顔。けれど冷たい汗は全身に流れ、ガクガクと痙攣するかのように震えている。
「アイル、力を抜け」
 強く言っても、痛みがきついのだろう。いつもは柔順なアイルも、分が制御できないのか、歯を食い縛ったままにその頭がわずかに左右に触れていた。
 いくら薬を使ったとしても、固く閉じていた子宮口を、しかも出産経験も無いそこを無理矢理開かせようとしてるのだ。
 さらにこうも力が入っては、と、深く息を吐いた。


 アイルとてバカではない。
 力を抜けと言われた意味も判っているし、そうした方が自分が楽だと言うことも今までの経験で知っている。
 けれど、宥めるように腹をさすられても、強い痛みに強張った身体は、決して自分の思い通りにならなかった。それこそ握った陰茎に爪が食い込んでいても、気にならないほどの痛みなのだ。
「ご、こめんっ、なさっ、んぐっ、ひぐっ」
 かろうじて、引きつった声音で詫びて、濡れた瞳を紫紺へと向けた。
 見ろと言われた命令ぐらい守りたい。
 ただそれだけで向けた視線だったけれど。
 焦れていたのか、眉根を寄せて顰めていた紫紺が、何かに驚いたようにその目を見開いた。
 暗い色が多い竜人族の中でも、美しい緑水晶の瞳がアイルを見つめて、それがじわじわと細められる。
「アイル……」
 呟かれた名に、新たな命令が出るのかと、意識して耳をそばだてれたのだけど。
「あひっ」
 いきなり放置されていた肛門への異物感に、変な声が出た。
 いつもの浣腸と洗浄に綻んだそこは、一週間近く紫紺の巨大な陰茎を受入続けてきたせいか、細いそれに痛みは無い。むしろ、探るように腸壁を撫でられ、そこからじんわりとじれったいような感覚が湧き起こる。
 それが、いつも妙なる快感を生み出す場所へと近づいていって。
「んあっ、ああっ」
 痛いのに、けれどそのすぐ近くで暴れ出した快感の渦が怒濤のごとく全身に押し寄せてくる。現金な身体は、痛みより快感を欲して、僅かだったそれを増幅させて縋り付く。
「熱いな。昨夜の名残か、柔らかく蠢いている」
 揶揄するような物言いで、続いて入ってきた感触に、それが紫紺の指だと気が付いた。
「卵のせいかな、いつもより狭いようだな」
 膣内の卵に圧迫されているのか、そんなに激しく動いていないようなのに、込み上げる快感は強い。
「まっ、待ってぇぇ、ああっ、やあっ、イイぃっ!」
 いつもいきなり陰茎を挿入されて抉られ貫かれることばかりで、その課程で攻撃されることは多かった。そのせいか広げられる苦しみの中で快楽を与えられていたようなものだけど。今はそこばかりを指で責め立てられていて、ピンポイントの攻撃がこんなにも激しいのだと考えることもできない。
「あ、あんっ、お、王子さまぁぁっ、ああっ」
 堪らず縋るように叫んだとたんに、紫紺の指がびくりと止まった。
 それはまるで放り出される寸前に止められたような、別の意味での衝撃があって、「ひぃぃっ」と苦痛を孕んだ悲鳴が上がった。
「な、なんでぇ……っ」
 強請ることなどおこがましいことだとは判ってはいたが、痛みから逃れるために縋っていたものを止められて、堪らずに問いかけていた。涙に濡れた瞳では、紫紺の表情がまともに窺えないけれど。
「名を……紫紺と呼べ」
 不意に、そんな言葉が聞こえた。
「えっ、お、王子さま……あぎっ」
 理解できないままにいつものように読んでしまった直後、卵が押されて苦痛の悲鳴が迸る。
「紫紺と呼べと言った」
「あ、ああっ、も、申し訳っ、ございませっ、あ、し、紫紺さまっ、ああっ、紫紺さまっ」
 理解するより先に、痛みに押されるように呼んでいた。なぜと疑問に思うまなどなかった。
「良い子だな」
 けれど間違いでは無かったのだろう、再び肛門内で動き出した指が、狙い違わず快楽の泉をかき混ぜる。込み上げる衝動に、アイルの喉が裂けんばかりに嬌声を上げた。
 そのせいで、痛みが意識から消える。
「あ、ひっ、ぁぁぁっ! 紫紺さまっ、紫紺さまぁぁ、ああぃ、イぃですうぅぅっ、そこは、イィッ、イイッ!!」
 ぐぐっと下腹に圧迫殻が増す。
 引き裂けるような強い刺激が、腹の奥にある。
 跳ねる腰を押さえつけられて、尻とは違う場所にある指が奥へと大きな異物を押し込んでくる。
 気持ちよいのに辛い。
 痛いのに、気持ちいい。
 相反する感覚に、身体がバラバラになってしまったようで、アイルの身体が衝動のままに大きく仰け反って。
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 グプッ
 何かが腹の奥に入ってくる。
 内臓が中から強く圧迫されて、吐き気が込み上げる。
 けれど、同時に走る快感に、掴んだままの勃起しきった陰茎が小刻みに震えている。
 迸る射精感に、脳髄を痺れさせる快感が、不快感を消し飛ばし、痛みを疼きに変えた。
「入った」
 誰かの声が遠く聞こえる。
 あれは、王子様──否、紫紺様の声。
 白濁した世界に突き落とされた意識の中で、朦朧とした思考が、指摘する。
 紫紺の卵が腹の中にあるよ、と。
「は、いった……?」
 知らず呟いていた。
「ああ、入った。おまえの腹に私の卵が入っている」
 開いているはずの視界は真っ白のままで、けれど下腹を撫でる少し固い感触は判る。
 これは紫紺の手のひらだ。
「これから一年間、おまえが育てる卵だ」
「た、ま、ご……」
 確かに聞いてた存在、その姿を先ほど目にしていた。
 自分の中にいるそれを意識したとたん、何かが身体の奥から湧き出してくる。
「卵……紫紺さまの卵」
 湧き出す何かを感じたくて、目をきつく閉じれば意識が腹の中の卵の存在を感じていた。
 未だ名残の苦しさともに、確かな存在感を感じた。
「それを強い子を育て上げることがおまえの役目だ」
「強い子……強い子を育てます……」
 ああ、育てる必要がある子が腹の中にいる。
 そう考えたとたん、その卵が愛おしいものだと感じた。まるで条件反射のように、それがたいそう大切なものだと頭が認識したのだ。
 それに、紫紺からの命令は従うもの。従わなければならぬもの、だ。
「数日中に卵はおまえの子宮壁と馴染み、おまえの身体を母体へと変化させる。そうなればもっと卵に愛着が湧くだろうよ」
 淡々とした言葉の意味を、アイルは本能で理解した。
 今でも中の卵が愛おしく感じている。これを育てなければと思う。
 だから、こくりと頷き、アイルはそっと閉じていたまぶたを上げた。
「紫紺さまのお子、強い子を育てます」
「良い子だな、おまえは」
 紫紺にそう言われるとほっとする。
 最悪な運命ならば、少しでも楽な方へという考えは、打算のような気がしたのは最初だけだ。今はもう、楽な方に流されても仕方か無いと思っている。
 いつか紫紺が自分に飽きたとしても、今を受け入れて暮らすほうが良い。
 短いだろう人生を、せめて悔いなく生きていたくて、まずは一つ目の試練を乗り切った安心感に、アイルの口元が綻んだ。
「っ」
 とたんに、紫紺が目を瞠った。
 緑水晶の瞳が、アイルの薄桃色を写す。
「紫紺さま?」
 何が起きたのか不安を感じ、堪らず呼びかければ、そんな己を恥じたように紫紺が視線を逸らして。
「強い子にするには刺激を与えなければならぬ。特に今は卵が安定する位置を探している段階だからな。そのために、さっそく使ってやろう」
 いつも落ち着いている紫紺の、少し早口の言葉を理解するより先に。
「んあっぁぁ!」
 張り裂けんばかりの激痛と圧迫感が全身を貫いた。
 太くて大きくて長くて。
 けれど痛みだけでなく、固くて、逆立つ鱗が与える感触を身体は覚えていた。
 全身が大きく震えて、涙が唾液が、そして淫液が溢れる。
「これが薬で緩んでいない穴か。なるほど、今までこれを味わっていなかったことが口惜しいな」
「んあっぁぁっ、ああっ、ああっ」
 開いた口が閉じない。
 ぎゅうっと固く閉じたまぶたを「開け」と言われて開く。
 名を呼べと問われて「紫紺さま」と呟いて。
 解放されていた片手で、紫紺の首に手を回した。それを紫紺が受け入れて、強く身体が密着したとたん、きつさが和らいだ。
「あ、ああ……」
 とたんに深く息が吸えた。
 そして、大きく吐き出して、強張った身体が弛緩する。
「アイル」
 耳朶に吹き込むように囁かれ、さらに身体から余分な力が抜けて。
「おまえは賢いな」
 鼓膜を振るわせる低い声音に、全身が痺れたように感じた。
 何だろう、これ?
「し、こん、さま?」
 少し体温が低い紫紺の身体を前面に感じていた。身体がこんなにも密着したのは初めてのような気がする。
 けれど呼びかけに応えはなく、激しくなった抽挿に、アイルの意識もすぐに快感に捕らわれる。
「んあっ、あっ、あんっ、あ、そこぉっ、だめぇっ」
 腹が重苦しい。
 だけど、激しくも甘い痺れたような疼きが止まらない。
 薬を使われたときより圧迫感も苦痛も強い。けれど、それと同じぐらいにきつい快感を感じる。
 身体が、紫紺が与える快感を覚えている。覚えていて、うまく絡みついている。
「やぁ、卵が、ああっ、壊れるぅっ」
 卵が暴れている。まだ落ち着いてない場所で、何かを探るように回転している。
 そんなに事細かに感じてはいないのに、なぜか深く感じていた。
「私の卵だ、この程度では壊れぬ」
 ばかな考えを嘲笑うように言われているのに、宥めるように目元を舐められた。
「こんなことで壊れぬ卵は不要よ」
 気にするな。
 そんな言葉が聞こえたような気がするけれど、気のせいだったのだろうか。
「んっ、あっ、深いっ、あうっ」
「もっともっと深く銜えろ、こんなもんでは私は満足せぬぞ」
 ぐぐっと切っ先が奥の壁を抉る。
 丈夫な鱗が肉壁をこそげて、鱗下の浸出液を馴染ませていく。
「ひっ、あ、あっぃっ、ああんんっっ、くっ」
 そうなれば理性は薄れ、与えられる快感にだけ捕らわれていった。
「紫紺さまぁぁっ、ああっ、すごぉぉっ、ひあぁぁっ」
「おまえはほんとうに……」
 耳に響いたのは苦笑だろうか。
 言い淀んだ言葉の先はなかったけれど、いきなり前より激しくなった抽挿に。
「やあぁ、イクぅっ! あああっ!!!」
 いつもより激しい絶頂感が、全てを吹き飛ばす。
 一気に宙空に引きずり上げられたアイルの意識が、逆らうこともできずに急速に白い世界に落ちていく。
 深い快感が、華奢な全身を震えさせたことすら、もう記憶に残らなかった。