『劇 「騎士と従者」
一人硬貨一枚もしくはお気に召さなければ無料で、ご覧になれます』
そんな垂れ幕が玄関口の扉の横にぶら下がったのは、その店の開店時刻であった。
肌理の細かな美しい肌を晒し、引き締まった腰がカクカクと前後に揺れ続けていた。
灯りに煌めく金糸の髪が揺れに合わせてさらさらと散らばる。どこか朦朧と薄く開いた中に見える紫水晶の瞳が煤けた天井を映し、虚ろに開いた口の端から幾筋も涎を流していた。
その口からは熱く湿った吐息が零れ、時折、濡れた喘ぎ声が低く高く響いて、冷たいはずの夜気の温度を上げていた。
整った顔立ちには気品すらあったが、その顔に見合った高貴な衣装はどこにも無く、今はその肌を隠すべき布きれ一つ纏っていない。それどころか、晒した全身を紅潮させ、ぺたりと腰を落としたその股間からは粘りをもった糸を幾筋も垂らしているのだ。
虚ろな瞳は、熱と色欲に浮かされているそれだ。
焦れったく揺らぐ身体だけでなく、全身がさらなる欲情を欲して誘っているのだ。
そんな浅ましい姿は、余すこと無く群衆の視線に晒されていた。その青年自身、見られていることに気がついているはずなのに、喘ぎ声を堪える様子も見られない。
そこにいる者達は、高貴そうな彼とはそぐわぬ荒くれた空気を纏う集団だ。
その日暮らしか、何らかのすねに傷持つ身だろうと容易に推測できる輩ばかりが、そこで青年の浅ましい踊りを好奇と嘲笑の中でじっと見続けていた。
もともとこの地区は、いわゆる貧民窟と言われる中でも特に犯罪者の巣窟となっているところだ。力と金だけが拠り所のこの地区で、弱いものはさらなる奈落に追いやられる。その中で生き残っている彼らの顔には、青年を哀れむ色などどこにもなく、ただただ、面白い見世物だと、嗜虐に満ちた視線を浴びせるだけだった。
まして、そこは娼館だ。しかも、借金で売られた者、捨て子や親に見捨てられた者達を集めて、娼婦や男娼──実質、使い捨ての性奴隷扱いで働かせている店だった。そんなと店に集まる輩なにくわえ、さらに扉が開放されているせいで外からでも中の様子がよく見えるから、いくらでも新しい観客が入ってきていた。
いくら一番奥にいても白い肌はよく目立つ。まして蹲ることすら許さないとばかりに、天井から伸びた細い鎖で上体が崩れないようにされているのだから。
青年は、立ち上がれないように背後で手首足首を無骨な枷と短い鎖で固定されていた。天井から首に繋がる鎖はわずかに背を曲げられるかどうかという長さで、もう一本の鎖が尻側から上へと伸びていた。
その身体が時折ぎりぎりと引っ張り上げられ、膝立ちになったとたんに崩れ落ちる。そのたびに甲高い悲鳴のような嬌声があたり一体に響き、それもまた新たな観客を呼び寄せていた。
嬌声とともに流れる滴は揺れた身体とともに振りまかれ、薄汚れた床に淫らな染みをいくつも作り、白い肌に似た、白濁した液だまりが転々と散らばっていく。
絶叫のままに開ききった口、見開かれた眼が落ち着く間も無く、すぐにまた引きずり上げられて。
今度は膝で体重が支えられるぎりぎりのところでしばらく止まった。
快感に染まった身体が、苦しさに色を失う。理性を取り戻したかのように、恐怖の色を浮かべた青年がヒイヒイと首を振り、懇願するように天井の鎖の先を見つめたけれど。
好奇と期待の口笛があちらこちらから響く。
青年の尻から腰に起ちあがる太い蛇型の淫具の、尾側がどこに埋まっているのか容易に想像できたからだ。
そんな視線の先で、かくんっと身体が落ちる。
「あぁぁ──っ!! あぁぁぁぁぁ……」
不自由な身体が艶めかしく踊った。
青年の近くにいた者は、嬌声の中に規則的な音を聞き取っていた。尻が深く銜え込んだその音の源を凝視している者もいた。
「あ、あぁ……してぇ……ぁぁやあ……、も……やめ……て……」
懇願と制止の言葉を紡ぎながらも、堪らないとばかりに腰をくねらせ、白い尻たぶの狭間で自重で引きずり出された粘つく粘液で覆われた淫具をひくつかせる。実のところ、奴隷の公開調教を見慣れたこの地区の民であっても驚くべき太さのそれは、彼らの卑猥な性欲をさらにそそるモノだったのだ。
その尻の狭間から尻尾のように起ちあがるそれの先端は、エラを大きく張った蛇の頭部を模していた。さらに、人の手首ほどにも太いからくり細工の胴体が機械仕掛けによって前後左右に揺れまくっているのだ。もちろん、その尾側は青年の体内へと消えていて、外の動きをそのまま中へと伝えているのだと邪推するには十分な代物だった。
太いそれを飲み込んだ尻穴の縁はめくり上がり、身体が上へと上がると重たい淫具はずるりと出かかり、そしてまた激しく飲み込んで。出入りの度に、湿った音と滴をばらまいている。
「ひぐっ、うんんっ、んっ、んぁぁっ……」
繰り返される上下運動に、青年の声音の甘さが増していく。
堪らないとばかりにあえかな嬌声を上げて腰を振るたびに、両足首にまとわりつく鎖が硬質な音を響かせ僅かな振動を響かせた。そんな振動にすら口角から涎を垂らして喉を晒し、さらに剥き出しの会陰部を床へと擦り刺激を貪っている。
「やぁ……ぁぁ、もぅ……おぉ……ああっ、イキた、ぃ……ぉ……ぉぉ」
こみ上げているのだろう射精衝動に零す艶めかしい喘ぎ声は浅ましい強請りを含み、誘うように何度も腰を突き上げ続けていて。
けれど、残念ながらその勃起しているはずの陰茎は、実のところはっきりとは見えない。
そこは確かに天を向いていたけれど。けれど、見えるのは無骨なほどに太く丈夫な金色に輝く透かし彫りがされた筒の隙間からだけだった。その先端と根元には天井から伸びた鎖が固定されていて、故にそれはずっと天を貫くように上を向いている。
垣間見える青年の肉色の塊は育ちきっており、筒など無くても彼の若さであれば十分な角度を保っているだろう。
さっきから引っ切りなしに筒の模様の隙間から、だらだらと粘液が溢れているのは、その筒もまたずっと鈍い音を立てて振動しているからだろう。男としてもっとも弱い部分に受け続ける刺激は、もどかしくも堪らないモノなのだろうことが、彼の腰の揺れを見ているものには伝わっていた。
尻からの快感だけでないそれに、青年の表情が蕩けきっていた。
加えて、乳首には形が変わるほどに強く挟む金具に鈴がぶら下がり、身悶える度に軽やかな音を立てて鳴り響く。
まだ年若い、美しい顔立ちをした青年の飾るさまざまな淫具が与える刺激を想像するだけで、周囲の男達は何度も生唾を飲み込んでいた。中には、服の下で勃起してしまった己の性器を堪らずに握り締めている者もいるほどだ。
彼らは実際、この淫らな見世物の遭遇をたいそう悦んでいた。
さらに、青年の容姿や素肌の美しさは労働と縁の無いある一定以上、しかも貴族階級以上となるとなおさらだ。
常ならばこんな見世物などにせず、お忍びで来る重要な客にあてがうはずのレベルだ。だからこそ、一度立ち止まった観客は決して動かず、観客は増えるばかりで、今や彼の周りに幾重にも輪ができていた。
その中心で、彼の薄い腹がひくりと強ばり、汗にまみれて灯りに艶やかに煌めく身体が動きを止める。天を仰ぎ、紫水晶のように澄んだ瞳を揺らめかせ、口元から零れたそれは聞く者の欲情を煽る淫らな喘ぎ声だった。
ハグハグと唇が意味も無く動き、白と赤が震える。
色づいた唇から覗く薄い舌は別の生き物のように蠢き、白い歯をつっと舐めて。
その姿に、男達が低く呻き、前のめりになっていく。
「た……すけ……てぇ……」
焦点の合わない濡れた瞳が、誰とも無く男達を捕らえる。掠れた懇願を音にして、カクカクと腰を突き上げながら。
「ねぇ……んう……んっ……」
希う彼の筒に守られたその根元にある、太い錠前付きの枷が灯りに反射していた。
たまに散る白濁の量はたいそう少ない。
それよりも透明な粘液の方がよっぽど多い。
その原因があれのせいだと、観客達は説明など無くても理解していた。
だからこそ誘うような彼からの視線の意味に気がついて、それを向けられた男がゴクリとのど仏を上下させる。思わずふらりと動きそうになる身体は、かろうじて周りの人間によって止められた。
見世物に触ることは厳禁なのが、ここでの決まりだ。
ましてあんなふうに枷が幾重にも付けられた奴隷は、誰も助けなどしやしないだろう。
放置こそが、何よりも青年を苦しめ、貶めてくのだ。
誰も手をだしてくれないと気がついたのか、青年が悲しげに俯いて、その拍子にほろりと涙が伝う。だがすぐに快感が押し寄せて、堪えることができないとばかりに淫らな踊りを再開した。
先よりさらに肌を紅潮させ、誘うように腰を揺らめかせ、胸の鈴を鳴らしていく。
「……して……もう……許して…ぇ…。っ達か、せて……ぇ」
叶えられない懇願が彼の唇から零れて続ける。
それは、とても小さな音だったけれど、幾重にも壁を作った見物客達に決して聞こえない訳では無い。
そんな彼に向けて、新しく加わった観客がクスクスと嘲笑し、浅ましい姿のご褒美だとばかりに、僅かな小銭がばらまかれた。
この国でもっとも小さく低価値である硬貨は、軽い音をたてて転がり、彼の股間の下の液溜まりで止まってパタと倒れる。
集まっている硬貨すべて集めても、近隣の飲食店で酒の一杯も飲めぬ金額に、観客たちの顔にさらに侮蔑の嘲笑が浮かび上がっていた。
「騎士と従者」
そんな垂れ幕に寄せられた観客達は、この先への期待を口々に囁きあっていた。
従者はここにいる。尻に蛇を銜えて踊っているのが、従者だというならば。
ならば、『騎士』はどこだ? と。
単に晒すだけならば、あんな垂れ幕など出しやしないだろう。
いつもの公開奴隷調教であれば調教役となるその存在は、従者役の美しさとその意外なほどに太いモノを悦ぶ穴の存在もあって、いやがおうにも期待が集まる。
汗を振りまき、欲にまみれて赤く染まった目を濡らし、すっかり馴染んだ太い蛇を揺らす従者が遣える騎士とはどんな存在なのか。
青年にばかり集中していた観客であったが、たまたま一人が何かに気を取られたように視線を横に動かして。
「あ……」
小さな叫び声はすぐさま近隣の他の観客の耳に入り、視線が次々と扉の方へと向けられる。
ああ、その刻が来たのだと皆が気付いて、彼らは一斉に口を噤んだ。同時にその耳に、最初は短く小さくなる音が五回、それに続いて大きな音が二回届く。
それはこの店で、日付が変わる時に鳴る鐘の音だった。
その音の余韻が終わるにつれて、観客達は自然に青年の前から脇へと避けて道を作った。そこに新たな人物──全身全て、顔すら甲で覆い隠した甲冑姿の騎士がいたからだ。
その姿に、どよめきのように観客達の期待に満ちた吐息が響く。
カチャ、ズシッ。
騎士が足を進め始めると重量のある金属の塊が鈍い音を立てて、ゆっくりと青年へと向かう。
「ぃ、あ……っ、あっ……」
熱に浮かされ忘我に満ちた青年の瞳が大きく見開かれ、ついでへらりと呆けた笑みに変わった。
迫る騎士の姿に、赤子が親を求めるように鎖いっぱいに前のめりになって、迎えている。
騎士が唯一覗く冷たい瞳で青年を見やり、金属や革でできた手甲や小手に包また手を伸ばしてくる間も、青年は背中の枷に引っ張られる身体を伸ばして、自ら迎え入れていた。
だが、その手が掴んだのは天井から伸びている鎖で。
「ひ、ぎぃっ」
自由にならぬ身体でそこだけを強く引っ張られ、醜い悲鳴を上げた青年に、騎士は呆れた風で言い放った。
「一日で礼儀を忘れ、涎を垂らして迎えるか。しかもこのようなところで媚びを売り、誘うておるとはな」
その言葉に、痛みを噛みしめた顔がびくりと引きつり、震える唇が小さく開いた。
叱られた子供のように、所在なさげに瞳を揺らし、深く項垂れる。
「ご、ごめんな……さい……、あぁ、お、お、おかえり……なさ、ませぇ……だぁん、な……さまぁ……」
「ふむ、一寸も欲が止まらぬ色情狂といえど、遣えるべき主の姿は忘れておらぬようだな」
喉の奥を震わせながらの嘲笑に、青年はコクコクとうなずき、羞恥に頬を染めて俯いた。
だが、無情にも鎖が引き上げられ、食い込む痛みにペニスを守るように腰を浮かせて騎士を見上げる。
「色狂いのディレンネン、主への挨拶がそれだけか?」
「も、申し訳……ありません…、だんなっさまぁ……ませっ、ん……あぁ、もうし……ありま……ん」
痛みを堪えて途切れる言葉に重ねて、喘ぐように謝罪の言葉を繰り返す。さらにディレンネンと呼ばれた青年は、手足首を背側で拘束された不自由な身体を捩って、主たる騎士の鎧で覆われた股間へと顔を近づけた。
「お、お帰りを……お待ち、して、おりま……た、だ、んな……さま…に……ご挨拶を、させてください、ませ」
無理な姿勢に、苦しげに唇から舌を垂らし、喘ぎながら騎士の股間を覆う板に口づける。
深く、強く。
ねとりとした唾液が板の上を流れてもまだ離すこと無く、愛おしげに舌を這わしていく。
そんな彼の背後に回った観客達からは、彼の尻の狭間に生える蛇が目に入っていた。それは、潤滑剤だけでなく粘液で濡れそぼり、生き物のように震えている。胴体は尻の狭間に消え、その尋常ならざる大きさの胴体部は、大人の手首にも近い。
細い腰と薄い尻タブから突き出るそれは、あまりにも卑猥で、観客達の目がぎらぎらと欲望に瞬いた。
「色情狂のディレンネン」
騎士が嘲う。
「このような群衆の中で、無様にも勃起を晒し、淫らな粘液を振りまくとは、愚かな国の王子らしい姿よ」
とたんに、周りの観客が声を立てて笑い出し、侮蔑の言葉を青年に投げかける。
色狂いのディレンネン。
寝ても覚めでもチンポのことしか考えてねぇ王子様だ。
露出狂の淫乱野郎で。
チンポが無いと生きていけない変態王子様。
そう皆に呼ばれながらも、彼は騎士の股間の板に唇を押しつけたままだ。ちろりと覗く舌が、その奥の生身の肉を欲するように蠢き惑う。
「ああ、そうですぅ……私は、おチンポ様がぁ、大好きな……変態でぇすぅ、どうか…っ……おちんぽ様……ご挨拶を……っ……」
小さな嗚咽と懇願が、言葉に混じっていた。
観客達の言葉は耳に入っているだろう。けれど、ただ呆けたように騎士に縋り付いて、淫らに誘い続けることを繰り返すだけだ。
その姿に、自分のペニスを舐めて欲しいとばかりに苛立たしげに舌打ちする者もいた。
けれど、ディレンネンと呼ばれる彼が、あのまま許されるとはとうてい思ってもいないのも事実だ。
何しろディレンネンとは、憎むべき敵国の王子の名なのだ。
姿形は噂では美しいと言われているが、この国ではその名は忌み名でもあった。さらに美しいが故に、下世話な官能小説や陵辱ネタの主人公などの名としてたびたび使われており、性奴隷にその名をつけて蔑む輩も多い。
なにしろ、彼の敵国はいつの戦でも残虐非道な行為を繰り返し、非戦闘員の女子供すら皆殺しにされ、生き延びたものがいても奴隷として売り飛ばされ、国境沿いの村や町をいくつも全滅させていた。
そんな国の王家の人間など、どんなに美しく気高い姿だとしても、この国の民ならば憎悪しか浮かばない。
しかも、今ここにいる観客達の何人かは、その戦のせいで身体を壊した者、家族を失った者が少なからずいたのだ。つい数ヶ月前、ようやく迎えた停戦で多少は安堵している民達だが、それでもその傷は深い。いくら自国が有利な停戦交渉で多額の賠償金や宝を受け取ったとしても、民の間に不満は途切れること無く残っている。
そんな中での陵辱劇で、その名を持つ彼が浅ましく色に狂い乞う姿は、荒んだ生活の中にいる彼らの欲望を常以上に駆り立てていて。
「罰を与えろ」
「ああ、そうだ。淫乱な従者にお仕置きを」
「二度と主に逆らわぬように。ディレンネンなど……」
色欲と負の感情が入り交じり、呪詛のように煽る言葉が繰り返される。それは、さらなる仕置きという名の陵辱が続いても止まることなどなく、さらに激しく強くなる。
淫具が増やされ、四つん這いで引き回されて。
自ら穴を開いて、淫具を使い。
床の汚濁を薄い舌で舐め尽くす。
その間も、異様な熱気は収まること無く、続いていた。
色狂いのディレンネンを演ずる青年の痴態は、外の闇がさ薄くなっても終わりが見えなかった。
もはやこれが「劇」だとは誰も思っていない。思っていなくても配役は変わらず、主である騎士の言いつけを守れぬ従者に仕置きを下すというその主題も変わらない。
従者は騎士からの叱責を繰り返し受け、そのたびに謝罪のために四つん這いに這い、尻を高く掲げて土下座をして己の浅ましさを皆に詫び、罰だと尻に銜えた淫具の蛇を激しく抽挿されて。
泣き叫び、懇願し、嬌声を上げて許しを乞う。
そのたびに、ディレンネンのもので無い淫臭が観客の方からも漂い、引きずり出された店の娼婦、男娼という名の性奴隷達がそこかしこで犯される。
淫靡な空気に皆が狂っていた。
何より、あれはただの奴隷では無いのだ──と、観客達は敵国の王子の名に過敏に反応し、より興奮していたのだ。
「あゐぃぃ、おっきぃぃっ、ああっ」
淫猥な空気の中心で騎士はあぐらをかいて座っており、その膝の上に背を向けてディレンネンは座らされた。
とたんに上がった悲鳴は、けれど歓喜に満ち満ちたそれだ。
騎士の手が彼の両方の太股を割り開き、高く掲げさせれば、ディレンネンの尻穴が銜えたそれがよく見える。
店の従業員がやってきて、高く掲げた足首に外した鎖を結わえ付ければ、ディレンネンは尻だけで体重を支えた姿になった。大きく割り広げられたせいで、ねっとりと濡れた陰毛も、金の筒に包まれた勃起も、ふっくらと膨れた会陰も、そしてシワが無いほどに伸びきった穴まで、何もかもが丸見えだ。
騎士が太股を支えたまま腕を持ち上げれば、尻穴から鈍色に輝く太い杭上のものが覗いてきて。
離された身体は、勢いよくその図太い杭へと落ちた。
「あぎぃぃぃ──っ、ぎっ、いぃっ──……ぁぁぁぁ……んん」
尻穴から散った水音を掻き消す悲鳴が彼の喉から迸る。
けれど、悲鳴の中にあるはずの苦痛の色は少なく、すぐに蕩けきった顔がさらに甘く、強請るように崩れていく。
先ほどまで尻を穿っていた蛇は、今や役目を終えたとばかりに彼らの傍らでとぐろを巻いていた。代わりにディレンネンが銜えていたのは、騎士の股間から起ちあがる金属製のペニス型だった。
騎士は、そんなところですら金属の鎧──否、ペニスの形をしたモノで覆っていたのだ。
もちろん、いくら薄い金属版であっても、当然生身より一回りは太い。だが、先ほどの蛇すら細く見えるそれを銜え込んでも、だらしなく歪んだ唇から涎を垂らして、ディレンネンは歓喜の声を上げて踊っていた。
その身体はそんな太いものでも慣れているようで、決して裂けること無く、深く、乱暴な抽挿に悦んでいたのだ。
動く度に鈴が鳴る。
勃起から溢れ出た粘液が、筒が揺れる度に辺りに散っていた。
「んあ、達きた……、ああ、も、だしたぁぁ……ぃ、イイのぉ……おお、もっとぉぉぉ、イキたぁ……」
堪えきれない射精衝動に、ディレンネンが熱の籠もった声で強請る。
枷を外された手が伸びて、たまらないとばかりに金の筒ごと陰茎を掴むけれど、透かし模様の僅かな隙間からは指が通らず、焦れったくその筒を揺り動かしていた。
その姿に、苛ただしげに騎士が手前の三人の観客を呼んだ。
そんな彼らに、天井から伸びた鎖を持たせ、自在に動かすように命令を下す。
それぞれ違う観客が持たされた鎖は三本。左右の足首に陰茎の根本の枷に繋がっているそれら。
「主の帰りもおとなしく待てず、愚かに己の欲だけを願う淫乱従者の罰を手伝ってくれ」
そう言われて、断る観客はいなかった。むしろ、自分が選ばれなかったことを悔しがる言葉ばかりだ。
幸運に巡り会えた三人は、喜び勇んで力任せにそれを引っ張っては緩める。
「あぁっ!! いやっ! ひぎっ、ああっ、ひぃぃっ」
その激しさに、鉄の陰茎を銜えたときすら残っていた甘い声音は消え失せた。
右に左に身体が揺れる。
落とされながらも陰茎が引き上げられ、痛みに泣き叫ぶ。
ディレンネンは、ただただ予期せぬ動きと刺激に、痴呆のように悲鳴を上げ、髪を振り乱し、涙を流して狂いまくった。
それでも背後の騎士は威風堂々と構え、自らの膝の上での痴態を、唯一覗く瞳で冷たく見据えるだけだ。
「主を達かせたら、許してやろう」
重々しくもたらされたその言葉に、観客から歓声が上がる。
「鉄のチンポを達かせることができたなら、まさしく従者の鏡だな」
観客の一人の言葉に、皆が笑った。
その時だけ、騎士の瞳も僅かに変化した。
だが、そこに浮かぶのは深い執着だと誰も気づかない。
「余だけを求め、余だけを悦ばせよ。それだけがお前の生きる術。間違い、逆らい、逃げようと考えるだけでどうなるか、その身をもって知るが良い」
騎士が呟いた言葉は鎧の中でくぐもって、観客達の賑やかな歓声の中では目の前のディレンネンすら聞き取ることはできなかった。
「主のよりも己の欲望ばかり、まことに愚か者よ。これではいつまでも終わらぬ」
明けの空がしらみ始めたころ、芝居がかった声音が響いた。
「だが、時は過ぎた。この続きは我が館だ」
それもまた、最初から準備されていたのか、たまたまそのタイミングだったのか。店の玄関口に、たいそう身なりの好い従者とたくましい馬が待っていた。
騎士がディレンネンを引きずり馬へと近寄った時、その従者が恭しく騎士へと何かを告げた。
「どうやら仕置きはまだ必要なようだな」
笑みを含んだ宣告だった。
そのまま乗馬した騎士の前に、言葉の意味も理解していないほどに朦朧としたディレンネンが乗せられる。
「アヒッ、イィっ」
びくりと硬直した身体が、騎士の鎧の腕で固定されていた。その身体が、また深く蛇の淫具を銜えているのは、周知の事実だ。
固い鞍と身体の間にいる蛇は、ますます尾を奥へと潜らせたのだろう。
「屋敷に戻り、とくと躾けねばなるまい」
劇の終わりを宣言し、馬が歩み始める。
途中だと言われても、観客達から苦情などは出ない。何しろ、珍しく大盤振る舞いとばかりに提供された性奴隷達との饗宴に明け暮れた観客達はすでに半分がその身を床に投げ出していて、意識のあった大半のものもどこかぼんやりと彼らを見送るばかりだったからだ。
そんな彼らは、誰も気がついていなかった。
ディレンネンの浅ましい姿に気をとられすぎていて、ほんの小さな耳の飾りの形など、目に入っていなかったのだ。
陵辱劇の間、時折その耳朶に騎士の口元の隙間から吐息が吹きかけられて、その耳朶にある、出自を語る一対の紋章が白く曇ったことも。
ユリの花弁に二振りの剣。
民が憎む国の紋章が、鎧に当たり小さな音を立てていたことなど、まったく気がついていない。また同時に、馬とともにいた従者が騎士に囁いた言葉も、返された言葉も聞き取ったものもいなかった。
けれど、そんなことは、彼らの満足度を軽減させるものではなかったのだった。
『情報通りでした。襲撃者は彼の者の親衛隊……三人捕獲、いずれも軽傷とのことです』
『ちょうど良い。それを奥の院の淫魔の間に備え付けてやれ。これと遊ばせてやろう』
『準備はできております、陛下。淫乱なディレンネン様もたいそうお喜びになられましょう』
『そこで満足してくれるなら、このようなところに出てこずとも良くなるだろうよ』
『御意』
ディレンネンがその言葉通り満足したかどうかは不明だが、少なくとも今回のような見世物に彼が出て来ることはなかったのは事実だった。
【了】