【淫欲騎士 休養】

【淫欲騎士 休養】

 三ヶ月。
 その短いようでやはり長い月日は、私がアレに触れていない期間だ。まあちょうど恒例の地方巡回などに忙しく、ちょうど良かったと言えばそうなのだが。
 それでも、あの一度味わえば忘れられぬほどの、熱くまとわりつく滑った名器の味を、こうまで味あわずに過ごすなど、通常では考えられないことだが、残念ながらあれは今は使えず、家としたあの建物の中に監禁状態となっている。
 もともと私のために働く親衛隊だから、少々姿が見えなくても、何ら疑われるものでも無い。
 この国では性に対して若干奔放ではあるし、王族が子孫を残す以外での性交渉相手は男を使うのは良くあることなのだ。さらに私の性癖も、大臣とか主立った貴族には知られてることではあって、親衛隊は、私の性のお気に入り達の中でも腕が立つのを揃えた——正確には腕が立つからこそ、犯したくなったのだが——者達だということも知れ渡っている。
 だが、三ヶ月の長きに渡る監禁は、淫乱でペニス大好きで虐められると興奮する変態モリオンのくせして、隣国皇国の聖騎士で私の親衛隊員という立ち位置からして、ちょっとばれると厄介で。
 だもので、今はアレは「休養」中で、この国に馴染むために近辺などを旅しているということになっている。
 だが、それももう終わる。
 私は今、アレがいる建物に向かっていた。
 窓の大きな明るい石造りの建物は、本来王族が閉じこめたい者がいる場合に使う場所だ。許可の無い者は決して入れず、また逃れる事もできないよう呪術によって出入りは戒められている。
 皇王のためにと聖騎士にあるまじき嘘を吐いて自ら許可を願った日、その皇王の本性を知り得たモリオンはたいそう衝撃を受け、さらに長旅の疲れのせいもあり、帰宅後発熱して寝込んでしまったが。
 何とか回復した直後、一人の訪問者が皇王の招待状を携えてやってきた。
 それが、皇王に頼んでいた彫り物師だと知って、私は即座に彼の言うがままにあの建物内で住まえるようにしたのだ。
 そういえば、犯すところを見せて欲しいと言われて、回復するまで我慢していた我々は、拒絶することなく楽しく遊んだのだが。
 その時のアレの姿を何枚もの絵にした彫り物師は、次の日私に一枚の絵を見せた。
 それは、描こうとする彫り物の概略図で、私は——あの、黒い墨で書かれただけのその線画に、さんざん犯して満足したはずの下半身が、再度熱く滾るのを覚えたのだった。
 たかだか一枚の紙に描かれた、何とも簡単な図だというのに。
 背筋に走るこの悪寒と、肌を蝕む疼きは一体何だというのだ、と、未だにあの時の興奮を思い出す。
『……これは、皇王殿にもお見せするのだが……』
 ごくりと息を飲み、ただ唯一の気がかりを向ければ、皇王の依頼を何度も受けたという彫り物師は。
『皇王殿のご趣味にも合っております故、心配にはございませぬ』
 きっぱりと言い切って。
『三ヶ月弱いただきとうございます。下絵を描き、彫りを入れ、色が定着するまで。その日が来るまで、アレで遊ぶのは控えていただきさえすれば、必ずご満足頂けるものができあがるでしょう』
 自慢げに宣うそれに、私はさすがに躊躇ったが、下絵だけでこれほどの衝撃を覚えた事を考えて。
『良かろう。三ヶ月後を愉しみにしておる』
 その日以来、私はアレに会っていない。
 だから。
 指定された時間が来た途端に、逸る気持ちを押さえつけ、同じように勢揃いした親衛隊員達を引きつれて、アレの家となっている建物に向かう。
 普段は、窓を遮るものもなく中が窺えるその建物は、作業に入ってからずっとぶ厚い垂れ幕がかかっていて、中を窺い知ることはできなかった。
 けれど、それが今日は外されているのに気づき、口角が自然と上がってしまう。
 美しい花が咲き誇る庭の中に立つその石造りの建物に足を踏み入れれば、明るい陽光が部屋の奥まで差し込んでいて。
 天上からぶら下がる鎖も、床の杭も、壁際に並ぶたくさんの淫具や玩具もそのままで。
 ただ、皆で遊ぶためにしつらえた特大の寝台が前とは違うところだ。
 その寝台の真ん中に大の字で人が伏せっているのが判るが、その全身は白い布で覆われており、窺い知ることはできない。
 もっとも、満足げな微笑みを浮かべたあの彫り物師と、小さく唸る声とに、期待はますます高まった。
「これは、陛下。お待たせいたしまして申し訳ござませんでした」
 深々と下がる頭に、「よい」と声をかけつつも、視線は、布の下の膨らみから目が離せない。
「もう良いのだな?」
「はい、私の持てる力を最大限に施した、最高傑作と自負するものでございます」
 その手が、布にかかり、止まる。
 その僅かな間に、ごくりと喉が鳴って。
 ふわりと視界を布が塞ぎ。


 
 視界に入ったその姿は。
「……!!」
 それは、呼吸を忘れるほどの衝撃だった。



 大の字で手足を拘束されて白い寝具に俯せにされているモリオンの背中から、目が離せない。
 目を射るような鮮やかな色合いはどこにも無い。
 淡い色合いだけなのに、コレの肌に合わせた朱金の線がその輪郭を描き、その輪郭から外側には巧みに影が彫られ、内側に朱金が滲み、まるで浮き上がっているように見えた。
 そう、そこに、まるで太股から先の小柄な男が横たわっていて……悶えているようにしか、見えないのだ…………。
 しかも。
「……あれは……タコ……」
 背後の隊員の一人の譫言のような言葉に小さく頷く。
 ああ、そうだ。
 海の悪魔と蔑まれる——無数の吸盤をそなえたたくさんの腕、滑る身体、おぞましい口を持つ軟体生物だ。
「あの下絵より……これは……なんと凄まじいことよ……」
 左の肩にはタコの目や口の部分が乗っており、醜くブヨブヨとした瞳が、逃れようと身を捩らせる青年を見下ろしていた。
 その場所からのたりと滑めった太い腕が降りて、両方の肩先にある青年のそれぞれの太股に巻き付いて、大きく割り開き、さらに腰へと伸びている。
 モリオンの盛り上がった肩胛骨に描かれているのは、ふくよかながら張りのある尻タブ。今は腕を広げているせいでその感覚は広い、けれど。その肩胛骨の狭間に描かれていたのは、なんとタコの腕を根元近くまで飲み込んだアナルなのだ。シワ一つ無いほどに伸びきったそれは、他よりは少し濃い色を晒し、汁を垂らし、自分の手よりも太い腕を銜え込んでいて。
「このタコは雄でございます故に、この埋もれているのはタコの生殖器でございます。と言っても、他とあまり代わりが無いのですが」
「そうなのか?」
 タコの生殖器が腕とは知らなかったが、だが、よくよく見ればその埋もれる辺りにある浮き出た筋は血管を模しているらしく、裏筋にような筋にも気づき。
 そうと一度認識してしまえば、歪な吸盤を持つひどく醜い極太のペニスにしか見えなくなってしまう。
 さらに大きく割り広げられている間から首筋に向けて伸びているペニスは、その筋から皮膚の色、開ききったエラに、ぱくつき異物を飲み込みながら汁を零す鈴口と、たいそう精巧に描かれていた。
 それに絡みついているのは透明なクラゲだ。長く伸びる触手が幾重にも絡みつき、絞り上げているのが透明だからこそよく判る。それほどまでにペニスの表面は凸凹していた。しかも、その触手は無数の棘をもっているのがありありと判るのだ。あんなもので締め付けられて、けれど、勃起したそれはあまりにも元気で。
 張り出したエラから先はモリオンのうなじの窪みに描かれ、鈴口が飲み込む異物は、よくよく見ればクラゲの触手の一本だった。
 うなじは親衛隊の服から出るな、とふと乗り出すように見ていた隊員の首筋を見て気づき、襟足の間から覗く淫らな汁まみれの肉の頭は卑猥だろうなと、想像してほくそ笑む。
 さらにその絵の青年の身体はエビ反りになりながら捻れていて。
 乳首はちょうど腰の背骨の右側の窪みに二つが並ぶように、ぷくりと大きく描かれていた。
 その根元にいるのは、大きなハサミを持ったエビが二匹。乳首を切り取らんばかりに挟み、大きく勃起した乳首の先には、噛みつかんばかりの鋭い歯を持つ小さな魚達が遊んでいた。
 その身体は、タコの腕やら海藻やらで、身動きとれないほどに繋がれているのに、だが、どう見ても、無駄な足掻きで藻掻いているようにしか見えなかった。
 そして、その青年の顔は、ちょうど左の尻タブの上で、アナルに向かうように少し横を向いていたけれど。
「へ、陛下……、この顔はどう見ても……」
 いつもは冷静な隊長ですら口ごもる理由に、私も頷く。
 半ば白目を剥いた蕩けた表情は、絶頂を迎えまくって理性を飛ばし、与えられる快楽に溺れきったモリオンだったのだ。
 その本物に負けじ劣らずの精巧な描写に、何度目かの息を飲む音が大きく響く。
 ああ、この顔だ。
 凛とした聖騎士の姿で、警戒を劣らぬ鋭い視線を放つ表情は、それはそれ、美しいけれど。
 この卑猥で淫らに蕩けた顔こそが、このモリオンをもっとも淫靡に際立たせるものとして、私の一番のお気に入りなのだ。
 この顔をぜひ正気の本人にも見せたいと思っていたが、これからは鏡一枚でいつでも見せることができるだろう。
 よくよくみれば、大口を開けて旨そうに銜えているこのタコの腕もまた、ペニスを模していると気が付いて。
 ああ、まさしく涎を垂らしているところもそっくりの、ペニスを銜えている時の顔だと、再認識する。
 それに。
「……指が……」
 今やモリオンにしか見えない青年の伸びた両手が目指しているのは、なんと、本人のアナルで。
 特に片手は尻タブを広げようとしているかのごとく指先が肉に食い込み、一番太い親指をアナルへと潜り込ませていて。さらに、それと共に埋もれているのは、やはりタコの腕だ。
 他より細いけれど、それでもやはりペニスの形のそれが、今はすぼまっているはずのアナルを押し開いて潜り込んでいるようにしか見えない。
「あんな敏感なところ……よく彫れましたね」
 隊長の言葉に、彫り物師がニヤリと嗤う。
「尻タブを押し開き、張り型で穴をシワが無くなるまで限界まで開き、極細の針で色を入れまする。いくら痛み止めを使っても、どうしても暴れるものですが、この国の妙薬はたいしたものでございますな。暴れるどころか、快感の汁を噴きだしながら身悶えるモノですから、そちらを押さえる方が大変でしたよ」
「ああ、あれか。痛み止めが必要とは効いていたからな、私が用意できる最高級品を準備した。まあ、ちょっとコレ特製として、媚薬の効果を追加したが……まあ、いつものことだな」
 消毒薬から胃薬、風邪薬まで。
 コレに与える薬にはたいてい媚薬が入れるのは、あまりにも普通のことになっていて。
 準備を頼まれてたとき、ついつい混ぜてしまったことを思い出す。
「まあ、それはそれ、おかげさまで、いろいろと楽しい趣向がまた思いつきまして、良い絵ができあがったと思いますよ」
 その意味ありげな言葉の真意を問いただそうとして、けれど、再度視線を向けた背の彫り物に魅入られる。
 描かれた海の悪魔と呼ばれるタコによる陵辱図は、それほど色が載っている訳では無い。
 だが、だからこそ、モリオンの肌の色に馴染み、まるで生きているかのように際立たせる。
 しかも、彫り物師が手足の枷を外し、その身体を抱え上げたとき。
 狭まった肩胛骨の尻がきゅっと彫り物であるアナルを引き締めて。
「なんとまあ……旨そうにペニスを銜えることよ」
 ぞわりと背筋に震えが走ったのは、私だけでは無いだろう。
 身体を起こすために捻られた腰では、まるでタコの腕がぬめりと動いたような。
 魚の歯が乳首に食らいつき……エビのハサミが千切ろうとしている。
 尻タブが押されて、歪むペニスを銜えた顔がさらに卑猥に見えてしまう。
「まことに……評判に違わぬ技、よ……」
 堪らず賞賛の言葉を与えたその時。
「!!」
 くるりと向けられたモリオンの身体の前側が視界に入った途端、続くはずの言葉を失った。
「背は海獣繚乱図、こちらは、蛇鬼陵辱図でございます」
 その声音に感じる、明らかな愉悦に満ちた色。
 そして、自分の作品を背負った者に対する蔑み、侮蔑、そして悦びが明らかに含まれていた。
 口角を上げて嗤う以外はあまり表情を変えなかった男の、その頬に乗る色、興奮して潤んだ瞳は、恍惚と震え、その熱い吐息がうっとりと毒の孕んだ言葉を零す。
「蛇の身体を持つ蛇鬼に魅入られた青年は……無数の蛇により永遠に嬲られるのでございます」
 ああ、この彫り物師は。
 彼は、自らの作品を載せる者を憎み、蔑み、意のままに辱めようと思うからこそ、ここまで生きた絵が描けるのだ。
 ちょうどタコの顔の反対側。
 タコの色が滲み輪郭もあやふやになった場所から、無数のヘビがその細長い身体を伸ばしていた。
 そのどれもが、ずんぐりとした肉付きに、その表面には縦じわのような膨らみを這わせていて、一度くびれたところから大きくエラを這ったような顎を持っていた。さらに、三角の形をした頭、なぜか縦にわれたような口先。ちろちろと覗く赤い舌は、根元から二本に別れ、自在に動くようだ。
 そんな蛇が、乳首を銜え、両脇に潜り込み、臍をほじくり、ペニスに巻き付き。背にあるタコの腕と絡みあって、身体を拘束する蛇もいて。
 そして、肩から降りてきた特に太い二匹の蛇は、腰を這い、太股で一周から二周した後に。
「い、いやっ……」
 彫り物師がモリオンの両足を抱え、我らに向かって大きく割り開き、その腰を背後から押して突き出させる。
 そのせいで、奥の狭間まで明かりに照らされて。
「お、おお」
 思わず零れた感嘆は、どよめきのように室内に響き渡った。
 二匹の蛇の頭は描かれていなかった。
 その代わり、それぞれの身体が会陰のすぐ後ろで絡みつき、螺旋を描いて、そのままアナルの中へと消えていっているのだ。
 あの太い蛇が二匹。
 尻から潜り込んでいたタコの腕のように、蛇もまた、深く深く。
「三本もチンポを……美味そうに……」
 感極まったように零した声の主は、あの自身を卑猥に表す言葉を教え込んだ隊員だ。
 だがまさしく、モリオンは、三本のペニスにしか見えないタコの腕と二匹の太い蛇とを銜え込んでいた。



 単なる彫り物と言えば、それまでかもしれない。
 これは、肌の上に描れた絵なのだと言い切る者もいるかもしれない。
 だが。
 この造形図、計算された位置関係、丹念に描かれた緻密な絵。そのどれもが彫り物とは言えぬ躍動感を伝えてきていて。
 だからこそ、それら全てが生きているように、モリオンが今まさに犯されているように見えてしまう。
 休養と称して閉じこめられた日々の間ずっと陽の光にあたらずに過ごしたせいでの白い肌、鍛錬もできずに落ちてしまった筋肉。それらがいっそうモリオンの身体を妖しく淫らに見せ、この彫り物を際立たせているのも確かだ。
 だが、この肌が日に焼けて、前のように筋肉を備えても……。
 やはり、卑猥さは変わらないだろう。
 盛り上がるであろう筋肉ですら、この絵は考慮されているとしか思えないのだから。
 あまりの事に、賛辞どころか唸ることしかできないけれど。
「私の彫り物は、肌を敏感にします故」
 さらにこの彫り物師は、指摘した。
「あひっ、やあぁ」
 確かに、その手がさらりと蛇の身体を撫でただけで、モリオンの腰がイヤらしく跳ねて、まるで蛇自体が生きているようにくねり暴れる。
「ここも」
 股間にあるタコの腕をつま弾くと、アナルがひくつき、勃起していたペニスがたらりと涎を垂らした。
 ペニスの陰茎に絡みついた蛇は亀頭にまで達していて、ひくつく鈴口にある金環はまるで蛇が銜えた宝環のように見えるのだが、まるで甘露を垂らしたようだった。
「それと」
「あ、ぁぁぁ——っ」
 寝台に俯せにされるだけで、モリオンの喉から嬌声が上がる。その肌は紅潮し、ますますその絵を淫靡にしてくれていて。
 この身体は、一体どれほど敏感になったのだろうか。
 あらぬ想像に湧き出てしまった口内の涎をずるっとはしたなく啜ってしまったとき。
「このペニス、この先端部に陛下に頂いた呪術を込めた飾りを埋め込んでおります」
 突然彫り物師に言われた言葉に、目を瞠り、思案して。
「飾り……、ああ、そういえば、そんなモノを渡したような」
 三ヶ月前に頼まれて、作り上げた代物があったような。
「たしか、入れ替えの術であったな。甲の印が感じた音を乙の印に伝えるという。盗聴するのに使う術を……あ……」
 そこまで言って、それを頼まれて少し変えてみたのを思い出す。
「音では無く、感触を……ということで作り替えたんだったな……確か」
「はい、陛下はこの国きっての呪術師でこざいます故、私が望んだ術をさほどご苦労されることなくお作りになりました」
「そうであったな」
 まあ、音よりは簡単だったし、触れた感触を知る術として昔からあったことなので、さくりと作り上げることはできた。ただその時は、何に使うか判らなかったが。
 しかもできるだけ小さく、と言われて、その方が大変だったことを思い出す。
「その甲の印をこのうなじに。そして、乙の印を本人の亀頭に埋め込みました。また、別の一式を、肩胛骨の間と、アナルの中。そして、この腰の窪みの二カ所と、表の乳首にも……」
「は……あ?」
 あれを人に使って、何ができるのか? と……と思ったけれど。
「うなじ……は確か、やはり亀頭では……。肩胛骨の間もアナル、腰は乳首でございますな」
 隊長がぼそりと呟いた言葉に、それが目指した意図に気が付いた。
「まさか……。見せてみよ、それを、そちが舐めてみよ」
「はい」
 ニヤリと嗤う彫り物師とは裏腹に、モリオンがびくりと震えて逃げようとした、が。
「あひぃっ」
 頭と背を押さえつけられて。
 ぺろりと、舌先で僅かに舐められただけで、その腰が跳ねた。
 さらに、べろ——っと押さえつけるように長く触れられて。
「ひぁぁぁぁ——っ、あぁぁぁ」
 その分だけ長い嬌声が迸り、全身がびくびくと痙攣していて。
「彫り物で敏感になっているせいもありますが、感触が増幅されるせいで、一舐めで絶頂を迎えるようになりまして。実験をしましたが、たいそう愉しませて頂きましたよ」
 クスクスと悪戯っぽく嗤い、肩胛骨の間にあるアナルの縁を指先で撫でて、びくびくと痙攣を酷くする身体を笑い飛ばす。
「そうか、もともと小さな音でも聞こえるように、甲乙それぞれで音を増幅させるようにしていたな」
 その機能まで変えていないから、感触も増大されるだろう。
 うなじの彫り物への刺激は、本人のペニスに。肩胛骨の間からはアナルに。腰の窪みは、二つの乳首。
「これだと、俯せでもたっぷりと虐めることができますね。しかも前からも後ろからも……指でも舌でも、玩具でも」
 興奮した隊員の一人が、息せき切っていう言葉に、大きく頷く
 人に取り特に敏感な性感帯が幾つも増えたようなモノだ。
 まさか呪術にこんな事ができようとは、人に指摘されるまで気付かなんだとは一生の不覚だ。
 けれど、そんな敗北感は、素晴らしい彫り物をしてくれた彫り物師の前では、風に吹き飛ぶ塵のようなモノで。
「よくやった。この素晴らしいできに対する報酬は、なんなりと申せ」
「ありがとうございます。ですが、私の報酬はすでに皇王殿に頂いております故。それ故に、私めの作品を早く皇王殿にお見せ頂ければ幸いです」
 その言葉に、虚を突かれ。
 しばらくしてから、ようように言葉を絞り出した。
「確かに質の悪い御仁ではあるが……ここまで用意周到とは思わなかったぞ」
 一度あの被っている巨大な猫の皮を引き剥がし、人民共に見せつけてやりたいわ、と、決して口にできぬ事を胸の奥にしまい込んで。
「あい判った。次回の秀月の宴にはコレを名代として差し向けようよ」
「ご配慮、感謝いたします」
 深々と頭を下げる彫り物師は小憎たらしいところもあるが。
 けれど、たとえ皇王の手先だったとしても、この先密な関係を取るべきだろうと考えていた。

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