【The Gift from the Creater-3】後編

【The Gift from the Creater-3】後編

 淫猥な革帯の衣装に身を包み、恥ずかしげに身を捩るせいでますます卑猥な姿を晒すミサトに、隆治は自身の設定の見事さに満足げに頷いた。
 作った衣装が存外に似合ったのもそうなのだが、ミサトの不安げな表情といい、羞恥に身を捩る様といい、とてもプログラムの動きとは思えなかったのだ。
 ミサトを手に入れてからニヶ月足らず。
 その動きも振る舞いも、確かに隆治の設定通りなのだけど、それ以上にその反応が人間くさいのだ。
 NPCには見えないミサトを扱っていると、リアルな人間で遊んでいるような気がしてならなかった。
 だからこそ、性格設定を変えてみたら、ますます人間ぽくなって目が離せない。
 と言っても、隆治自身、現実世界でこのような遊びをしたことがないから、ほんとうのところは判らない。
 判らないけれど。
「まあ、マジすげぇってことだな、このゲームは」
 結局一人納得して、恥じらうミサトを指で呼ぶ。
「……ご主人様……」
 不安げに揺れる瞳がその命令を拒否しようとしたけれど、紅潮が増した身体はひどく素直だ。
 マントの合わせから突き出たペニスが革紐を無視して角度を増し、その先端からたらりと透明な滴が糸を引いて垂れていく。何よりも敏感なアナルに張り型を銜えさせられて、もうその身体は犯されることを欲していた。
 餓えた身体は淫らな淫臭を放ち、震える足先が一歩床を踏む度に、その身体がぞくぞくと震えているのがよく判る。
「欲しいか?」
 ちらりと隆治がペニスを見せてやれば、ミサトの喉がごくりと鳴った。
 だが。
「いいえ」
 表情は厭そうでも、言葉では拒絶しても、どんな食物よりも美味い精液を本能が欲しているのが、その瞳の中に現れていた。
「なんだ、いらないのか。なら、お預けだ」
 拒絶してしまえば、てきめんに落胆の色が浮かぶ。
 そんな表情は、前までには見られなかったものだ。もとより、拒絶することも無かったのだ。
 どうやら、犯されるのがイヤらしいミサトは、けれど、拒絶できる代わりにこんなふうに墓穴を掘ってくれる。本当は欲しいのだろうけれど、素直になれない様は、隆治をますます楽しくさせた。
 今回のサマーイベントをこなすために、他のプレーヤーにもあまり貸し出しさせなかったし、犯させもしなかった。ゲームをこなすために、そんな暇がなかったのだ。
 そのせいで食事である精液がとれていないはずなのだ。
 ミサトは通常の食物でも補給はできるからと、代わりに犬にでもやるようにパンを一つ放ってやる。
「ありがとうございます」
 そんなものでもミサトにとっては貴重なので、ホッとしたように拾うけれど、その声音は暗い。ミサトにとって、精液以外は何もかも不味くて仕方がない代物だからだろう。だが、補給しないままに動けば、プレーヤーも従者も力尽きてしまう。
 隆治にとってはリアルな世界より美味く感じる食事だが、ミサトにとってどんな豪勢な食事でも美味しく感じることはない。それが単なるパンであっても同様で、しかめ面をしながらそれを少量ずつ口に含んでいた。
 そして、従者は主人に食べろと言われれば、食べるように設定されていた。
 プレーヤーが殺されてしまえば墓場に飛ばされる。だが、エネルギーが切れて動けなくなると、その場で誰かの助けを待つか、一日以上そのままでいて死ぬのを待つしかない。しかも餓えて死ぬのは不名誉なこととされていて、プレーヤーレベルが一つ下がってしまうというデメリットがあった。
 また、もし従者が餓えて動けなくなれば、自動的にプレーヤーの経験値が大幅に減らされるのだ。そのレベルで必要な経験値の半分だから、上がったばかりだと落とされることもある。
 それは、プレーヤーの管理不足とされているからで、実際、食料や薬を常時持っていれば、なんら問題が無いことだった。
 それ故に従者は食料を持っている以上、必ずそれを食べるようにさせられていた。だから、それがどんなに不味いと知っていても、ミサトは食べるしかないのだ。
 その不味さは、常時快感を感じてるミサトの欲情すらも霧散させたようで。
 不味くて、吐き出したいような表情をしているミサトに、我慢しすぎだと苦笑する。
「もう一度聞くけど、ほんとうにいらないのか?」
 吐きそうにほどに青白い顔をしているミサトに再度問いかける。
「……はい」
「へえ」
 強情だな、と思う。
 時々、ミサトの設定とは違うような性格が出てくることがある。この強情さも、ちょっと予期していなかったことだ。ミサトは主人に対しての従順度がマックスに設定してあるからだ。けれど、マニュアルにそういうこともあると書いてはあった。NPCといえど成長する。成長する過程で、若干の性格の変化が現れてしまうのは仕方がないことだ、と。
 そのための性格矯正は無料オプションでできるのだが、隆治はまだその矯正をしていなかった。
 それどころか、有料で若干反抗気味なところも追加したほどだ。
 ミサトが気に入っている。
 より自分の理想に近づいたミサトは、隆治にとって最高の奴隷だ。こんな奴隷にリアルな世界でも巡り会えれば、本当に最高だろう。もっとも、あり得ないからこそこうやってゲームに興じているのだけど。
 マズイ食料に辟易している姿も色っぽいな。と、その姿を舐めるように見やる。
 人の視線に敏感なミサトは気付いていて、それでも視線を無視しようとしてたけれど。
 不味さに萎えていたといえど、その剥き出しのペニスは相変わらず糸を引き、瞳は潤んだように濡れていた。革帯が動く度に引っ張られてしまう乳首も、プクンと膨らみ濃い朱色に色づいている。
 欲情しているのだ、視線を感じて。
 実際、アナルがひくつきそのせいでペニス型の尻尾がひくひくと揺れている。
 あれは、アナルの中が蠢いて張り型を味わっているからだろう。
 その卑猥さを観察していると、ずるずるとそれに引きずり込まれていき、口内に涎が溢れ喉が鳴る。
 外見だけでなく、あの肉の熱さは一度味わえば忘れられないほどなのだ。
「俺は欲しいけどなあ」
 じろり、とミサトの尻でひくつく尻尾状の張り型を見やる。
 それに、サマーイベントでご無沙汰だったのは、隆治自身もそうで。
「ミサト、来い」
 その言葉に、ミサトが振り向く。その手から半分以上残っていたパンがぽとりと落ちた。
「俺を誘ってその気にさせろ」
 すでにその気になっている身体だ。けれど、それでも拒絶しようとする言葉を封じるようにミサトに命令する。
「淫乱らしく俺を言葉で誘え」
 ミサトの身体がその言葉だけで厭らしく発情していく様を見ながらちらりと辺りを見やれば、さっきからミサトの着替え風景を満喫していた輩達は、一人も立ち去っていない。彼らの期待値が高まる中、その視線も喉を鳴らす音もはっきりと聞こえていた。
 暑さ対策か、どこもかしこも全開の家々は、広場で盛るミサトの声を決して隠しはしない。
 そしてそれは、ミサトをより興奮させるだろう。
 どれだけの人間に見られているか、視線の数はカウントできるから。
「観客が過去最高になったら……そうだな、ログアウト中は貸し出し停止に設定してやるよ」
 ふと思いついて、そんな提案をしたのは戯れだった。
 だが。
「えっ!」
 思った以上にミサトが反応した。
「ほんとに、ほんとに、停止にっ」
 敬語すら無くした言葉遣いに、その興奮度が現れていて。
「あ、ああ」
 隆治がそれに驚いて、続けるべき言葉を躊躇ったほどだ。
「……、あぁ、俺は休み明けの仕事の追い込みで、休みまではしばらく(ログ)インできそうにないんだわ。で、まあ、うまくできたら貸し出し停止してやってもイイかなあっと」
「停止……」
 信じられないとばかりに見開くその表情があまりに人間くさくて。
 目の前にいるのはNPCではなく、本当の人間のような気がしてしまう。
 そんな筈はないけれど、けれど……。
 訝しげな隆治の視線に、ミサトは興奮気味に詰め寄ろうとして。
「停止に、ほん──」
 不意にミサトの雰囲気が変わった。
 一度その目が瞬いた後、興奮が一気に冷めたように。
「ミサト?」
「停止……して頂けますか」
 敬語も戻り、疼く身体を持て余すのを必死で堪えるいつものミサトに戻っていた。
 それになんだか落胆してしまう自分を自覚しながら、こくっと頷く。
「ご主人様の言葉が信じられないか?」
 隆治も、改めて襟を正すように威圧感を込めて言えば、それに対するのはいつものミサトだ。
「いいえ。ただ、今まで休みなどなかったものですから、驚いて」
「ん、ああ……そういやそうだな。おかげで結構収入があって、しばらくは金には困りそうにないしな」
 それに、これだけあれば。
 アイテム欄で金額を確認して、性格矯正のオプション価格を確認する。
 さっきのような反応をもっと見たい。
 だったらもう少し性格矯正をしてみようか……。
 ふっとそんな考えが頭に浮かび、けれど、よく考えないとまったく違う性格になる恐れもあり躊躇する。
 さて、どうしたものか──と考えていたけれど。
「ご主人様……」
 切羽詰まったミサトの声に視線を向けて。
「ほし……です、あなたの、精液」
 瞳を潤ませてじっと見つめられ。
 その気になったミサトのフェロモンは、たとえ主人である隆治でも逆らえるモノでは無い。
 肩ベルトをずらした拍子に乳首を引き延ばしてしまい身悶えて、尻尾型の張り型の柄を自ら前後させながら迫る姿に、全てが吹っ飛んで。



 賑わいも最高潮の昼過ぎ時、たくさんの人が行き交う広場の一角では、艶めかしい声と淫猥な音がずいぶんと長い間聞こえ続けていた。


【了】