【明けぬ夜】1  (【宴の夜】続編)

【明けぬ夜】1 (【宴の夜】続編)

 欲に彩られた卑猥な宴があった夜以来、久能木俊(くのきしゅん)には主人が4人いる。
 一人目の佐々木は、四人の中でも最高位の主人だ。
 四人とも同じ会社の枠組みの中にいて、地位もそれに準じているところがある。その中でも佐々木は執行役員という地位に就いてる上司で、久能木を奴隷に仕立てようとした提言した張本人だ。会社の給料など無くても暮らしていけるのでは、というような資産持ちの家のようで、高級住宅地にたいそうな家を構えている。そして今、久能木は彼の家に住まわされ、毎日のように奴隷としての躾を受け続けていた。
 そんな彼の言に従ったのが残りの三人の主人達だ。
 そのうちの一人が、佐々木の腰巾着と陰口すら言われる久能木の元の部署の先輩だった室崎だった。
 部署が変わり佐々木直轄になった久能木とは直接の接点は無くなったはずだった。だが、第二の主人としての地位は佐々木より賜った代物で決して手放そうとはしない。
 彼の仕事は、夜のうちに久能木が佐々木にどんな躾を受けたのか、毎朝会社の応接室に呼び出して確認し、それを佐々木に報告することだった。
 佐々木が何をしたかなど、佐々木本人が一番良く知っているはずなのに、それを久能木から聞き出すように言われているのだ。
 だから、毎朝のように久能木を呼び出して、躾けられた体を詳細に確認しようとする。
 始まりの時間より10分ほど早く向かうのは、役員フロアにある会議室の一つだ。
 表向きの理由は、佐々木に所属部課の報告をして書類を届けること。佐々木は忙しい身の上だから、アシスタントの久能木が代理で受け取る。
 それは、別に毎朝しなくても、室崎が届けなくても良い代物で、実際久能木がアシスタントになるまでは佐々木の机に置けば良い代物だった。
 けれど、今は違う。
「さあ、見せなさい」
「……はい……ご主人……様……」
 有無を言わせぬ命令は、もう何十回も聞いたけれど、その返事が素直に出ることは無い。けれど、言わなければあること無いこと佐々木に言いつけられて、手酷い躾を受けてしまうのは、もう学習済みだった。
 震える声で返事をし、身につけていた衣服を全て取り去る。
 モタモタすれば時間が過ぎすぎて、それもまた躾を対象になってしまうから、脱ぐときは一気だ。
 それでも。誰も来ないと判っているとは言え、それでも。
 毎夜毎夜その身に刻まれる卑猥な痕を、明るい朝日の差し込む会議室で暴かれることは、いつまでも慣れない。
 一瞬で羞恥に上気した体は、艶やかな朱に染まり、淫らな痕をさらに浮かび上がらせる。
「佐々木様に、いったいどんなふうに可愛がってもらったんだい?」
 室崎の指に、腕と胸に残る縄目の痕を辿られて、わずかに身を捩るけれど、その手は下げられたまま前も後ろも隠すことなどしない。全てを晒して直立不動、何も言われなければその姿勢を取らなければ無かった。
 だから、ぎゅっと拳を握り敏感な肌を辿るイタズラな指に耐える。
「赤色の細い縄……で、縛って……頂きました」
 今や紫に変色するほどに、痕がつくほどにきつく縛られた。
「それから?」
 続きを促されて、思い出したくもない昨夜のシーンが目の前に浮かぶ。
 二の腕は動かせず、胸は乳房のように盛り上がるほどに肉を寄せられて、股間を通った反対の端と結ばれて、そのまま数時間嬲られ続けたのだ。
「俺のイヤらしい……マンコを、大好きなバイブでいっぱい抉ってもらって」
「ああ、お前のケツマンは太いバイブが好きだもんな」
 喉の奥での嘲笑を浴びせられ、激しい羞恥に顔が熱くなる。
 毎日のように陵辱されるアナルは、今やLサイズのバイブですら容易に奥まで飲み込んでしまう。激しい振動機能を持つそれで、何度も何度も奥まで貫かれる度に頭の中が真っ白に弾けるほどの快感を味わった。射精制限のペニスバンドをされていなければ何度も吹き上げていただろうほどの快感だ。
「見せてみろよ」
 促されて後ろを向き、前屈みになって両手で尻タブを割り開く。
 ガクガクと小刻みに震える足は、羞恥ばかりではなく苦痛に耐えているせいだ。
「おいおい、真っ赤に腫れているぜ」
「ひぎっ」
 ぷつっと入り込む指の感触に、喉の奥で悲鳴が鳴る。痛みに崩れそうになる足腰をなんとか踏ん張って姿勢を保持した。
 腫れ上がっているのは外だけでなくて中もだ。
 しばらく海外出張に行っていた佐々木は、久能木で遊ぶことに飢えていたようで何時間も遊ばれた。その際の玩具の一つはたいそう凶悪で。
「それから、何をされたんだ?」
「……ご主人様の精液を、飲ませて……頂いて……ひっくっ」
 腫れたそこをイタズラに掻き混ぜる指に、それでも感じてしまう。走り抜ける衝動を堪え、痛みに紛らせて必死で姿勢を保持する。
「久しぶりなら、美味かったろう?」
「は、い……濃くて、いっぱい……美味しくて、いっぱいぃ……あっ、うっく……いただき、ま、た……っ」
 佐々木は、もう60近いというのに精力旺盛で、一度や二度では満足しない。
 さんざん玩具で嬲られながらまずは口淫させられるのが常で、そのとき出した精液はいつだって飲まされていた。その味は、本当は不味くて不味くて吐き出したいほどだったけれど、美味しいと言うしかない。一滴残らず美味しそうに飲み干すことは、最初の頃の躾でさんざんその体に叩き込まれたのだから。
 背後でグチャグチャと音が立つほどに、指の動きが激しい。それが的確に前立腺を穿ち、揺すり、揉みしだく。
「ひっ、くあっ、あぁっ」
 さんざん嬲られてたいして時間が経っていない。
 遅くまで犯された体はいつも以上に敏感で、足腰から力が抜ける。もう痛みではごまかせないほどの悦楽が脳を掻き乱し、理性を吹き飛ばそうとしていた。
 それでも、震える膝に手をついてじっと姿勢を保ち続けるのは、姿勢を崩して良いという命令が出ていないから。
「おいおい、喘いでいないでちゃんと話せよ。俺には佐々木様に報告する義務があるんだから」
「ひあっ、……ぁぁっ、それ、から……っ、バイブ、で、弛んだマ、ンコに、ご主人様のんんっ、に、肉棒、欲しくて、欲し、て……お強請りして、あんんっ、入へぇて、いただきましたぁぁっ」
 その頃にはバイブの電池など無くなっていて、さんざん抉られたアナルはぽっこりと緩く開いたままで、注がれたローションを垂れ流していた。解放など許されるはずもなく快感を与え続けられて疲労困憊なのに、下腹部はたいそう熱い熱がこもったままで、ひくひくと腰が震えて、物欲しげに吐息が零れ続けた。
『淫乱な奴隷は、まだ欲しいようだね』
 快楽に身悶えた体は、拘束の痕がくっきりと浮かんでいた。その線を辿られ、擦れた痛みに悲鳴を上げて。けれど、それからもゾクゾクとした快感となって体の中を暴れ回る。
『じゃあ、今度はこちらのバイブが良いかな?』
 今度は電源コード付きのバイブを取り出してきて、目の前に差し出された。
 虚ろな瞳からぽろりと涙が溢れて。
 終わりなど無い快楽責めを意味するそれに、抗う気力など最初の頃に奪われていた。条件反射的に主人が望む言葉が出てしまう己に、その言葉を口にしながら絶望する。
『ください、淫乱な奴隷に……ご主人様の熱い肉棒を。私の、マンコに食べさせて、ください。……大好きなんです、肉棒が……ご主人様の立派な肉棒……、ください、熱くてたくましい……にくぼ……』
 顔の横で跪かれて目の前で揺れるそれを、舌先を出してペロペロと舐める。
 何度も何度も、繰り返して、請い強請る。
 佐々木は、久能木に「肉棒」を強請らせるのが大好きで、何度も何度も口にしないと許してくれない。
 それと。
「おっぱいもぉ……あはぁっ……たくさ弄って──お願いして……あっくぅぅっ」
 佐々木の時も同じ言葉を口にした。
 育てあげられた卑猥な乳首を差し出して、もっととお強請りするのは誰が相手でも同じ事だ。
 室崎に見せつけるように胸を反らし、膝に付いた右手を持ち上げて、ぷくりと立ち上がった大きな乳首を摘んでみせる。とたんに感電したかのように全身を貫き抜けた衝撃に一瞬意識が遠のいた。それでも発作的に膝についたままだった左手に力を入れ、崩れかけた体勢をなんとか保持する。
「ああ、そのイヤらしく膨らんだ乳首ね。お前、それだけで達けるもんなあ、マジ、すげえよ」
 佐々木は乳首虐めが大好きで、他の主人達に徹底的に育てるように言いつけている。普通の男性の乳首の倍は軽くありそうなほどに膨らんだそれは、その命令通りに毎日主人に育てられたもので、たいそう敏感だった。
 だから、佐々木が目の前にいるときは、「肉棒」と「乳首」、その二つの願いを何度も何度も口にして。
 佐々木がその気になってくれるように思いつく限りの媚態を晒して強請って。
 わだかまる熱を解放したくて、そのためには佐々木に満足してもらわないと駄目で。
 そうやって、たくさん強請ってようやくもらったのは、熱くてたくましい肉棒と、力強い指先での愛撫だった。
「たくさん……たくさん……、いただいて……」
 熱い生身の肉が尻肉を割り開いて押し入ってくる感触。同時に乳首を強く摘まれて引っ張られた鋭い痛みに混じる快感。
 それを同時に味わった直後から、まともな記憶が無い。佐々木にその二カ所を責められたら、久能木の心も体も呆気なく屈服して全てを投げ出してしまうのだ。
「何回飲ませてもらったんだ?」
 問われても。
「何回達かせてもらったんだ?」
 訪ねられても。
「わ、判らなくて……ああっ、いっぱい、いっ……い……もらったっ、くっふぅ」
 ガクガクと痙攣しだした足ががくりと崩れる。
 室崎の指だけでもこれだけ感じてしまう体だ。冷たい床に崩れ落ちて顔を付け、指の入った尻だけを高く上げて、迫り来る快感に身悶える。
 遠くで社内放送が誰かを呼んでいた。
 近くの会議室では会議が始まったような音が小さく響く。
 防音は効いているとは言え、それでも音が届くと言うことは、こちらの音も聞こえるかも知れない。
 それが判っているのだけど。
「ひっ、あっ……ぁっ」
 零れる声が止められない。
「あっ、ひぃぃっ、も……達かせ……て、あ……」
 ボロボロと涙を流し、決して許されない許しを請うて、股間で揺れるいきりたったペニスを自ら掴む。
 カリカリとベルトを引っ掻いて、その隙間から覗く変色した皮膚を擦った。
 昨日、結局達かせて貰えていなかったのは、朝起こされたときに言われて判ったことだ。意識を失ったと詰られて、褒美など無いと冷たく罵られた。
 そのときにも泣いて許しを請うたけれど、結局解放など許されるはずもなく会社に連れてこられた体は、室崎に嬲られることもなく最初から限界だった。
 だから。
 剥き出しになった尻に、ゴム越しの室崎のペニスが触れる感触と。
「ご主人様にお強請りとは、まだまだ躾がなっていないな。佐々木様にご報告しないと」
 恐るべき言葉と。
 そのどちらに体が震えたのか、もう判らなかった。ただ。
「あ、はぁぁぁっ」
 難なく潜り込んだペニスをまざまざと感じて、底知れぬ闇の中にいるというのに喜び、まなじりから溢れた涙は嬉し泣きでしかなかった。
「う、れ……しぃっ、あ、達く、イクっ、達かせてっ!」
 その存在感だけで空達きを繰り返す体は、今日一日保たないかも知れない。明日からの土日は、佐々木も珍しく休みだから辛い週末になるのは判っているのに、歓喜に引きずられて我慢などできない。
「ひあっ、アァッ──、ま、またっ……ぁぁっ!」
 ビクビクと痙攣し続けながら快楽を貪る体を、久能木はもうどうすることもできなかった。

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