【宴の夜】後編

【宴の夜】後編

「あっ、あ゛っっ……ぁぁ」
 下腹の奥底で、灼熱の炎が産まれ、暴れ回っていた。全身の皮膚は総毛立っているけれど、寒いわけではない。それどころか、熱くて熱くて堪らない。
 荒い吐息と悲鳴に喉は渇ききり、なのに、涎がだらだらと溢れて喉の奥に落ちてくる。
 息苦しいのは涙と鼻水のせいだけれど、それ以上に暴れるせいで息が整わない。
 佐々木がコードを引っ張ると、小さな乳首に激しい痛みが湧き起こる。けれど痛みはもっと激しい痒みを僅かでも和らげてくれて。
 いつしか久能木は、必死になって胸を動かして、コードが乳首を引っ張るのを自ら助けていた。
「あぁ、いあぁぁ──っ、あぁうあ、ああうういあ」
 痒い、掻いて。 
 掻いて、痒いの、掻いて、痛くても良いから、掻いて。
 今や胸全体がねとりとした粘液に覆われていて、乳首は淫猥な色に染まっていた。
 がくんがくんと腰が上下し、コードが伸びきる。
 佐々木に太い指に食い込んだ痕を作るほどの力で引っ張れば、呆れたように弛められる。それがイヤで、また引っ張って。
「あ、いぁぁぁっ、あうぅ゛っ……ああおぉぉ」
 乳首の痒みを散らそうと必死になる。
 けれど、身体の痒みはそれだけではない。
 股間は股間で、尻タブをテーブルに打ち付け、ローターで嬲られているペニスを己の身体に叩きつけて。
 淫らな踊りを踊りまくる。
 そんな姿を、幾つものビデオカメラが見ているとは知らずに、ただ、痒みに支配された久能木は踊り続け、助けて欲しいと周りの男達に視線で懇願した。
「ふむ、そろそろ別のもので遊びたいのかな?」
「そうみたいですね。これなんかどうでしょう?」
 だから佐々木と室崎の会話と、室崎が取り出した細い棒に、頭より早く身体が期待に打ち震えた。
 つんと丸い先っぽで突かれた途端に、ペニスがびくびくと痙攣する。
「あっ、ああっ」
 欲しい。
 何でも良いから、掻いて欲しい。
 本当なら、みなのあの指で掻きむしってもらいたいのだけど、どうやら彼らは久能木に触れる気は全くないようだった。
 だから、何でも良かった。
 掻いてさえくれるのなら。
「あ、あぁ、うぁぁ、おぁぁ」
「ああ、嬉しいんだ」
「みたいだね、さっさとあげなよ」
 香我美に促されて、室崎がその棒を鈴口に近づける。
 そこは一番痒いところだ、ようやく掻いて貰えるんだ。
 期待に打ち震え、じっとその棒を見つめる。
 焦れったいほどゆっくりと、鈴口の辺りを動く。その触れるか触れないほどの接触が、よけいにもどかしくて、思わず腰を突き上げた。
「こらっ、じっとしていないとやらないぞ」
「待て、ができない奴隷には、何もあげられないからな」
「あ、んああぁ」
 ごめんなさい、ごめんなさい、掻いて、早く掻いて。
 声にならない懇願を繰り返す。
 むず痒くて思わず動く身体を必死に宥めて、とにかくじっとして。
「おやおや、そんなにもこれが好きなんだ」
「根っから淫乱なんだよ。まあ、奴隷だし」
「そうだな、じゃあ、奴隷にプレゼントだ」
「あわっ」
 突然ペニスの茎をがっしりと掴まれ、同時にちくちくした感触がペニスを刺激して、全身が激しく痙攣した。
 目の前が何度も弾ける。
 数多の星が弾けて消えて。
 硬直した身体が、再びブリッジを作る。
「あぁぁぁ──っ、ああぁ──っ」
 嬌声が止まらなかった。
 息が続く限り叫んで、一瞬吸い込んで、また吐き続ける。
 腹にボタボタと熱い滴が落ちてきた。幾つも幾つも落ちてきたそれが、不意に途切れる。
 途端に、脳天を貫くほどの快感に硬直していた身体が、一気に弛緩した。
 がたんと激しくテーブルに身体を落として、けれど、その痛みすらざわざわと肌を嬲る。
「おい、握っただけで達きやがった」 
 その声が誰のものなのか、判らない。
 ふわふわと夢見心地の身体は、どこも力が入らなくて。
 こんな幸せは今まで無かったというくらいに、心もまた弛緩していた。
 けれど。
「ぎぁぁぁっ!!」
 耳をつんざく悲鳴が、誰のものなのか判らなかった。
 それよりも、快感に満たされて敏感になったペニスに走る鋭い痛みに、身体が動かせない。
 四肢を突っ張り硬直した身体。心も天国から一気に地獄に落とされた落差に、ついていかない。
「あっ、あ──っ、ぎあぁぁ」
 快感よりも長く続いた痛みに、涙が飛び散り、涎が口角を溢れていく。泣き喚く久能木の体を飾った棒の先についたリングがゆらゆらと揺れて、その僅かな振動が意外なほどに奥に響く。
「可愛いな、よく似合う」
「ひくひくと震えてるな。よっほど嬉しいらしい」
「ひぃっ! くああぁっ」
 佐々木の指先がそのリングを弾き、新たな痛みに涙を振りまきながら上げたのは悲鳴だったはずなのに。
「すげぇ声、チンポに響いて堪んねぇ」
「やっぱ好きもんなんだよな、こいつ」
「うんうん、いっつも俺たちに色目使ってさ、犯してくれって誘ってんだからさあ」
 瀬能の言葉に皆が賛同するのを、ただ唸り、喘ぎながら聞くしかない。
「君の流し目に皆が狂ったんだよ。だから、責任を取ってくれたまえ」
 佐々木のもっともらしい言葉への反論も、ぐちゅぐちゅと尿道を掻き回されて、意識からあっという間に消えていった。
「じゃあ、そろそろ最初に決めた通りに、だな」
「やっとか、待ちくたびれたよぉっ」
「あ、俺、こっちね」
「じゃ、常務がこちらに」
 男達の会話は聞こえている。けれど、ひどく遠く聞こえて、何かの音がしているなとしか感じない。蠢く男達の影は水の中で漂っているようにぼやけていた。
 痛くて熱い乳首がびんっと引っ張られて、その痺れるような感覚に、ぷるりと震える。熱の籠もった吐息が溢れ、振動が押しつけられる度にペニスへの刺激をもっと欲して腰を押しつける。
 そのたびにくるりくるりと動く棒を、時折ピンッと弾かれて、奥まで犯されたペニスがブルブルと震えた。
 内からと外からの振動は堪らなくて良くて、かれた声で嬌声を上げる。
 理性など飛んでいた。
 与えられる痛みから逃れるそれだけのために、久能木の体は良いところを自ら探して刺激しようと動く。
 その久能木の足を二人がかりで体に両側に押し上げて、今度は手を拘束したテーブルの脚へと引っ張り上げて止めた。
「ひゅーっ、絶景っ!」
「へへっ、すっげぇっ、こんな小さな穴入るのかねぇ、俺たちの」
 興奮して鼻息荒い若い瀬能と香我美の視線の先で、震えるアナルがおちょぼ口をしっかりと閉じている。
「処女なら無理だが、残念ながら売女のごとくチンポを銜えて悦ぶマンコだから遠慮することなど無い」
 佐々木がにやりと口角を歪めて知らせる事柄に、三人の瞳にどす黒い炎が揺らぐ。
 久能木の意識がまともで口が解放されているならば、違うと大声で反論しただろうけれど。今は、ただ半ば沈みかけた意識の狭間で快楽と痛みに翻弄されながら漂っているだけだ。
 だから、その太股に佐々木の手がかかっても、欲望を象徴したようなねとつく粘液を纏った赤黒い肉棒を押しつけられても、びくりとも反応しなくて。
 けれど、ミシリ、と音がしたその瞬間。
「ひっ!」
 ビクッと大きく体が揺れて、その瞳が一気に見開かれる。
 焦点の合っていなかったそれが、びしっと中空を見据えられたのはすぐのことで。
「ぎっああぁぁぁぁっっ!!」 
 部屋に木霊するかのような悲鳴は、開口具など不要なほどに開かれた喉の奥から迸っていた。



 アナルが切れなかったのはどちらにとって幸いだったのか。
 ぎりぎりまで薄く伸びたアナルは、ペニスをすっぽりと包み込み、そのうねる肉壁で男達をたいそう愉しませた。受け入れた痛みを乗り越えた久能木のアナルは男達曰く名器で、前立腺刺激を知っているからすぐに快感を生み出し、その刺激に何度も痙攣して絶頂を迎えながら、激しくペニスを締め付ける。
 そのせいで、一巡してもなおまだまだ足りないとばかりに、拘束を解かれた体を男達の欲望そのままの太くて熱いペニスに串刺しにされ、布団の上で獣のように犯されていた。 
 ボタボタと、シーツに誰のともつかぬ体液が滴り落ち、染みをつくる。
 アナルには室崎のペニスを、口には香我美のペニスを銜え、乳首にはそれぞれ佐々木と瀬能が吸い付いていて、八本の手が敏感な肌を縦横無尽に撫で回した。
 それら全てを受け入れている久能木の瞳はひどく虚ろで、ただ言われるがままに吸い付き、締め付けて男達を悦ばせる。
「マジ、佐々木さんの言葉信じて良かったです。久能木がこんな淫乱で男好きなんて思いもしなかったですよ」
「ふふっ、私も男漁りをしている久能木を偶然見つけなかったら、考えもしなかったけどね。だが、夜の彼は会社の時とは違って、ずいぶんと色っぽかったからねぇ。男達を誘っては、つんとした雌狐のごとく振って。なかなか理想が高そうだったんだが、それはこの淫乱な体を隠すためのカモフラージュに違いないと思ったね」
 性行為にそれほど興味が無くて飲むだけだった久能木は、そんな事など考えていなかった。だが、意識が飛び、なすがままに体を弄ばれた久能木の瞳は、今やとろりと澱んでおり、男達を映す様は、数多の娼婦よりも淫靡で男達を昂ぶらせる。
「いや、マジで淫乱ですよ、この体。チンポ銜えて離さねぇもん」
「この乳首もぷっくりと膨らんで……へへ、このまま吸い続けたらおっぱいが出そう。俺、もう毎日吸ってやろうかなぁ、そしたらもっと摘みやすい大きさになるかも」
 その言葉に煽られたかのようにぶるりと震え、ぽた、と一滴、白っぽい粘液がペニスの先から垂れ落ちて、太股に絡みついた。
 余韻に陰嚢がひくひくと震えているが、もう出し過ぎてそれ以上は出ない。
 はあはあと足りない空気を貪欲に吸い込んではいるけれど、その腕は力無く崩れていく。が、がくりと崩れ落ちる寸前にその体は、四人の手により支えられて四つん這いの姿勢に戻される。
「久能木くんは明日からしばらくは私の部屋で、仕事やら書庫の片付けを手伝って貰うことになっているんだよ。その間に瀬能くんと香我美くんが交替で吸い付きに来てやればよい」
「えっ、良いんですか? やったっ」
「二人同時は無理だよ、仕事が一番だからね」
「大丈夫っす。仕事もさぼりませんっ」
「室崎くんも忙しいだろうが、朝の時間にでも吸い付いてあげなさい。私も手が空いた日は必ず吸い付いて育ててあげよう。四人で大切に育ててあげれば、きっとすぐに大きくなるさ。そうすれば、この厭らしい乳首を弄るだけで達けるようになる。そうだな、そうなったら自分で乳首を弄らせながら腰振りダンスを踊らせて、それだけで絶頂を迎えさせるんだ、どうだ」
「ふわっ、それ……すげぇ」
「やべ、想像しただけで暴発しそうになった、くそっ」
 想像に興奮した香我美がガツガツと深く抉る。
「ふぁっ!……あぁ」
 佐々木のぐにぐにと太い指でこねくり回されて、久能木が甘い吐息を零しながら小刻みに震えた。
 赤く熟れた乳首は、もうすでに熟した木の実のようでたいそう美味しそうだ。
 掠れた甘い音色と淫らな果実に誘われたのか、三対の瞳がらんらんと淫欲に萌え盛る。
「ふふ、仲間が増えて嬉しいよ。私の目には狂いが無かったということだ」
 その様子に気が付いて豪快に笑い出す佐々木の言葉も、耳に入っていないようだ。
「久能木くん、ご主人様達をよりらしくするためにしっかりと君が育てるんだよ。このイヤらしい体でね」
「あっ、あぁ……」
 ねとりと首筋を舐め上げられて、虚ろな嬌声がシーツに落ちる。撫で上げられた尻タブは、男達に掴まれて、指の形に痣ができていた。
 そことは違う場所に、無骨な指が食い込んで。
「今度は俺の番だぜ。へへ、すっげぇグチャグチャて滑りが良いのに、しっかりと締め付けてくれるぜ」
 交替した室崎のペニスはたいそう元気だ。
 それは、この宴はまだ当分終わらないという印でもあった。


【了】