【嶺江の教育 三ヶ月目】

【嶺江の教育 三ヶ月目】

 お腹が限界まで張っていた。
 鈍痛だった痛みは、今はもうきりきりと鋭くなって嶺江を責め苛む。
「もう良いでしょう」
 頭上高く振ってきた言葉に、嶺江は安堵の表情を浮かべた。
「あ、あああっ……」
 全裸で四つん這いになった尻から破裂音が響き、びしゃびしゃと滝のように液体が噴き出す。
 薄茶に汚れた湯気を立てる液体は、ぼとぼとと音を立てるほどの固形が混じっていた。嶺江の腹の中で、ずっと彼を苦しめてきていたものが、ようやく出て行く。
 液体が出てしまうと、小さなアナルを押し広げるように太い固形物が現れてきた。
「あ、いっ……くっ」
 表面は滑り柔らかくなってるようだが、小さな塊が幾つも集まったそれは、とても固い。
 真っ赤になって息む嶺江をよそに、アナルを押し広げたままなかなか出て行かない。ここまで排泄に苦労するのは、初めての浣腸以来だ。
「あっくっ──ぅっ……」
 ガジェが出かけてから戻ってくるまでの一週間
 その間ずっと嶺江の腹の中に居座っていた汚物は、まだ腹の中にいたいとばかりに力を抜くと中に戻ってしまう。
 食事を残すと──いや、それ以外でも決められたことを守れなかった時は必ず尻を叩かれるから、食欲が無くても腹に入れた。その一週間分の食事の残滓が、今嶺江の腹の中にあるのだ。
 排泄を禁止されていたわけではない。
 もともと熱中しやすい質だから、トイレに行くのも惜しんでたくさんの書籍を読んでいたのも悪かったのだと、週の後半になって嶺江は後悔し始めていた。
 気がつけば腹はどんどん張り続け、慌てて、トイレを使用する度に息んでみた。嶺江の部屋にはトイレは無いが、隣のガジェの部屋にはある。不在の間、二時間に一回だけ、互いの部屋を遮る壁の扉の鍵が開いて、トイレが使える。
 けれど、結局出なくて──夕方になって帰ってきたガジェによって、嶺江はさっそく浣腸を施されていた。
「きちんと毎日出しなさいと言っておいたはずです」
 抑揚のない冷たい言葉に、嶺江は涙を浮かべて首を振る。
 なのに……。
 真っ赤な顔で涙を零して、必死になって息みながら「出なかった……です……」と告白する。
「あっ……んくっ……いっぱい……息んだ。けど……でなくて……ひっ」
 アナルにぴりっとした痛みが走る。
 出そうで力一杯息んでいた力が、痛みに負けてふっと抜けた。とたんに、アナルがきゅっと収縮し、ずるりと奥に戻ってしまう。
「あ、あぁぁ……」
 哀れに喘ぎ、頭を振りながら再度息んだ。
 俯いた顔から汗がぼたぼたと落ちた。荒い呼吸に、肩が大きく上下する。
 思うように息ができないせいか、頭がぼうっとしてくる。
 そんな嶺江を見下ろすガジェの口元に微かな笑みが浮かんでいた。嶺江が気づかないように、音もなく浮かんだ笑みは、どんどん深くなっていく。
 嶺江には、一週間の間ずっと繊維質の極端に少ない食事を与えていた。なおかつ、その中に腸の蠕動運動を抑える薬すら混ぜていたのだ。だがそれ以上にこの二ヶ月間、ここに来てから三ヶ月目の今日まで、毎日のように朝と晩の決まった時間に多量の浣腸を行ってきた効果も大きい。身体が自然排泄の仕方を忘れてきているのだ。だが、たとえ嶺江がそれを知っていたとしても、自ら浣腸をしたいとは決して思わないだろう。
 この二ヶ月間ずっと、浣腸の度に屈辱的な言葉を浴びせていたのだから。
 無垢で潔癖な王子であった嶺江にとって、未だに受け入れられない行為なのだ。


「一度も出さなかったせいで、発酵までしているようですね。毒ガスのような臭いが充満しています」
 嫌そうに顔をしかめ、蔑む瞳が冷たく嶺江に向けられる。
「まずその腹の中の汚物を全て出しましょう。さあ、入れますよ」
「あ、いやぁ、ぁぁぁっ」
 慌てて逃げようとした身体は、難なく押さえつけられた。
 ころころとした便が覗いているアナルに、容赦なくノズルが突きつけられる。
「や、嫌だっ」
 出かけた便が押し戻され、余裕のない腸に、再び多量の湯が注がれる。
「ゆ、許してくださっ──。すぐ、すぐに出す、出しますからっ、ああぁ」
 逆流する湯は、ほんのわずかな隙間に入り込み、ごぼごぼと腹の中を掻き混ぜる。
「なんて汚い身体だ。肌からも悪臭がする」
「いっ、ちが……ぁ、もう──もう、ダメ……」
 ぽこりと膨らんだ腹が、ごろごろと鳴っていた。
 一度動き出した腸は、今度はもっと早く反応する。ぼこり、と腹の中で空気が動いた。腸が、激しく動いていて、鈍痛の間隔は最初より短い。
 真っ青になって必死で痛みを堪える嶺江の身体がふるふると小刻みに震えていた。全身から噴き出している汗が、明るい照明の下がきらきらと光っている。だが、尻から下は汚れた湯のせいで、うっすらと茶色い。
「い、いやぁ、もう──もう、は、──らないっ」
「そうですね、そろそろ限界、ですね」
 悲鳴でしかない声に、ようやく湯の栓が締められた。だが、出そうと息んだ瞬間、ノズルを入れたまま固定するためのアナル栓に空気が入れられる。
「ひっ、いゃぁっ──っ!」
 ぎりぎりと壁を広げて、限界まで押し広げられた。
「さあ、尻を上げなさい」
 ガジェの手が嶺江の尻からつきだしたノズルを掴み、持ち上げた。抜けることはないが、空気の栓で固定されているために、中で上下左右には動く。
「や、う、動か、さない──、んぐぅっ、あぁぁん……」
 苦しいはずなのに、ノズルが腸壁に当たるたびに腹の奥がむず痒く熱くなる。全身に走るしびれにも似たそれが快感だと、嶺江はまだ気づいていない。
「あ、んんぁ──、んひくっ……。もう、もう、出させてぇ……出したい──」
 ぼろぼろと涙で頬を濡らし、排泄の許可を強請る。
 苦しい、痛い。
 堪らずに息めば、栓があるにもかかわらず僅かな量の湯がたらたらとこぼれ落ちた。
「なんて緩い穴だ。もっと太い栓が必要ですね」
「もう……もう、出したい……、出させて」
 太いと言われても、嶺江には判らない。
 だが、緩いと言われても、直径5cmにもなる栓の隙間からは固い便は出ていかない。
 動かない栓のせいで、アナルの壁が伸びる程度に引き出されたノズルが、また奥に入る。わずかな前後運動に従って、便もまた移動して。
 限界まで膨らんでいる腸壁を、ノズルと便が移動する。
「あ、あっ──んあぁ」
 悲鳴とも嬌声もとつかぬ声が、浴室に響いていた。
 ごりごりと内臓を擦られて、痛みの中に肌が震えるような違和感が沸き起こっていた。
 ここ最近、浣腸の度に感じる感覚だ。
 肌がぞくぞくし、むず痒いような感覚に襲われて、じっとしていられなくなる。肌が熱く火照り、息が荒くなって、排泄を望んでいるのに、ペニスが疼いて仕方なくなるのだ。
 特に、浣腸用のノズルが前後する内壁の一カ所には、思わず身体が跳ねてしまうほどに感じる場所がある。痛いのとは違う感じで、触られる度にびりっとした刺激が走る。腰が勝手に揺れるその場所を、今またノズルが移動している。それに続いて、ノズルより太い便が、ごつごつとした歪な塊で、そこを押し上げて通っていく。
「あ、あぁ、痛ぁ……んっ、あんっ」
 出したいと息む尻の動きに、ゆらゆらと揺れる様が混じっていた。張り詰めたペニスが、股間で揺れている。
「おやおや、またですか。嶺江様は、糞便で勃起するのですから、たいした淫乱ですね」
 くすくすと落ちてくる嘲笑に身体は熱くなるのだけど、激しくなった刺激に意識が逸らされる。
 痛みと排泄欲の中に、別の排出欲が襲ってくる。
 出したい、出したい。
「ひっ、痛い、んあっ、ああっ──もう、出したぁ……あ」
 堪えられない。
 朦朧とする意識で、何度も懇願する。
「だ、出させて、ください……、うんち、出したいです……。いっぱい……。何でも言うこと聞きます。だから、だから、もう出させてぇ」
 許しを請う時は、必ず言わされることはを付け加えて、嶺江は自分を支配する男に懇願していた。
 ──何でも言うことを聞きます。
 何を許して欲しいのか、という内容をはっきりと伝えるとともに、付け加えなければならない言葉。
 でないと、決して許されない。
 排泄しかり、罰の時に尻を叩かれる時も。
「うんち、出したい、です。出させてください。何でも言うことを聞きます。ガジェ様の言うことを聞きます。ですから……、ですからっ!」
 最後には悲鳴だった。
 もう限界だった。
「ええ、良いですよ」
 天の声とも等しい許可。
 痛みから解放されることを、心より体の方が先に歓喜する。
 ぷしゅうっと、栓から空気が抜かれる。その音が聞こえたとたん、ノズルが抜かれるより先に嶺江は思いっきり息んでいた。
「あ、あぁ──っ」
 身体が大きく震え、仰け反った喉から歓喜の絶叫が迸る。
 腰が、全身が、がくがくと震えた。
「ひ、ひぃ──っ」
 裂けて血を噴き出したアナルから、巨大な便がのたうつ蛇のごとく現れては落ちていった。
 そこに、ぼたぼたと白い液体が降り注いでいるのには気づかない。
 ただ、我慢し続けた後の解放にだけ、心が捕らわれる。
「あ──ぁぁぁっ、あぁ──」
 獣のように意味不明の雄叫びを上げ続け、呆けた表情で天を仰いでいた。
 その視界に確実に入っているであろうガジェの嘲笑にすら気づかずに、初めて味わう快感に理性を飛ばしていた。
「初めての射精はいかがですか? 嶺江様」
 明らかな嘲りを浴びせながら、その手が汚れたノズルを持ち上げる。
「こんな細いモノではもうもの足りないでしょうから」
 タイルの上でとぐろを巻く太い便よりも細いそれが、棚に戻された。
「今度はこれで浣腸しましょう。あなたの大好きなモノを模していますから、もっと愉しめますよ」
 空気を入れて無くても今落ちている便のように太い直径。
 その上、先太りした先端はくびれてはまた太くなるのを繰り返す。それはひどく不規則な瘤が連なっているせいだ。しかも、瘤は弾力性のある素材で作られていた。
 目の前にそれが翳されて、呆けた嶺江の瞳の焦点が急速に戻っていく。
「な、何……それ……」
「あなたの遊び道具です」
 怯えに嗤って答えたガジェは、慣れた手つきで嶺江を押し倒す。
 逃げを打つ嶺江の身体はまだ先の衝撃から回復していなかった。よたよたと這うしかできない身体は、さながら芋虫のようで。
「ひ、ひぁぁぁ」
 緩んだアナルを締めることすら叶わずに、今出したばかりの大便を模したノズルをアナルは難なく受け入れた。
「ふふ、いくらでも愉しんでください」
「ひっ、あぁぁぁっ、やあ──っ」
 瘤が、壁を抉る。
 こぼこぼと先端から噴き出す湯が、敏感なしこりに吹き付けられた。
「ああっ、またぁ……あっ、く、苦しっのに──ぃ、やあぁ」
 一度達ったことで弾みがついたのか、ペニスは難なく立ち上がった。
 今度は前のように栓をされずに、ごつごつした瘤が内壁を抉るようにずっと抽挿を繰り返す。
 挿れられて擦られて、呆気なく勃起して。
 ノズルが抜かれて我慢することなく湯とともに便を排泄した拍子に、再び射精した。それが繰り返される。
そのうちに、自ら手を添えて動かすことを強要され、けれどすぐに自ら良いところを擦るように動かした。
 ガジェが嗤っていた。
 それが判るのに、止められない。理性を失い、濁った瞳がぼんやりと中空を彷徨う。理知的で愛らしい顔が、淫らな表情を浮かべている。
 その間に、勃起して細くなった尿道からじょろじょろと尿が出て行った。
 そんなことにも感じて、喉が掠れても甘い嬌声を上げ続け、腰を揺らした。
「なんとまあ、厭らしい身体だ。さっきから射精しっ放しですね。まあ、自分でする分にはいくらでも、好きなだけ浣腸しなさい。淫乱なあなたにはとても楽しい行為でしょう。本当に浅ましい身体だ……」
「あ、ああぁ……ああぁん……あ……」
 アナルから溢れる湯に濁り一つ無くなっても繰り返された浣腸は、若い性が吐き出せるだけの精を吐き出してしまうまで続けられた。
 うすらぼんやりとした瞳には何もうつっていない。四肢も人形の手足のように投げ出されていた。それなのに太いノズルを突っ込んだ腰だけが、それだけが生きているようにがくがくと動き続けて、力無いペニスを突き上げる。
 そのペニスから、再び尿が零れだした。
「はぁ……あぁぁ……」
 同時に零れた甘い嬌声に、ガジェが片眉を上げた。
 勢いのない尿が、ペニスの茎を伝っている。
 嶺江の、嬉しそうに歪んだ表情に肩を竦め跪き、射精のように鈴口をぱくぱくと開閉させているペニスを指先で摘み上げ、くすくすと嗤う。
「アナルの躾は二ヶ月かかってしまいましたが、この調子ならこちらの躾はたいしてかからないかもしれませんね。排尿にすら、感じているようですし」
「んっ」
 鈴口に押しつけられた違和感に、意識がないがらも嶺江がびくりと震える。だが、目を覚ますことはなかった。
 細い透明な3mm程の径の棒が鈴口に食い込んでもだ。
 さらにその嶺江のペニスに取り付けられたのは、黒光りする皮の輪が幾つもできたベルトだった。
 その上アナルに先のノズルとよく似た少し細い棒を挿入し、ペニスから続くベルトで押さえつける。
 腰骨のところできりきりと締め付けられたそれは鍵がかかる代物。
「目が覚めたら、また浣腸で射精させてあげましょう。同時に、こちらもたっぷりと気持ち良くさせて上げますね」
 ピンと、鈴口から僅かに突き出た棒を弾く。
 にやりと口角を上げるガジェのその言葉を嶺江が知るのは、翌日の朝になってからだった。

【了】